俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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嵐の前でも騒がしき日々

「…隣、いい?」
「むー、シップくさいよいばらん」
 
ラストオーダー間際の食堂。日替わり定食…因みに今日のメインは鳥のトマト煮だった…を半分ほど食べ進めていた俺の隣に座ったのは簪さんと布仏さんだった…ああ、更識さんって言った方がいいのかな。まあ、本人から要望が無いならそのままでイイか。

「どうぞどうぞ…全身が筋肉痛でさ。『瑠璃も玻璃も照らせば光る』なんていうけど、一夏が瑠璃なら俺はビー玉レベルだし、マジできついわ…」


 一昨日から始まった『一夏錬成計画』は今の所順調に進んでいる…と思いたい。『男子が参加することで一夏への発破にもなる』という『淑女協定』からの強い要望で俺も参加することになったのは想定外といえば想定外だが…凄かったな、月曜日の筋トレ。俺がヒーヒーいいながらメニューこなしていたのにシノさんも鈴もオルコットさんもちょっと汗ばむレベルだし、一夏は一夏で持久走をトップで走り抜けた…まあ、一晩眠れば筋肉痛は消えうせてしまうからシップくさい体を朝から皆様の前にお披露目することも無いんだが。やはりこれも『慣れ』ってヤツなんだろうな、うん。

「月曜日は筋トレに持久走、火曜日はスイミング、今日は武道場で一夏はシノさんと剣道、俺はサンドバッグ叩いたりしてた…明日は午後から2組と合同でISの操縦訓練があるから引き続きグラウンドでISの操縦訓練…金曜と土曜はリフレッシュしてもらって日曜日は鈍った体の起こし方で筋トレ、って予定かなぁ…」
「…三日坊主にならないようにね…」
「ご飯の後の復習と予習も、がんばってねー」

 俺と一緒に入ってきた一夏と『淑女協定』の面々は俺とは少し離れたテーブルでお食事中だ…そんなにこちらをチラチラ見るな、一夏。淑女の皆様がヘソを曲げるぞ。四人がけのテーブルを折角『淑女協定』の皆さんがキープしたんだ、淑女との憩いの時間をシャケのムニエルと共に満喫したまえ一夏。

「そっちはいい感じで進んでるっぽいね、『打鉄弐式』」
「今は、授業というか…テクニックを教わっている最中だけどね…」
「いきなりあんな『裏技』教わるとは思わなかったよねー、かんちゃん」



 『打鉄弐式』の仕上げは、4組全員と1年の整備科志望者、2年3年の整備科全員という総勢200人以上の生徒、整備科担当の先生方のほぼ全てが関わる形でスタートした。まあ、今はプログラミングに必要な知識と技術を学生に学んでもらい、本格的に開始するのはゴールデンウィーク明けになるそうだが…4組としては自分たちが代表に選んだ以上はサポートできることはしたいという思いなのだろう。いい子たちなのだ、皆。整備科の先輩たちとしてはいい勉強になるだろうし、就職でも進学でもいいアッピルにはなるだろう。先生方としてもこの間の『木偶』の襲撃でいいとこ無しだった汚名を返上する絶好のチャンスだし、誰にとってもいい事尽くめだった…倉持技研を除いては。


 『打鉄弐式』にはAOAスタッフの懸念どおり、およそ考えうる限りのプロテクトやらトラップが仕掛けられており、とてもではないがまともに開発が再開できない状況だった…カウンセラー曰く『ダムダム弾よりも非紳士的な所業』に対し、AOAは『考えうる限り最も誠実で、善良で、社会的かつ経済的』な対応を取った。すなわち、『打鉄弐式』に仕掛けられたトラップ、プロテクト、ブラックボックスを全て倉持に気付かれないうちに解析、解除し、その一部始終と自分たちの蓄積したデータを元に参考書『まんがで学ぶISトラップ解除方法』『サルでも分かるISクラック教室』『はじめてのぶらっくぼっくす』をものもし、全学生に無料で配布したのだった。内容は電算系の授業担当する先生曰く『もっと早くこの本にめぐり合いたかった』レベルだそうだ…凄いねAOA。土曜日に調べ始めて月曜日に装丁まで仕上げてくるとかジェバンニもビックリだね。しかもわざわざもう一度『開発に支障の無い状態で』トラップやプロテクト、システムのブラックボックスを仕掛けなおして課題として実施できるようにしたそうだ…ホント、至れり尽くせりだね。
 IS学園特記事項第21項『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』…つまり、簪さんへの支援を放棄した時点で倉持技研は『打鉄弐式』の一切へ口を挟む権利をも放棄してしまったことになり、ISコアも本来国家が所有しているものを貸与されているという形を取っている以上、コアの返却を要請できる筋合いも無い…踏んだり蹴ったりだな、倉持。まあ同情する気もないが。
 『打鉄弐式』から得られた情報は『倉持技研のため』秘匿するし、参考書作成後にはIS学園教師の立会いの下全て破棄した…というのがAOAの公式見解だ…まあ、オルコットさんや鈴のように各国の代表候補生、或いは企業のテストパイロットのように特定の企業と関係の深い生徒だって少なからず居る。『どうやら倉持技研の『白式』への執着は高くついた買い物になりそうだ』というのがカウンセラーの見解だった。まあ、日本で日本の企業に喧嘩を売って怖くないのか、とか『金持ち喧嘩せず』って格言はシカトかよ、と思ってしまう俺はオクビョーモノなんだろう、多分。


「おし、ご馳走様。10時までは自習室でお勉強だねぇ…じゃ、お先ー…一夏、先に自習室に行ってるぜー」
「じゃあね…」
「またねー、いばらん」


「あ、おりむーたちのテーブルまた大騒ぎだねー」
「『誰が一番貢献しているか』なんて…まだ早いんじゃないの?」
「どこも前途多難だねー、かんちゃん」
「…何の話よ…」



第2.5章 埋み火抱えた者のエチュード(修曲)
Ibala:ヤバい、黒豹女(イーリス・コーリング)だ!


「…本日の予定の一部変更を達する。昼休みは全員グラウンドに集合しろ。服装は制服のままでいい。午後からはISの操縦訓練だ、ISスーツを忘れるなよ…ああ、食堂は臨時休業だそうだ」

「ど、どういうことだよ千冬ねぇ…ゴぉッ!?」

 

ああ、出席簿が縦に一夏の頭に吸い込まれて行った…朝のSHRから災難だな。机とのキスは何回目だっけ?少なくとも織斑先生とのそれよりも少ないよな…苦々しい表情を浮かべたままの織斑先生は出席簿を机に置きながら言葉を続ける。

 

「学校では織斑先生と呼べ…食事なら心配するな。体重さえ気にしないなら満足できるはずだ」

 

…なんだろうか、とてもとても嫌な予感がする。逆鱗に触れかねないが、どうしても聞かざるを得なかった。

 

「…あの、織斑先生。一体何があるんでしょうか?」

「『格好の暇つぶし』とだけは言っておこう…まあ…『予定調和の馬鹿騒ぎ』でしかないがな、私には」

 

…だいぶ前に姿を消した近所の野良猫の品評、あるいは近所の悪ガキが就職したみたいな苦々しそうな、寂しそうな、だが懐かしい思い出を語るようなその表情は、俺のはじめて見る織斑先生の顔だった。

 

 

 

「いいねぇ…この空気。スピリタス浴びるより刺激的だ」

 

観客のざわめきよりはるかに遠くの薄暗い控え室、ISスーツを纏い、ベンチに座りながら誰に言うでもなく彼女は一人ごちる…燦々とした明かりだって点けようと思えば点けられるのだが、この薄暗さが彼女は好きだった。何が起きてもおかしくない、何が起きても不思議じゃない…そんな光り輝く大舞台だ、コレくらいが丁度いい。3年ぶりだが、何一つ変わっていない。自分好みにここまできちんとセットしてくれたスタッフには感謝の言葉も無い…

 

「…感謝、か。3年前にはついぞ浮かばなかったよ、そんな言葉…」

 

衰えた、などと言わせる気はない。まだ彼女は21の誕生日を過ぎたばかりなのだ。

 

「…要らないものばっかり抱えてきた?違う、ガキだったんだ、あたしは。コレがきっと『大人になった』ってことなんだ」

 

コンコンとドアがノックされ、出番が合図された…コレも3年前と同じだった。だからだ、彼女は3年前のあの時のように、雄雄しく気合を入れた。

 

「行こうか、懐かしき『日常』へ…罵声と、1セントの雨と、ヨッパライどもの待つ戦場へ!」

 

 

「またか。また何かやらかすのか、AOA…」

 

 お昼休みのグラウンド…授業や放課後や運動部、或いは運動会のようなイベントでなければ足を運ぶ理由がなさそうな場所…ボヤクなシノさん、ぼやきたいのは俺も同じだ。

 

「もー、ホント大混雑よね!」

「そう言うなよ鈴。お腹すかせてるのはみんな同じだろ?メシは俺と茨で適当に見繕ってきた…それと席の確保お疲れ様な、皆」

 

AOAによって馬鹿でかいスクリーンが設置され、ブルーシートが一面にしかれ、座布団が用意されたそこには、全学年生徒と教師が集っていた。食堂の皆さんが開いた屋台が軒を並べ、生徒たちがそれぞれ列を作っている。因みに全て無料だ。暖かな春の日差しといい、さわやかなそよ風とといい、行楽には最高のシチュエーションだろう…『Armaments Of America』のロゴ入りのカーキ色の座布団がいやに場違いでは有ったが…。

 

「トルティヤチップスにディップのワカモレにサルサ、チキン・カバブにミックスサンドイッチにカットピザ…野菜不足だと思ってベビーキャロットとかベジタブルスティック…ご要望があれば他にも持ってくるけど?」

 

 俺らの持ってきたメニューからご想像の付くとおりアメリカンなメニューばかりなのが玉に瑕だが…まあアメリカ人に受けなきゃ他の何処でも受けないらしい、特に食については。

 

「暖かな日差しの下で一夏さんとお食事…夢のようですわね…」

「そうね。今度皆でお弁当でも持ち寄るのもいいかもね…楽しみにしておいてね、一夏」

 

舌は諸刃の剣とはよく言ったもんだよ、ホント。鈴の言葉で一気に青ざめたな、オルコットさん…

 

「まあ、そろそろ『穀雨』の時期だ。ゴールデンウィーク明けあたりにそれぞれが腕を振るう、というのはどうだ?」

「そ…そうですわね箒さん!ブリテンの料理にも美味なるものがあること、オルコットの名にかけて示して見せますわ!」

 

ナイスフォローだ、シノさん…無理するな、オルコットさん。古今東西、自国民ですら『飯の不味さ』をネタにしているのはみんな分かってる。まあ、食育だなんだでだいぶ改善が進んでいるらしいから料理自体は悪くは無いはずだろう、料理自体は…って!?

 

「ヒィっ!?…何してるんですかカウンセラーさん」

「今の私は『ジュースの売り子』です。カウンセラーでは有りません…ルートビアにコーラにレモネード、アイスティにグリーンティにウーロンティはいかがですか」

 

…首筋にキンキンに冷えたルートビアを押し付けてきたのはいつものカウンセラーだった。他のスタッフたちもジュースやらホットドッグやらハンバーガーの売り子をやっている…野球場で良く見かける売り子のナリなのは分かる。AOAのロゴ入りアポロキャップ被ってるのも分かる。売り子なんだ、ジュースやらスナック菓子なんかを箱に入れて首からぶら下げてるのも分かる。

 

「…で、なんでコスチュームの柄が迷彩なんだ、茨のカウンセラーさん?」

「今日のメインイベントの主役に敬意を表してです、織斑君。そして今の私はカウンセラーではありま…」

「じゃあ、なんて呼べばいいよ…」

「…『ピクシー』とでもお呼びください、猿取君…」

 

俺のぼやきに一瞬カウンセラーは体を固め、ぼそぼそと言葉を返す…『ピクシー』(悪戯者)ね、確かにそうだわ…ん?その服の砂漠迷彩のタイガーパターン、どっかで見たぞ…って!?

 

「ねぇ、ピクシーさん…きょうのイベントって、何があるの…?」

「『ISアメリカ代表決定戦』…暫定アメリカ代表『メルセデス・ライチャート』対、元アメリカ代表『イーリス・コーリング』…パンフレットもらわなかったの…?」

「おりむーといばらんは屋台に並んでたからわからないと思うよー、かんちゃん。…いばらん、となりいい-?」

 

パンフレットを握ったまま呆れ顔の簪さんとでっかい綿アメに夢中な布仏さんに声をかけられたのとほぼ同時、スクリーンに映像が映り、歓声が上がり…王者と挑戦者の顔を見てしまった俺はこの場に居ることを心底後悔し、力なく崩れ落ちた。

 

「どうぞ…ていうか、もう帰っていい…?」

 

…ゴメンな一夏。織斑先生がIS学園で教師してることに気付かなかったお前のこと、とてもじゃないけど笑えないよ、俺。

 

「ど、どうした茨!?何が起きた!?」

 

…パンフレットに印刷された挑戦者の顔。肌も瞳も髪も黒、喉を食いちぎらんとする肉食獣のごとき笑み…まさしく『黒豹』。

 

「ていうか…歴代のアメリカ代表くらいは覚えておいたほうが良かったよな、俺…」

 

…スクリーンの中では、暫定チャンピオンが『We Will Rock You』と共に入場していた…アメリカ人なのにいいのか?その選曲…

 

 

 

ミシガン州デトロイト。 AOAにより再開発が施され、ISによる各種産業により潤う、新たなるアメリカの夢の都。

 

《…続きましては、挑戦者の入場です!3年前に開催されました第2回『モンドグロッソ』では惜しくも準決勝はいた…》

 

ISの装備開発、運用試験、或いはISをテーマとしたテーマパーク…様々な産業がデトロイトを潤してはいるが、最も人々を熱狂させているのはデトロイトで開かれる各国の代表同士の『親善試合』、企業同士が技術向上を狙って行われる『公開試合』であった。

 

 

『ジョニー!アンタ何時からそんなにお上品になったんだい!アレか!?ウチのネイリストかっぱらって行った手前、昔みたいな元気なアナウンスはできません、ってかあ?』

 

 

最も多くの試合を開催しているアメリカではあるが、ここ数年の代表の戦績は芳しいものではなかった。負けが込み、引退し、暫定代表が就任する…その繰り返しであり、『4ヶ月持てば頑張ったほう』…これがアメリカ代表の現状であった。

 

《ひ…人聞きの悪いこと言うんじゃねーよ!結婚の許しを得に行っただろうが!》

『『お願いします!レイラとの結婚を許してください!』なんて土下座しに来るんじゃねーよ!そもそもあたしはただの雇い主だ!親でも何でもねーよ!好きなら平然と掻っ攫うくらいがチョードいいんだよ、ヘタレ!余りにも情けなくなってハネムーンにニッポン旅行プレゼントしちまったじゃねーか!』

 

 

アメリカ国民は、強い代表を待ち続けた…幾度『ブリュンヒルデ』に負けても平然と喧嘩を売り、『ブリュンヒルデ』以外には地に這わされたことの無い強い女を、日照りの折に雨雲を待つが如く待ち続け…そして今日、それが現実のものとなった。

 

 

《分かったよ…ステイツが名づけた通り名は『漆黒の嵐』、自称『雨雲』、だけどコイツを語るならコレは避けちゃあ通れない!ベガスで皆の小遣い巻き上げるスポーツブック、ブリュンヒルデのカードは『TO WIN Fight』(どちらが勝つか賭けるタイプ)は何時だって賭けが不成立だった!だが…ただの1回、最後の最後で1万対1.00001なんて馬鹿げたオッズだが賭けが成立した時があった!その時の相手は誰だ!?お高く留まったレッド・チャイニーズか!?》

 

【NO!NO!NO!NO!】

 

《第2回『モンドグロッソ』で、棚ボタ拾ったイタ公か!?》

 

【NO!NO!NO!NO!】

 

《そうだ!最も多く『ブリュンヒルデ』に負け、最も多く『ブリュンヒルデ』に挑んだ女!期待させるだけさせといて、俺らのヘソクリ毟ってった稀代の性悪!テレビの前のロクデナシ、ビールとポテトの準備はイイか!?良い子の皆、こんな大人になるんじゃねーぞ!…さっさと出て来いイーリ!ゴクツブシ共が1セントの雨を降らせてくれるぜ!!》

 

半泣きのアナウンサーの絶叫には返事をせず、『Go West』をBGMにアリーナの中央へと続く道をにこやかに、軽やかに、手を振りながらISスーツ姿の彼女は進んでいく…

酔漢たちの罵声と歓声、1セントコインの雨を浴びながら。

 

 

 

『今更何しにきやがった!?』『いい女になったな、イーリ!』『随分と揉まれて来たんじゃねーのか?』『マジキチどもの城はどんな所よ!?』『今日のビール代にでもしてくれや!!』

 

 

 

 

『あーはいはい。みんなの言いたい事はわかる。聞きたいことも分かる…だけどさ…』

 

明るく輝くアリーナの中心まで彼女…『イーリス・コーリング』は歩みを進めると、笑みをますます深くし、満員の観客席に向けて吼えた。

 

『そんな事のために、遠路遥遥来たのかよ!違うだろう!?…お望みのものを見せてやる!夢見た場所も!…だから、ビール片手ににやけてな!…それと、』

 

 

 

 

『ただいま』

 

 

 

 

『さっさとおっぱじめようぜ、マーシー!実習どおりに動けば、少なくとも恥はかかねーぞ』

『…はい。勝ちに行かせていただきます』

『上等だ!ビビッて逃げ出そうなんて考えないならいい女になれるぜ!』

『本当、変わりましたね先輩。イイヒト出来ました?』

『…よせやい。あたしは『ブリュンヒルデ』さえ居ればいい、そんだけさ!』

 

 

 

 

 

 

「いや、すごかったなアメリカ代表!5分で片がつくのか!同じ『ファング・クエイク』であそこまで動きが違うのかよ!」

「1号機ハ格闘戦…暫定ちゃんぴおんノハ…多分、汎用ノFCSジャナイカナ…」

 

アメリカ代表決定戦の観戦を終えた私たちは食事を済ませ、グラウンドの片づけを行っていた。午後の授業が行われるまで後10分…学生全員ということもあり5分もしないうちにブルーシートのたたみ方も座布団の仕舞い方も終わるだろう。スクリーンはテキパキとAOAスタッフが撤収を終わらせていた…いつもながら侮れんな、AOA…

 

「動きもそうだけど同時通訳の人が口ごもるって、どんな事言ってたの?教えてセシリ…」

「あのような悪口雑言…同じ英語圏の人間とは思えませんわ!?」

「マァ…ソウ言ワナイデアゲテヨおるこっとサン。アアイウノガ大好キナンジャナイカナ?あめりかんハ…」

 

…明らかにおかしいぞ、茨!何があった!?

 

「…ン?アア…過去ノ思イ出ガ復讐二来タ、ソンナ感ジカナ…」

「…何を馬鹿なことを言っている、海の向こうの話だ。AOAがそれにかこつけて生徒に名を売ろうとするのは、どうにもいただけないがな」

「『一眠りしたら記者会見だ!プレス諸君はベガスの『クラウン・クラウン』のスィートを借り切っておいたからそこで待って居たまえ!』って宣言してアリーナから飛び立つ…スーパーマンでも気取っているのですかね?彼女…」

「そんな事言ってたんだ…」

 

 

 

…その時の私は認識が甘かったとしか言いようが無かった。

 




火サス、若しくは土ワイ

「んー…多士済々…じゃないなあ…十人十色…でもないかあ…」
「どうしたんです?猿取君」

自習室での勉強を終え、就寝準備をしながら考え事をしていた俺に不思議そうに山田先生は見つめてくる…ホント、もう一人の部屋の主であるはずの一夏はここで寝たのは1,2回しかないってなんて異常なんだろう、うん。

「いえ…一夏の周りの女の子…『淑女協定』の面々。みんながみんな魅力的だけど、誰を推すのが一番いいんだろう?って…」

 シノさんは共に歩んでいこうとする女性だ。『天災』篠ノ之束博士が後ろ盾になってくれるだろう。ハニートラップを気にしなくてイイというのもありがたい。一夏の『最初』の幼馴染というのもポイントが高い。
 鈴はぐいぐい引っ張っていくタイプだ。中国というメンドクサイ国の出身であることは差し引いても思春期の頃の幼馴染で、家族ぐるみのお付き合いをしていたという所はポイントが高い…まあ、久しぶりに会った鈴の両親が帰化していたというのは度肝を抜かれたが、色々とメンドクサイ事情があるんだろう、うん。
 オルコットさんは意外にも、三歩下がって影を踏まない女性だ。漏れ聞く話によるとイギリスの実家は手広く事業を展開しているそうだ…就職口としては難はあるかもしれないが、いざというときの保険としては十分すぎるほど十分だろう。出会ってまだ1ヶ月未満であるとはいえ、ストレートに一夏への好意を押し出してくる所も好感が持てる。

…蘭ちゃん、道は険しいかもしれないけど笑いながら歩こうぜ。


「…まだ1月たっていないのに、そんな心配するのはナンセンスですよ猿取君。もし織斑君に好きな女性が出来たとしたら、無駄骨になってしまいますよ」


…まあ、確かにそうだ。それに前述の3名だって欠点が無いわけじゃない。
 

 シノさんは嫉妬深い。知り合ってすぐは俺と一夏との関係すら疑っていたフシが有る。下手に一夏が別の女性を恋人に選ぼうものなら刺し違える女性だ。
 鈴は頭に血が上りやすい。一時期よりはおとなしくなったが雀百までなんて諺が有るくらいだ、結ばれてから近所とトラブルを起こして益男さんみたいなことになったら一大事だ。栄螺さんと鰹がただならぬ関係なのだ。見たくないぞそんな栄螺さん。
 オルコットさんは庶民的な感覚が乏しい。本人曰く寝具やら何やらを持ち込み、共有スペースを『やや』侵害しているそうだ。俺らの使ってる寝具だって良い物だろうに…庶民的な一夏と今のまま結ばれても、そう遠からず破局してしまうだろう。

  
「そうだ?山田先生は…」


…ダメだ!もし一夏が『俺、山田先生が好きなんだ』ってなったとしたらアウトだ!多分最初に俺が殺される!次は一夏だ!そして最後に山田先生が血まみれになった織斑先生抱えながら至福の表情で焼け落ちる教会の中に消えていってしまう!


「…どうすれば彼女たちを変えていけると思います?」
「少なくとも彼女たちは変って行ってると思いますよ?敵同士だ、なんて感じても仕方が無い『淑女協定』をキチンと守っていますもの」

…だよね。俺は皆より3歩も4歩も出遅れてるんだ。要らぬお世話にもほどがあるよね。
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