「ロールキャベツ」「コールスローサラダ」「キャベッジ・ダウン」「お好み焼き」
「何やってるの相川さん?」
金曜日の夜、消灯前の娯楽室。女性陣は和気藹々と言葉を交わしている。
「連想ゲーム…みんなさ、いろんなところから集まってきてるからどんな料理を食べてるか、結構楽しいんだ」
そっか…まあ、うなぎゼリーとかはイギリスでもゲテモノ扱いらしいし、やっぱり大体は似た感じになるのかな…
「そーだ、いばらんもやってみて、結構楽しいよ!」
「う、うん…」
なるほど、メモをめくりながら書かれてる材料から料理を、料理から材料を想像するのね。
『コンビーフ』
「肉じゃが」「サンドイッチ」「コンビーフ・ハッシュ」「肉じゃが」「カナッペ」
『豚肉』
「ピカタ」「トンカツ」「しょうが焼き」「ピカタ」「酢豚」
『南蛮漬け』
「鯖」「ワカサギ」「アジ」「鯖」「イワシ」
『カレーの隠し味』
「ダシ粉」「コーヒー」「ヨーグルト」「ダシ粉」「砂糖」
…な、何だよその目は?何で俺とシノさんを比べるのよ?
「…いばらんとほーきぃ、答えが被ってばっかりだよね…」
「わ、私と茨は同じ町の出身だからな!一夏に聞いたら同じ答えが返ってくるはずだ!…6年前に山陽に引っ越したが!だからソースはオタフクだぞ!」
「どーしたの猿取君!?急に涙ぐんで…」
「いや…さっき食べたサンドイッチのマスタード…鼻に来た…」
…そっか、シノさんの食べてた料理…お母さんの料理は、バーちゃん譲りか…
「やあ、猿取君…今から学園に?」
「はい…鈴のお父さんたちは今からおうちに?」
「ええ、今日は二人とも日勤だったから。鈴は金曜日にうちに帰って土曜からはまた学園…ずっと親子3人で通えればいいんでしょうけど」
弾たちと別れた後、俺は鈴の両親とモノレールの駅の構内で鉢合わせしていた…あのあとカラオケ行ってボーリングに苦しみ、もう夕暮れ時だ…いくらカラオケで最高点たたき出されたからって大の苦手のボーリング誘うことないでしょ蘭ちゃん!俺50点超えた事ないのよボーリング!「ガーターですか(笑)」とか何笑ってんだよ弾、だからモテねーんだよ…俺は何も言えないけどさ!
「…鈴は、優しい子だからね。喧嘩っ早いけど」
…鈴のお父さんもお母さんも日本と中国の調理師免許は持っていたし、『木偶』と戦った後のレセプション料理を一口頂いただけで『香港でこのクラスの料理が振舞われたとしたら『タイクーン・ホテル』レベルは堅いですわ』とオルコットさんは絶賛していた…知り合いにイギリス人が1りもいないのにイギリス人は味音痴ばっかりだと思ってた俺、とりあえず死んで来い…あの時のローストダック、本当は丸1日味をしみこませないといけないらしいんだけど鈴の父さんたちは2時間でばっちり味をしみこませられたし、そのほかの料理も『知っていれば確実にレベルアップするから誰にも教えたくない』レベルの秘伝…鈴のお父さんもお母さんも赤面して『裏技みたいなものですよ、ほんの少しヒントを出しただけで皆さん分かってくれましたし』なんて照れていたが…を惜しげもなくレセプションの調理の時に披露し、教授していた。
「そっか…明日の朝御飯は鈴のお父さんたちじゃないんですか。ちょっと残念かも」
「むむむ…だったらもうちょっと味わって食べて欲しいかな…ま、中学生の時も食べるのは一等賞だったね、猿取君は」
秘密をホイホイ披露して大丈夫なのか?とか思ったんだが、鈴のお父さんもお母さんも『香港のパパもグランパも皆に教えていたものを出し惜しみするものじゃない、そんな事したら怒られる』って言っていた。やっぱりタダで教わるのは気が引けるのだろう、他のコックさんたちもそれぞれ『裏技』をお披露目してたそうだ…専門は香港の広東料理なんだけど、和食も洋食も押しなべて美味しくなったのは影響がないわけじゃないだろう…いや、その前から美味しかったよ?でもやっぱり段違いなんだよ…ソレを鼻にかけない謙虚さもあり、すっかりIS学園に二人ともなじんでおり、『金星ラーメン』も是非中華の真髄を味わいたい、という同僚の皆さんの後押しもあり実現にこぎつけられたのだ。『父さんがスパゲティを炒めたり母さんがポテサラを作るのは似合っていない』なんて鈴はブーたれてはいたが、キッチンに立っている2りを見る目は本当、歳相応の女の子だった…ホント、これで短気じゃなかったら完璧なんだろうけどなぁ…
「…どうしたの猿取君?暗くなってるじゃない」
鈴はなんだかんだ言って両親の事が大好きなのだ。代表候補生としての中国での暮らしぶりは言わない所を見ると言う気にならないんだろうし、今は今で鈴は寮生活、ご両親は朝御飯の当番の時以外は止宿先から学園に通い、親子3りが一つ屋根の下で過ごせるのは週末の金曜日か土曜日くらいなのだ。ソレだけじゃない、鈴もご両親も学園内では不必要に接触するのをお互いに避けあっている。
「五反田食堂の蘭ちゃん、ご存知ですか?…彼女、IS学園に入学希望なんですが…勧めるべきなのか、止めるべきなのか…俺にも一夏にも選択肢なんてなかったから…」
別に学園からダメ出しが出てるわけじゃない。クラスの皆が親元を離れて頑張っているのに2組クラス代表にして中国代表候補生がベタベタと親に甘えるわけにはいけないというプライドが許さないし、ご両親もソレを分かっているんだ…まあ、俺も寮ではスマホやケータイ握り締めながら涙ぐむ同級生と鉢合わせしないように気を使った。ゲスジジイがプレゼントした電子マネーの使い道のうち一番多かったのが手紙関係だったのも驚くには値しない…メールとか電話よりも便箋や葉書の方が『重みが違うし、言いたい事をキチンと伝えられる』というのが泣けてきた…だよな、いくらデジタルになっても人間は2進数じゃなく10進数で考えてるもんな。
「…私たち親子はね、ISのお陰で家族であることを、未来を諦めずに済んだ。確かに大変な目にもあったけど、私は篠ノ之博士には感謝しているよ。父にも祖父にも顔向けできないけどね」
…それは、いつも明るい鈴のお父さんが見せた、とても真剣な表情だった。
▼
『では、これにて特別講習を終了します…皆さん、どうもお疲れ様でした』
『浅学非才の身では有りますが、我々の講習が一助となれば幸いです』
『技術の進歩は日進月歩、今日の機密は明日の常識となってしまうものです。ご油断なさらぬように』
『ジョブ&ホビー』内視聴覚室。モニター越しに真剣な視線を向けていた学生たちを労わるように赤毛で樽のような体系の男性、金髪碧眼の美女、細身の神経質そうな白人男性がねぎらいの言葉をかけていく…ラスベガス、あるいはデトロイトからの中継がメインではあったが、知識欲旺盛で飲み込みの早いIS学園生たちには十分すぎるほどAOAの実施した講習でその能力を伸ばし、そして立ち見ではあるが整備科養成コースの教諭陣、そして実際に現場で活躍するスタッフたちも受講し、啓蒙していた。そんな彼ら彼女らに缶入りのルートビアを配りながらピクシーは言葉を続けていく。
「さて…更識さん。『打鉄弐式』の開発についてです。始祖たる『白騎士』は別でしょうが、ISとは仮想敵を設定し、ソレを乗り越えるために設計されるのが常です。一例では有りますがAOAが開発した第2世代機『タイガー・シャーク』はデュノア社の『ラファール』が仮想敵です…」
『機体はあらかた開発はされておりますがOS、FCSの仕様で能力は変わるものです』
「アレだ!ロボットゲームや格闘ゲームで言う所の『絶対殺すマン』ってヤツさ!分かるだろ分かるだろメガネちゃん!!キミそういうの大好きそうだし!」
モニターの向こう側の白人青年がピクシーに続けるように言葉を返し、そして後ろでニヤニヤしながら講習を見ていたアークライト博士は食べかけのロリポップ(渦巻キャンディ)で最前列で受講していた更識簪を差した。その下卑た笑みに顔を顰めながらも、彼女ははっきりとした口調と意思の篭った瞳で言葉を返し…視聴覚室はざわめきに包まれた。
「私の…『打鉄弐式』の仮想敵は…『モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)』です」
○
「シスター・ファロン!わざわざお手を汚されなくとも…」
「勤労は礼拝に匹敵する神への感謝の表しです。何より勤労は他者を幸せにしますもの、礼拝以上かもしれません」
お昼前の『バルーニング学園』、その敷地内にあるアイリスの大きな畑。そこから取れたアイリスの根を乾燥させたもの…山ほどのイリスルートを『シスター・ファロン』たち『バルーニング学園』の職員たちは総出で業者のトラックへと運び込んでいた。
「まさか新アメリカ代表の使用する香水に、うちのイリスルートを使用したいなんてまさに僥倖ですね!」
「…誰が纏うにせよ、我々の育てた作物が誰かの役に立つ、それだけで私は幸せです」
熱っぽい口調の同僚を嗜めると、いつもの修道服ではなくつなぎに身を包んだ女性…『シスター・ファロン』は汗をぬぐいながら籠に積まれたイリスルートをトラックへと積んでいた。
「シスター!コーヒーが入ったよ!…ダメだってば、ジャック!それはシスターの分のチョコバーだよ!」
「良いんですよ『ブルー・ムーン』…ジャック、チョコバーを沢山食べるとランチはおなか一杯で食べられなくなるでしょ?人は、自分の我だけを通そうとすれば、必ず無理が生まれるんです」
「ゴ、ごめんシスター!これ、返します!」
お茶を用意してくれていた少年少女たち、その中でも悪ガキ盛りの少年…ジャックは袋入りのチョコバーを涙ぐみながら『シスター・ファロン』に返そうとする。その手を押しとどめると、微笑みながら彼女は言葉を返した。
「では3ついただきましょう。残りはみんなでお分けなさい…いつも皆さんはオヤツやお三時はフルーツばかりでチョコやキャンディは少ししか頂いていないですもの、今日は多めにお上がりなさい」
「…ほんと、チョコバーやプレッツェルでお腹パンパンにするほど虚しいことはありません」
■
「あら、今お帰りですのね茨君」
「久々に旧交を暖めにね…オルコットさんは図書館帰り?」
「ええ…いくら調べても、学んでも…不安しか有りませんわ…」
星がチカチカ瞬く辺り、寮への道を俺とオルコットさんは歩いている。お互い食事は食堂のサンドイッチだ。『4月に追加して以来、人気メニューになったのよね。猿取君には感謝だわー』ってオバちゃんは笑ってたっけ…実は結構偉いのか?オバちゃん。
「明日は俺と一夏は朝からお昼まで特別講習…一応他の学生たちも参加は自由だけど…」
「やらねばならぬことがあるのです…申し訳有りませんが…」
迷いと不安に満ちたオルコットさんの瞳。おそらくシノさんや鈴は講習に参加するのだろう。そこを断る…
「ま、イーリさんも強くなるためには『場数』を踏めっていってたしさ…来週はずっとお天気だったし、そろそろやるわけ?」
「はい…日本では、調理実習がございますのね…心細くて仕方ありませんわ…一夏さんや箒さん、鈴さんの肩を借りるわけには行きません」
「…ウチラは正午で講習終わるから、午後からは暇だしお邪魔するよ。ゆで卵とか焼きもろこしみたいな簡単なやつからはじめていけば大丈夫だって」
「ああ…日英同盟はまだ砕けてはおりませんでしたわ!まさに千人の味方を得た気分で御座います!」
おお、一気にテンションMAXだ。元気があれば何でも出来るなんて偉い人はいっていたが、しょぼくれていたんじゃどんな事だってうまくいかないわな。
…勉強に、恋に、お料理、か…
こんなことだけに頭を悩ませられる日々が、続けばいいな。
Wahrsager erzählen TerrorSchicksal
「ハルフォーフ大尉、私はIS学園に行く…先日の手合わせでは織斑教官には私の成長した姿をお披露目出来なかったが…今回こそは教官に見ていただくのだ!」
「…IS学園は外部からの来客を極端に制限していると伺っておりますが」
「違う!学生としてだ…そして、我がドイツに教官を再びお招きする!」
闘志を燃やす年下の上司…ラウラ・ボーデヴィッヒの喜ぶ姿を見ながらも、彼女…クラリッサ・ハルフォーフは心が冷えていく自分を実感していた。そう…彼女の上司は、国内、国外、或いは自身の…余りにも周りが見えなくなっているのだ。
(…バカな!少佐はもう少し自制が効いていた筈…)
彼女たちIS配備特殊部隊『シュヴァルツェア・ハーゼ』を構成する女性たちは尋常な手段で入隊してきたわけではない。値札の付いた状態で、道端で、孤児院で…家族の温もりに薄い人生を歩んでいた少女たちを強化した『混ぜモノ』(ブーステッド)、そして隊長であるラウラはドイツが秘密裏に作成した『合成モノ』(デザインド)であった…そしてそれはドイツが誇る遺伝子学、そしてナノマシンの泰斗にして第1人者、アブラハム・オークス・エイムズ博士によってもたらされた…もっとも、スペックを決めたのはドイツIS委員会であったのだが。
(何故だ!?どうしてだ!?…『黒い雨』(シュバルツ・レーゲン)を隊長が受領して以来だ…何処まで祟る気だ…『越界の瞳』は…バーバウズ博士は)
…彼女たちは、IS適正の高さもあいまって次期戦力として大いに期待されていた…エイムズ博士を羨むうら若き助手にして弟子、ハール・バーバウズ博士がエイムズ博士が導入を見送った『越界の瞳』のインプラント手術を行なわなければ。擬似ハイパーセンサーとも呼べるその機能は、結局の所極東のとある少年の『アンテナはあっても受信機がまともに無い状態だし、そんな事が出来たらオツムが焼ききれるって』…このぼやきのごとく推移した。バーバウズ博士は結果を受け入れることが出来ず首を吊り、エイムズ博士の迅速な治療がなければ彼女たちは五感からの情報で脳を蹂躙され、五感を陵辱され、一人残らず発狂死していただろう。
「お姉様…隊長は、IS学園に?」
「ああ…手続きのほうは順調に進んでいる。隊長の実力なら合格は簡単だろう」
「お姉様…隊長が強くなればなるだけ…隊長は不幸になっていく、そんな気がします…」
「今の話は聞かなかったことにする。他ではこのことは言うな」
「は…はい!ハルフォーフ大尉!」
…活性化している有機型ナノマシンを死滅させ、無機型ナノマシンを体外に排出し、『越界の瞳』を休眠させたことで、彼女たちはIS適正以外は歳相応の能力に戻り…ドイツIS委員会に言わせれば『能力を著しく劣化させた』。
『『どうやら国家社会主義が私の知らないところで政権を取られたのですかな?』…まさに貧すれば鈍す。一騎当千とは聞こえはいいが、1万用意されたら投了だ…これからの諸君は人間として生きろ。新しい戸籍も、生きる場所も、用意…』
『…博士、私たちの生きてきた中で、ここは天国です』
『…私たちは皆、地獄の賭場口からここに連れてこられました…私たちは国を信用していません』
『…博士、私は試験官と人造子宮から生まれました。元々人間でないものが、人間になれるわけがありません』
『…わかった、ならばナノマシンを諸君に新たに投与し、最良の教官を用意しよう…だが忘れるなボーデヴィッヒ…そして諸君。人間とそれ以外の違いはただ1つだ…自分が人であると思い、人として振舞えるかどうか、それだけの違いだ』
…それは、ブリュンヒルデ…織斑千冬が第2回『モンドグロッソ』決勝戦を棄権する前日であった。
「どちらに居られるのですか…エイムズ博士…私たちは…貴方の手を掴めばよかったのですか…?バーバウズ博士、貴女の様な聡明な方が、どうして軽挙妄動したのです!?」