「出来たか」
「ええ…そっちも出来上がったみたいね」
「ああ…作っている最中に茶々の一つも入れると思っていたんだがな」
「そんな事したら、二度と一夏の近くに居られない…箒だって同じでしょ?」
「そうだな…皆を蹴落としたいわけじゃない。ただ、一夏に選ばれたい…鈴もそうだろう」
「ええ。セシリアもね」
「お疲れ様です、レディ…これならば、残りの皆様に遅れを取ることはないでしょう」
「返す返すも有難うございます…ピクシーさん。何故、ここまで私に…?」
「私とて、石や木ではありません。恋する少女に手を差し伸べるのも、カウンセラーの仕事ですよ」
「!!…恋に焦がれる者として、精一杯戦ってまいります!!」
「さて、私もチケットを造るとしますか…ザリガニ…コーラ…ピーナツバター…こんなところですかね」
※何だかんだで1周年、お付き合いいただき有難うございます。
午前の授業が、終わった。
「行くわよ、一夏…」
グラディエーターは得物を持ち、ジャッジを引きつれコロッセオへと向かう。
「…一夏、行くぞ」
怒りではない。憎しみでもない。まごう事なき『決意と闘志』。それが『淑女協定』の面々を満たしていた。
「ええ…行きましょう一夏さん」
シノさんも、鈴も、オルコットさんも、早起きしていた…早朝のトレーニングじゃない。鈴とシノさんはIS学園の調理室で、オルコットさんは『ジョブ&ホビー』の調理室でピクシー立会いの下…ランチボックスとランチクロスに包まれた得物を作り上げ、コロッセオへ…屋上へと向かっていく…一夏、お前がジャッジだ。早く行ったほうがいいぞ、うん。
(頼む茨!お前も来てくれ!場が持たない!!)
(ダメだ一夏。俺弁当持ってきてない)
…ソレにだ、お前のために『淑女協定』は用意したんだ。俺が横からツマミ食いしたら八つ裂きにされかねない…ん?のほほんさんどうしたのそのバスケット??乱入するの?悪いけど今日は嘴突っ込まないほうが…
「いばらん、ピクシーさんからお弁当…それと伝言だよー。『わたしの名代として参加をお願いします。向かいなさい…そして貴方がやるべきことをなしなさい』だって」
「だ、だよな!流石ピクシーさんは格が違うぜ!一人ぼっちは寂しいもんな!行こうぜ茨!!」
…俺はあの人かよ。銀貨30枚もらってセルフハングドですかソーデスカ…ていうか俺思うんだけど、例の処刑からの復活ってすり替わりじゃないんかね?ほら、丁度その時にあの人死んでるし…ていうか一夏、俺の手を握らないでくれ。皆の視線が痛い。
「あ、それとピクシーさんからもう一件。『危なくなったらすぐにISを展開しなさい』だって。…だいじょーぶだよね、いばらん?」
…『凄まじき戦士』とか『絶滅コンボ』とか『フルーツ盛り合わせ』ぐらいの大丈夫さだと思うよ…やっぱ、五感がおかしくなるってのは勘弁だよね…その…山田先生とめぐり合ってから、特にそう思うよ、うん。
△
「お嬢様、『打鉄弐式』の件…」
「聞いたわ。簪ちゃん…本気みたいね」
「なぜ簪様は、お嬢様を?」
「決まってるわ!あのタラシよ!」
「はぁ…」
※ダイジェストでお楽しみください
『んあぁぁっ!…よかったよ…猿取君…もうそろそろ授業が…んう…!?また、なのね…こんなにおっきく…』
『ねぇ簪さん、ずっと気になってたんだけどさぁ…ココって…やっぱり姉妹で似てるのかな?』
『!?まさかお姉ちゃんまで!なんて恐ろしいこと考えてるの猿取君!…待って、抜かないで!…わかった…頑張る…だから…』
『ウン、簪ちゃんは俺の一番大事なペットだよ…じゃ、一気に行くね』
「かわいそうな簪ちゃん…快楽漬けにされて頭がおかしくなってるのよ!…決めたわ…今日があのタラシの命日よ!」
「先週私の部屋の本棚から持っていかれた『淫猥学園』と同じ流れじゃないですか、ソレ…それよりも、今日は…」
「初めまして。貴方のような淑女と茶を嗜めるとは、このアークライト、天にも昇る気持ちです…『彼』は実直な男ですよ…ああ見えてね」
「い、何時から居たんですアークライト博士!」
「『あのタラシよ!』…辺りからです。いやいや想像力の翼とは偉大ですな」
◆
「そっか…猿取君も屋上か…」
「そ。でも、ほーきぃもせっしーもりんりんもおりむーしか見えてないし…」
「…別に…どうでもいい…」
午前の授業が終わった生徒たちは、昼食を取るために食堂へ、或いは売店へ、カフェテラスへと向かっていく。1年4組クラス代表・更識簪と1年1組生徒、布仏本音もその流れの中にいた。
「…かんちゃん、どーしてかいちょーのISをライバルにしたの?…かいちょーの事、そんなにきらい?」
「好きとか、嫌いとかじゃない…私が、私にとっての一歩を踏み出すための…通過儀礼よ…」
「そういう風に小難しい言葉で行動を述べるのは、余り麗しくないですよ」
食堂に向かっていて並んで歩いていた2人の少女のうち、眼鏡の少女…更識簪の肩を抱きながら、タイトスカートにタートルネックのセーター、白衣にウルフカットのロングヘアーのカウンセラー…『ピクシー』は言葉をかけていた。思わず硬直した簪など気にもせず、ピクシーはバスケット片手に淡々と言葉を続けていく。
「どうです?同病相哀れむとは申しませんが、同じ悩みを抱えるもの同士お食事でも」
…そして、彼女たちの眼前には、1年1組副担任の姿があった。
■
「ほ、ホントいい天気だな茨!」
「だだだな一夏、サイコーのお弁当日和ってヤツだな!」
IS学園校舎屋上。ワタアメみたいな雲の浮かんだ青空とさんさん降り注ぐ太陽の光、体をくすぐっていく風…最高の天気だった。
「「「…」」」
…だからさ、そんな視線はやめてよ!?俺はまだ死ねないんだよ!…そうだ!
「あ、いちおー言っとくけど俺はお相伴には預からない。ピクシーさんのベントー頂いて終わりにする…だってさ、みんな『四人で食うために』量を考えて作ってきたんだろ?俺が脇からつまんだらなくなっちゃうし」
「そ、そんな寂しいこというなよ…箒、鈴、セシリア、勿論茨も昼食会…居てもいいよな…」
「あ、当たり前だろう!安心しろ、無論お前の分もあるぞ茨!」
「喜びとは分かち合うもの、無論ですわ一夏さん!」
「寂しい事言うんじゃないわよ!イヤでも食べてもらうわよアホ茨!」
おお、みんな正気に戻ってくれたか。愛って言うのは偉大だよ、一夏!あとそんな捨て犬みたいな視線を向けないでくれよ一夏!イヤに殺気を感じたぞ!アノ視線はメデューサでも泣いて詫びを入れるレベルだぞ!
「おし、じゃあメシにしようか…おお、ピクニックシートまで用意されてるとか気が利いてるな、ピクシーさん」
「俺としては、まともに食えるものをピクシーさんが用意しているかどうかってトコロだけが心配だよ…」
「あら、それはわが師への侮蔑と見て宜しいんですの茨君?」
ピクシーが師匠か、急に怖くなったぞオルコットさん…まあ、こういう時間って言うのは貴重だし家庭的な子っていうのは女性が強くなった昨今だからこそ、かなり受けがいい。『淑女協定』の面々も結婚して家庭を一夏と営みたい、って願いは共通だろう…。
『なあ一夏、休みの日って織斑先生ってどう過ごしてるんだ?地下特訓場で天井から鎖で吊るした鉄球をバットで殴ってるのか?』
『そんなわけはないだろう、茨!きっとIS委員会の方々と重要な会議をだな…」
『いいえ!きっと一夏さんと剣術の練習を…どうなさいましたの、鈴さん?』
『う、うーん…何回も一夏の家であったことあるけど…そんな感じじゃなかったな…』
『休みの日の千冬姉か…みんな、千冬姉には絶対に言うなよ」
…鈴と一夏から聞いた話だと、織斑先生は金曜日の夜に帰ってくると『風呂、メシ、寝る』状態でバタンキュー状態だったらしいし、休みの日は午前中は10時くらいまで布団でゴロゴロ、その後『軽く』剣術の稽古をしていたそうだ…まあ、夜9時くらいまで残業する山田先生と同じ時間まで『小テストの内容の吟味、授業の進め方、小道具の作成、ほめかたやしかりかたの相談…色んなことをしてるんですよー』ってやっているらしい…いつ肩を揉んでもコリコリですもんね、山田先生。凄く嬉しそうでしたね山田先生。
(織斑先生はこういうの苦手そうだしな…言っちゃ悪いけど、黒豹女なんて自分で何か作れって言われたら何食って生きてたんだろう…)
…あれ?俺もタマには鈴や弾と一緒に一夏の家に遊びに行ってたけど…どうして一度も逢わなかったんだろう、織斑先生と。
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「…そういえば、イーリがご迷惑をおかけしたそうで」
「いつもの下卑た笑みは浮かばせないのですのね、アークライト博士」
「羨ましいな、アル。こんな美少女を貸切とは」
IS学園生徒会役員室。マホガニーのチェアーに深々と座り込み、ローズウッドのテーブルを挟んで少女と老人は相対している…老人は微笑を浮かべながら茶菓を置いていった旧友に苦笑を浮かべるとキリキリに冷えた瓶入りのペリエを一口あおり、湯飲みを抱えたまま刺すような瞳を向けている少女…更識楯無に言葉を返す。
「大人の世界は、生き馬の目を抜くような輩がまれに良く居るものです。僕が老醜を晒すことで少年少女が慎重さを身に付けてくれれば、それに越したことは有りませんよ」
「…デュノア社の件、僭越ではありますが我々にお任せください…『ヘラクレス』もこの状況では迂闊に動けないでしょうし」
そのまま老人はペリエを、少女は玉露を口に運んでいく…ただ、穏やかな時間が流れていく…そのはずだった。
『お助けぇぇぇぇ!?』
『逃げるということは後ろ暗いことがあるということで宜しいですのね!』
『箒!双天牙月よ、使いなさい!』
「感謝する!」
屋上から脱兎の勢いで空を駆けていく少年…『アンカー・スチーム』と、それを追う『ブルー・ティアーズ』『甲龍』そして『甲龍』の肩に乗った少女が喧騒と怒号と哀願で破るそのときまでは。
「フム…あんな極上の美少女3りから追われるとは…アメリカ武者修行の頃のドンファンぶりが思い出されます」
「フフフ…どうやら尻尾を出したのですね、あの淫獣…そうです!人の妹にコナカケをするような…」
「おや?申し訳ありません。ドンファンではなくシラノ・ド・ベルジュラッグでした…ところでコナカケとは…」
「と、とにかく!『醜き兵』はお任せします!」
耳まで顔を真っ赤にした少女に苦笑を浮かべると、老人…アークライト博士は大儀そうに立ち上がり…満面の笑みを浮かべると背を向けながら言葉を返した。
「勿論です。二度と逢えぬ者から託された願い…叶えぬ訳にはいかないでしょう」
下準備は丁寧に
「3年ぶりだね楊管理官…あ、イインチョだっけ?織斑センセが心配してたぜ…ほい、大江戸バナナ」
IS学園を訪れた後、アメリカ代表・イーリス=コーリングは中国・マカオへと降り立っていた。『不幸な事故』以降冷え切っている中国とアメリカとの関係改善のため…のはずだった。
「見違えましたね、ミス・コーリング。楊で結構です…!?…これは、食べ応えのあるバナナケーキですこと」
…が、対応した中華人民共和国IS委員会委員長、楊麗々(ヤン=レイレイ)が未だに正式に引退セレモニーを開いてないことに言及、『レッド・チャイニーズの幕引きはあたしが務めてやる」とマカオに新設されたアリーナにて暫定代表及び代表候補生10名を秒殺、業を煮やした中国共産党中央委員会の許可を得ると楊委員長は自身の専用機である第1世代機『蒼虎・崑崙八仙』にて30分に渡る死闘を繰り広げた後、壮絶な相討ちにより引き分けへと持ち込んだ。
「あ、悪ぃ!ポン酒にやられてステイツとIS学園のテキストを間違えて持ってきちまった。どっかのお国じゃカリキュラム1から刷り直しらしいって噂を聞いたんでね…安心しな、織斑センセから許可はキチンと取ってる。こっちもイーリでいいさ…そうだ、ヤンヤンの教え子、中々の生きの良さだったぜ」
「…感謝します、イーリ」
中国人民は第1回『モンドグロッソ』で誰と誰が決勝戦へと向かったのかを、そしてその看板の偽りのなさを余す所なく知り、マカオの顔役たちは降って沸いた好カードと相討ちという大穴に相好を崩し、共産党上層部は新委員長の底の知れなさに改めてその心肝を冷やし…
「…で、何がお望みです?」
「ゼニカネじゃねーよ。ヤンヤンは織斑センセと同じよーに一線引いてるから、残りの『BIG4』にも渡りをつけやすいんじゃないかなぁ…ってさ。ほい、予め渡しとく…ヤンヤンを含めた3り分。」
…その後の歓迎セレモニーで何気なく口に含んだマオタイ酒に卒倒し、楊委員長に引きずられながら退場したイーリスにぜいいんが惜しみない罵倒と笑いと拍手を送ることとなった。
「なるほど…予定は空けておきましょう、残り二人も色よい返事が来るかどうかはわかりませんが」
ただ一つだけ言えることは、『イーリス・コーリングは呆れることは多々あれど飽きることはない女であり、アメリカは彼女を代表に選んだ』ということは誰の目にも明らかであった。
「そこを何とかしてしてくれるんだろ?ヤンヤンは」
「…ええ、何とかしてみましょう」