「やあ、半年ぶりだね茨!…あ、替え玉柔らかでお願いしますね」
「お久しぶりね、茨…ビールとおつまみチャーシュー追加で」
山田先生のケータイをスマホに替えに一緒に『レゾナンス』に買いに行き、晩飯がまだだったんで入った『無頼』…暖簾を開けた瞬間俺はその選択を猛烈に後悔していた…アレか、『熊の爪でも傷つかないくらいのケースお願いします』って言ったのが不味かったのか。
野ノ原一郎…柳のようにヒョロヒョロで、人類最強の兵長か4コママンガの主人公のような刈上げヘアー、そして垂れ眼のダブルのスーツを着こなす紳士。
野ノ原すみれ…こちらはジーちゃん譲りの恵体に癖の強いロングヘアー、バーちゃん譲りの三白眼に桜色のビジネススーツを着こなす淑女。
「よう、ボン!…そっか…良かったな。親父さんと御袋さんに許してもらえたんだな…」
…そして、俺こと猿取茨の両親である…だから涙ぐまないでよオッちゃん、先生は副担だよ。そーいう関係になれたら天にも昇る気持ちだけど、そうなっちゃいけないんだよ。
「…どうも、初めまして。猿取君のクラス、1年1組副担任、山田真耶です」
…そうだよね。はじめましてだよね。それが普通だよね。
「ようやく二日酔いも抜けたからラーメン食べに屋台に入ったらまさか茨に会えるとはね」
「『犬も歩けば待ちぼうけ』ってやつかしら?…本当、可愛らしい先生だったわね」
食事の後、山田先生と別れ久々に親子3人で戻る家までの道。ついこの間まで何も考えず歩いていた道…死の13階段を登る気分を味わいながら帰るだなんて思ってもみなかったよ、うん。
「そうだ、篠ノ之箒ちゃん…知ってるかい?同じ学年にいるはずだけど」
「シノさん?同じクラスだよ。昨日命を助けてもらったんだ…そうだ、お父さんにもお母さんにも感謝してた」
「命…ね」
…お父さんやお母さんが嫌いなわけじゃない。何だかんだで誕生日にはいてくれた。参観日に来るジーちゃんバーちゃんよりも老けた両親の子だっていたし、べつに今さらどうでもいい。
「ゴメンね、茨。お母さんたちが…」
「…別にいいよ。みんないいならそれでいい」
…ただ、偶に思うんだ。普通にお父さんとお母さんが家に居る家に生まれていたら、どうだったんだろうって。
「そうだ、茨…更識さんて知ってるかい?ああ、お姉さんのほうじゃないよ。簪ちゃん」
…え?ああ、そっか簪さんって苗字じゃなかったのか。だよな、生徒会長が気にかけてたってことは姉妹だよな。
「その人も俺の恩人だよ。入学以来人に助けられてばっかり。手助けしたいと思ったことは空回り、サマにならない学校生活かな…ていうか、何でそんな事知ってるのさ?」
「実はね、ウチのエライさんのお嬢さんなのよ、更識さんたち…恩、てのは大体返しきらないものなの。その誰かに返しそびれた恩を他の誰かに渡す。その繰り返しだと思うわ…恩知らずの恥知らずなお母さん達が言うのもおかしいけれど」
…そんなもんなんだろうか。なんか恩を返しきらないってのは借金があるみたいでスッキリしないんだけど。
「そうだ!シノさんが言ってたんだけどさ、『職業訓練校の教官』やってるの?お父さんとお母さんは」
「『やってた』ってのが正解かな…ちょっとやらかしちゃってさ、自宅待機を命じられたんだ、お父さんたち…」
「これを機におジーちゃんたちのお仕事のお手伝いに専念する気よ、お父さんとお母さんは!『メゾン一刻』みたいな感じになればいいんだけど…」
…前言撤回、やっぱり両親元気で留守がいい、てのが一番いいかもな…どっちかって言うと『山田君』みたいな感じじゃないかな、ウチのマンションはファミリー向けだけど…
「どーしたのよアホ茨…ゴメン、あの日だった?」
有る訳ねーだろ鈴。有ったら怖いぞそんなもん。摘んでるフレンチポテトにマスタードかけるぞ…まあ、折角の日曜にグデーッとなってる俺も俺だが…『レゾナンス』内フードコート。正午を回ったということもありかなりの込み具合を見せている…まあ、過半数は『家にいても退屈だけど気を張って出かけるのも億劫』な親子連れ…まあ、オコチャマの時は楽しかったけどな、こーいう所。ガチャガチャの空のカプセルいじったりとかジャングルジムよじ登ったりとかUFOキャッチャーの電飾見てるだけで満足だったわ。なんて安上がりだったんだろう、俺。
「…お父さんとお母さんが家に帰ってきたんだ…」
「マジで!?2回くらいしか会った時無いけど、元気だった?」
「そうか…」
「茨君、こんな所で油を売っていて良いんですの?子供として親孝行を…」
鈴、2年で2回も会えるとか凄い運だぞ…シノさん、別に気に病む必要は無い。ウチの両親はずっと前からああだった。オルコットさん、一夏に気付かれないように呼び出しておいてそれは無いだろう。どうせ昨日辺り一夏の家に遊びに行ったら蘭ちゃん辺りと鉢合わせして、付いていけない話題があったんだろ?モノレールの構内入った時に呼び出されるとは思わなかったよ、ホント。
「一緒に朝御飯食べて色々話して帰ってきた…『新しく入る人のために掃除をする、新米だから2人でやるよ!』って張り切ってたよ…夫婦水入らずを邪魔するのもなー…それに、俺の家の話するためにここにいるわけじゃあないだろ?『一夏に内緒で一夏の話を聞きたい』からだろ。ちょっと待ってくれな…鈴の居なかった中3の時のこと…IS学園に入るまでの出来事で重要そうなこと、整理して話してやる」
…あれ?ウチって俺たちが入ってるマンションも他の物件も引き払うときにキチンと掃除してなかったっけ?まあギョーギの悪い店子も居たのかもな、うん。
織斑一夏。
『いい人』には都合のいい人、どうでもいい人しかいないなんてザレゴトがあるけど、掛け値なしの善人。
…高飛車だった時のオルコットさんだってヘコんでたら力づけてやり、ついさっきまで戦っていた鈴の為に命を張れ、顔すら忘れていたって普通のはずのシノさんを『幼なじみ』として覚えていた…ああ、同じ男として『月とスッポン』って言ったらスッポンが抗議に来るくらいだろう。
…だから、シノさんにオルコットさんに鈴、蘭ちゃんが心惹かれても可笑しくない。友人として誰と結ばれようが祝福してやるし、たとえ全員と爛れた関係を持とうが『しょうがねーなー』と笑ってやれる。
『俺なんかに関わっても良い事無いのに、皆おかしいぜ…』
こんなセリフをはくべき人間じゃない、間違ってもそうじゃない。
■
「…助力の理由は?『打鉄弐式』から得られる有力なソースが有ると?」
「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず、助力を求める者有らばそれを助けるものではないのですか!?」
「あのようないたいけな学生を足蹴にする倉持技研のやり方、眼に余るものかと思います!」
『ジョブ&ホビー』内会議室、苦虫を噛み潰したような表情の老人は正座のまま身じろぎもしない老若男女の面々を前に嘆息すると、彼らの頬に光る一筋の汗を見つめながら言葉を続けていく。
「…本音は?」
「汚いな流石倉持きたない。俺はコレで倉持嫌いになったな。余りにもヒキョウすぐるでしょう?」
「『信じて放置した未完成ISが100人以上のJKの手で調教されてドヤ顔ダブルピースビデオレターを送ってくるなんて…』こりゃイケまっせ!!」
「『ISを寝取る』…何と聞こえのいい言葉かーー!」
「いいんよ…ああいういたいけな子が頑張る姿いいんよ…それだけでいいんよ…」
「3年も2年も1年もメガネ!スリーオブメガネ!曇らせる!?割らせる!?愚の骨頂!ただそこに有る、それこそがメガネのレゾンデートル!」
「お前、絶対カレー先輩のイベントぽっかり穴開いてたろ…」
「はあ!?何でメガネ置き陵辱する必要があるんだよ!?ていうかカレー好きで2回目が…」
「…そんな君たちに最悪の業務連絡だ。まずは一つ目…仕様変更が決定された。『AH』に『プライムバル』を搭載する。そして二つ目。8月末の納期が前倒しにされた。納期は6月後半、最悪でも7月1日までに完成させる。まあ、ここにいる人間は組み立てに従事するだけだから比較的楽ではあろうが…少なくとも夏休みまでは安穏な気分には浸れないと思いたまえ」
「「「「「そ、そんな!?」」」」」
「…見たまえ、テルアビブの開発チームのコアデータだ。『聖歌隊』に悪戯が仕掛けられた跡が有った。起爆予定は7月頭…学園の予定では『臨海学校』の有る辺りだ…こんな芸当が出来るモノは『アレ』しかおるまい?」
騒然とするスタッフ一同にモニターのデータを指示すると老人は苦笑を浮かべながら言葉を続けていく。
「…確かに倉持のやり方は見るに耐えない…だが、与えられた仕事をこなすことも忘れることの無いようにな、君たちはAOAなんだ。僕はこれからテルアビブに飛ぶ。その後用事があるから帰ってくるのは5月上旬…ゴールデンウィーク明けだ…ああ、本社やデトロイトの面々がメインになって学園生のテキストを作成したまえ。ネットワーク越しでも彼女たちへの指導は可能だよ。君たちは『レディース&ジェントルメン』だろ?」
微苦笑を浮かべたまま老人は会議室を抜け出していく。残されたスタッフたちは立ち上がりながらある者は作業の進捗に暗鬱とし、またある者は帰還後いかにして休暇を申請し密航するかと知恵をめぐらせていた…だが、思い出したように戻ってきた老人の言葉にみなそのようなことなど些事であったと痛感する。
「彼女の復帰戦が決まった。こちらの時間では来週木曜日…もちろんココにも来る筈だ。『想い人』が居るんだからな、2人も」
●
「…どうした茨?急に震えだして…」
「いや、何でもない。過去の1ページがゆらりと頭をよぎったんだ、急に…」
真っ青になってぶるぶると震えだす茨。よほど辛い目にあったと見える…済まなかったな、お前から両親を私は奪ってしまった…
「本当、『雑沓』そのものですわ…」
「そうボヤくなよオルコットさん、こーいう所が大好きなのよ日本人は…あぁ鈴のヤツ適当にあしらえばいいのに…ちょっと助けてくる」
…なるほど、ドリンクを買いに行った鈴は柄の悪そうな手合いにキャンキャン吼えている…おお、あっさりと掻っ攫って行ったな、茨。そういうふうに掻っ攫って行ってくれれば非常に安心できるんだが。
「ドウドウ、落ち着けよ鈴。あーいうナンパ野郎ぶん殴ってケーサツ沙汰になるのも面白くないだろ?」
「言われなくても解ってる!…で、あたし達に教えておきたいこと、整理は付いた?」
「だな…弾も蘭ちゃんも知ってることだからレアな話じゃないけど、一夏を知っておきたいならぜひ知っておいて欲しい、そんな話さ」
そういうと茨は私を、セシリアを、鈴を睨みつけ…おもむろに口を開く。
『弾は何処第1志望にする?俺は県立が第1志望で押さえが藍越』
『俺は藍越が本命で滑り止めが西校、一夏はどこ第1志望に書いた?』
「一夏の、アタマの中で一番重要だったこと…夢ってやつ…あいつは独り立ちしたがっている…鈴が転校した後、2年生の3月に進路希望が回されるんだけど…あいつ、就職って書いたんだ」
『俺…就職するよ…』
「はあ!?中卒でまともな仕事があるわけ…」
声を荒げる鈴を眼で抑えると、茨は言葉を続けていく。
「ない。だけど『高校に入る』『金も稼げる』絶好の場所を見つけた、いや、俺が見つけて教えた…何処だと思う?」
一々気を揉ませる話し方だ、何処に行きたかったにせよ今はIS学園に居るんだぞ、何の関係が…!?
『なあ…無茶だって一夏。今は就職のために半分以上は大学に行くんだぜ!?資格だって全然無いし、中卒でだなんて何処も働き口なんて…』
『だけど、高校からは義務教育じゃないんだろ!?俺はこれ以上千冬姉に迷惑を…』
『…お、ココなんてどうだ?高校を卒業できるし、学費は一切かからない、しかもお給料もちゃんと出るし就職口だってあぶれることは無いぜ、向いてるとは思わないけど…』
『コレだ!こういうのだよこういうの!流石茨は格が違うぜ!』
『まあ…スマホと検索エンジンのお陰だよ。ていうか…本当に受験するのか?ここ…』
「軍、ですのね」
「正解…正確には高等工科学校。3年間のキョーイクの後で自衛官になるもよし、そのまま防衛大学校に行って幹部になるもよし、あるいはそのどちらかの卒業のタイミングで一般の人生に戻るもよし…あいつ必死に勉強したし、剣道の初段持ってから学校も乗り気で推薦しようとしたんだ…織斑先生との3者面談で全部『ご破算』になったけどな。…まあ、しょうがないんだ、織斑先生の立場を考えたら…俺がアサハカだったんだ…」
■
『い、一夏君も織斑さんも落ち着いて!まずは冷静に、ね?』
中学校生活は…まあ、平穏そのものだった。都会じゃないが田舎でもない場所柄は良かったし、イジメとかが周りで無かったわけじゃないが深刻な状態になる前に周りが、或いは親たちが、先生たちが解決に向かって奔走してた風通しのいい学校だった。そしてその『風』の一筋が一夏だった。あいつが困っていたなら何かしら助けてやりたい…少なくとも俺や弾はそう思ってた。
『…何を自分勝手なことを言っている!先生、一夏は周りが見えなくなっています。少し席を外して…』
…夏休み明け、放課後に3者面談が行われるって決まった時、一夏は居心地の悪い表情をしていた意味がその日になってやっと分かった。何台ものリムジンから降りてきたコワモテに囲まれた千冬さんに皆は驚愕し、恐怖し…歓喜の声を上げていた。第2回『モンドグロッソ』決勝で棄権をしたものの、『世界最強』の雷名は健在だったし、美貌は更に磨きがかかっていたからだ。生徒も、保護者も、教師すら写真を撮る手を止めなかった…俺?理由はわからないけど、気分が悪くなって帰ったよ。
『おかしいのは千冬姉だろ!?俺が俺の進路を決めて何が悪いんだよ!?』
…で、帰ったからその時何があったのか直接はわからなかったし、帰ったからその後のことがわかったわけだ。
「…で、結局3者面談は決裂…てわけか…ゴメンな、変な事吹きこんで…コーラでいいか?」
「ああ…悪ぃ、巻き込んじまった…ありがとな、茨…」
(駆け落ち!?殊勲甲よ茨!こんな展開思っても見なかったわ!!)
(バーちゃん…何でも同性愛に結び付けるその精神構造、どうにもならんのかいの…)
(同性愛じゃないわ!少年愛よ!)
家族3人で暮らすにはやや広い俺の家…マンションの一室。俺の勉強部屋でぼんやりしている一夏にジュースを渡すと俺はテレビをつけ、ガラス越しの夕焼け空を眺めつつ寒気を感じながらも務めてどうってこと無いように言葉を続けていく。
「…まあ、千冬さんが『進学しろ』って言ってくれて費用だって全部出してくれるんだろ?それでいいんじゃ…」
「俺は今まで千冬姉に苦労かけてきたんだ!千冬姉は…たった一人で苦労して…千冬姉に…苦労かけたくないのに…」
お、オイ泣くなよ一夏…あ、ジーちゃん?
「のお、一夏君…すまんが、聞かせてもらった…男たるもの独立独歩。その気概、茨にも見習わせたいのぉ…」
「な、何で俺と比較するのよジーちゃん!」
(ジジショタ!?孫の同級生と!?マニアックすぎるわよゴンちゃん!?)
「…じゃがの、誰かに『頼る』というのは頼られたほうにも嬉しいことなんじゃよ。頼りない人間に頼る奴はいないじゃろ?…お姉さんとしても『自分を頼ってくれない』というのは信頼されていないんじゃないか、という風に取られかねないんじゃ、遠慮なく頼るのがええ」
「お、俺…千冬姉を…そんなつもりじゃ…」
また涙ぐみそうになる一夏を見つめながら、ジーちゃんは優しく諭していく。
「『ブリュンヒルデ』は何でもお見通しじゃろう…最近のケータイにはGPS機能が付いておるからの、そろそろウチにお目見えするころじゃろうて」
「もう夕飯時ですもの、お夕飯召し上がってからお帰りなさいね。今日は茨の大好物のコンビーフ肉じゃがよ」
いつの間にか部屋に居たバーちゃんの言葉とほぼ同時、一夏のケータイが鳴りだした。
■
「で、結局就職に有利な藍越学園を受験することになったんだけど、試験会場にえらばれた市民ホールで開かれてたIS学園の入学試験で打鉄を起動させて、その次の日に記念写真を撮るために中学校に運ばれてきた打鉄を俺が起動させて…現在に至るわけだ」
女性陣は全員押し黙っていた…まあ、『一夏の違う一面』と言われればそうなんだろうけど、ご期待していたのとは丸っきり違うだろうな、うん。
「一夏が軍人…!?正直、持つはずが無いわね」
ピーチティーを口に含むと率直な意見を述べる鈴、まあ自衛隊は軍隊じゃない、てのが公式見解なんだがそこいらの所は深くは問いただすまい。
「…持つ、持たないではないでしょう。いくばくかの出費で一夏さんを囲い込むことで織斑先生を自由に出来る…渡りに船でしたでしょうね…」
「は、破廉恥だぞセシリア!」
…シノさん、何を想像してる。それは違うと思うぞ、多分…
「一夏を人質にすることで織斑先生を操り人形に出来る、って事よ。何想像してるのさ篠ノ之さん?」
「『箒』でいい、凰さん…さて、1年1組総勢の胴上げを曲解したのはどちらのクーニャンだったかな…」
「あたしも『鈴』でいいわ…どうやら決着を着けたいようね…」
「で、お二人が骨肉の争いを演じてる間にわたくしが漁夫の利をいただきますわ。骨は拾ってさしあげますわよ?」
…ナイスだ、オルコットさん。殺気が消えた二人を一瞥すると、俺は本題を提案した。
…織斑先生の立場をわきまえず、二人の関係も知らなかった俺だ。ガキのたわごとだって笑い飛ばしてくれてもいい。でも、コレくらいしか俺には出来ないんだ…
「で、皆様にご提案…一夏のハートを射止める絶好の方法…あいつを、一夏を学園にいる間トコトンまで鍛え上げる。出来れば代表レベルまで」
…何だよその表情は。まあ、ココからが本番だ、うん!
「一夏は『ISが操縦できる男』だからここに居る。AOAにとっての俺がモルモットなのと同じように。もし男が動かせる要素が判明すれば、或いはどう足掻いても他の男が動かせないって判明すれば存在価値は0だ…でも、もし国家代表になれるくらいの実力の持ち主なら?世の中まだまだ男は捨てたものじゃあないって周りは評価する、地位だって収入だってそれなり以上だろ…何より周りで一緒に励まし、共に学んできた麗しき少女…コレはもう決まりだろ?」
ああ、みんな夢見る表情だ。ウェディングドレスか内掛けの未来予想図でも描いているんだろう。『和牛のオーナーになりませんか?』とか『将来値上がりしますよ?原野いかがですか?』みたいな儲け話には気をつけろよ。
…まあ、正直もう一つ理由はある。一夏と織斑先生との、その、カンケーの事だ…コレまでの事を振り返ると…織斑先生から迫ったんじゃないだろうか…
※ダイジェストでお楽しみください
パターンA
『俺は千冬姉が…好きだ!千冬姉が…欲しぃいいい!』→『石破天驚、織斑フィンガァァァアアア!』
パターンB
『だ、ダメだよ千冬姉!俺達キョーダイなんだぞ!』→『ゴメン…でも…もし一夏が慰めてくれるなら…お姉ちゃん…もう少しだけ…頑張れるから…』
…うん、パターンBだ。
一夏も自信があれば、余裕があれば、周りを見てくれる。そうすれば、自分に向けられた好意が的外れじゃないってきっと解ってくれる。織斑先生だって、そうすれば自分から身を引いてくれるはずだ。
…そこでキチンと支えてあげれば好感度爆上げですよ、山田先生!
●
日曜午後のIS学園。月曜からの『一夏錬成計画』を練り上げた私たちは、桜並木の下、寮への道を歩いていた。
「ISの操縦訓練に基礎知識、体力錬成…勉強になります。持つべきものはセンパイだね…こりゃあ一夏もますます忙しくなるなあ…」
「皆でやるに決まってるでしょ、アホ茨!一夏は絶対巻き込みに来るはずよ!」
「言いだしっぺの茨君が参加しない…何か裏があるということでよろしくって?」
まったく、茨も進歩しないヤツだ…一夏の性格なら絶対にお前も参加せざるを得なくなるぞ…まあ、専用機の無い私は蚊帳の外だろうが…
「まあ一夏の『白式』はブレードメインだし、シノさんが一番のキーパーソンだと思うぜ?俺の最初の教官が言ってたんだけど『生身で出来ない事がISを纏えば出来るようになる。生身で出来ることはISを纏えば更に出来るようになる。だから生身で出来ることを増やせ!体を鍛えろ!!』ってさ…クラスの、いや学年一の剣豪はシノさんでしょ?あいつは飲み込みが早いからあっという間に剣客レベルにはなるぜ」
「ま、まあそうだな…腕に覚えはあるぞ!」
そうだな、私には剣がある。たとえ専用機が無くとも一夏の支えにはなれる。
…桜は一昨日全て散ってしまったか。まあ、桜が散らなければ葉は茂らないしな。
再会その2
「お久しぶり、猿取く…」
生徒会室の扉を閉め、深呼吸して心を落ち着け…今度は少しだけ扉を開けてチラッと部屋の中を見る。
「ちょっと、何いきなり…」
部屋の中にはおかんむりの生徒会長、普通なら非礼をわびる所だろう…
「布仏先輩…部屋の中に居るのって生徒会長ですよね?ソックリさんとか物真似タレントじゃないですよね?赤いヘルメットとか用意されてないですよね?」
「…はい」
…裸エプロンで部屋の中で待ち受けているという頭の痛くなる状況に眼をつぶれたとしたら。折角の週の初めなのに何だこのユーウツさは。案内してきた布仏先輩も呆れ顔だ…土曜日の先輩とは明らかに威厳とかががた落ちになってますよ、そういえば先輩も生徒会役員なんでしたっけ?こんな人だなんて思っても見なかったんでしょうね。
「草津でも箱根でも温泉に入ってゆっくりしてきたほうがいいと思います、お二人とも…」
湯畑に叩き落して来い、とは余りにも可哀想で言えなかった。
「な、何よあれ!?こっちが大人の対応してればつけあ…」
「普通痴女とは積極的に関わりたがるものではないでしょう、まともな思考回路の持ち主なら」
「何よ!『男はみんな狼』なのよ!サッソーと撃退して猿取君を再起不能アンド簪ちゃんの眼を覚まさせようと…」
「少女マンガの読みすぎですよ、楯無様。私としては『チャンピオンLED』辺りの購読をおススメしますが」