俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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ギャップ=モエとはこういうことさ


「マカオ遠征お疲れ様でした、マム!」
「「「「「お疲れ様でした、マム!」」」」」


ネバダ州、ミード湖『セント・トーマスの廃墟』近くのほとり。そこに据えられたAOA専用IS訓練施設『トレジャーランド』内アリーナ。アリーナ中央にはプラチナブロンドのマッシュセミロングの少女…前アメリカ暫定代表にしてニューヨーク州代表『マーシー』…メルセデス・ライチャートに率いられたアメリカ各州代表たち。肌も髪も満遍なく全ての色が揃っている少女たちが一様に憧憬の視線を向けているのは、ただ一人の黒豹のごとき女性…『イーリス・コーリング』であった。

「出迎えご苦労。これからさらに疲れてもらうぜ!準備できたヤツから揉んでやる。さっさと衣装を準備しな…ま、新作の『ウォルナット(胡桃)・クッキー』食ってからだけどな…チョコチップに各種ナッツ取り揃えてるぜ、ガールズ」


各州代表にニヤリと微笑むと、イーリスは背後に忍ばせていた色様々のクッキーの詰まった大きな瓶を少女たちの眼前へとお披露目し…その途端、アメリカ各州の期待と栄光を荷う代表たちは少女に戻っていた。

「頂きます、マム!」
「ああ…甘さ控えめでさくさくしてます先輩…いえ、マム!」
「マムのクッキーはいつ頂いても美味しいです…」
「ええ!?マムが作られたのですか!?このクッキー!」

アメリカ各州代表の中で一番年若い、3月にアイダホ代表となったネイティブ・アメリカンの少女。それを嗜めようとしたマーシーを目で抑えると、イーリスは心底愉快そうに笑い出す。

「ン?確かにそんな風には見えネーだろうなぁ。勿論あたしたちゃあIS纏うのが上手くなきゃあいけねーが…アメリカン・ビューティはクッキー焼けて一人前なんだぜ。テイクアウトもいいが、ネバダじゃ100マイル向こうにしかドラゴン・エクスプレスのない場所なんざザラだ、自分でメシの一つも出来るようにしときな」
「「「「「イエス、マム!」」」」

「な、タラシコムにはこいつが一番だろ、マーシー?あたしも師匠にこーやってタラシコマレたのさ。それとクッキーはプレーンのヤツが出来ればアーモンドやピーナツ、サンフラワーやパンプキンの種で結構バリエーション出来るから楽でいい、オーケー?」

「「「「「「…イエス、マム」」」」」
「あっさりと株を下げにいけるスタイル…嫌いじゃないです、先輩」
「ソレくらいがイーんだよ!ヘンに偉ぶると後が大変さ、生きる伝説になる気はネーよ」



淑女協定:一夏予約してました

※ネバダ在住のPさんの用意していた残りのクジは『無知』と『憎悪』です

 

 

「では、私から行こう…皆、是非味わってくれ」

 

そう言いながらシノさんはビニールタッパと柳行李のおにぎり入れを取り出した。鈴とオルコットさんは小さくうなずくとそれぞれのランチボックスを準備しだす…一夏とのエンカウント順で挑むのか。

 

「おにぎりに唐揚げに卵焼き、プチトマトにサラダ菜、デザートにイチゴ…こんなところだ」

 

おお、オーソドックスではあるがそれゆえに美味そうだ。一夏、遠慮なくガッツリと…ん?

 

「…一夏、あ、あーん、してくれ…」

「お、おう…」

 

《正正堂堂…ダマシウチデスカ…》

《ナイデスワ…いなござるトカ、ナイデスワ…》

 

 

初っ端から勝負に出たかシノさん!アツアツのおでんとかじゃなくて良かったなシノさん!手元がプルプル震えてるのが初々しいぞシノさん!…鈴、オルコットさん!正気に戻っテ!?

 

(必殺技を序盤で使うのは負けフラグだ。剣豪『ハジメ=ヤタテ』の名セリフを知らないのかよ)

 

「美味しそうですわね、箒さん…頂きましょう、鈴さん」

「頂きます…アンタもつまみなさいよアホ茨」

 

良かった…そんな名前の剣豪居たっけか?まあ確か日の出の太刀とかいう必殺剣の使い手でそんな人が居たはずだ!

 

 

「お、生姜醤油の下味がきっちり利いてるな、唐揚げ。衣の味はあっさりしてるけど肉の味が染みてるから丁度いい感じだ」

「卵焼きは…ちょっと甘いけど、唐揚げとのコンビネーションで引き立たせあっているわね…」

「そして、おにぎりは梅干しを刻んだ混ぜご飯で酸味を際立たせ、脂っこさを洗い流す…見事なコンビネーションですわ、箒さん」

 

…美味しい料理は皆を幸せにするって偉い人も言ってたもんな…ホント、バーちゃんの作ってくれたお弁当と同じだ…バーちゃんの使ってた梅干はもっと真っ赤で塩気がきつかったけどな、ウン。

 

「美味いな、ホント…」

「あ、ああ…喜んでくれれば何よりだ、茨…」

 

…どうしてるかな、お父さんとお母さん。先週帰った時は『そろそろ学校に戻る』って帳簿付けしながら言ってたけど、生徒たちに白眼視されて無いと良いな…

 

 

 

「では行って参ります、義父さん、義母さん」

「気をつけてな、一郎君、すみれ」

「はいパパ…ママ、お土産は何が良い?」

「そうね…食べ物とか石鹸とか消えるものでよろしく。思い出が残ればそれで良いわ」

「分かった、じゃあ『白水仙』…大丈夫よ、ママが気にしていた『鉄錆と塩水が混ざったような』匂いのしないヤツを探してくるから」

 

 

「レコードはもう少し更新し続けると思うておったんじゃがの…」

「…今度はフランスに行くのかしら、あの子達」

 

 

「じゃ、次はあたしね。シューマイと中華チマキ、そして酢豚にデザートはライチよ」

 

おお、シューマイの白にチマキの茶、そしてプチカップに人数分入った色様々の野菜やパイナップルの入った酢豚がお出ましか。そういやパイナップルが入っている酢豚、アレは高級感を出すためと甘酸っぱさを引き出すためらしいな…お?あーんはやらないのか。二番煎じはしない派なのか?鈴。

 

 

「筍にシイタケ、鶏肉のハーモニー…絶品だな、このチマキ」

「こちらのシューマイもえびがプリプリしていますわよ、箒さん」

「…冷めても美味いな、鈴の酢豚は。血は争えないよな、ホント…親父さんたちはこのままIS学園で勤め続けるのか?」

「…色々とメンドクサイ国だから、ウチ。父さんも母さんも日本に帰化したけど『しばらくはここに勤めることになりそう』だって…あたしが卒業する頃には落ち着くだろうから、前の場所にお店を出しなおすかも。こないだ通りかかったら、空き店舗のままだった」

 

…う…一気に空気が湿った…重いぞ、ウン…急に口の中のチマキが貼りついてきた…

 

「勿論その時は『毎日酢豚を作ってあげる』…まだ私の中ではあの約束は生きているわよ、一夏」

「あ、アレはその、全然分かってなかったから、なあ茨!」

「大丈夫!それなら惚れ直させてあげる…茨のお婆ちゃんが教えてくれたの、自分の武器の生かし方を。あやめさんに『ありがとう』って言っておいてね茨」

 

これか!こう来るか!見事な連携だぞ鈴!というか何吹き込んだバーちゃん!?草刈りの時鈴と遭遇したけど、明らかに上気してたな鈴!

 

《ドウヤラ…ケッチャコ…ツケルトキガキタヨウダナ》

《コノキョリデハ…バリアハ…ハレナイデスワネ》

(若さとは振り向かないことだ、日本が誇る文豪『サブロー・ハッテ』の名セリフを知らないのかよ)

 

…何だろう、俺はこういう星回りなんだろうか。こうやって激昂する皆をなだめすかしながら学園生活を生きなきゃいけないんだろうか…助けて山田先生…

 

 

「いいお日和ですね、皆さん」

「ええ、いいお日和です…ブリトー、ご馳走様でした」

「ほんとおいしーです、ピクシーさんのランチ」

「ご馳走様でした…何で、私たちをランチに誘ったんです、ピクシーさん。『同病相憐れむ』だなんて…」

 

校庭の芝生の片隅、ピクニックシートの上。ブリトーにかぶりつきながら満面の笑みを浮かべる布仏本音、カップスープを口に含みながら微笑む山田真耶、フォーチュンクッキーを割りながら訝しげな表情を浮かべる更識簪…そんな三人の表情を無感動に眺めながら、ピクシーは言葉を紡いでいく。

 

「私もまた『焦がれている』からです…焦がれる対象は違うでしょうが」

 

 

 

「では、わたくしの番ですわね…ハムサンドイッチにチーズサンドイッチ、バルックサンドイッチにローストコーンですわ」

 

…冷や汗が止まらない。茨は『ゆで卵やスィート・コーンは美味かったぞ』といっていた。だが…これはサンドイッチなのだ!…ん!?行くのか一夏!?そして茨!

 

 

「おお美味いな、セシリア…!お、ローストコーンは醤油じゃなくてソース味か!」

「チーズサンドイッチはトマトがアクセントになってるし、ハムサンドはスライスした胡瓜がハムの塩気を和らげてくれる…ホント美味いよ、オルコットさん…シノさんもつまんでみ?」

 

茨に勧められるままランチボックスの中のバルックサンドイッチとやらを口に運ぶ…ん!?これは…ツナマヨか?美味いな…

 

 

「美味いな…サンドイッチはイギリスが元祖だ。その真髄はイギリスだからこそ到達できたのかもな」

「だからね、ローストコーンがソース味なのも!…ウスターソースもイギリス由来だし」

「お恥ずかしい話です、箒さん、鈴さん。昨日茨君とピクシーさんに教えを請うまで、私キッチンに立つことはありませんでした。トマトもキュウリもフードカッターで切ったものですし、パンも耳が切られたサンドイッチ用の物ですもの…」

 

な、何!?実質二日?二日でこれか!?…私は野ノ原さんの所に身を寄せてから料理を習い始めたが、最初は散々だった。味無しのチャーハンを出してしまった事だってある。『だいじょーぶ、後から塩やおショーユかければしょっぱくなるよ』と一郎さんやすみれさんは笑ってはいたが、あんなものを一夏に出していたらと思うと身震いするほど恥ずかしくなってしまう。

 

「手抜きだなんて笑う気はないよ、オルコットさん。そんな事言ったらカレー粉からカレーを作ることの出来る人なんてかなり限られるぜ?」

「これ、ツナ缶じゃないな…サバ水煮か?」

「正解です一夏さん。ピクシーさんが教えてくれたんです、『ツナ缶だと油を切ったりする手間が有り、味が抜けてしまいます…一方サバ缶は旨みを活かせます』…どんなことにでも先達はありがたいものですね」

 

 

…マズイ、明らかに流れはセシリアに向かっている!仕方ない、こちらもカードを切ろう…鈴をチラリと見る。あいつも意図は分かったようだ。小さく頷いた姿を確認するまでもなく私は茨に話を振る。

 

「茨…ピクシーさんはどんなランチを用意したんだろうな?」

「そうね…気になるわ」

「ま、まだお腹一杯じゃないのか、みんな…分かった、開けてみよう」

 

 

…それが、『パンドラの箱』だと気付かないまま。

 

 

 

「焦がれる?ピクシーさんがですか…」

「ええ。『悟り』などという境地は分かりません。迷い、悩み、悔やんでばかり…ソレをただ周りには見せないだけです」

 

ランチボックスの中の水筒からコーヒーをカップに注ぎ、残り3名に手渡しながら淡々とピクシーは言葉を続けていく。

 

「簪さん、フォーチュンクッキーの中のクジ、拝見されました?」

「は、はい…『嫉妬』…でした」

「私のは『怯懦』…」

「わたしは『驕慢』…これは…?」

「!!?…それは、だ、誰しもが持ちうる『心の闇』というものれ、です…重要なのは、そそそその闇を持つことを自覚することなのれ、です…」

 

不審そうな視線で見つめる他者などお構い無しにいきなり滝のような汗を流し始めたピクシー…そして彼女は脱兎のごとく駆け出しながら絶叫した。

 

「き、急用を思い出しました!シートとかバスケットはそのままにしておいてくだしあ!」

「どーしたんだろ?ピクシーさん…」

「取りあえず、お片づけしましょうか。布仏さん、更識さん」

「何処まで、行く気なのかしら…ピクシーさん…あ、戻ってきた」

 

「皆さん!恋も仕事も勉強も欲張って頑張ってくだしあ!何かを頑張るために何かを我慢する必要なんて有りません!」

 

 

「は、はあ…」

「だって。がんばろーねかんちゃん!」

「何で私に振るのよ…」

 

 

 

 

「お、スープジャーか。中に入ってるのは…クリームスープかな?…ほい、皆どうぞ」

「ビスクですわ、茨君…恐らくは、ザリガニの…」

「ザ、ザリガニ!?」

「く、食って大丈夫なのか茨!?」

 

俺が注いで手渡したスープをオルコットさんは一口含むと中身を推量し、一夏とシノさんはその言葉に拒否反応を示す…まあ、アメリカで錬成講習を受けてなかったら俺も同じだったろうな、うん。

 

「安心しなよ、ザリガニは立派な食材だ。俺もアメリカで何回かご馳走になった…キチンと泥を吐かせて下ごしらえをしないといけないらしいけど」

「そうね。中華料理でも何個かレシピはあるわ…美味しい。キチンと下ごしらえがしてあるしクリーミーよ一夏」

「ま、まあ…ザリガニだって言われなければ気付かないな…」

「…だな。心が落ち着く味だぜ、茨」

「うん。これをピクシーさんが作ったとか、ちょっと信じられないけどな」

 

 

『んー、グッテイスト…美味しいですよ、猿取訓練生』

『ザ、ザリガニですか!?』

『ワニのケバブやリスのシチューのほうが良かったかぁ?サソリのグラタンなんてのもありますぜ、ダンナ?』

 

 

正直、最初は抵抗があったのは否定しない…大皿に山盛りになった茹で上がった真っ赤なザリガニの殻を剥き、齧り付く黒豹女やナタルさんの姿は色々と衝撃的だった。ナタルさんの「イケますよ」の後押しと海老だと思って飲み込めたから何とかなったけど…鈴、抵抗なくすすれるとか凄いな。やっぱり食は香港にありってヤツか?

 

「…人数分のタッパ?中身は…ホイルに包まれたプチタコスだぜ。中身は茹で鳥に玉ネギにトマトに胡瓜、ピーナツの風味のタレ…バンバンジーかな、鈴?」

「日本式のね、一夏。ピーナツバター風味ね…コッチのタコスにはランチョンミートとスクランブルエッグ…スパム&エッグってヤツかしら?セシリア」

「モンティパイソンをリスペクトするとは…こちらの中身のポークは良く煮込まれていると思うのですが…この甘辛の味付けは…?」

「ああ、ソレかオルコットさん。コーラとショーユだと思う。スペアリブでそんな味付けのやつ、食ったことが有る…」

 

 

うん、お腹一杯だ。昼寝でも出来ればサイコーなんだが、後20分もすれば午後の授業だ。流石に遅刻するのは…

 

「このクッキーも美味いな!中にこんな紙が入ってたけど…じゃ、お先」

「ああ、そりゃフォーチュンクッキーってんだ。中のクジは…」

「何が書いてあ…」

「きっとわたくしのことが…」

「どうしたのよ、見せなさいよ…」

 

 

『I LOVE YOU』

 

…仮眠じゃない!このままじゃ永眠だ!

 

 

《ミンナで楽シクらんちたいむを過ごシテイタトコロに現レタ 決シテ他ノ男ガ枯レテイタワケデハナイ。シカシぴくしー、自分タチノスグ横二男ガ沸イテイルノニ、 ワザワザ我々ノ一夏ヲ落シニ来ル》

 

なあシノさん、正気に戻ってくれ!あと、お願いだから離しテ!ていうか袖口千切れたんですけど!?

 

《最初ハ気づイテナイノカシラート思イマシタガ、ダンダントワザトヤッテイルコトニ気ガツキマシタワ 嫌ガラセヲシテらいばる減ラシタイノカモシレナイデスガ 》

 

…オルコットさん、何で『ブルー・ティアーズ』展開してるの!?明らかに俺狙ってるよね!攻略対象じゃなくて攻撃対象?むしろ殲滅ですか!?

 

 

《オトコガ枯レテイル状態ジャナインダカラ、ソレゾレ近クニイルオトコトヤレバイイト思ウ ケドコイツハ露骨二我々ノ一夏バカリヲ狙ッテモッテイク》

 

お前も『甲龍』展開するのか鈴!3対1か鈴!いつのまにか一夏は居なくなってるぞ!?それでもやるのか鈴!

 

 

《《《イヤラシイ…》》》

 

 

←我々ノ一夏(画面外)

            

    ●←我々

         ■←茨(ピ)  ●← 我々   

    ●←我々     

 

俺はピクシーの代理人かよ!!強大な敵の前では手を組むのは王道だよな。『か、勘違いしないでよね!アンタを殺していいのは私だけなんだから!』ってヤツですか?じゃあ俺は『冷凍庫』様とか『細胞』様とかですかソーデスカ。ていうか、あの人も大変だよな。『ブルワーとか止めてくださいよ。真剣に台本書いてくださいよ』って言えないよな。ロイエンさんとかオオタさんも新たに録ったら『ブルワー』って言わされるのかしら、あの人。

 

「分かっているさ、お前は悪くない…ピクシーさんの恋心をかなえてやりたいと思った、そうなんだろう?」

 

…一夏を巡る環境は、ここ一月で大きく改善された。先輩たちは黒豹女の『穴埋め』の姿に大いに戦慄し、パイロット養成コースの皆さんは総復習に、整備科コースの皆さんは簪さんの『打鉄弐式』完成に目の色を変えるようになり、グルーピーまがいのコナカケなどする余裕すらなくなっていた。『あと1年で私たちはあの人とイヤでも向き合わざるを得なくなります。どうしても、学生のうちに彼女と戦える場を設けていただけませんか?…出来るだけのことは、するつもりです』…カナダ代表候補生にして3年生パイロット養成コースクラス代表、ダリル先輩が持ってきた黒豹女への果たし状…3年生総員分だった…を手渡しつつ、俺の手を握りながら向けてきた非社交的な鋭い視線は本当に震えが止まらなかった。

 

 

「悩みを打ち明けられる唯一ぬにのカウンセラーだもの、どうしたって頑張っちゃうわよね?」

 

…だが一方、『淑女協定』の面々は当面の敵が雲散霧消したおかげでやり場のないわだかまりを抱えることになった。一夏は相変わらず笛が鳴ろうがバグパイプが鳴ろうが銅鑼が鳴ろうが踊る気配もない。だれか見苦しい真似をしたのなら排撃、或いは脱退してソロで挑もうと思うところだろうが…皆良い子達なのだ。友人としては最高の存在であり…しかしながら恋敵なのだ。今日のランチタイムはヒネタ見方をするとしたら、暫定の順位をつけ、2位、3位は傾向と対策を十分にとりたいという思いから発生し…そしてピクシーはガス抜きのためにあのクジを仕組んだのだろう。この事態は一夏が一夏であり、少女が少女であるがゆえに起きてしまった悲劇なのだ。誰を恨むこともできない。

 

 

「あんな素敵な一夏さんですもの、ピクシーさんが恋してしまうのは仕方ありませんわ。ですが…」

 

…そっか。取りあえずバスケットの中に俺がゴミとかピクニックシート仕舞ってからにしてくれよな、な!?いいたいこともやりたいことも痛いほど分かる、分かる自分が痛いとも言うけどさ!だけどさ…

 

「「「ナイテ ワメイテ ジゴクニオチロ」」」

 

 

 

…誰にも当たれないからって、俺に当たるの、ヤメテクレマセン?

 

 

『お助けぇぇぇぇ!?』

『逃げるということは後ろ暗いことがあるということで宜しいですのね!』

『箒!双天牙月よ、使いなさい!』

「感謝する!」

 

アレかよ!?俺は淑女協定をより強固にするためのイケニエかよ!…一夏に気があるなら正正堂堂挑めよ、恨むぜピクシー!!…それとのほほんさん、今の俺の安全度は、変身コードが『913』のライダーぐらいだよ!!Ego鳴りっぱなしだよ!

 




あいぼう かたぼう おおべらぼう 

「『ああ。少し早いかもしれないが…頼む、智津子』…これで猿取君も何とか助かりそうだな」
「済まないな、ジュウゾウ…まあ、僕も行くとしよう」
「生き生きとしているな、アル。そんな姿は10年ぶりだ」
「…僕は、あの日以来悩み、迷い、悔やみ続けている…ただ、ここにいるとそんな事を忘れるくらい楽しくなれるのさ」
「…お互い、歳はとりたくないものだな」
「そうでもないさ。歳を取れたからこそ味わえる楽しみもある。楽しもうじゃないか、生きてさえいれば楽しめるはずさ」
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