俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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木曜日の午後に

※時間が前後していますが、気にしたら負けです


「では、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、猿取、オルコット、凰、ISを展開した後、ためしに飛んで見せろ…猿取、緊急展開は使うなよ」
「は、はい!」

何とかカンとかお昼のショックから抜け出した俺は、1組2組の合同授業に参加している…いつものように左の親指を握りこんだ俺は織斑先生に出鼻をくじかれてしまった。

「さっさと展開しろ」
おっとと他3名は呼び出し中だ、俺もさっさと呼ばないと次はグーが来る。

(ま、あれは『緊急で展開するため』のワードなんだ…慣れたらいけないよな。行くぜ相棒…『アンカー・スチーム』)

両手両足をやや広げ、集中する…ポーズは特には気にはしない。イメージは『冬の夜、わが身に霜が降りる也』…ナタルさんはそのイメージが一番呼びやすいと教えてくれた。黒豹女は『地吹雪が、夜のわが身に染みる也』って笑ってたっけ。
…指輪から光が溢れ、全身の周囲にワイヤーフレームが浮かび上がり、光は体に纏いつく。IS本体は再構成され隙間無く体を包みふわりと体が浮かび上がる…相変わらず敏感なセンサーは俺の神経をキリキリに冷やしていくが、この間よりはだいぶマシになった…慣れたわけじゃあない、『パシフィスト』がキチンと起動している…そしてなによりハードポイントに武装を山盛りにしていないからだってはっきり分かる。ホント、俺ってオクビョーモノだわ。

「今回は『ばとるぼーん』って叫ばないんだ、いばらん」
「アレは緊急展開用のコールサインだ。武装ならともかく、ISの展開にまで設定するのはアメリカぐらいだろう…熟練者ならISは0.1秒かからず展開させられる、コールサインなど無用だ」

苦虫を噛み潰したような顔で布仏さんへ言葉を返す織斑先生…基本、アメリカのISは『馬鹿でも扱える』のが隠れたセールスポイントだそうだ。黒豹女曰く『ナタルならともかく、あたしがアメリカ以外のIS纏えって言われても無理だ』っていうくらいのモノらしい…これはナタルさんを褒めるべきなんだろうか。それとも不甲斐無い黒豹女に呆れ返るべきなんだろうか。『兵器なんてものはアマチュアだろうがルーキーだろうが使いこなせなきゃいけないんだよマック!』って黒豹女はブーたれていたが。

「あれ?織斑先生の『暮桜』にも展開用のコールサインは…っタタタタ!」

ああ、山田先生コメカミグリグリされてる。ちょっと嬉しそうなのは気にすまい。あんなに顔真っ赤にするとかよっぽどこっぱずかしいコールサインだったんだね織斑先生。俺の『Battle Born』ってのはAOAが決めたワードですしネバダ州の標語ですから恥ずかしいもヘチマも無いんですが…ひょっとして自分で設定しちゃいました?割と黒歴史です?プリキュアみたいなノリでした?

「さっさと飛べ一夏!ボサッとしている暇は無いぞ!」
「足に根が生えましたの?一夏さん…」
「飛べないなら足元に一発行っちゃう?」

…一夏、恋する瞳で織斑先生を見つめるな。『淑女協定』の皆様はおかんむりだぞ。

「じゃあお先。いざ往かん大空へ!」
空気に耐え切れなくなった俺は、PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)とスラスターの羽を広げ、無限の蒼穹へと向かっていく。何だかんだで黒豹女も一番楽しそうだったよな、空を飛ぶ訓練。

世の男共が意気消沈したのはこの羽根が自分たちには無い、その事実に尽きるよ。
…好き放題空を飛べる、ソレだけで多分生きる意味はあると思う。



Iirisu:カフェにのりこめー^^ Ibala:わぁい;;

「惰弱、ひたすらに惰弱でした。面会するなり『今日は折悪く機体の調整が不十分』などと言い訳三昧、『袴の損料としては甚だ不足ではございましょうがどうかお納めを…』などとアタッシュケースを差し出されても困惑しかいたしません…」

 

『イーリス・コーリング来たる』そのニュースは日本IS委員会と倉持技研には最悪の代物だったそうだ。『ヤツの単一能力(ワンオフ・アビリティー)はワープだったのか!?』と恐慌し、平身低頭し、ミカジメ料でも納める勢いに呆れ果てた黒豹女は出された茶にすら手をつけずサヨナラしたそうだ…まあ、黒豹女のお好みはノンアルコールならゼロカロリーのソーダで、今もゼロコーラを頂いてはいるが。

 

(ねえ箒、袴の損料って何?)

(道場破りを追い返すときに払う口止め料だ、鈴。『袴を擦り切れさせてしまい申し訳ありません』とな…戦うことを放棄するとは不甲斐無い…)

(あの試合を見れば、怯えてしまうのも無理はないかと…)

「面子でしょうね、日本にとっても、倉持技研にとっても…ですが、折角の交流のチャンスがふいになってしまい、私残念です…皆さん、負けることは決して恥ではありませんよ。同じ相手に2回負けない、それが重要なんです」

「は、はい…勉強になります…」

 

 

…午前中の授業を必死の思いで終わらせてきた俺をキャッチすると『猿取がご迷惑をおかけしているでしょう?貴方とお食事を是非共にしたいですがいかがでしょう?』の言葉と共に一夏を掻っ攫い、眼を三角にした『淑女協定』が同席の元、昼食会は始まった…金曜日正午雨のカフェテラス…いや、店内だからカフェーかな…いつもなら満席になることは稀なはずらしいのだが、店内…いや、俺らの座った店内のテーブルの周囲は異様なまでの人だかりとなっている…パパラッチに囲まれたタレントってこんな気持ちなんだろうな。黒豹女が羽織っている白一色のスーツも本人の肌とマッチして鯨幕にしか見えない。

 

「でも、コーリングさん…その、今日も残念でしたね…」

「いいえ!厳然たる事実なのです、『ブリュンヒルデ』は…『織斑千冬』の領域にまだまだ私では届かない。それが確認できただけでも望外です…」

 

 

 

そう…終始この調子なのだ。『一夏を狙う雌狐に大鉄槌を!』と鼻息も荒く乗り込んできた『淑女協定』は柔和な笑みを浮かべる黒豹女に毒気を抜かれ、すっかりペースを奪われてしまっている。『ティーンエージャーは食べることもお仕事ですよ、遠慮せずご注文ください…ああ、袖振り合うも他生の縁と申します、他のテーブルの皆さんもどうぞご遠慮なく』…初めて見たよ、アメックスのブラックカードなんて。俺はコーヒーにマルガリータピザ、一夏はカフェオレにカツサンド、シノさんはカプチーノにクラブハウスサンドイッチ、オルコットさんは紅茶にミックスサンドイッチ、鈴はジャスミンティにクロックムッシュ…わかりやすくていいな、うん。

 

「特製サラダお持ちしました…で、後はもう帰るのイーリさん…」

「いいえ、僭越ではありますが課外授業を開設の予定です…入学してから3週間。『クラス対抗戦が無粋な闖入者の手でお流れになった』アークライト博士からお伺いしましたわ。代わりとは行かないまでも、それなりの穴埋めはステイツの手で用意させていただきます…あら!美味しそうですわ」

 

 

黒豹女は俺が持ってきた特製サラダ…馬鹿でかいボール一杯の野菜サラダ20人前…に満面の笑みを浮かべながら言葉を返した。だけどさ…今朝織斑先生とドツキあった事はもう号外で学園中に知れ渡ってるぞ。『ブリュンヒルデ最強伝説揺るがず!アメリカ代表3分でKO!』の見出しと仁王立ちする織斑先生と土砂降りの中土下座する黒豹女のどアップの写真は見てるこっちすらアワレになったぞ。あ、ここにもあった号外!!…おい馬鹿やめろ見るな黒豹女!

 

 

 

「…おお、いいじゃないですか。いい腕前ですねIS学園新聞部。先程頂いたデータと寸分たがいませんね」

「ミス・コーリング、貴女にプライドはありませんの…」

 

ニコニコ笑いながら号外を眺める黒豹女にゲンナリとした表情でオルコットさんはボヤく…その刹那、黒豹女の瞳に冷たい物が混ざった。

 

 

 

「もちろん御座いますよ、ミス・オルコット…『ブリュンヒルデと相対し、そして生き延びたことへの僥倖を感謝し、己の敗北を謙虚に認め明日へとつなぐ』誇りが無ければ出来る所業ではありませんよ…日本は野菜が美味しくて実に羨ましい。ほうれん草、キャベツ、レタス、トマトにパセリにパンプキン…ステイツの野菜はコレに比べれば雑草ですわ」

 

意外ではあるが、物を頬張りながら話をするような下品な真似は錬成講習の際も黒豹女はやらかさなかった。取り皿によそって空にするペースは驚異的ではあるものの、お行儀よく頂く様子だけは淑女そのものであろう。

 

「あの、質問なんですけど…一体何を教える予定なんです?」

 

つい四半日前に実の姉と殴りあった相手の意外な一面に一夏は戸惑いを隠せない。蠱惑的な黒豹女の笑みは俺にとっては舌なめずりする姿にしか見えなかった…多分『淑女協定』の面々にも。

 

 

「不慣れではありますが『愛について』…恋愛の成就には出合ってからの時間は関係ない、そう思いませ…っつ!」

 

 

 

ドギマギする一夏の手を握ろうとした黒豹女は次の瞬間、頭を思い切り仰け反らせた。ギリギリで正拳が側頭部を掠めていく…凄いね織斑先生、衆人環視の中でここまで気取られずに近づけるなんて…でも対面の俺のデコを掠めさせる意味はないんじゃないんですかねぇ?

 

「人の弟を誘惑しようとはいい度胸だな、イーリス・コーリング…そういうときのために猿取が居るんじゃないのか?篠ノ之、オルコット、凰、お前たちもお前たちだ…まあ、海千山千の相手はお前たち小娘には荷が重すぎたか…」

「あ?マックとロマンスとか無いわー、マジ無いわー…『ギャップ=モエ』の素晴らしさを折角ベビーフェイスに教えようと思ったのに残念無念だわー…気ぃつけなよベビーフェイス、女は化けるぞぉ?」

「そんな事は無いぞ一夏!裏表のない女性は沢山居る!」

「そうですわ一夏さん!…ですが、愛に時間は関係ないということは心情的には理解できます!」

「あ!?アンタ幼馴染馬鹿にするわけ!?そんならアンタも牛ね!!」

「姉弟丼とか…許せない…」

 

ああ、やっぱりこうなるのね。眼を白黒させる一夏とキャンキャン吠える『淑女協定』、ソレをサラダを頬張りつつニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべ眺める黒豹女、そして相変わらず仏頂面の織斑先生と今朝から相変わらずの山田先生…考えすぎだよ山田先生、気にしたら負けだよ。ていうか、今日だけで俺の寿命は月単位で縮んだよ。ていうかアメリカにも『ギャップ萌え』って有るのかよ。

 

 

「ていうかさっさと結婚しなよブリュンヒルデ。先輩が片付かないとそっちの可愛らしい後輩もアクション出来な…ギブギブ離して離してアイアンクローはヤメテ!頭蓋が砕ける砕けるゴメンなさいゴメンなさい!!」

 

 

…悪いが核地雷を踏み抜いたのは黒豹女、アンタの責任だ。フォローはしないぞ…

 

 

出来る相手ならホント良かったんだよ!相手が居ないならソレもソレで良かったんだよ!せめて血のつながらない関係なら俺もどうって事無かったんだよ!色々とアンタッチャブルなんだよそのネタは!

 

 

 

「貴様の頭をザクロのように砕けばカフェーを汚してしまう、掃除の手間、そして我々への食事の提供に免じて許してやろう…で、何を教える気だ?第3アリーナを借り切ってまで…」

「つぅぅ、今朝よりリキ入ってたんじゃねぇの織斑センセ?…覚悟と度胸、そして根性。限られたルールの中で勝利条件を満たす事の難しさ…そんなところかな。さあセンセも学生諸君もガッツリいきなよ。マック、もう少し食わんとタフガイにゃあなれんぞぉ?」

「…カロリー的に言ったらイーリさんとどっこいなんだけどな、俺らのメニュー。ていうかイーリさんてベジタリアンだっけ?」

「まさか!このサラダにだってチキンやシーフードはチョコチョコ入ってンぜ?出された食事は有り難く頂くのがあたしの信条だが、テメーの金でタラフク食うンなら野菜が一番いい。知ってっか?ステイツじゃあ質の高い野菜をタラフク食えるのが上流階級で、下流層は脂質や糖質たっぷりの食いモンしか食わないからブクブクになるんだ…師匠の受け売りだがね」

 

黒豹女の師匠ですか…ワンパンでビルぐらい砕くんです?それとも白刃一閃で真っ二つです?

 

 

 

「『良い教育は良い食事から始まると伺っております。ささやかでは御座いますが寄付金、お役立てくださいませ』…相変わらずですね、ミス・コーリング」

 

学園の運営とは教育だけにとどまらない。耐久財や消耗品の購入、給食や清掃といった緒作業、それらに関わる業者の選定、緒経費に関わる会計…そして寄付の受け入れも重要な業務である。アメリカでは寄付行為は節税対策として奨励されていたし、『バルーニング学園』の運営目的である『恵まれない子供たちへの支援、教育」は富める者からすれば琴線に触れるものであった。

 

「イースター、ハロウィン、クリスマス…AOA、そして『漆黒の嵐』ミス・コーリングの折々の支援には感謝の言葉もありません。いや、ホント頭が下がりますね、シスター・ファロン。女の子たちは息巻いてましたよ、『あたしもアメリカ代表になるんだ!』って」

 

だが、IS関連の最重要拠点であったデトロイトに位置していたことが『バルーニング学園』には幸いした。莫大な利益を上げるAOAの節税対策として…そして『唯一戦場に投入されたISを開発した企業』というこれ以上ないほどのネガティブなイメージを払拭するにはうってつけの対象であった…無論、AOAの寄付対象は他にも無数に存在してはいるが。

 

「彼らの援助は有り難いです…ですが、アレだけ戦えるということはそれだけ人生を浪費しているともいえるのです。戦い以外にも有意義な人生は存在する、それを彼女にも知っていただきたいです…」

 

消灯間際の『バルーニング学園』。日々の雑務を終えた『シスター・ファロン』は新人の同僚と今日振り込まれた『祝勝の証』…AOA、及び新アメリカ代表イーリス・コーリングからの多額の寄付金について茶を嗜みつつ語らっていた…いつもとは違う彼女の硬い表情に息を飲んだ同僚に、苦笑を浮かべながら『シスター・ファロン』は言葉を続ける。

 

「これはゴマメの歯軋りですよ。もし私が彼女と同じくらい戦えたとしたら、彼女と同じように振舞っていたことでしょう…いえ、きっともっと酷かったです、そうに違いありません!」

「そ、そうですか?…でもきっと天使のようでしょうね、シスター・ファロンがISを纏ったとしたら…」

「あら?天使には男性しか居りませんよ?」

 

そんな他愛のない話を続けながら、彼女は…『シスター・ファロン』は思い返していた。

 

 

 

3年前のあの春隣の夜を。

自分には味わうべくもないはずだったあの痛みを。

そして希望に満ちた明日を信じ、安らかに眠る『ブルー・ムーン』を。

 




こうどなじょうほうせん


「ふ、副部長…お客様…じゃあお先!」
「よ!邪魔してるぜ…そんなにビビンなよ取って食うわけじゃねー、知ってっか?人肉って不味いぜ」
「ひひひ人をお召し上がりになった事があるんですか!?その言いよう!!」

今朝特ダネをゲットし、意気揚々と号外をものもし、各部に配り終え、部室へと凱旋した黛薫子はその行動を心の底から後悔していた…『特ダネ』…今朝織斑千冬と相対し、無様な姿を晒していた『イーリス・コーリング』が新聞部室に降臨していたのだった…彼女はVIPなのだ、拒む理由もないだろう、彼女以外の人間にとっては。脱兎のごとく逃げ出していった部員の後を追おうとした彼女は瞬時にイーリスの腕の中の虜となっていた。

「ごごごゴメンなさいスイマセン私が悪かったです!もうこんな事はしません神に誓います!ですから命だけは…」
「『ご勘弁を』?そのセリフは致命的な致命傷だぜ…両手両足引き千切り、オツムをおくすりで滅茶苦茶にして死ぬまで飼うのだって…アア泣くな泣くな命も身の安全も保障する、だから安心しろ!」
「う、グスゥ…わかりましたデータは渡します訂正記事も作成します1面でお詫びも書かせていただきます、ですからご容赦を…」

「あ?…ただ写真のデータのコピーが欲しいんだ」
「は、はい!USBでご用意させていただきます!ムービーと静止画像両方御座います!…なぜ、この様な物を?」

USBメモリを受け取り、満面の笑みを浮かべるイーリスに彼女は疑問を隠しきれない。コレもブン屋のサガなのであろうか…食いついてきた彼女にイーリスは言葉を返す。

「簡単さ。コイツはあたしにとっての『甘い記憶』、キチンと覚えておきたいのさ…邪魔したな…それと」
安心して地が出そうになっていた黛に、イーリスは全ての表情を消すとつまらなさそうにひとりごちた。


「言論の自由と権利は、他者を尊重する義務と責任を果たしてこそ享受できるって事を心に刻み付けておけ。舌は諸刃の剣だ、吐いた言葉は我が身に返るぞ」

「は…ハイ…」



…彼女がその日の昼休み、カフェテリアにいたかどうかは定かではない。
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