俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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思うがゆえに惑いぬるかな 越ゆる思ひの人知れぬかな

「恨むだろうな、一夏は…あいつに嘘をつくのは嫌なんだ、だが…」
「そんな事は無いと思います、先輩…猿取君がいます。デュノアさんだって分かってくれます。親の心を知らない子なんて…」
「親、か…もう1軒だけ付き合ってくれ。今はただ…酔って全てを忘れたい」


「お疲れ一夏…早かったな。GW残り2日だけど、お前だけ一人帰国ってのもな…先生たちはまだフランスだろ?」
「残り2日は勉強に専念しろって言われたよ…千冬姉と山田先生はデュノア社のお偉いさんと色々調整があるんだってさ」
夕暮れ時の俺たちの部屋。荷解きをする一夏は瞳を輝かせながら言葉を続けていく…お?織斑先生と離れ離れなのに凹んでない、むしろ元気だぞ?やっぱりアレか?ヤキモチ焼きが玉に瑕のクールな幼馴染や喧嘩っ早い腐れ縁系幼馴染や金髪碧眼のデレデレお嬢様に心引かれたのか!?いいぞその調子だぞ一夏!そして頑張ってくださいね山田先生!友情度と恋愛度高めてくださいね!
「俺と試合したテストパイロットなんだけどさ、俺らと同年代で…なんとIS学園に入学するんだってさ!」


…オッカシーナー、いつ南半球に引越ししたっけ?春の次に冬が来るなんて聞いてないぞー?


「どんなマドモアゼルがお相手でしたの?一夏さん…」
「随分と嬉しそうだな、一夏…何処に逃げる気だ茨」
「詳しく聞かせてくれない一夏?…ジュースはさっき買ってたわよねアホ茨」

ああ…『淑女協定』の皆、柔らかな微笑と凍てつく視線のダブルパンチに釘付けだよ!だから皆離してよ!暖房の調子見に行くだけだよ!


『お互い長旅お疲れ様でした一夏さん…お背中一緒に流しませんか?』
『ふぅん…じゃああたしはマッサージしたげるわ』
『…なら私は添い寝をしてやろう、機内ではロクに眠れなかったろうからな』


ついさっきのシベリアントークなんて序の口だったよな!異性に興味持つことはイイコトだよ!産めよ増やせよチルチルミチルって言うしさ…でもさ、空気読もうよ一夏!ボヤにダイナマイト投げ込む真似はしないでくれよ!肩は揉むものであって握りつぶすためでも砕くためのものじゃないかと思うんだよ皆!



「ん?違うよ…男だぜ、俺と戦ったヤツは」

「「「「えっ!?」」」」
「ち…ちょっと待て一夏!マジか!?マジで3りめの男子がいたのか!?」
「ああ。千冬姉もそう言ってた!」

一夏と俺が見つかって以来、男の適合者を探すべく各国は、企業は血眼になって探し続けていたが、芳しい成果は出ていない。「藍越でも適合者がいないかどうか全男子生徒を検査したけど誰も引っかかんなかった」って弾は嘆いてたっけ。

「…そうか、男子か…」
「フランス人ってことは、セシリアは攻撃対象にされそうね、気をつけなさいよ…それとも攻略対象かしら?」
「勿論そんな時は一夏さんが守ってくれますわよね?」
「シャルルって言うんだけどさ、悪いやつじゃなさそうだった…俺より華奢だったし。そうだ、シャルルが転校してくるまでこのことは他言無用で頼むぜ?」


「…ああ、黙っとく」
「む、無論だ!」
「一夏さんの頼みとあらば、八つ裂きにされても口外いたしませんわ!」
「勿論よ。どれだけ混乱するか分かったモンじゃないし」



…でもさ、普通男子の適合者が見つかったらもっと大々的に発表するんじゃないのか?一夏ん時は丸1日ニュースはソレ一色だったし、俺の時は日本じゃ実名すら出さないまんまだったけどアメリカじゃあ国を挙げての大騒ぎだった。野党が『実名すら出さないのは実在しないからでは無いのか?』なんてギャアギャア騒いでたし…大統領の『プライバシーを保護するため彼の個人情報は秘匿している…公表するのであれば彼はアメリカ国籍を放棄すると表明しているが宜しいか?』との一言で沈静化したから良かったけど…返しておくべきだったかな、アメリカ国籍。

「お、そうだ!お土産お土産!フランスで1、2を争う有名チョコなんだってさ、コレ!山田先生が教えてくれたんだ!…一年の皆にもあるんだけど、こっちは日ごろお世話になってる皆にって思ってさ」
「トリュフチョコか…食事前だが頂こうか」
「甘くてとろけそうね…ご馳走様、一夏」
「ポワティエのチョコレートですわね…本当、食に関してはイギリスはフランス、イタリアに遅れを取りますわ…」
ホント、見てるこっちも蕩けそうなくらい緩んでるな、顔。皆がイラついたらキスチョコでも口に放り込むのもいいかもな…返す返すも有難うございます山田先生!ガンバレ山田先生!

「お、コイツは山田先生からだぜ、茨。『勉強頑張ってくださいね』だってさ」
「スマイリーフェイスのコインチョコか…ありがと、山田先生にもお礼言っておかなきゃな」

中身はビターチョコ、か…ホント、ほろ苦いわ…



峠のTatenasiが涙落とした

「どうも、雑用係に配属されました猿取と申します…」

「もっと他にも言いなさいよ。間が持たないじゃない」

 

毎月中旬定例の生徒会役員会、久々の生徒会役員室…鈴の駄目出しに顔を顰めてしまうのは仕方ないだろう?俺だって生徒会なんて入りたくも無かったんだ…

 

「ま、よろしくお願いするっス猿取君…君のオッショさんは相変わらず多忙っスか?」

「はい…まあ、来年にはこちらにお邪魔するって…ただ、予約はもう50名くらい入ってますよ…」

「あんなのの話はしないで!私のスクールライフを台無しにしやがったアイツを…返してよ…私の栄光を返してよ」

2年パイロット養成科コースのクラス代表たるフォルテ先輩の軽口に過剰反応し、俺の襟首を引っつかむとグラグラと揺さぶる生徒会長…抵抗はしたいが下手なことをするとまたあらぬ噂が立ちそうだ。ああ、どうして黛さんは2年整備科コースのクラス代表なんだろう。確か成績最優良者が2年生以降はクラス代表になるって聞いてるけどホントなのか?パシャパシャ写真取りやがって…あと、そんな瞳で睨まないでくれ簪さん。

 

 

…ホント、何であんなモン土産に送りつけたんだ黒豹女は!?

 

 

 

「やあやあお久しぶりだねエブリバディ!今日はアルちゃん『穴埋め』の参加賞を渡しに来たんだ!トレイニーには無いからね、指でもしゃぶって我慢するんだよするんだよ!」

「…まあ、確かに俺には無いわな…」

放課後の視聴覚室、投射型ディスプレイに写された映像。そこには黒豹女と戦うクラスメイトたちの姿があった。イスラエルから帰ってきたゲスジジイは手元の端末を操作しながら得意満面に言葉を続けていく。

「第3者からの視点だけじゃあないんだよ!自分の視点、さらにはイーリからの視点も認識できるんだ!因みに1年生120名、及び山田先生の気分も味わえるというわけさ!サムライ・ガールやメガネ先生のデカ乳を堪能したまえクーニャン!」

「よし分かったとりあえず死ね!」

「フフフ36計逃げるに如かずだよクーニャン!貧乳はステータスだって偉い人も言ってるよクーニャン!」

…おお、あの勢いの鈴を振り切るとか凄いなゲスジジイ。あと、ステータスはステータスでも麻痺とか石化とかと同じカテゴリのステータスじゃないかな、ソレ…まあ、段平…『双天牙月』をぶん回さないだけ自省も進歩もしているんだろう、鈴も。

「うわー、凄いや山田せんせー…ホントに目が回りそーだよおr…かんちゃんー」

画面に釘付けになっていたのほほんさんは眼を回しながら一夏に倒れこもうとし…『淑女協定』の放つ殺気に押されるように簪さんの方向に倒れこんだ。頑張れ、のほほんさん。

 

「さて…篠ノ之さん、イーリから『月謝』代わりの謝礼を預かってまいりました。どうぞ受け取ってください…謝礼と言っておりますが、全学生の分がございます、皆さんに配布して宜しいでしょうか篠ノ之さん?」

「わ、私にですか?勿論皆で分けてください!こんなにもらっても処理に困ります!」

 

ゲスジジイの後ろに控えていたピクシーが指を鳴らすと筋骨隆々の黒人スタッフが手押し台車にぎっしりと詰まれた箱を押してくる。その一つ…ウィスキーの化粧箱サイズ…を開くとさらに小さな箱…タバコのパックサイズの箱がぎっしりと詰まっていた…白一色のパッケージに切り紙のような黒猫のイラストが特徴的だ…ん、イヤに一夏に近づいていないかピクシー?

「イーリをイメージして作りました香水です。アコード(調和)はアイリス、ノート(香調)はフローラルブーケとなっております。織斑君、お昼からこの香水を使用しておりますが如何です?」

「いかがって…いや、いい香りだよ?」

たしかに黒豹女はいい香りがした…だが、どちかというと吐息の香りが凄くいいのだ。豹は吐息で獲物を魅了する、というのもあながち眉唾ではないのかもしれない。山田先生も明らかに吐息で魅了してたしな。それと一夏、『淑女協定』の皆様は…ああ、恐ろしい視線は向けられたものの暴力には訴えないあたり人の眼、というヤツは気にして入るんだろうシノさんもオルコットさんも。

「…ちなみにこの香水は香る時間はだいたい5時間という所でして、朝につけたとしたら12時まで…後はどんどん香りが弱くなって真夜中には塗った場所に鼻を近づけないと強くは香らないようになっております」

そう嘯くと、ピクシーはなんとはなしに言葉を続けていく。

「塗りつける場所は太ももの付け根です…ロマンチックでしょう?因みに品名はヘルキャット(性悪女)です」

 

…いやエロチックじゃねぇの?それに言うほど黒豹女は性悪じゃないぞ…やや贔屓のきらいはあるかもしれないが。

 

「アンタ…死にたいんですってね…恨むなら薄汚いカフェオレ女を恨みなさい」

 

…だからだ、目を血走らせ小刻みに震える彼女に俺は気付けなかった。

「どうしました?かいちょー…かいちょー?」

 

…『汚い』より『小汚い』とか『薄汚い』って言葉のほうがネガティブに聞こえるのは何故なんだろうな…

 

 

 

 

 

「本当にキングサーモン送ってくるとか、無いわ…」

生徒会室に向かおうとしていた更識楯無、教室に居た彼女に送られてきたのは馬鹿でかいキングサーモンの木箱であった。呻く彼女を慰めるかのように、箱の運び手…布仏虚は言葉をかける。

「安心してくださいお嬢様。中身は『ラブクラフト』だそうです」

「はぁ?怪奇小説?」

「『夜も眠れなくなる逸品ぞろい』と申しておりました…お嬢様、因みに…」

「上等じゃない!おねーさんグロにもホラーにも耐性あるんだから!」

 

…さて、更識楯無は様々な肩書きを持つ少女ではあるが…生まれながらに保有する肩書きは『深窓の令嬢』であろう。

妹に近づく悪い虫を成敗しようと裸エプロンの扮装をしようとしたときにはアッチやらコッチやらが見え隠れする自らの姿に狼狽した挙句水着の上にエプロンを羽織り、(いきなり襲いかかられたらどうしよう…)と参考画像を漁り『こんな凶悪な代物が男には生えているの!?』と恐慌状態に陥りかけたのだ。大人びた余裕も威厳も本人の努力で身に着けたものであり、そんな彼女にとっては名状しがたき様々な形状をし、冒涜的な色を浮かべ、血に餓えた獣の唸り声を彷彿とさせる駆動音を放つ…

 

「…教室では開けないほうが身のためです、って言おうと思ったんですけど…手遅れでしたね」

 

箱にギッシリと詰まった『ラブクラフト』(Lovecraft:愛の工作物…ジョークグッズ)は、彼女の理性を、威厳を、そして余裕を吹き飛ばして余りあるものであった。

 

 

「い、イヤァァァァ!!”!”#$%&’++%($($’”!!!!#$#$$$((’&!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

「うぁたしは!!!おまうぇを!!殺す権利があるぅぅぅ!!」

「うぎゃぁぁぁl!!!な、なんですかいきなりぃ!?」

 

 

自分たちの、或いは山田先生の一手指南の映像を互いに見ながら和気藹々としていた一年生たち…それは何処にでもある学園生活であっただろう…いきなり現れた血走った眼の二年生が『九累裂き』と黒々と書かれた扇子を振りかざし、茨を殴るまでは。

 

「な、何で生徒会長が茨に襲い掛かるんだ!?」

「あのお方が生徒会長…東西冷戦が未だ抜けておりませんの?」

「そ…そういえばロシア代表だっけ会長…あのクソジジイ何者よ、追いつけなかった…」

…彼女が生徒会長?それにしては随分と考え無しの狂戦士だ。周りが巻き込まれたらどうしようとかチラリとでも考えなかったのだろうか?…鈴、アレはクソジジイではない、ゲスジジイだ。

 

「死ねぇぇ!!千の仔を孕みし黒山羊の狗ぅ!!!」

「ヤギかイヌかどっちかはっきりさせてぇぇ!ヤメテヤメテ折れる折れるぅぅぅ!?」

 

「それにしても『孕』って字、子供にのしかかってるみたいでいやらしいですよねー」

「ロリコンとかいやらしい…」

 

視聴覚室の窓から外に逃げ出した茨に飛びつくと鮮やかに投げつつ腕を十字に極める…鮮やかだな、生徒会長…だがまるでその有様は血に餓えた野獣だ…本当に何があったんだ?そして黛先輩、何処から出てきた。

 

 

「死ね!死ね!ここから居なくなれ!恥をかかせたこと、死をもって償ってもらうわ!!」

「お願いだから落ち着いテ!…一体何がどうしたんですか、会長!?俺、恨まれる覚えは無いですよ!?お願いだから早く正気に…のぁぁぁ!?」

「う、う、うぁぁぁぁ!!!!!…私は、私は悪くないんだ!皆が私をいじめるんだ!…うぁぁぁ…」

 

茨を投げ捨てると、幼児のように泣きじゃくる生徒会長…恥をかかせた!?…いや、まさか、な…

 

「フフフ…据え膳食わぬは男の恥、随分と高い代償を支払いましたね猿取君!」

「それ…ドコ情報よ…」

 

 

…まあ、暴力女は願い下げだろうな茨も…

 

 

 

 

 

「本音ちゃんは残って。あんたは帰れ」

「はいわかりました」

濁りきった瞳とはいえ腐っても生徒会長、指摘は適切だな…などと納得しながら回れ右しようとした俺の肩を布仏先輩とのほほんさんががっちり掴む…いや、会長の命令ですよ?従わないほうが不味いんじゃないんですか?

「会長、入会予定だった1年生2名が辞退した以上人手は必要になります。ここは…」

「ココアもコーヒーも無いわよ!それもこれも薄汚いカフェオレ女があんなもん送りつけてくるからよ!クラスの皆はドン引きするし!ガチっぽいのは顔真っ赤にして近づいてくるし!…う、う、ぇぁぁぁあああぅぅぅ…」

「えっちいのには耐性なかったんですねー、かいちょー」

「ラテ・マッキャートですか(笑)」

「何笑ってんだ殺すわよ虚」

 

豪奢な机に顔を埋めながら泣きじゃくる生徒会長…まあ、同情はする…でも俺の境遇にも誰か同情してくれませんかねぇ。

 

 

 

『茨…気持ちは分かる、言葉より先に手の出る女なんて男は願い下げだろう?』

『今何処チラ見した』

『そ、そうなのか茨!?』

『大丈夫ですよ織斑君!猿取君の身も心も清いままです、ソースはないけど絶対そう!』

 

 

一昨日…あの後、泣きじゃくる生徒会長と俺を取り囲んだのはクラスメイトと新聞部の皆様だった…からかい半分でジョークグッズなんて代物送りつけられたんだ、逆上しても仕方ないのかもしれない。でもIS纏ってなかったのよ?アリーナじゃないのよ?下手したらケガどころか死んでてたのよ?肩外れてたのよ?…新聞部の皆、何をどうやったら俺と黒豹女と一夏と生徒会長の四角関係なんて発想が出てくるのよ?

 

 

『人手不足でクラス代表に生徒会の業務をお手伝いして欲しいんだってさ…ごめんな、しばらくは自主トレは休まなきゃいけないかも』

『そうね。あたしもお手伝いに行かないとね…でもさ…教室に…その…あんないやらしいモノ持ち込むなんてどんな目にあうか分からないわ…ね、ねえ一夏、あたしに『免疫』つけてくれないかな…』

『…で?何人ぐらい人手は必要ですの?『免疫』なら茨君がつけてくれるそうですわよ』

『…1年生で生徒会入会を辞退したのは2名だそうだ。相川さんが教えてくれた…誰かあと1名、代わりを探してくる…勿論茨は一夏のため、そして我々のために生徒会に入ってくれるよな』

 

…昨日の晩飯ほど味の分からなかったものはなかった。おかしいよな、カレーライスなんてスキー場だろうが海の家だろうがレトルトだろうが美味いマズイはあっても大体似たベクトルの味だってのに。ここのカレーはホント美味しいはずなのに。

 

(にしても布仏さんも災難だね…シノさんから話し振られた?)

(んーん!りっこーほ!かいちょーが困ってるし、かんちゃんも心配してたから)

 

…何だかんだで優しいんだな、のほほんさん…俺はどうだ?自分のことしか考えてない…

 

「では2人とも、まずは保存期間の過ぎた書類のシュレッダー処理をお願いします…大丈夫ですよ、晩御飯の後の自習に間に合う程度の作業ですし、お食事は用意させていただきます」

 

しゃあない、黒豹女には散々面倒見てもらったんだ、コレくらいはしないとな…『何で視聴覚室内でISを展開して挑発しなかったんだいトレイニー!部屋が壊れたら『ジョブ&ホビー』の施設を使って恩を売れたのに売れたのに!』なんてゲスジジイは残念がっていた…AOAが『働きかけ』を行なっているってまたどっからか突っつかれるんだけど、それでいいのか…?

 

 

 

「ごめんな簪さん…その、茨にわざわざ差し入れ用意してくれて。いくらした?」

「大丈夫織斑君。私は…猿取君に助けてもらってるから」

生徒会室に点いた灯りを眺めながら、私たちは校舎の外で布仏さんと茨を待っていた。差し入れのサンドイッチを用意する簪さん…健気だな。

「ホント…無事に帰ってくるといいわね2りとも。何だかんだでうちの整備科志望者も感謝してたから…泣きながら出てきたら…どうすればいい?」

「むしろ、2りが頬を赤らめながら手をつなぎながら出てきそうな気がするんですけど…」

簪さん、鈴やセシリアのからかいに過剰反応するな…ほら、折角のサンドイッチが手元でひしゃげているぞ…

「ごめんー、みんなまったー?」

「ああ…みんな待っててくれたんだ…悪ぃ、こんなに遅くなって…」

良かった、布仏さんはいつもの笑顔、茨はいつもながらのゲンナリ顔だった。

 

 

「シュレッダーかけが終わったら俺は新規の文書ファイルの作成、布仏さんはアンケートの集計…会長と布仏先輩は書類の精査と職印の押印、次の生徒会役員会のプレゼン用資料のスライド作成…ほんと、ここまで忙しいとは思わんかった…」

「おゆーはんにラーメンごちそーになったんだよ、かんちゃん」

 

正確に言うと会長はトンコツ塩ラーメン、布仏先輩は野菜ラーメン、のほほんさんはニンニク味噌ラーメン…俺は具無しのインスタントラーメンとか思ってたよ、そしたらさ…

 

『…これ会長のじゃありません?』

『どういうのがお好みか分かりませんでしたので、一番お高いのにしました』

『いらないなら捨てるだけよ。冷めないうちに食べちゃいなさい』

 

…馬鹿でかいドンブリ一面を覆うフカヒレ姿煮の乗った餡かけラーメンだった…

 

「で、どうだった生徒会長?」

「…どうもこうもないよ鈴。延々と生徒会の業務をやって、終わったと思ったら一気にラーメンすすってた…俺より早メシの人がいるとは思わなかったよ」

「意外ですわね…一番最初にテーブルを茨君は立ちますのに」

 

 

『で、簪ちゃんとは付き合ってるの!?手とか握ったの!?握らせたとか言ったらサンボの極意をお披露目s』

『御免なさい猿取君、会長は激務のために頭がおかしくなってるんです』

『ホントのこといったらかいちょー…ないちゃうかも(はぁと』

『本日この時この場所が貴様の死に場所だぁぁぁ!!』

 

…うん、アレは食事という名の詰問会だった。あんなアツアツのラーメンだったのはそのためだったんだな。

 

 

「毎週きんよーびに手伝いに来てくれればとりあえずはいいって。よかったねー、かんちゃん」

「そっか…要らなかったかな、コレ…」

 

あ、簪さん手元のビニール袋抱えながら沈んでる。そっか、わざわざのほほんさんや俺のために用意してくれたんだ。好意を無にするわけにはいけないな。

 

 

「ありがと簪さん。何処に入ったかわからないくらい味気なかったから御夜長にいただくね…なんだかんだ言って皆と食べる食事が一番だぁよ」

…ちょっとひしゃげているが、味には変わりないだろう…だよな、食堂のサンドイッチも結構好きなんだよな。

 

「御代代わりにお食事会の詳細…会長、かなり簪さんのこと心配してたよ。『打鉄弐式』の事、自分が手伝えなくて済まなかったって悔やんでた…立場上、他の生徒の目もあるからさ」

 

 

『もっと私に頼ってくれてもいいのに!私から簪ちゃんに声をかけられるわけないじゃない!生徒会長は贔屓ができるわけないのに!…私は、そんな資格ないのに!』

『…会長』

『かいちょー…』

 

「…分かってる」

 

口調は硬かったが、視線はそれほどじゃあない。だよな、姉妹なんだ…信頼とかがないなら同じ学校に通おうなんて思わないだろう。

 

『会長、表立って援助は出来なくてもメールとか電話とかで励ませますよ…それに、布仏さんやクラスの皆、それだけじゃない…整備科の人たちや先生たちだって付いてくれたんです、倉持にまかせっきりにするよりも絶対にいい結果になるはずです…何か伝えたいことがあったら布仏さんが伝えてくれますし』

『猿取君…一つ教えて。君にとって簪ちゃんは何?』

 

「あ、そうだ。会長からメモ預かってきた…専用のメアドだってさ。『愚痴りたいことや悩みがあったらいつでもメールしてくれ』だって」

 

『恩人ですよ。『木偶』が乱入してきた時、彼女がいたから先生も、クラスメイトも、俺達の大切な人を守れたんです…そんな人が馬鹿を見るなんて絶対におかしい』

 

…ちょっとクサかったな、うん…

 

「ゴメンね、サンドイッチひしゃげさせて…」

「だいじょぶだいじょぶ、ここのサンドイッチは美味いから…そういえば2回目だっけ、サンドイッチご馳走になるの。返す返すも有難うね…」

 

…ん?メール?

 

『サンドイッチは冷蔵庫に入れておきますね』

 

 

「悪ぃ皆、今日は疲れたからそのまま寝る…」

 

 

…ああ、どうやら今日はサンドイッチで腹を満たす日らしい…ま、何処に入ったか分からないんだ、3人前なら何とか入るかもな…

 




ぎしぎてい

「どうしたシノさん?一夏は明日に帰ってくるぜ…まさか」
「…そこまで死に急ぐか、茨」
最上階の俺の部屋、慌てて身支度を整えようとする俺にわざわざ来てくれたシノさんは思いっきり冷たい視線をくれた…ま、冗談だと向こうも分かってるんだからな。
「ま、ライバルは軒並み学園から離れてるのに肝心の一夏もいないもんな…一夏情報を知りたいんだろ?差しさわりのないことなら…」
オルコットさんは実家の用事でイギリスに帰国、鈴は両親の止宿設定を兼ねて家族旅行中だ…ま、6年間離れてたんだ欲しい情報が…
「在るだろう。それでも知りたい…」
言葉を切ると、シノさんは泣き出しそうな顔で言葉を紡いでいく。
「あいつは…一夏は、心に疾患でも抱えているのか?」



「ああ…まぁな。確かにこんなに綺麗所が一杯いるのに…その、積極的に行かないのはおかしいわな…でもね、色々在るのよ」
涙ぐむシノさんに笑みを消すと、俺は言葉を続けていく。
「錬成講習の時俺はAOAから、口すっぱくしてハニトラの危険を言われてきた…避妊してようが何しようが関係持った時点でアウトだから絶対に学園内では関係を持つのはやめておけ、って…でもさ、」

涙ぐむシノさんを勇気付けたい、その気持ちは変らない…シノさんの『武人』としてのの有り様は一夏の心を溶かしてくれるだろうしな、うん!

「学園の外じゃあ何があろうが知らぬ存ぜぬだろうしさ…頑張ってくれよシノさん!ほれ、『参考資料』も本棚に…イダダダヤメテヤメテ折れる折れる!」
「そういう真似はやめろ!お前が野ノ原さんの息子でなければ殺していたぞ…で、どれが…その…一夏の…」
「ドレがお好みかは分からないよ、流石にさ…」

腕ひねり上げた挙句借りてくのかよ…意外とムッツリだなシノさん…


…そっか、義理の姉弟なのか俺とシノさんは。もしキョーダイってのがいたらこんな感じなのかもな。
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