俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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3年前の終わりと始まり

「幸せそうだなブリュンヒルデ!」

弱冠14歳で国家代表となった彼女は、メディアの前でもプライベートでも無表情だった。トレーニングを除けば趣味らしき趣味も無く、AOA広報が用意した衣装を唯々諾々と羽織り、化粧を施され、テーブルに出された料理を黙々と平らげる日々を過ごしていた。感情というものがどこにあるかすら知る術はなかったろう…『親善試合』中に浮かべる、満面の笑みを知らない人間なら。

「そうだな。私は幸せだ」

 第1回『モンドグロッソ』終了後国際IS委員会から『親善試合』の参加を許されたアメリカではあったが、代表の初陣は散々なものであった。覇者である『ブリュンヒルデ』に新型機『タイガー・シャーク』で挑みかかったは良いものの1分持たずに地に伏し、その結果を良しとせずISスーツ姿で殴りかかり、ブリュンヒルデからのテンプルへの一撃で失神するという醜態を晒した。

「お前それでいいのかよ!他はどうでもいいのかよ!」

 だが、『チーズを頂くごとく与しやすし』と挑戦状を叩きつけ噛み付いてきた他国代表にとって、それは牙をしたたか傷めるほどの手痛い授業料となった。愉悦の笑みを浮かべながら撃ち抜き、打ち砕き、切り伏せ、撃破した途端一切の興味を失ったかのように無表情にアリーナを去っていく…『AOAはウェットバック(メキシコ不法移民)のターミネーターを代表にでっち上げた』とタブロイド誌は書き連ね、人権保護団体は児童虐待であると抗議の声を上げた。

「お前に言えた義理はないと思うがな」


…が、当の本人は何処吹く風、『ブリュンヒルデ』との対戦を熱望し、機体の調整が不十分な場合は素手で挑みかかる日々であった。週1ペースの来訪を丸一年続ける彼女に辟易したブリュンヒルデが『第2回『モンドグロッソ』での再戦まで彼女との親善試合は辞退する』との旨の発表を行なうや否やピタリと挑戦を止め、ひたすらにトレーニングを重ね、挑みかかる代表を打ち払う彼女の姿にある者はモービ・ディックに挑むエイハブ船長を、またある者は風車に突撃するドン・キホーテを重ねあわせ…品性に欠けた者達はブリュンヒルデに恋慕する彼女を邪推した。


「ああそうかよ!じゃあ終わりだ!コレで終わりだ!『POWERFUL IS LAWFUL!』(力強さは正しさなり!)」
「…『桜花絢爛 桜花爛漫』」

彼女…イーリス・コーリングの第2回『モンドグロッソ』における最後の試合、準決勝第1試合。結果は大方の予想通りであったが、過程は予想を覆していた。怒り狂い、涙を浮かべ、負けた後もただ泣きじゃくるイーリス…終始笑みを浮かべたブリュンヒルデ。

「ぁぁぁぁぁぁl!!!!!何でだよ!何でなんだよ!?良いのかよそれで!?…う、う、うあぁぁ…」
「…いいんだよ。お前も、私も」



この試合の後、3位決定戦を行なうことなくイーリスは棄権、代表を引退し、ブリュンヒルデ…織斑千冬もまた決勝戦のコロシアムに立つことなく、日本代表を引退した。



発砲美人 格闘美人

「3人ともお疲れちゃーん…そんなに意気消沈しなさんなベビーフェイス。あんなに昂ぶってたのに…ま、出すモン出したら納まりついたかなぁ?」

「何よそれ!?ヒワイよヒワイ!」

「同じ英語圏の住人として、許しがたいですわ!」

「その…御免なさいコーリングさん。あんなに当り散らしちゃって…」

 

…三人の『穴埋め』が終わった後の第3アリーナ。俺にとっては黒豹女の前で整列した3人のうち想定通りの女性陣はともかく、素直に謝罪をしてきた一夏の態度は意外だった…

 

「な、なんか…もうちょっと荒れるかと思ったんだけど…」

「剣術も剣道もおよそ武道は精神修養が重要だ、礼に始まり礼に終わる。そもそも武を志すものであろうが無かろうが非礼があれば素直にわびるのが常識だ…いくらアメリカ帰りとはいえそれ位は把握しておけ、茨」

「いや…別にアメリカ人になった覚えは無いんだけどさ…」

 

…シノさんはえらく不機嫌だ。カタパルトルームの空気がイヤに冷たい。さっさと客席に行きたい…

 

 

 

「さて皆、『怒り』ってのは強烈なパワーだ、発破みたいに…でもさ、コンスタントにパワーを発揮したいなら『闘志』ってやつが重要だ。コイツは怒りと似ているようでかなり違うのさ」

 

黒豹女はアリーナを睥睨し、真剣な表情の3人にニヤリと笑いながら3人の後ろに回りこむように歩きつつ言葉を続けていく。

 

「イラついたろ?3人とも…ああいう風に怒りを爆発させちまうと、予想外の事態に慌てふためいちまうのさ…なあ、『コレは当たった』って思った局面が3人とも有ったよな…かわされてビビったろ?そしてあえなくご臨終…」

 

そう宣うと一夏の後ろでピタリと止まり…一夏にスリーパーホールドをかけた。

 

「な…何してるんですか!?」

「…無粋なことは言わないで。あたしみたいな女だってさ、誰かに縋り付きたくなる事は有るのよ…君の背中、少しだけ貸して…」

 

 

…訂正、後ろから優しくハグしていた…シノさんや山田先生ほどじゃないが、黒豹女も『ある』…しかもそれが功を奏しヘソまで背中に密着している…そして俺はシノさんから正面からハグ…

 

 

「茨どういうことだ説明しろアレかこうなることを解った上でアドバイスをしなかったのか貴様毛唐に魂まで売ったのか」

 

…訂正、襟首をつかまれ頭をガクガク揺さぶらされていた。怒りは凄い力だよ黒豹女、ちょっと待てシノさん先生の指南だって忘れたのか!?もし子供が出来たらそんなことするなよ、致命的な致命傷だぞ!?不穏当な単語が聞こえたのは気のせい?ていうか織斑先生何か言ってくださいよ!

 

 

『落ち着け篠ノ之。私の指示だというのを忘れたのか?』

 

 

…有難うございます先生、『ボサツ・ハンド』のごとくブレインが揺さぶらされて…

 

 

「…隙ありぃ!」

 

…ああ、やっぱり仕掛けてきやがった黒豹女。隙だらけの一夏をエアプレーンスピン…

 

「ち…ちょっと止めてくださいよコーリングさん!」

「イェーイ織斑君ハッズカシー!…恥の上塗りしたくなかったら黙ってなよ、お二人さん」

「「!?」」

 

…いや、お姫様抱っこしていた。噛み付きに行きたいのに我慢できるなんて凄いよ鈴にオルコットさん。血の涙でも流しそうな表情はいただけないけどさ!そして熱っぽい表情で黒豹女を見つめるとか俺は嬉しいぞ一夏。アドレスとかメアドとか教えるぞ!『兄弟』になるかもってのはちょっと想像できなかったけどさ!

 

『さっさとエントリーしろ黒い悪魔を屠れここで起きたことは全て無かったことにしてやるアメリカではアンブッシュは1度だけ許されるはずだ』

「戦場ではシツレイなど有って無いような物だお前先生の命令を守れないのかだったらこんな首に意味は無いよな正面から破壊してやろうか」

 

…ああその前に死ぬな俺。『友人の幼馴染の手にかけられる』、なんて心が凍るシチュなんでしょう。ていうか窒息じゃなくてへし折りに来てるし。織斑先生、殺人教唆罪ってご存知です?IS学園は全ての法の管轄外って言っても道徳とか不文律はあると思うんですよ、俺。ていうかアメリカじゃなくてネオサイタマですよ、ソレ。

 

 

「お、掴みかかってくるかと思ってたら意外と我慢利くじゃないのよお二人さん。そんな良い子にはプレゼントだぜ!…じゃあ、最後の対戦に備えて本気モードに換装してくる、最後の試合は30分後だ!ルールは『モンドグロッソ』準拠だぜ!飯なりトイレなり各自済ませときなよ!それまでモニターにゃああたしとブリュンヒルデとの『睦みあい』を垂れ流しにしておくぜ!」

 

『「「「えっ!?」」」』

「のぁあああ!?」

 

「ああ…あったかい…素敵ですわ一夏さん…」

「このアングルの一夏…良いわね…」

 

一夏を放り投げやがったよ黒豹女。ダブルお姫様抱っこか、喜びとは分かち合うものだよな鈴にオルコットさん。ついさっきまでのエンマ顔は何処行ったんだろう?ああそっか俺の目の前のシノさんに飛んで行ったんだね。

 

 

「なぁシノさん…俺の首を絞めている間にも一夏は玩ばれているぞ、シノさんそれで良いのか…?あと、お願いだから離して…マジで折れる…」

『残念だったな篠ノ之…猿取にばかりかかずらっているからだ。あの悪魔の毒を私は祓って来る。猿取、反対側のピットに最後の対戦相手が居る。勇気付けて来い』

「わ、私も一夏の所に行きます!後は任せたぞ茨!」

 

…ああ、行った。罪作りな男だよな一夏、痴情の縺れで危うく恋愛感情一切無い一人の男をあの世送りにするところだったぞ、ホント責任者出てきてくれ!

 

 

 

…誰なんだ?最後の対戦相手って…

 

 

「モジュール構造で容易とはいえ、格闘戦用のフレーム換装とかサービス満点れすねえイーリ。やっぱり猿取君にメロメロ…イダダダ耳引っ張らないでくだしあ!」

「どうだっていいだろそんなもん!…ま、オメーラにゃあ感謝してるぜ。終わったらメシでもどうだ?」

「やったー!ラーメン・ヌードルのいいスタンドがあるのれす!」

「回らないスシだといっているサル!」

「はぁ!?シモフリ・ステーキだろJK!」

 

IS学園整備科修理施設内、AOA専用ブース。『ファング・クエイク』の整備作業に従事するAOAスタッフ達。学生たちの前とは明らかに違う、感情に満ちたAOAスタッフたちの様子と、自身のとは違う整備状態のIS…『打鉄弐式』をチラリと見ると苦笑いを浮かべ、ピクシーの頭を撫でながら言葉を続ける。

 

「オメーラもお人よしだな…ジイ様はげんなりしてたぜ。倉持はカンカンだろうから、テストパイロットと日本暫定代表様にも一席設けたってのに…ちゃんと寝てるかピクシー?」

「一応は寝ているのれす…そろそろ本社と支社から『AH』『プライムバル』の設計図が来るのれす!本番はそこかられす!」

「ああ…その件だけど『順調に遅れてる』ってさ、ベガスもデトロイトも」

「「「「安らぎの時間なんてないじゃないですか!?やだー!!」」」

「そう言うなよ。楽しみとランチボックスのクラッカーは後回しにするほうが良いもんだぜ?」

 

七転八倒するスタッフ達をニヤニヤ眺めていたイーリスだったが、表情を引き締めるとぼそりと呟いた。

 

 

「ああ、『シンセサイザー』は外しておいてくれ…『センセー』は本物だ、本気になりたい。うっかり使ったらマックに嫌われる」

 

 

 

 

世界最強たるブリュンヒルデ…織斑先生が学園でも最強だってのは論を待たないだろう。じゃあ学園で2番目に強い人は?黒豹女はそれを『彼女』だと見定め、織斑先生に対戦を希望した。

 

「…何をしに来たんです?猿取君」

 

『彼女』は一夏の『穴埋め』中に織斑先生の指示を受け準備をしていた。黒豹女は想い人を付け狙う相手なのだ、『彼女』なら一も二も無くエントリーしそうなものなんだが…そう単純でもないようなのだ、女心は。

 

 

「…織斑先生から『勇気付けて来い』って言われました…先生だとは思いませんでしたけど」

 

シノさんと居たほうとは逆のピット、『ラファール・リヴァイブ』は整備を終え、纏われるのを今か今かと待ちわびている。『彼女』…山田先生はISスーツ姿のまま暗く沈みこみ、愁いを帯びた瞳のまま俺と相対しているが。

 

「…滑稽ですよね、あの人に…コーリングさんに嫉妬した癖に、いざその機会が得られたら怖いんです…私は、現役の時も先輩の補欠でしかなかったのに…買いかぶりすぎですよ、センパイ…」

「先生も怖いんだ、安心したよ…俺もさ、IS纏うたびに怖いんだ」

 

ああ、整備担当の皆が客席に行ってて本当に良かった。先生の沈んだ顔を吹き飛ばせただけでもラッキーだな…驚きに満ちた先生の顔を見据えつつ、俺は言葉を続けていく。

 

「…『アンカー・スチーム』を纏って武器を持つたびに怖くなるんだ。『俺はおかしくなっちゃうんじゃないか』とか考えて、怖くて怖くてたまらないんだ」

「じゃあどうして、あんなに戦えたんです!戦えるんです!?」

 

 

…こんな先生は初めてだった。ほんとに怖い…でも言わなきゃいけない。

 

 

「…クラス代表決定戦の時は、ただ『勝ちたい』ってだけだった。それでも怖かった…『木偶』…『ゴーレム』の時もそうだった。でもさ、『パシフィスト』が目覚めた時はさ、放送室に居る皆を守らなきゃって思ったら怖くもなんとも無くなった…良くないかもね、こういうのは」

 

 

「先生は、先生とは…怖くありませんでした?」

今日の先生はまるで百面相だな。おっかない顔から急に沈み込んだ…でも、事実は事実としていわなきゃな。

 

 

 

「…怖かった。織斑先生のオペレートはあったけど、それでも怖かった。でも、それ以上に何とかしなきゃって思った。俺があんな酷い事しなかったら、こんなことは無かったって思ったら、怖いのなんて忘れられた…ねぇ、先生…」

 

「ありがとう、やっぱり猿取君は見かけによりませんね…っと、あれ?あれ!?」

 

先生はいつもの笑顔を浮かべると『ラファール・リヴァイブ』を纏おうとし…立ち上がったまま最後の人間は降りたのだろう、飛び跳ねてはいるのだがどうしても上手く纏えない…おお、いつもながら凄い揺れだ。鈴が見たら血の涙を流しかねないな。

 

「先生怪我するって。俺に任せてよ…『Battle Born』…はいどうだ!」

 

「もう…かっこよく決めたかったのに…まあ、かっこよく撃破してセンパイに褒めてもらいますね、猿取君!」

 

 

「…はい。頑張ってください!」

 

ああ、この笑顔だよ。俺に抱えられながら山田先生は『ラファール・リヴァイブ』を纏い、カタパルトへと向かっていった…だよな、もう30分は経っている。ここのモニターで試合を見守ろう。

 

 

聞けなかったな…でも聞かないままのほうがよかったのかもな。

 

 

 

          あの日俺たちの部屋に、先生が来た理由。

 




ちきんれーす

「大丈夫か一夏!?」
「あ、ああ…ごめんな箒、みっともない試合して…強いってのはああいうのを言うんだろうな…」

自動販売機のブースから観客席に向かう一夏はどこか熱に浮かされたようにぼおっとしていた…あの雌狐の毒は想像以上に侵食している、早く何とかしないと!

「口三味線に惑わされ、激昂し、挙句一撃も入れられないとは情けないぞ織斑…まあ、最後の一撃には光るものはあったぞ。アイツにも付け入る隙はある。最後の試合、きちんと観戦しておけ…それと、『たかが』後ろから抱きしめられたくらいで狼狽するな。アレ位の心理戦、ヒヨッコでも仕掛けてくるぞ…」
「ちょ…離してよ千冬姉…」


「!?」

放送室から出てきた織斑先生はそう厳かに宣告すると、そっと後ろから抱きしめた…良いのか一夏!実の姉だぞ!?

(負けるわけには行かないんだ…!)

「…織斑先生の言うとおりだ、一夏。『たかが』抱きしめられたくらいで狼狽するな。こうやって慣れておけ…」

織斑先生の刺すような視線も、一夏の体温がさえあれば耐えられる。本当、この汗臭さも愛おしい…

「そうですわね一夏さん。『同年代』の体に慣れれば、あんな失態はしませんわ…ああ、あったかい…」
「そうよ。あんな『年増』なんて意識しちゃダメ!…ちゃんとシャワー入りなさいよ…今は良いけど…」

…セシリアに鈴、命知らずだぞ。先生はコーリング女史より3…いや4歳は年上のはずだ。

「あ!?皆ずるい!あたしもハグする!」「わたしも!」「おりむー、あったかーい」
「ちょ…くるし…は、離してくれよみんな…」

そうだな、さっさと離せ皆。そうしたら私も離す。



「…で、体温で皆さん茹で上がったというわけれ、ですか」
「まったく、負けられない戦いってのも大変だぁね…じゃ、先にアリーナに行ってるぜピクシー!色ボケどもには水でもぶっかけときな」
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