「対症療法しか出来ないのが悔しいです…彼女は『天災』そのものですね、博士」
「コレとて彼女にとっては朝飯前の仕事だろう…だが、それ故に我々は着け込める。驕りは躓きの種だ…」
「そういえば、イーリは代表に復帰したとか…今頃はIS学園でしょうね」
「妬けるかい?」
「まさか。今はこの子を仕上げること…ソレが一番です。」
「『蒼雫』のソース、役に立ててくれたまえ…まあ、我々のFCS技術でだいぶ使いやすくなったんだ。イギリスは感謝しこそすれ、尻を持ち込むことは無いはずさ」
「ホント、嫌な雨だわ。アマガッパ着て走るわけにも行かないし、屋内訓練場は早朝には使えない。悪天候だからってサボるわけにはいかないし、頭痛いわ…降水確率0%なのに何で降るかな…」
「結局今日は寮の入り口で腹筋背筋腕立て懸垂ストレッチ…ホント、千冬姉の言ったとおりだったな」
朝の自主トレを終えた俺と一夏は雨の中、食堂までの道を歩いていた。傘を差す一夏とカッパを羽織った俺に傘を差したシノさんが追いついてくる…赤い雨傘か。シノさんなら蛇の目傘が似合いそうだな、ホント。
「鍛錬は1日怠ければ3日は鈍る。『継続は力なり』さ…おはよう、二人ともお疲れ様だな」
「おはよ箒。なんならお前も来週からどうだ、早朝ジョギング?」
…むむむ。シノさんにしてみれば『淑女協定』の他のメンツを出し抜ける…だがそこを焦った残り2人が連携して何かを仕掛けてくるかもしれないし…いっそ残りも巻き込むか?
「今は『穀雨』、走ろうと思っても中々難しいだろう…素振りでもどうだ?」
す、素振りかぁ…剣道なんて全然やったことないしな。『キノ・チケット』は鉈だし、参考になるかどうか…
「それもいいな、箒。もちろん茨もやろうぜ!『生身で出来ることを増やすことがISで強くなる秘訣だ』…お前の教官もそう言って…お、おい大丈夫か茨!?」
「…大丈夫、ちょっと貧血…食堂に着く頃には治る…」
…ああ、思い出したくなかった…一夏、お前が悪いんじゃない。黒豹女にだって恨みつらみを言えた義理じゃあない、むしろ感謝するべきだ。あれだけドシロウトを鍛えてくれて…その…あんな美人とオチカヅキになれたことだって感謝すべきだろう。弾がこの事を知ったら泣きながらグーパンしてきかねない。
でもさ、何って言うのかな…出来ることなら『鬼教官と訓練生』とかで居たかったわ…
◇
そこは白一色の会見場。カーキ色のスーツを着こなした新アメリカ代表…『イーリス・コーリング』は豪勢な革張りの椅子にだらしなく座りながら仏頂面の各社報道関係者にニヤニヤ笑いかけていた。
「悪ぃ悪ぃ、ようやく酒が抜けたわ…で、どうだったプレス諸君?カジノじゃ…ああドイツもコイツもローストされましたかソーデスカ。まあタダ酒飲んでドキドキを味わえたんだ、ニーチャンネーチャンでもデリバリーして…」
「MBCです。まずは代表再就任おめでとうございます。第2回『モンドグロッソ』以降、3年間代表の座を降りAOAで『ファング・クエイク』の主任テストパイロットを務められていましたが…やはり準決勝敗退のせいでしょうか?」
「確かにあの負けっぷりは我ながら無様でアワレすぎた…だけどさ、それは理由じゃあない」
神経質そうな細身の金髪の男性白人記者の質問に、彼女は自虐の笑みを浮かべ…そしてそれは肉食獣のごとき笑みへと変貌する。
「『ファング・クエイク』の優秀さ…ご確認していただけたかしら。データだけじゃ分からなかったでしょう?…あたしじゃないぞ。『タイガー・シャーク』から乗り換えて一月のマーシィがあそこまで動けたんだ、分かるよな…他にご質問は?」
息を呑んだMBC記者を一瞥する彼女に、セミロングの黒人女性の記者が手を上げた。悪戯っぽい笑みを返答と感じたのだろう、記者は言葉を続ける。
「代表就任おめでとうございます。NBSです。貴女が一度も勝てなかった『ブリュンヒルデ』…織斑千冬は現在日本代表を引退しIS学園で教鞭をとっております…コレについてはいかがでしょうか?」
「やっぱり来たかぁソレ。ステイツは人のことは言えないが…ニッポンも代表は日替わりランチ状態だろ?…じゃあ、日本政府も『サンコのレー』ってヤツでご足労するんじゃねえの?」
「織斑千冬が…代表復帰!?」
「彼女からは何らかのアプローチが!?」
「ンなモンねーよ。単なるあ・て・ずっ・ぽ…まあ、一度はオメモジしようかなぁ、っては思ってるぜ?」
彼女は騒然としだす報道陣にますます笑みを深くする…そこに、金髪碧眼の美女が手を上げた。
「BIXです…『ブリュンヒルデ』に、一言お願いします」
「オーケー!…『何か土産でも持って行くから、また愛し合おうぜ!麗しのブリュンヒ・ル・デ♥』」
●
「逃げましょう千冬様!あんなメスゴリラに粘着されたら貞操が一巻の終わ…ッタあ!」
「そうですセンp…織斑先生!不肖この山田真耶、最後まで先生をお守り…ッつぅ!?」
「ガタガタ騒ぐな、アホ共…私があんな虚仮脅しに乗ると思うのか?」
アメリカからの緊急報道…なぜか『Live』のあとに『カラー』『ステレオ』の字幕が映った…アメリカ代表の記者会見に食堂内は騒然となっていた。少なくない数の生徒、そして山田先生がジャージ姿の織斑先生を取り囲み、織斑先生はデコピンで対応している…仏頂面で食堂の中心で仁王立ちする織斑先生と、その周囲でのた打ち回る生徒と山田先生の姿を見るに、そう簡単に後れを取ることはなさそうだ。
「…もうやだよ…お腹痛いよ…何でこんなに苦しまないといけないんだよ…」
早飯の茨は口に含んでいた2杯目のブラックコーヒーを対面の一夏に盛大に吹きそうになる寸前、隣の鈴に口を押さえられ目を白黒させた後、ようやく嚥下した…ちなみに一夏の脇は私とセシリアが固めている。折角の塩サバが無駄にならなくてすんだな、一夏。
「なぁ茨…いったいアメリカで何があったんだ?昨日からアメリカの話題が出る度に絶不調になってるぜ?」
「…いえ、むしろ新アメリカ代表と何がございまして?」
「さっきのテレビじゃ…AOAでテストパイロットやってたみたいよね…」
セシリア、鈴…イイ笑顔だな。それ以上茨を追い詰めるな、身を投げかねん。
「そう勘ぐるな、二人とも。で、何があったんだ…話せば楽になるんじゃないか?」
「結局質疑応答かよシノさん。何だよ皆そのイイ笑顔は…」
「…茨、そんなにヒドイ目にあったのか?お前の怯えようは尋常じゃないぞ。皆、聞いてやるなよ…」
確かに、戦争物の映画では虐待じみた教練の描写は枚挙に暇が無い。一夏の懸念も当然だ…だからそんな目で見ないでくれ一夏、まるで私たちが悪人のようじゃないか。そしてそんなに死にそうな顔をするな茨。
「黒豹みたいな人だった…一ヶ月間死ぬほど鍛えられた。丸っきりのドシロウトの俺が山田先生ともシノさんともオルコットさんとも『木偶』とも何とか戦えたのはそのお陰かな…」
「…それは…恐ろしい相手ですわね…」
「スゲェな、それ…箒、そんな怖い顔するなよ…」
確かに,男子は好事家でもなければISの知識など無用の長物であり、しかも茨は武道の心得などまったく無かった…そんな男を僅か一月でココまで鍛え上げる、どれだけの手練だ…
「…そうだ!マズイです織斑先生!ひょっとしたらあの人、もうIS学園にいるかも!さっきの質問者に…って!?」
「時既に時間切れ…マック、少しはマッチョに…相変わらずのガリだな…イカレちまったら首を呉れてやれるダチはできたか?」
織斑先生に駆け寄ろうとした茨は次の刹那、忍び寄っていた白衣の女傑の人間マフラーと化していた。
■
「マック、少しはマッチョに…相変わらずのガリだな…イカレちまったら首を呉れてやれるダチはできたか?」
それは一月ぶりの再会だった。笑顔で握手でもすればサマになったのかもしれない。黒豹女から後ろから抱きすくめられ、吐息を耳に吹きかけられ…
「!”#!’$&(’”&##!!!」
…次の瞬間見事にアルゼンチンバックブリーカーを極められていなかったとしたら。
「お久しぶり、『ブリュンヒルデ』…3年ぶりの再会だってのに随分とご機嫌斜めだこと…暴れンなマック、背骨へし折られたいのか?」
「タートルネックのセーターにタイトスカート、白衣にサングラス…変装とは随分と姑息になったものだ。それともこの学園の職員にでもなるつもりか?」
「正確には3年と21日と5時間25分、といったトコロでしょうか。キチンと教えてあげたの、もう忘れちゃいました?」
抵抗を諦めた俺の視界に飛び込んできたのは黒豹女とペアルックのカウンセラー…ピクシーだった。髪型もいつものひっつめ髪からウルフカットに変えている…まあ、黒豹女はミディアムウルフでピクシーはロングだが。
「一々そんなの覚えてられっかよ。つーかキメェだろそんな発言…何のカートゥーンの拾い食いだピクシー?」
どうやら黒豹女にはルクレツィアさんは合わなかったらしい。まあ、ああいう生真面目さや一途さとは対極に位置するだろうな…って、また力を込めてきやがった!!?
「お、おい茨を離せよコーリングさん!本気で折る気なのかよ!?」
「ギブギブ離してイーリさん、折れる折れる折れる…のぉっ!?」
一夏の声を聞くと、黒豹女はマフラーみたいに俺を背後にポイ捨てした…良かった、(背骨の折れる音)とか字幕で流れる事態は回避できたんだ。(怯える声)は出っぱなしだが。
「ど、どうしてIS学園に貴女がいるんですか!?さっきラスベガスで…」
「その答えはマックが分かるはずさ…回答したまえ。またマフラーになりたい?」
「タイムタイムタイム!っと…アレだろ!昨日の試合の後、そのまま空港に直行してここまできたんだろ!さっき流れた映像は『ジョブ&ホビー』で撮ったやつだろ!何人かAOA本社やココで見たヤツが居たぞ!」
デコピンからいち早く復帰した山田先生の抗議の声にニヤニヤ笑いながら俺をつま先で突っつく黒豹女。この歳で下半身不随とか悲惨すぎる。例え見苦しくても一刻も早く黒豹女から離れなければいけない!ゴキブリみたいな動きだが背に腹は帰られない!
「ご名答。大体デトロイトからベガスまでは2000マイルはあんだぜ?競技用ISの巡航速度じゃ移動だけで半日コース、激闘を繰り広げた身としちゃあキツイキツイ」
「マスメディアはラスベガスで待ちぼうけ…あること無いこと書かれるんじゃないの?」
「メディアを敵に回せば後が厄介じゃございませんの、ミス=コーリング?」
中国とイギリスの代表候補生から剣呑な視線やセリフを向けられてもニヤついた笑みを崩さない辺り、役者というか格が違うんだろう、多分。
「そこいらなら大丈夫。予めプレスには質問とかを承っておいたし、連中はタダ酒飲みながら大散財の真っ最中さ!『クラウン・クラウン』は家族向けのホテルだからスィートだって55ドルも有れば泊まれるし、ベガスのホテルはスィートでもサービスはあんまり良くないんだぜ…カジノで一杯ドル使っていただくためにな。ああホテル代なら胴元が快くポンと出してくれたぜ、ブン屋連中は鬱屈してるからこーいう時の金払いがサイコーなんだ!ミニマムベット(賭けが成り立つ最低額の掛け金)を30ドルにしたって屁でもないし、何時間も1ドルスロットにしがみ付いていてくれるしな!!…ほい、忘れる所だったぜ『ブリュンヒルデ』。酒のアテにでもしてくんな」
「…テング印のビーフジャーキーとはな。国際空港で慌てて買ってきたな…」
黒豹女が白衣のポケットから取り出し、放り投げたビニール袋を織斑先生はキャッチし、中身をチラ見し…顔を顰めた。黒豹女には悪いが、せめて包装紙で包んでくるべきだろう。あれでは自分用の未開封のツマミを押し付けたと言われても文句は言えないぞ。
「…ま、土産はともかく折角再会できたんだ、三年ぶりの『睦みあい』としゃれ込もうじゃないのよ『ブリュンヒルデ』?」
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「三年ぶりの『睦みあい』としゃれ込もうじゃないのよ『ブリュンヒルデ』?」
…空気が一気に凍てつき、矛盾するかのように喉が熱くひりついていく。その笑みは数瞬後には喉笛を食いちぎり、だらしなく白衣のポケットに突っ込まれた手は瞳を抉り、心なしか折り曲げられた足は一気に懐に飛び込んでいける…『黒豹』だった。茨にじゃれ付く姿など、コレから比べれば子猫だ。対する織斑先生は仁王立ちのまま何処吹く風に見えた…背筋の寒くなる愉悦に満ちた視線を除けばだが。
「…食堂で生徒たちの監督だ、あと1時間はかかるぞ。それとISは使わない」
「じゃあ待つか?3年待ったんだ、たった1時間待てないわけが無い…ナマでヤれるなんて、天にも登る気持ちだよ」
「そ…そんなこと許されるわけが無いでしょう!あなたは闖入者です!警備部が…ッ!?」
抗議の声を上げた山田先生は相対する二人の睥睨で言葉を詰まらせた…その一瞬後、コーリング女史はチェシャ猫のような笑みを浮かべると胸の谷間から身分証の入ったパスケースを取り出し、山田先生にチラつかせる。
「一応あたしもAOA出向の身なんでね。『アンカー・スチーム』開発にも関わってるから無関係って訳でもない…それに、織斑センセイが折角ヤる気になったんだ、水を差すのは無粋ってモンだろ?」
「お前がつけた火だ、最後まで責任を持てよ…」
「『放火(ツケ)た火は、ちゃんと消してもテメーの非』ってか?じゃあ、今すぐお外でヤろうや、水も滴るいい女にゃあ最高のステージだぜ。折角の朝メシだ、ハラハラしながら食うんじゃジャリにゃあ味もヘチマも無いだろう…無くすなよマック!」
「気が合うな。安心しろ一夏、山田先生…すぐに終わらせる」
コーリング女史は白衣を茨に、織斑先生はビニール袋を放り投げると外へと向かい、一夏やセシリア、鈴、そして野次馬たちは恐る恐る後に続く…茨とピクシーは床に腰を抜かしながら涙ぐむ山田先生を必死になだめている最中だ。
「山田先生大丈夫、落ち着いて…すぐにいつもの織斑先生に戻るから。ほら行こう?絶対勝つよ」
「そうですね。3分あればイーリは負けるでしょう」
「アメリカ代表で茨の元教官なんだろう…お前たち良いのか?負けると公言しても」
私の問いに少し考え込むと、茨は恐る恐る答える。
「…イーリさんは勝つことじゃなく、戦うことが何より好きな人だと思う」
「気が合いますね、猿取君」
■
「『格下から当たっていく』…物の道理を解っているじゃないか、性悪!」
「あぁ!?『噛みしゃぶりたくて仕方ありませんでした』ってツラに書いてたぜ、このムッツリ…っと!」
互いに殴り、蹴り、そして払い、受ける。関節を踏み抜こうとし、極めようとし、地面に叩きつけられる寸前で解き放ち、間合いを離す…凄いね、2分間ぶっ続けで雨霰とどつきあえるなんてプロボクサーもビックリだよ。あんなピンヒールで立ち回れるなんて凄いね黒豹女。
「ちぇー、ジャリのお守りやってりゃナマクラになってると踏んだんだけどなぁ…こりゃ見込み違いだわ…りゃあ!」
「ほう…負け癖のついたメス猫らしい!さっさと地に這い、許しを請え!」
「…っと!寝言は後でしこたま聞いてやるよ、サディスト!」
…ホント、2りともとても充実してるね。ここまで楽しそうな織斑先生も黒豹女もはじめて見たよ。雨に濡れようがなんだろうが止められそうに無いや。
「許さない…私のセンパイにあんな事を…許せない…」
…山田先生、お願いだから正気に戻って…ああ、お願いだから早く終わって…
「凄まじいな。アレだけ打ち合ってもクリーンヒットが一つもない」
「そ、それって二人とも手を…」
恐る恐る問う一夏をギロリと睨むと、シノさんは言葉を続ける。
「まさか。あそこまでの乱撃、示し合わせていても防ぎきれるわけも無い。まだまだ様子見なんだろう、二人の立ち居地では…そろそろ動くな」
その呟きとほぼ同時、二人の動きが一段上がった。黒豹女が放った回し蹴りを片手で受け止めると、織斑先生はドラゴンスクリューの要領で巻き込もうとし…
「甘ぇ!」
「どっちがだ」
黒豹女はもう片方の足で延髄を狙い、そちらも片手で受け止めた織斑先生は今度はダイレクトに地面に叩きつけようとし…
上体を起こして頭突きを狙おうとした黒豹女にカウンターの肘を叩き込んだ。ソレより一瞬遅れて黒豹女は織斑先生の鳩尾に足を叩き込み、二人は弾き飛ばされながら体勢を戻し、間合いを離す。
「相変わらずだねぇ、『ブリュンヒルデ』…お星様がチカチカしてるよ」
「少しはマシにはなったな、『漆黒の嵐』…終わりか?」
「…ああ、コレで終わり」
互いの笑みはますます深く、獰猛になっていく。野次馬たちは皆息を飲み、互いの一挙手一投足に釘付けになっていた…黒豹女は体勢を低くすると…
「参りましたぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アスファルトを割る勢いで土下座した…良かった、他と違って俺はずっこけなくて本当に良かった。
「…もし本当にすまないって気持ちが有るなら、焼けた鉄板の上ででもできますよね…」
…先生、お願いだから早く正気に戻って!ていうかバーちゃん曰く『あのジイさんは絶対カイジに恋焦がれてる。アカギはジジィ総受け』…ああ、バーちゃんやっぱりイカレてたね。
「あ、オメーら一発もらっただけで降伏とか情けねーって思ったろ!?コレが『ブリュンヒルデ』とのナマでの交歓のルールなのさ…どちらかがアタリを叩き込んだらそこで勝ち、失神するまで愛してくれた昔が懐かしいねぇ…」
「何だその言いようは。全戦全敗が偉そうに…何なら今から続けるか?」
苦虫を噛み潰したような表情の織斑先生にも何処吹く風、黒豹女は相変わらずのニヤケ面で肘を叩き込まれた頬を撫でている。
「どうせなら来年にしようや、織斑センセ?そっちの委員会からはラブコールが来てるんじゃ…痛ッたー、ぐらついてるぐらついてる少しは手加減してよ、あたし華奢なんだからさぁ」
「抜かせ!…で、今日はどうする気だ」
「日本代表様と倉持技研に仁義切り。代替わりしてからウチの若いのを散々可愛がってくれたんだ、コッテリ楽しんでくる」
うわぁ、出入りってヤツですか…って何でこっち来るのよ黒豹女!?そうだ白衣ね、白衣。
「サンキュー、じゃ、行って来るぜマック…ランチまでには戻ってくる」
「何をぼけっとしている!?さっさと食事に戻れ!遅刻したらグラウンド十週だぞ!」
…ああ、いつもの織斑先生だ。黒豹女は『ジョブ&ホビー』に足早に向かっていく。いつもの日常は再開していく。
「で、あの人はどんな人なんです?弱点は?好物は?餌場は何処です?」
…って、山田先生肩離して!ハイライトの消えた瞳はヤメテ!
「山田先生、今織斑先生にバスタオルでももって行ってあげなよ。好感度アップだよ」
俺の囁きに弾かれたかのように山田先生は寮へと走っていく…傘ぐらいは持っていったほうが良いよ…頭痛いよ、おなか痛いよ…こんな非日常、やだよ…
格闘美人・抜刀美人
…久しいな。まずはおめでとう、と言っておこう。美酒に酔いしれた挙句、二日酔いにでもなったか?
…テング印…ちょっと待て!?
…そうか、わかった。放課後の時間は空けておこう…代表と倉持のもか?わかった。声はかけておく…
…ほざけ、それはこっちのセリフだ。雨雲の割には男日照りは相変わらずだな…
「千冬姉、何処から電話?」
「…知人だ。痴人でもあるがな…さっさと寝よう。明朝も猿取と一緒にジョギングだろう?…まあ、明日は雨だろうがな」
「う、うん…でも、明日は晴れだって天気予報じゃあ言ってるけど…?」
「そうだろうな…だが、雨だ。アイツが来るからな」