「博士、一つ質問があります」
「おかーさんって呼んでいいんだよくーちゃん!…で、何?」
「ゴーレムを下したIS操縦者のうちのもう一人の男性のことです…どうして彼はISを動かせたんでしょう?」
「…ああ、アレね。単なるにぎやかし。いっくんに同性の話し相手が必要だから使えるようにした。箒ちゃんがもっともっといっくんに親しくなれたらこの世から居なくなってもらう、それだけのモブ。いっくんがハンバーグならアレはインゲンのグラッセ、いっくんがイナリ寿司ならアレは紅ショウガ…『赤椿』も基礎フレーム完成したし、あんなつまんないののことなんか忘れてオヤツにしよオヤツ!今日はストレンジ・ミートパイだよ!」
「はい、お母さん」
「ちーちゃん…全部ちーちゃんのせいなんだよ、アイツのこと。私は鍵は開けられても、閉じることは出来ないんだ。だからいつか壊すんだ、先生のオモチャを」
「いやぁ…予報はハズレの涙雨、今日は赤字覚悟だったんでダンナ達は救いの神様仏様でさぁ!…お嬢ちゃん、その…親御さんには許可取ったのかい、こんな遅くに?」
大挙して訪れた団体客…金髪碧眼の女性や神経質そうな白人の青年、屈強な黒人の男など人種も年齢も様々だが、一様に白衣…に眼を白黒させながら捌いていった屋台のラーメン屋『無頼』の店主は団体客の最後の席の最年少であろう、ウルフカットのインド系少女に心配そうに声をかける…が、どうやらそれは彼女の癇に触れてしまったようだ。脇で心配そうに頭を撫でている黒人女性の手を払いのけながら彼女は涙交じりの怨嗟の呻きを上げる。
「…医者の不養生なのれす…自分の心だけはどうにもならないのれす…イーリがここに来なくて正解れす…きっとゼッコーしてたのれす…」
「ゴメンねマスターこの子ハタチなのよ、今日はちょっとナイーブでさ…『日本の男は皆ロリコン』という名セリフを知らないのピクシー?」
「じゃあどうなんれすか!?イーリも先生も年上じゃないれすか!?…ああ…3月のうちにツバつけとくべきだったれす…今からでも搦め手から攻めるべきなのれす…」
「ど、どうにも尋常じゃないねぇ…お嬢、吐き出すだけ吐き出したらどうだい?」
△
「年下に片想いねぇ、しかもライバルはお嬢の友人とヤローの担任と来たか。しかし二股たぁ罪なヤツだ…で、どっちがヤローの本命なんだ?」
身分証の年齢の欄を見てようやく納得したのだろう店主が置いたキリキリに冷えたビールを舐めるように飲んでいた少女…ピクシーははっと気付き声を上げる。
「!?そ…そうなのれす!彼はカンケーを強いられていたのれす!ドレーなのれす!リンカーンのごとくシビルウォーなのれす!希望の未来へレッツゴーなのれす!」
「でもそれって男の夢ってヤツじゃないですかね…オウフ!顔は!顔はやめて!」
「無いわー…少女の微かな希望打ち砕くとか無いわー…」
「そうだぞピクシー!夢は筋肉を裏切らない!!筋肉は夢を裏切らない!しなる僧帽・腹直筋!うなる上腕二等筋!はねる大腿四等筋!マッシブな肉体こそがお前を夢見た場所へと誘う!」
「マッチョは願い下げだといっているサル!」
スラップスティックのごとき喧騒を作り出した客たちに小さなタメイキを吐き、ラーメンをいの一番にピクシーの前に置きながら無頼の店主は何とはなしに言葉をかける。
「まぁ焦りなさんなお嬢。聞きゃあヤローはかなりジョセーカンケーでストレス溜め込んでるみたいじゃねえか。そこを優しく支えておやりよ…控えめな女ってなぁ男の琴線に触れるぜ?」
「そ…そうれす!まだまだ勝負は始まったばかりなのれす!例えどれだけリードされようが9回裏まではベースボールでは勝ちは分からないれす!」
曇り顔から一転、喜色満面でラーメンを啜り始めるピクシーの表情に安堵のため息を漏らすと、『無頼』の店主は残りのラーメンを仕上げながら一人ごちた。
「2人の女にねだられるたぁ男冥利に尽きるってモンだが…誰なのかねぇそんな贅沢な男ってなぁ…ダンナ、おまちどう様でさ!」
◆
真っ赤な空に大きな月…何処の河原だろここ?あ、山田先生と黒豹女だ。
「マックー」
「猿取くーん」
「どうしました二人ともー?」
「「認知してー」」
大きく膨れたおなかの二人。もう臨月ですか?どっちに籍を入れればいいんでしょう?モルモン教徒にでもなるべきです?ああその前に殺されますね俺、多分弾辺りに。
「ぁああああ!!」
眼に入ってきたのは瀟洒なシャンデリアからの薄明かり、品のいい色使いの天井。体を包むのはシルクやビロード、高そうな木で作られたベッド…そして落ち着いた色使いで派手じゃないがガキの俺でも一目で分かる品のいい調度品の数々、そして全てにデザインされているのは羽を広げた孔雀だった…しかしながら寝言で起きるとか我ながらビックリしたよ。
「何つー夢よ…今0時か…先生も黒豹女もバーでしこたま飲んでるのかな…」
…今回の『穴埋め』はIS学園上層部にとっては、まさにふって湧いた幸運であった。新入生たちに実戦の空気、そして実際に教鞭を揮う山田先生の底力…国家代表とも互角に渡り合える…を、整備科の先輩たちには修羅場を、パイロット養成科の先輩たちには戦慄を知らしめさせた。…わが市が誇る最高級ホテル『ホテル・ピーコックパーチ』のインペリアルスイートを急遽3人分借り上げ、随行として俺と山田先生を付き添わせるくらい安いものだったんだろう…ここって昔は『ホテル孔雀殿』って言うラブホテルだったんだけど、IS学園が出来た時に外資が買収して国賓でももてなせるレベルに作り変えたんだ。俺や弾や蘭ちゃんは『ピーチクパーチク』なんて笑ってたんだよな。
…アリーナで、気絶するまで、その、いたして、目が覚めたらリムジンの中だった…俺は1階のストアで買ったサンドイッチを胃袋に詰め込むと『疲れてるから寝る』の一言で眠りについた…それが10時だった。2人は2階のバーで軽く引っ掛けてくる、なんて言っていたがどうやらヘベレケになるまできこしめしてくる気だろう。俺はいつものように左手親指に填めたスマイリーフェイスの指輪を撫でながらポツリと呟いていた。
「この世にまだ二人しか見つかっていないISを纏える男の片割れなのは、何で俺なんだろうな…教えてくれよ相棒」
…にしても、ウィスキーが大好きな山田先生はともかく黒豹女は大丈夫なんだろうか?黒豹女はメスティーソ…メキシコ系と白人の混血なんだが、その割にはあんまり酒は強くない。俺の錬成講習最終日の打ち上げパーティーでウィスキーのビール割りのカクテル…ボイラー・メーカーだったか…とビールをナタルさんにすり替えられて思いっきり顔真っ赤にしてたんだ。ナタルさんは丸っきりのザルでふらつきながら詰め寄る黒豹女いなしながらカルヴァドスをストレートでがぶ飲みしてたっけ。
△
「センセもノンベだねー、ロングアイランド・アイスティーにアレキサンダー、青い珊瑚礁にイエロー・パロットにスティンガー・ロイヤル…レディ・キラーあんなにガブガブいくなんてさ。さっさと部屋にかえろーぜ?」
「そ、そんな事いっひゃらコーリングひゃんだってオリンピアにサマー・デライト、シャーリー・テンプルにフローズン・ヴァージン・ピニャ・コラーダ…あえ?天地がグラグラひゅる…一つ質問いいでひゅか?…どうして…辞めちゃったんれひゅか…アメリカ代表…」
顔を真っ赤にし、腰が抜けそうになっている山田真耶に肩を貸しながらエレベーターから降りるイーリス・コーリングは笑みを浮かべ、言葉を続ける。
「ああ…肌の色が気に食わなかったんだよ、AOA以外の旦那衆は。第2回『モンドグロッソ』の結果がどうであれ肩たたきされる予定だったんだ…ホントはナタルが後を継ぐはずだったんだけど、あいつそのやり口にキレちまって移民の話を蹴ってイスラエルに戻っちまった。流石に横槍は入れられなかったのさ、エルサレムふっ飛ばしちまったイスラエルには…後釜は皆イイコたちばっかりだぜ?ただ、余りにも唐突で実力を発揮できなかった、ってのがあたしの見立て。ぜいいんキチンと州代表務めてるぜ?マーシーはニューヨーク代表だしな!なあセンセ、あたしからも質問。マック…茨を…どうして抱いたんだ?」
「マックは遺伝子サンプル採取のためにあたしが誘った、なんて思ってるみたいだけどさ。AOAは自由恋愛は推奨しても営利のために無理強いはしない。ツマんだことのないタイプだからちょいとツマミ食いした…年下もジャパニーズもお初なモンでね。ジイ様は『ISの操縦能力は遺伝しない』って見立てだったしさ」
「わ…わらひは…その…」
アルコール以外の理由から顔をさらに赤くする真耶に苦笑すると、部屋の鍵をポケットから探りながらイーリスは言葉を続けていく。
「ごめんよ、理由なんてどうでもいいよな…ここのホテルと同じ。あたしはアイツの巣になるつもりは無い。『パーチ』(止まり木)であれば、それでいい…もっとも、アイツはピーコック(孔雀)ってガラじゃあないけどさ…マック!山田センセのお帰りだ!あたしはもう一杯だけ引っ掛けにいく!」
Ω
「かなりいただいてきたね、大丈夫山田先生?…ねぇ、山田先生」
「大丈夫れす…どうひました?猿取君」
お待たせ。初めてだね、アンタと酒を酌み交わすのは。個室じゃあ面白みもヘチマも無いが、ひっそり飲むのもいいかもな。
…貴様は3年前は未成年だったろうが。アレか?隠れて飲んでいたのか?時効などとは言わせんぞ。
「俺はさ、先生にめぐり合えた運命に感謝してる。先生は素敵だよ?今日の戦いだけじゃない、先生として、女性として…俺は好きだよ」
「猿取君…わらひは…わらひは…」
隠れて飲む酒なんざ旨くもなんとも無いよ。あたしは博打だってこないだまで打たなかった。酒だってそうさ!表通りを胸張って歩けなきゃ意味なんて無いさ。
…ほざけ、山田先生ばかり酔わせて自分はジュースをかっくらうとはいい根性だ。なぜ…私ではなく山田先生を指名した?
「いいんだよ先生。織斑先生に恋してる山田先生も好き。だからさ…絶対織斑先生と山田先生を添い遂げさせてあげる。それに、シノさんやオルコットさんや鈴達だって幸せになるべきだ…俺と同じくらいには」
「猿取君は…幸せにはならないんでひゅか?」
山田センセは自家中毒を起こしかけてた、3年前のあたしと同じように…今にしてみればみっともなかったわ、あたし。
『ブリュンヒルデを倒せば幸せになれる』…虎の穴にほおりこまれて、2年間悪鬼羅刹に鍛えられ続けて、ようやっと勝てたと思ったら悪鬼羅刹は退職願出してオサラバと来た!そのすぐ後さ、第1回『モンドグロッソ』決勝戦のアンタを見て、教官以上だって信じて、何とかして倒そう、って誓ったのは…14のガキがだぜ!お笑いだよなホント!ていうか織斑センセ指名してもイヤだ、って言うだろ!?
…そうだな、何せ『暮桜』は凍結中だ…コレで山田先生も自信が付けばいいが…まだ3本目のビールだろう。本当に酒に弱いな…
「俺は幸せだよ、先生にめぐり合えたから…明日も早いから、もう寝るよ」
「…お願いがあります、猿取君」
あたしは明日には西に行く。これにてお暇するけど…最後に質問イイか?
…答えられるものならな。
「…何?出来ることならするけど…」
「私を…抱いてください。『される』じゃなく、『して』ください」
アンタ、3年間に何があった?3年前のアンタは幸せそうだった。あたしの生き方がおかしかった、間違ってたって気付くくらいには…今のアンタは幸せには見えないんだ、あたしには。
…今の私も幸せだ。
「じゃあ俺からもお願い。キスしていいですか?先生から『された』ことばっかりだったから」
「いいですよ…んっ…キス上手ですね…」
そう、じゃあお先…あたしはキチンとケリをつけられた、だけどさ…他のメンツは、アンタ以外の『BIG4』は、まだまだ割り切れない思いを抱えてるぜ…
…お前のように殴りこんでくるほど、あいつ等はガキじゃない。
ガキだよ、ガキじゃなかったらISなんて纏えるモンか!
◆
ねぇ…どうして俺ヴァージンロード歩いてるの?何で両脇にウェディングドレス姿の黒豹女と山田先生がいるの?二人とも滅茶苦茶綺麗だけどさ!
「法的には問題ねーよ、山田先生とお前が日本で籍を入れてあたしと山田先生がパートナーになるだけだし」
「やっぱりフリーセックスの国は一味違いますね!」
いやそんな事ないし!アメリカは性に厳格だよ!昔は同性愛者は思いっきり差別されてたよ!スポーツ選手とか軍人とかは結婚しないほうが奇人変人だよ!ていうか何でヴァージンロードにゴザ敷いてるの!?
「そりゃオメー汚れるからだろう?」
おかしいって!?ほら、神父さんガスマスクつけてるし!?ていうか来賓も皆ガスマスク着用してるし!?なんで手錠つけてるの俺!?しかも両手に!
「逃げられたら困りますし…ねぇ?大丈夫、鍵はキチンとありますよ」
アレですか!?お互いがお互いの鍵持ってるんですか!?ていうか、何でブーケの代わりにサボテンの鉢植えなんですか!?渡す気0ですか!?『流れ往く雲の燃え落ちても』ってやつですかぁぁぁ!?
「お早うマック。今日は青空だぜ…っん…昨日は夜中までお盛んなこと…『自分から』するだなんて眼を見張るぶりの成長ぶり…あたしはいつもはミッショナリーばっかりだったけど、リリス流もいいもんだな…っつぅ!」
「…左様でございますか…っうぅ…」
…何だろ、夢より現実のほうがえげつないって言うのは喜ぶべきなんだろうか、悲しむべきなんだろうか。往復ビンタが目覚まし時計代わりなんてどうなのさ。
「イーリさん、お風呂準備できましたよー…お疲れ様です、猿取君」
「っしゃ!一風呂浴びますか…マック!オメーも入るぞ!」
「はい…」
…仲が良くなりましたね2りとも。『姉妹』だって分かったからですか?目覚めたら『真っ最中』だなんて世の野郎共は血の涙流しそうなシチュでしょうけど、俺はどんどん心が擦り切れていく気分だよ。山田先生と…その…したのは、凄く心が躍ったんだけどさ…
■
「ルームサービスです…相変わらずのカサノバぶりですね猿取君。卒業したらそういう職業にでも就かれます?」
「ヤダよそんなの…ていうかなんでピクシーさん来てるのよ…」
いつもの白衣姿ではない、ホテルスタッフのユニフォームを着込んだピクシーは相変わらずの無表情ぶりでテキパキと食器を並べ、俺や山田先生と一緒に朝食を準備していく。黒豹女は床にアグラを書きながら、バカでかいサラダボール一杯のトマトに夢中のようだ。
…お願いだから服ぐらい着てくれよ…
「ピクシー、アレ出来たか?…あと、一杯いただろブン屋…おし、完食!」
「もちろん完成しました…少なくともIS学園教師や未成年の学生が一緒に外に出て行ったら宜しくない程度には居りましたよ」
「だからこそ、コイツが重要になるって訳だ…メシ食ったらオサラバだな。山田センセ、お元気で…安心しなよ、あと1年間は織斑センセのところにゃオメモジしない…んぁ…」
「…信じていいんですね…んぅ…猿取君がキス上手な理由、分かりました…んんっ…」
…ステディが出来て良かったですねお互いに。お風呂場でも昨日の控え室でもチュッチュしてましたもんね。憎さ余ってかわいさ百倍ですか?『心の棚』ってヤツが溢れないことを切に願います…待てよ!?今度は俺がリストに乗るんですか!?俺は被害者だよ!恋愛感情とか無いよ!?俺の心の中には山田先生しかいないよ!?
「猿取君の恋愛って底なし沼系なんですね…いやらしい…」
何だよその表情はピクシー!?もっとこうプラトニックっていうか胸があったかくなるような恋愛がしたいんだよ!地雷原でケンケンパするようなのは願い下げだよ!こんな非日常望んでないよ!
かくして雨雲は西の空に去りぬ 青空にただ虹を残して
●
「勝負あり、だな…一夏、随分と剣術については鍛錬を怠っていたようだな」
「参りました…中学校卒業したら働こう、そう思ってバイトばっかりしてたからな…剣道は中3の頃は少しだけ再開したけど、受験勉強でそれも中断してた。やっぱり中学全国大会優勝は伊達じゃないな、箒!」
木刀での寸止め稽古を終え、屈託無く笑う一夏…ああ、この笑顔、独り占めにしたい…
「さっさと食事に行きましょ、一夏!着替えたらギリギリよ!…まあ、袴姿の一夏もイイけど…」
「織斑先生がいたら『グラウンド10週だ!』って言われかねませんわ…汗が似合いますわね、一夏さん…」
グラウンドを走ってきたセシリアと鈴…そう妬くな。篠ノ之流を教えられるのは織斑先生を除けばIS学園では私だけなんだ。
「っし、じゃあメシだメシ!…茨からメールがあってさ、『コーリングさんの見送りをしたら戻る』って」
そう言いながら一夏は青空を眺めながら言葉を続ける。
「やっと分かったよ、コーリングさんが自分のこと『雨雲』って呼ぶ理由」
△
「毎朝新聞です!今回の訪日はやはりブリュンヒルデへのリベンジからでしょうか!?」
「週間リゾートです!やはりブリュンヒルデへの慕情は絶ち難いんですか!?」
ホテル『ピーコック・パーチ』ロビー。雲霞のごとく待ち構えていたマスコミを流しながらデニムに身を固めたイーリス・コーリングは用意されたリムジンへと向かっていく。
「インフィニット・ストライプスです…そのデニムのジャケットに印刷された写真は…事実ですか!?」
「そうだよ。コテンパンにのされてきた。それだけじゃない!IS学園は多士済々、まさに後生恐るべしだな!」
デニムのジャケットに印刷された愛の証…仁王立ちするブリュンヒルデと土下座する自分の写真。それを思い出し、苦笑いしながらイーリスは青空を見上げていた。
「…ホント、雨雲だわあたし」
■
「行っちゃいましたね」
「行きましたね」
「…行きましたね」
俺たち3人はマスコミに追われながら去っていく黒豹女をインペリアルスイートから眺めていた。
「もう少ししたら下を見に行ってきます。流石に金棒引きはもういないでしょうが…見つかれば事です」
そうのたまうと、ピクシーはどうってこと無い感じで言葉を続けていく。
「…苦しいなら、嫌ならキチンと言ったほうがいいですよ猿取君。耐え忍んでもいいことなんてありませんよ」
「そんなことないよ!…ただ、余りにも唐突過ぎて俺が飲み込めてないだけ。」
誰に言うわけでもない、自分に言い聞かせるように一人呟くと、俺は窓から空を眺めていた。
「山田先生、やっと分かったよ。イーリさんが『雨雲』って自分を呼ぶ理由」
「イーリスとは虹の女神、コーリングとは呼ぶ、という意味ですものね」
雲ひとつ無い青空、そして大きな虹だけがそこにあった。