俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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霊と肉との戦い(霊連敗中
※ダイジェストでお楽しみください

「今日の『ゴーレム』…何処が差し向けたか想像付きます?猿取君」
「…全てのコアにはナンバリングされているって習いましたけど…そこから分かるもんじゃないんですか?」

消灯間際の寮の部屋。俺と食事を済ませた山田先生はテーブルを挟んで話し合っていた…ほんと、やっぱり似合わないよ山田先生に暗く沈んだ顔は。

「ナンバリングの欄にはただ『Ledchinese Goes home』ただそれだけが登録されていたんです…それと、無人機の解析…主要8ヵ国のうち、AOA…アメリカだけがIS学園との共同解析の提案をIS委員会に行わなかったんです…もっとも、他の国も全て撥ね付けられたそうなんですが…」
「え、AOAが黒幕!?自作自演もいいところじゃないですか!」

 …今回、一番得をしたのはAOAだ…俺が『パシフィスト』を使えるようになった。イギリスはオルコットさんの話だと友好な関係を結びたいようだし、鈴の『甲龍』を修理したってことは中国とも『ハロー!グッバイ!!』『ニーハオ!死ぬアル!!』状態からは抜け出たってことだろう。学生や職員、VIPへのご馳走や電子マネーその他の額だって中々のものだろうけど、偉いさんや上位成績者の心をくすぐるなら安いもんだろう。

「Red(アカ)じゃないんですよ、L・E・Dなんです。しかもチャイニーズは単数じゃないですからGOでいいはずなんです。それに数の限られたコアを捨ててまでこんな騒動、起こす価値が有ると思えます?」
「い、意味が通じないですね…まあデータのほうは英語が不自由な人間を装ったとか…本当に英語が不自由な人間が書いたとか…」

L.E.Dかあ…ルージュの方が好きだったな。砲撃戦仕様なのにバカデカイ盾持ってた所とか。

「私は本体のほうを、織斑先生はコアのほうを担当して解析してたんですが、織斑先生どんどん顔色が悪くなっていって…今日は織斑先生は倉持技研に向かった後おうちに帰られるそうです…ゴメンなさいね。こういう話をするのは良くないんですけど…誰かに聞いてもらって少しすっきりしました」
「まあ、アテにされるのはちょっと嬉しいかも…今日はもう寝よう?」
「そ、そんな!?…疲れてるのはわかりますけど…でも…受身ばっかりだからって、自分から求めてくるとか、その…」

え?ふつうに睡眠をとりましょうって言ったんですけど…急に赤面して動揺しはじめた山田先生は可愛らしいが、誤解はきちんととかなきゃ…ん?

「先生、携帯…」
「もしもし、センパイ!…センパイ!?」

なってますよ、と言う前に脱兎の勢いでケータイに出る山田先生…『やがて女は綺麗になるだろう』か…え?どうしたの山田先生?なに凍りついてるの…あ、俺のスマホもなってる…って、一夏?

『悪ぃ…大丈夫か…んぁっ!?…今…』
「お、おい大丈夫か一夏!?今どこだ!?いや、ハイパーセンサーで大体の位置はつかめるんだよな!?今行くから…」
倉持技研が何かやらかしたのか!?それとも何処かのアホがかっさらったとか?織斑先生は、まさか…!
『んん…止めてよ、千冬姉…いや…酔っ払って…『猿取に電話をかけろ』って煩くて…悪ぃ…ああっ』
「ああ気にすんな。また来週な」

何してるんですか織斑先生。ナニしてるんですかそうですか…って、山田先生凄く元気になったみたいだね、愛って偉大だね俺嬉しいよ、笑顔が眩しくてつい眼をそらしちゃった。ケータイ握りつぶすとかパワフルだね。明日新しいヤツ買いに行きます?いっそスマホにしません?紹介されるとお互いにサービス付きますよ…やだなあ、俺はどこにも逃げないよ?ジュース買いに行くだけだよ?その後ラウンジで朝まで寝るけどさ!だからこの腕離してよ、そういうのはシノさんとかオルコットさんの役だと思うんだけど…

「猿取君、もう消灯ですし寝ましょうね」
「…はい」



「ん…錨みたいに硬くって…蒸気みたいに熱い…本当、名は体を表しますね、猿取君…」

…山田先生は素敵だと思う。いつもの笑顔は可愛らしいし、ちょっとおっちょこちょいだけど親身になって生徒に接してくれる。教師と生徒としてめぐり合えたらどんな幸せだったろう。夕暮れの教室で告白→玉砕まで想像できるよ、うん。
…一夏、お前に恨みは無い。織斑先生にももちろん無い。だけど、一人の女性を救うためだ。その恋、諦めて貰うからな…

「…ん、お掃除完了…じゃあもう1回しましょうね」

…あの、掃除が終わったら終わりじゃないんですか?ていうか1時回ったんですが…まあ、今日も明日も休みだけどさ…


捨てた神?ああ21グラムほど軽くしたよ

「お早う…いや、もう『こんにちは』かな?…そんな睨まないでよ…」

「…」

(やりづれぇ…)

 

IS学園整備科修理施設。朝10時を回り休日とはいえあちこちで上級生が整備の予習、復習を行っている。やっぱりココはエリートばっかりだな…休みの時くらい休んだほうがいいんじゃない?って思うけども『若いときのしくじりほど取り返しが付かない』ってジーちゃん言ってたし…バーちゃん、ものすごい目で睨んでいたな。

 

「…あ、ここに簪さんが居る事は布仏さんから言われた。差し入れでも持っていってくれって…『リーピング・エナジー』と『カプリシャス・カフェ』どっちがいい?」

「…『カプリシャス』…」

 

部屋の主…簪さんは全然寝ていなかったのだろう。泣き腫らした眼と、目元に色濃く残る隈が痛々しい。俺を睨む気持ちは分かる。でも、正直お門違いだ、って気持ちも無いわけではない。

 

「…ほい。外はいい天気だよ。どうせなら外で飲もう?」

…それに、部屋に鎮座するISが全ての元凶なのだ。居心地が悪いったらありゃあしない。

 

 

『…いばらん、起きてる?ちゃんと聞いてる?』

「うん…起きてる…」

 

朝九時、安らかな寝息を立てる山田先生を起こさないようトイレに移動しながら俺は電話の主…布仏さんと言葉を交わしていた。

 

「つまり、簪さんが滅茶苦茶落ち込んでて、その原因は俺と一夏にある、ってこと?」

『そー。あのねー、倉持はいばらんの『パシフィスト』にびびってるんだって…』

 

…かいつまんで言うとこうだ。倉持技研の作り上げた『白式』は、開発に失敗して放置していた機体を篠ノ之束博士が仕上げたものらしく、倉持技研自体把握していない技術の多い機体らしいのだ。物理ブレード『雪片弐型』が『木偶』との戦いで変形したのもそこいらが影響しているらしい…そして、『アンカー・スチーム』の『パシフィスト』の『プリズム』『パック』への変形。それが『白式』のみと安心していた倉持技研の度肝を抜いたらしい。そこで『白式』を解析し、何としても篠ノ之博士の新技術をモノにしようとしているらしいのだ…『らしい』ばっかりだな、ホント。

 

「そこで割を食ったのが簪さん、って訳か…メシ食いに行ってお冷も出されず後から来た客にばかり対応されてたらキレルわな、そりゃ…」

 

簪さんは日本代表候補生で、打鉄の後継機である『打鉄弐式』を与えられるそうなんだ…だが、一夏の事に倉持はかかりきりでまともに開発は進捗していないらしい。よっぽど人材不足なんだろうか?技術大国ニッポンってどこに行ったんだろう。

 

『かんちゃん、全然寝てないんだ…ていうか、ISとレストランを一緒にするのも、どうかな…』

「どんなショーバイでもお客さん有ってのモンでしょ?…まあ、様子見に行くよ。布仏さんも寝てないんでしょ?ゆっくり休んで。顎のお礼もあるし」

『…いばらん、意外と根に持つタイプなんだね…』

 

…ご愁傷様、うちのご本尊様は蛇神様なんだ。バーちゃん執念深いし…ていうか、どこでそんな企業の情報を布仏さんは手に入れたんだ?

 

 

「『白式』の…解析が…最優先だって…うう…『打鉄弐式』は…どうでもいいみたいだった…」

 

話し相手がいれば少しは落ち着くかな、なんて考えた俺は馬鹿だったのかもしれない。どうやら昨日の倉持とのやり取りを思い出した簪さんは啜り泣きを始め、泣けば泣くだけネガにネガに向かっていく。折角の日和もコーヒーも台無しだぞ。ショッパイコーヒーなんて飲めたモンじゃないぞ。よっぽど鬱屈していたのかもしれない…そこの女子、ベンチで泣いてる簪さんをチラチラ見るな。俺も見るな。泣きたいのはこっちのほうだ。

 

「いいよね…猿取君も、織斑君も…うえぇ…私なんて…どうせ…お味噌だもん…うぅぅ…」

「…かなぁ?モルモットだよ、俺も一夏も」

 

『アンカー・スチーム』にせよ『パシフィスト』にせよ競技用に設計されていないし、仮に俺が女なら預けられなかった…いや、そもそもこんな所に居なかったはずだ。女の自分なんてとても想像できないが。

 

「いいの…後は全部自分でする…丁度いい切欠だった…」

 

よっぽどヤケッパチになってるな、簪さん。泣き止んだと思ったら眼がおもいっきり座ってる…『モノのドーリ』ってものを講釈できるほど俺は偉く無い。でも、つい先週の俺を見ている気分がして仕方なかった。

 

「…ねえ、簪さん。今飲んでるコーヒー、何人の人間が関わってると思う?」

「…?それと『打鉄弐式』と、何が関係が…」

 

ああ、やっぱり先週の俺と同じだ。『無頼』のオッちゃんの講釈じゃないが、何かしら伝わってくれればいいや、うん。

 

「缶コーヒー1本ここに持ってくるだけでもコーヒーを育てる人、豆を焙煎する人、コーヒーを抽出する人、砂糖やミルク、缶にそれぞれ関わる人、缶に詰め込む人、ここまで運ぶ人…洗いざらいカウントすれば万単位で関わってるし、その人たちに頼ることで100円ちょっとでうちらは缶コーヒーを飲めるし、缶コーヒーを買うことでその人たちはお金が入る。それと同じさ、ISだって。2週間で有りモノのモンキーモデルからこしらえた『アンカー・スチーム』だって同じくらいは関わってる。『打鉄弐式』はどこいらまで出来てるの、現状?」

「外見は…ほぼ…でも…メインのOS…FCS…ほぼ手付かず…」

「…俺はガキだしいいアイディアなんてないけどさ、もう少し相談できる大人を探してみない?」

「大人なんて…あてにならない!どうにかなるわけ…」

「あてになる大人のアテならあるよ。子供だましなんていうけど、アテにならなかった大人に教えようじゃない?『子供を騙したらどうなるか』ってのを…あ、その人多分まだ寝てると思う。簪さんも一度目を休ませて?お昼ぐらいに落ち合わない?」

 

…まあ、その人は多分俺の部屋で夢の世界でキャッキャウフフだし、ケータイ握りつぶしてるからな…

 

 

 

『『白式』か…展開装甲に単一能力(ワンオフ・アビリティー)の搭載…確かにモノにできれば万々歳だろうが、正直、いくら解析した所で有力なソースは得られないだろうな』

『『パシフィスト』『雪片弐型』はあくまで収斂進化、魚竜と海豚のように似て異なるものよ…そもそも、『平和主義』の対極よね』

『そうほのめかした所で彼らが諦めるわけもあるまい。実機はあるのだからな』

『それで分かれば苦労はない。『源流』を見出した我々ですら難儀したのだからな』

『技術大国、か…枯れた技術にも相応の価値はあると思うがな』

『…まあ、骨は折るだけ折ってもらおう、猿を送り返したクラゲのように』

『『更識』は動いたそうだ…あとは、彼はどう動くかだな…』

『…少なくとも積極的には動くだろうさ、彼は『P』なのだから』

 

 

「…山田先生、ね…」

「そ。…何かいい知恵有りませんか?山田先生」

「…少し考え中です…」

 

お昼時のカフェテラス。食堂に行くほどでもない、或いはちょっと値が張ってもお休みの日くらいは食堂以外のところで食事をしたい…そんな生徒たちでそこそこ席は埋まっている。そんな中で俺と先生と簪さんが一つのテーブルに相席しながら真剣な表情で語り合っているのだ、注目を引かないわけがないだろうな、うん。

 

「ふふふ…いいネタが転がり込んできました!入学2週間目から愁嘆場とは隅に置けませんね猿取君!」

 

…どこから嗅ぎ付けてきたんだか…まあ、黛先輩は楽しそうで何よりだ。リア充ってこんな人のことをいうんだろうな。ていうかどんな学生生活送ったらたった2週間で女性2人と愁嘆場を演じられるんだ?是非ともご教授ください黛先輩。

ゲスジジイは論外。織斑先生は取り付く島もなさそう、AOAスタッフみたいに他社の人間を介入させたら余計に面倒なことになりそう…そこで山田先生なのだが、もう一つ俺には意図がある…いや、こっちがメインだな、うん。

 

 

 

                    (先生に自信を付けさせるべきだ)

 

 

 

…恋愛を語れるような立場に俺は無い。女性ケーケンは…その…受身ばっかりだし、どんな意図があってあの日俺たちの部屋に山田先生は来たのか、それすら俺は怖くて聞けていない…昨日の一件は『酒の上での冗談』だろう。山田先生は一夏とのことをネタに強請る女性じゃないのは俺が保障する。だが、織斑先生は…その、相手が問題ではあるが『男性』を愛する女性であり、山田先生は『女性』を愛する女性なのだ。一夏が目出度く織斑先生の下を巣立って行った場合、次の『パートナー』として果たして織斑先生は山田先生を選ぶのか?織斑先生は山田先生を『後輩』としか見ておらず、勇気を振り絞って告白しても玉砕するのがオチじゃないのか?いや、そもそも山田先生は織斑先生に愛を告げられるのか?

生徒の悩み…しかも特大級を解決したっていう実績があればそれは自信になる。実績があれば織斑先生だって態度を変えるだろう。告白して玉砕したとしてもきっと乗り越えていけるはずだ…うん?ああテーブルのベルの音か。

 

「猿取君…皆の分、完成したみたい…」

「あ、取ってくるよ。黛先輩もいかがです?俺のハムチーズクレープでよければ差し上げますけど」

「はい!ぜひお相伴に」

まぁ…まだ胃袋に残ってる感じがするんだよなぁ、昨日のローストダックとかチャーハンが。

 

 

 

「…黛さん、2年生整備科ホープとしてご協力できませんか…聴いていたんでしょう?」

「あらましは。しかしながらISを作り上げるとなると我々学生だけでは如何とも…」

「ハードは…ほぼ完成しています…あとは…OSと…FCS…」

「いやいや…まだまだ専門の授業が始まったばかりで、3年生のミナサマのご協力を仰げなければ…」

「わかりました…布仏虚に…当たってみます…」

「…黛さん、あなたが音頭を取って完成させたら内申点は鰻登りの鯉幟ですよ?それに…

 

 

 

 『ピーヴイ』(1)に投稿中の『天剣ゼット』のことは織斑先生には内緒にしてさしあげますよ、『マスカラ先生』?」

 

(1)ドット絵投稿サイト。肌色の多い絵とかモザイクとかグロイ絵とかもある。我々の言う所の『渋』

 

 

「!!????どどどどどこでそれを!?」

「スゴいですよね。キチンと授業をこなして優秀な成績を収めながら入学2週間であそこまでのものを仕上げるなんて。夏までに2冊分は出来そうですね。猿取君も織斑君も気にはしないでしょうけれど、織斑先生はどうでしょう?」

「…ああ…そういう…」

「世の中には、知らないほうが幸せってことはまれに良くありますよね…ねぇ黛さん?」

「…分かりました。誠心誠意ご協力させていただきます!布仏先輩はじめ整備科の皆さんには私からアプローチを行います!」

 

 

 

「はい、パンプキンパイにボンゴレロッソ、カフェオレにホットチョコ…黛先輩は飲み物はアップルジュースで良かったです?」

「はい…有難うございます…」

「…どうしたんです?何があったんです?」

 

山田先生はいつものようにニコニコ顔になっているのに黛先輩はどんよりと落ち込んでいる。死んだ魚だってもうちょっと生き生きしているだろう。

 

「戦略的後退です…スターリングラードです…夷陵の戦いです…ああ…陸遜様…」

「今年の有明は暑くなりそうですね」

「すごいなー…あこがれちゃうなー…」

 

…いや、ホント何があったのさ?

 

 

 

アラスカ条約締結以前、唯一戦場にISを投入したアメリカは執拗にメディアから攻撃を受けていた。ライフルを構えロケットランチャーを背負い金色の『LOVE』銀色の『PEACE』を踏みつけた血塗れの自由の女神のポスターがカンヌ広告祭デザイン部門で大賞を取ったのが良い例であろう。

…だが、アラスカ条約締結後、ほぼ全てのISコアが稼動を始めた時期に匿名で掲示板に投稿された落書きをされたそのポスターに世界は衝撃を受ける…血塗れの自由の女神には首輪がはめられ、その後ろには嗤いながら自爆スイッチのボタンを押そうとする髑髏の『アンクル・サム』が書かれていた。

 

 

『所詮は女性は男性の手の上で踊らされているだけではないのか?』

『467機のIS全てに『最後のインディアンボーイ』が仕掛けられていたとしたら?』

ISを作成しているのは『白騎士』を除けば男性が中心のチームであった。女性が開発の中心にいるほうが珍しかった。

 

 

…IS学園においては『パイロット養成科』よりも『整備科』により人員が割かれ、各国開発チーム、及び開発企業の熱い視線が注がれている。希望する女子も多くを占めるのもむべなるかな、という所であろう。

 

 

「厳しいですね」

 

軽く食事を済ませた後再び訪れた整備科修理施設入口前。あの後黛さんはあちらこちらに電話をかけ続け、メールを打ち続け、結局ハムチーズクレープを怒涛の勢いで胃に収めたのは45分後だった。三つ編みに眼鏡の整備科3年生…布仏虚先輩は眼鏡を直しながら言葉を続けていく…布仏、ってことはウチの布仏さんの家族か親類だろう、うん。

 

「未完成の『打鉄弐式』…確かに完成させれば整備科としての実績としては過分なほどでしょう。ですが…」

 

布仏先輩は視線を案内板のほうに向ける…集まっていた3年整備科の皆さんはサッと体をどけて視線の進行方向をクリアにする。なるほど、布仏先輩が整備科のエースなのか。一方黛先輩は他の2年生と一塊になって片言隻句も聞き漏らすまいといった感じだ。体育会系っていうか職人だよな…まあISは先進技術の塊だから、どうしてもそうなるのかも…

 

「整備科の電算機系ブースは、一部を除いてもう企業系の機体の整備で全て埋まっているんです…簪様、やはりここは楯無様にお話を通されて…」

「あの人は…関係ないはずでしょ…虚さん…」

 

むむむ、案内板の電算機系のエリアに『ラファール・リヴァイブ』だの『打鉄』だのと浮かび上がり、赤や緑に染まっていく。そしていいのか簪さん、上級生を睨みつけるとか。俺も簪さんもついでに山田先生もアウェーなんだぞ、敵対心あおっても良いことなんて…ん?

 

「…あ、すいません黛先輩。所々黒ずんでる所があるんですけど、アレ何でしょう?」

 

…なんだよ整備科の皆さん『おそい!やっと気付いたのか』とか『あーあ』みたいな視線は。俺は素人なんだ、そこいらも加味して…

 

「『アーマメンツ・オブ・アメリカ』用に用意されているブースです…」

「一機もISを導入されなかった企業のブースですから、道義的に使用するのは自重していますが…」

 

…ああ、分かりました分かりました。だから皆、イケニエに捧げられる牛を見る眼はやめてマジで…

 

 

 

「…問題ね」

「なにが問題なんですー?かいちょー」

「だってそうじゃない!?どう考えても『チョロそうな簪ちゃんを毒牙にかけよう』って立ち振る舞いよ、猿取君!」

「…私だけじゃどうしようもなかったから、いばらんに声をかけたんですけど…」

「!?…そう、そうなのね…本音ちゃんまでタラシこむとはいい度胸じゃない…大丈夫よ本音ちゃん、今は医学が発達してるからキチンと再生できるのよ、道路でこけたみたいなものよ安心なさい」

「何の話です?かいちょー」

「!?!?そう…まさか心のみを陥落させるとは『番狢』の一粒種だけの事はあるわね…いいわ、子供の不始末は親にとってもらいましょう…」

 

 

 

「…というわけで、どうかブースを使わせていただきたいという次第でありまして…」

「…」

 

『ジョブ&ホビー』の真ん前、正面には人員交代の申し継ぎを行っていたAOAスタッフ総勢60名、後ろに控えるのは2年3年整備科学生と山田先生と簪さん。そして100名以上の視線を浴びる俺…ああ、お腹痛い。グリルで焼かれるサンマってこんな気分なんだろうな。

 

「で、出来るだけ早く終わらせますし、皆さんにご迷惑がかからないように…」

「…」

 

…ああ、AOAスタッフみんな怒り狂ってる。そうだよな、金を出すだけ出して折角作ったIS一機も置かせてもらえないんじゃ腹が立たないわけ無いよな。話する前に皆に配られた瓶コーラも何かしらの隠喩があるんじゃないかと勘ぐってしまう。ゲスジジイに話を振ったほうが良かったのか…?

 

 

 

 

「わかりました。我々のブースはご自由にお使いください…ああ、必要な機材、物資があれば都合は付けさせていただきますし、恐らくは倉持技研は各種のプロテクト・ブラックボックス・トラップを『打鉄弐式』に仕掛けていることでしょう。その開封のアドバイス、僭越ですがお手伝いさせていただきましょう」

 

 

 

…えっ?滅茶苦茶表情が怒り狂ってるのに対応は凄く友好的だぞ?返答を返した筋骨隆々の黒人男性…因みに『アンカー・スチーム』のセンサー担当者だ…を引き継ぐ形でカウンセラーが言葉を続ける。

 

「…我々が憤っているのは、猿取君でも整備科の皆さんにでも、ましてやIS学園でもIS委員会のお偉方でもありません…倉持技研の対応にです」

「どの業界でも殿様商売をする企業は足元をすくわれる…その単純な事実をどうやら彼らはご存知なさそうだ」

「どうぞ辣腕をお振るいください。ささやかではありますがAOAは皆様のあくなき挑戦へのお力添えをさせていただく所存です」

 

 

 

「いや、今日はマジで疲れた…」

 

来週以降の打ち合わせを終わらせた俺達学生一同は『ジョブ&ホビー』の中から三々五々散らばっていった。

 

「『簪さんが月曜日に4組でISの整備の話を振り、山田先生が予め根回しをした整備科の主任教諭と4組担任と副担が責任者になり、学生の責任者として黛先輩、補佐として布仏先輩が就任。空きブースの問題はそのとき発覚し、イメージを改善したいAOAが『しぶしぶ』承認…』…山田先生よろしいんですか?その、責任者になれば…」

「色々とめんどくさいんですよ、先生って職業…」

 

苦笑いを浮かべた山田先生は、ポツポツと言葉をつむいでいく。

 

「昨日の『襲撃』、整備科の担当教諭陣もカウンタークラックを行っていたんです…それに、4組の副担の先生はデュノア社からの出向の方ですしイヤとは言わないはずです」

 

…ああ、そっか。そうだよな。これ以上メンツを潰されたらとんでもないことが起きそうだし、最新鋭機のデータは何処だって垂涎の的だろう。馬鹿正直にデータを垂れ流すAOAが異常なのだ、このギョーカイでは。

 

「ゴメンね先生、折角の休日潰しちゃって…」

「良いんですよ猿取君…生徒に頼られて嬉しくない教師はいません!ちょっとだけ自信、持てました!」

 

ああ…この笑顔だよね。もう沈んじゃったけどお日様みたいだ…ん?誰だ袖口引っ張ってるの?

 

「猿取君、昨日『ゴーレム』に切った啖呵覚えてます?」

 

いたのかよカウンセラー…あ、簪さんもいる。どうしたんだろ?折角問題は解決しそうなのに不服そうな表情だ。

 

「『俺らの大切な人を手にかけようとか本気で死にたいみたいだな』…誰のこと?」

 

…いや、後から思い返してみたらホントクサい台詞だ。だれって…その…

 

「…先週さ、メシ食いに行ったじゃない?弾の所に。そのあとシノさんの知り合いの神社に行ってさ…そんな楽しい思い出がある人達がさ、怪我した何だするのはイヤだった。それにさぁ、シノさんは一夏の幼馴染なのよ?恨まれるのは絶対にイヤだわ」

「つまり篠ノ之さんを寝取る気満々というわけですか、ケダモノですね猿取君」

「最低…」

 

何だその冷ややかな瞳は。そういうネガ工作はよそでやってくれ。

 

「あらあら、猿取君はこう見えて一途だと思いますよ?」

「つまり織斑君しか見えていないというわけですか、衆道一直線ですね」

「いやらしい…」

「だからなんでそうなるんだよ!俺はノーマルですっての!」

 

…ああ、ホント昨日のうちに実家に帰っておくべきだった…どうにも締まらない非日常だわ、ホント…

 




二日酔

「『分かりました。親として茨にキチンと了見を問いただします…』はあ、よりにもよって当主様の妹君に声かけとはね…」
「考えすぎなのよ、刀奈様は…ほらこのあいだの…」
「すみれ、その名前は口に出さないこと。何処で誰が聞いているか分からないんだ…つぅ、頭の中で蛇がのた打ち回ってるよ」
「ゴンちゃん酒弱すぎ!タヌキみたいな外見なんだからもっと鍛えないと!」
「も…もう60の坂越えて鍛えてどうするんじゃ!ええんじゃ、ワシは下戸のままでええ…」
「…まあ、今日はもう茨は来ないだろう。二日酔の姿なんて見せたくないしね」
「男衆が弱いだけよ…せめて茨はママ位にはなってもらわないと…」
「2人で一升瓶1本づつあけるのは、流石にね…」
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