「ほんと、ココの図書館は古今東西硬軟取り混ぜてあってイイね。谷川さんの翻訳した『ピーナッツ』『ガイア・ギア』『飛ぶがごとく』『ガリア戦記』…電子書籍が多いのが味気ないけどさ」
「いばらんは本はやっぱり紙で読みたい?」
「だねぇ…紙のほうがお手軽でイイや」
月曜日の放課後、学園の図書館で遭遇した俺とのほほんさんは専用のタブレットにダウンロードした書籍を読みながらそんな会話を続けていた…今日は『GW前の入部勧誘』で各部の先輩たちがやってきたので今日は自主トレはなし、その代わりにこうやって読書を楽しみに来たというわけだ。しかしながらタブレットで読む本というのは味気ない。無論普通の本もあるにはあるが圧倒的に多いのだ、データのほうが。
「ジーちゃんは風呂に入りながら本読んでたなぁ…『長風呂には本が最高だ』ってさ」
しわしわになってたな、色んな本…まぁどれも古本屋の100円コーナーのだったから懐は痛くは無いんだろうけどさ。
「奇遇ね、猿取君…猿取君は、どんな本が好き?」
そう言いながらのほほんさんの隣に座った簪さんの質問にほんの少しだけ黙考すると、俺は言葉を返す。
「一番好きだったマンガは『高校の写真部を舞台にしたSFコメディ』一番好きだった小説は『ハードボイルド三国志』かなぁ…お父さんの本棚にあったヤツだから古いけどさ、どっちも」
「そーだ、いばらんはアニメとかヒーロードラマも見てた?」
「見てたよ。ただ…ジーちゃんとバーちゃんが夕飯の後に見てた思いっきり古いアニメの鑑賞会にも付き合ってたから大昔のやつの方が好きかなぁ。ドラとかポケモンとかコナンとか戦隊は小学校で卒業した…ライダーは最近まで見てたけど」
因みにジーちゃんのお好みは『労働用に作られた乗用ロボット犯罪に立ち向かう、うだつの上がらない公務員たちの日常モノ』(アレってアニメと漫画じゃかなり展開違うんだね、お父さんの部屋にあったコミック見て課長が最後にああなるって知ってビックリした)バーちゃんは『鎧を纏った5人の少年と悪霊武者との戦闘モノ』(弓の人は第1部じゃ宇宙に追放とか、救出がかなり無理ゲーだったよね、アレ)だったりする。
「どんなのが好き?…その、アニメとか…」
「んー…ジーちゃんたちと見てたアニメだと、一番最初のガンダム。ジオンの人たちがガンダムに爆弾ペタペタくっつけてガンダム壊そうってする話とか好きだった。あとブレンパワード!ヒーロードラマなら『電王』かな」
「『時間よとまれ』ね、ガンダムのその回は…電王は私も好きかな…ブレンパワードは後で見てみる」
「ブレンパワードはかなり人選ぶよー、かんちゃん。オープニングは裸のおねーさんばっかりだし」
くわしいな、のほほんさん…まあ、ガンダムも色々突っ込みどころがあるお話だったけどさ。序盤の要塞で味方側の戦艦が引っかかって航行不能だからって主砲でぶっ壊して進むとかマトモじゃないだろ、とかそもそもあんなに脆いんならさっさと落としておけよあの要塞、って思ったし…あと、エンディングのほうがエロいぞ、ブレンパワードは。
⊿
「…簪ちゃんが熱心に話しかけてるのに素っ気無い素振りとかいい度胸じゃない猿取君!アレなのね!?『釣った魚にはエサはやらない』とかそういう系なのね!?」
「…何をどうしたらそうなるんですか、楯無様。普通にアニメとかのお話をされているだけじゃないですか…私もお屋敷では簪様とああいった話はしますが?」
「家では私にあんなに積極的に話してくれない!そうなのね!私だけハブにされてるのね!?」
「お屋敷では、更識のお仕事ばかりされておりましたから…申し訳ございません、楯無様」
「…気にしなくていいわ、虚。更識当主の仕事だもの…だが簪ちゃんをタラシこもうとするその所業、万死に値するわ!」
「いや、監視カメラの映像ちゃんと見てました?簪様から話しかけてこられてたんですけど…」
◆
「ああ…やはり仮面ライダーは共闘して何ぼじゃのぉ…GO君、早く正気に戻るんじゃ…」
「何言ってるのゴンちゃん!?ライダーバトルこそ白眉じゃないの…その調子よ!闇落ち、敵対、いずれもマッハ!」
「ライダーは助け合いという名セリフを知らんのか、バーちゃん…」
「ま、OOOはあれでアリよ」
Raura:チェンジで
「どういうことだ…説明しろ!何故教官は居られない!?」
「どういうこと…っていわれてもなぁ」
GW初日。ココはわが市の誇る多目的アリーナ…ISの競技用に作られたんだが、5万人は入る位規模が大きいんでライブや各種スポーツ大会なんかも開催されるし、この間所属しているサッカーチームもJ2入りを果たした…織斑先生の『依頼』を果たすべくピットで待機していた俺は、突如来訪したISスーツ姿の少女に詰め寄られていた。後ろに控えているオネーサン、何か言ってくれ。AOAの皆をガン無視しないでくれ。
(ああ…こんな仕事安請合いするんじゃ無かったよ…接待試合なのに、何でムキになるかな…)
■
「織斑、猿取。お前たちはGWはどんな予定を立てている?」
「特にありません、織斑先生」
「…強いて言うならテスト勉強です、織斑先生」
ゴールデンウィーク前の放課後、織斑先生に職員室に呼び出された俺と一夏はドギマギしながら言葉を返していた…正直、赤点だけは避けたいのだ、俺も一夏も。赤点は40点らしいけど赤点スレスレというのも赤っ恥だろう。なるべく高い点を…
「そうか…一つ頼みたい仕事がある。私からではない、学園からの正式な要請だ…少し長くなる、コーヒーでも飲め」
その言葉とほぼ同時、山田先生が四人分のコーヒーをお盆に持ってきてくれた。
「何時もながら美味いな、山田先生の淹れてくれたコーヒーは」
「ありがとうございます、織斑先生」
コーヒーを一口含んだ後送られた織斑先生からの賛辞に、顔を赤らめはにかむ山田先生。
…何故なんだろう。山田先生が喜んでいるのに、その笑顔が見るのがこんなに切ないなんて。
(いつかはこんな日が来るんだ。来なきゃいけないんだ…こんな日が来ることこそが、山田先生が何時も笑顔で居られることこそが、俺の平穏無事の源で…俺の願いだ…そんな日が来たら、恥も外聞も無くワンワン泣くんだろうな、俺…)
■
(『木偶』騒動と黒豹女の『穴埋め』…そのお陰をこうむることが少なかったフランスとドイツ、その2カ国が男子学生との手合わせを希望ねぇ…)
「お前、教官を何処に隠した!?さっさと出さないとためにならないぞ!」
…12くらいだろうか、目の前の子は。サラサラの長い銀髪といい、透き通った白い肌といい、極上の美少女だろう…眼帯が色々と台無しにしてるが、まあ実際にそういうハンデを背負っている子なんだろう…
「ハルフォーフ大尉、貴様も何とか言え!貴様とて教官に会いたがっていただろう!?」
いや、セミショートの黒髪のオネーサン…山田先生と同じくらいの歳だろう、多分…も眼帯をしている辺り、ファッションなんだろう。ずっと片目を隠してるとそっちだけ視力が落ちるし、遠近感も掴めなくなるのに大丈夫なんだろうか…ていうか近い近い!?
(すいません、少佐がご迷惑をおかけして…織斑教官は本日はどちらに?)
…少佐?この子が!?まあ、ピクシーみたいに歳より若く見られるタイプなのかも…それともパフォーマンスで高い階級あげてるのか?それとも位打ちってヤツなのか?だとしたら災難だな、同情する。
(織斑先生はフランスに向かわれて…GW最終日にお帰りになりますけど…)
あからさまにお姉さんの顔色が青ざめた…織斑先生は一夏と山田先生と一緒にフランスに向かったんだ。ちゃんとテスト範囲は先生達から指導されたんだしテキストだって持っていったんだ、勉強お互いに頑張ろうな!
(そ…そんな!『IS学園の男子学生は織斑教官の弟君で、男子学生が少佐の試験官役を務める』と聞いておりましたのに!?)
(俺もIS学園生です…)
なんだよ、『超有名なコメディアンのコンビ』って聞いて『赤と青のツナギの2り』が出てきた時のような顔は!?あの人達かなり稼いでるんだぞ!ラッセンだかレッスンだかの人たちなんかより安定してるんだぞ!
(…その、どうにかして教官を呼び出していただけないでしょうか!?少佐は『教官に成長振りを見ていただく』と張り切っておりまして…)
(今フランス行きの飛行機の中ですよ…)
「そこのお前、私をたばかったのか!?何処だ!?教官は何処にいる!?」
…織斑先生、この子と顔を会わせ辛かったから俺をイケニエにしたんだな。ラウラ・ボーデヴィッヒ…この子が俺の対戦相手だと織斑先生はおっしゃっていたが、果たして今の状態で戦っていただけるかどうか…
「隊長、こちらには教官は来られないです」
「何!?どういうことだ説明しろハルフォーフ大尉!…貴様が何か企んだのか、そこのウドの大木!?」
俺を睨みつけながらラウラ嬢は大尉…お姉さんを恫喝する。が、どうやら何時ものことらしく涼しい顔でお姉さんは続けていく。
「失礼、言葉が足りませんでした。教官は我々の戦いぶりを楽しみにしております…そしてその成長振りを。心の中の教官…隊長の心の中には教官は居られないのですか?教官が居られなければ、隊長は全力は出せないのですか?」
そう呟くと、俺の眼をチラリと見た後遠い目をしながら明後日の方向をお姉さんは見つめる…そうね、分かったよお姉さん。
「織斑先生…そこに居られるのですね。たとえ雲居の果てであろうと俺を見守ってくれている、その思いは感無量です!俺は貴女の前では哀れな子羊にしか過ぎません、どうかこの子羊をお導きください…!」
…うん、自分でもわざとらしいって思う。お姉さん、ちょっと視線がぐらついてたし体もちょっと震えてるぞ。でもその言葉はラウラ嬢にはテキメンだったようだ。
「無論だ!だが…その…教官には成長をその眼で確認してもらおうと…私は…」
涙目になってる…そっか、織斑先生は彼女にとって俺にとっての山田先生みたいな人か…
「ではこうしましょう!隊長はこの中で一番強い、それを証明できれば宜しいんですよね?」
□
『『黒い雨』か…日本人が拒否反応を起こしそうな名前だな』
『むしろ、あんな馬鹿なシステムを混ぜ込むほうがどうかしているわ。模倣はオリジナルを超えることは絶対に出来ない…オリジナルがいかに素晴らしかろうと、模倣は模倣でしかないわ』
「彼には『パシフィスト』を外させておきました…接待試合ということで本人は納得してましたが、私としては納得できないれす」
『ガキにはそれ相応の教育が必要だろう…俺としては、そんなクソッタレなシステムをこしらえるノータリン共こそ長生きできないと踏んでいるがな』
『ようやく僕のほうも目途がついた…機械仕掛けのネズミとはな。GW明けには彼に御目文字するとしよう…そうカリカリするものではないさ、短気は損気だよ…イーリから土産も預かっていることだしな』
■
「…というわけでお姉さんと俺が戦って、その後お姉さんとラウラって子が戦ったんだ。いやぁ強かったよ、2りとも。俺はお姉さんに負けて、ラウラって子がお姉さんに勝った」
『どうせ接待試合なんだし『パシフィスト』外していったら如何です?』なんてピクシーに言われるまま『パシフィスト』は外したまま試合に挑んだが、確かに使ったとしても勝ち目はほぼ無かったろう。手刀にワイヤーブレード、さらにはレールカノン…何より恐ろしかったのは動きを止める念力っぽい技だった。ミサイルを『ラッキー38』から発射しようとした所にお姉さんに動きを止められ、そこにレールカノンを叩き込まれて終了だった。
『災難だったな、茨…こっちは今ホテルについたところ。明日デュノア社のテストパイロットと一戦交えてそのまま帰る…しかし、AOAのテキストってホントわかりやすくていいな!』
「まあ…英語の読み書きはおろかヘタすりゃ喋れない候補生も居たらしいからな、アメリカには…あくまでもテストの傾向と対策だから、そればっかりアテにするな、って言われてるだけどさ…基本は教科書だし。それに災難とかはないぜ。あれだけ強い子が居るってわかっただけでも収穫だったよ」
隊長…ラウラ嬢は終始ぶっきらぼうで俺やAOAスタッフたちなんか眼に入ってはいなかった。お姉さんは秋葉原に行きたがってたから『白壁はやめておけ』とか『女性向けならカタナ・ダンサーだ』とか色々と教えてあげたら感謝された…まあ、正直ハヤリスタリが激しいのがアニメとかゲームなのだ。『続編が駄作だったりシナリオライターが暴走して掲示板が炎上したり監督の嫁がでしゃばったりして鼻も引っ掛けられなくなった作品の何と多いことか』なんてジーちゃんはぼやいてたっけ。
『だな…ファァ…悪ぃ、時差ぼけで眠くてさ』
現在日本は深夜0時、向こうは夕方5時だ…そろそろ眠くなってきたぞ、俺も。明日も明日で色々あるし、そろそろ寝るか、うん。
「じゃあお休み…そうだ、先生たちは?」
『ああ。下のバーで飲んでくるってさ』
明日も早いんだし、深酒は…ああ、向こうは夕方5時なんだ。少し深酒しても大丈夫かな?
『ごめんな。ホントは俺がそっちで立ち会うはずだったんだけど…ドイツとは、正直関わりたくない』
「…分かってる、謝る必要なんか無いさ。ホントは俺もそっちに行きたかったけど、山田先生の慰労や姉弟旅行に水を差すわけにもいけないしな。シノさんも鈴もオルコットさんも無事を祈ってたぜ!ゆっくり休んで明日に備えなよ」
『おう!じゃあお休み!』
Φ
「ご、ご馳走様でした先輩!」
「気にするな。あの性悪相手に学園の矜持を見せ付けたんだ…本来なら理事長以下教師総出で歓待するべきなんだろうが、そういうのは山田先生としてもむず痒いだろ?」
ホテルの廊下の後ろを歩く後輩にして同僚…山田真耶に悪戯っぽく微笑みかけると、織斑千冬は表情を引き締める。振ってくる話が真面目なものだと理解した真耶が真剣な視線を向けたのを感じながら、千冬は言葉を続けていく。
「暫定ではあるが日本代表、倉持のテストパイロットを実質10秒で叩きのめしたイーリス相手にほぼ互角の戦いを繰り広げた、日本IS委員会は山田先生を高く評価している…そして私もな」
自身の真剣な表情に立ちすくむ真耶を見つめ、千冬は言葉を続けていく。
「真耶…正式に日本代表になる気は無いか?君なら世界の大舞台でも活躍できる。なんなら、私がセコンドになってもいい」
「そ、そんな…私は、ただ…センパイのために…」
「『誰かのために戦える』そんな事すら私はおぼつかなくなった…イーリスは『弱かった』と自嘲していたが…私は弱くなってしまった。もはや、自分のためにすら戦えない」
そう呟くと、自虐の笑みを浮かべながら『ブリュンヒルデ』…織斑千冬は忘れることの出来ない思い出を反芻していた。
あの春隣の夜を。
世界最強となり…その前もその後も最悪の選択をし続けた自分を。
そして自分が手放した『叶わぬ願い』を。
むかしばなし、おとぎばなし
「…早く食堂に行きましょう」
「だねー、かんちゃん」
読書も終わり、タブレットを片手に俺達は食堂への道を急いでいた…結局借りたのは『ピーナッツ』だった。
「…猿取君は、どんなおとぎ話が好き?私は『桃太郎』かな」
「かいちょーは『浦島太郎』だったよね、かんちゃん」
おとぎ話か…ま、人魚姫とかみにくいアヒルの子とか200年経ってないお話だっておとぎ話の類になるんだ、100年ちょっとのコイツだって十分おとぎ話だろう。
「オズの魔法使い。バーちゃんがミュージカルが好きだったからたまに見てたし、絵本も読んでもらってた…」
「理由…聞いていい?…勧善懲悪が好きだからかな、私は」
理由、か…ま、色々あったけど、こいつが一番かな。
「3つとか4つの頃はバーちゃんの読み聞かせが真に迫ってたからだったけど…今思うと、案山子の欲しがってた知恵、キコリの欲しがってた優しさ、ライオンの欲しがってた勇気…それは誰かからもらうんじゃなく、全部それぞれの中にあって、誰かと一緒にいたからこそ見出せた、てのが好きだった…でも、結局それだけじゃあ納得いかないんでおがくずとかクッションとか飲み物とか見える形のものをもらって納得するってのもそれっぽくて好きだった」
…俺の『欲しいもの』はもうわかってる、見つかってる。でも、それを手に入れることは『欲しいもの』にとっては不幸せなんだ…ほんと、切ないよな。
「ごめん…変なこと聞いちゃった?」
「気にしないで。プライベートな問題だよ」
「ところで布仏さんはどんなおとぎ話が好き?」
「酒呑童子たいじ!悪いやつをたおすんなら、手段なんて選んじゃダメだよ!あいつらが最初にみやこをおそわなかったらあんなヒドイメにはあわなかったんだよ!かんちゃんもそう思うよね?」
「…あそこまでえげつないのは、ちょっと…」
…ほんとキャラつかめないよな、のほほんさん…