俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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みおくるひとと たびだつひとと

「…アークライトか」
「フランクフルトは寒いね、エイブ…そろそろかい?」
「ああ、そろそろだ…わざわざご苦労なことだ、ココまで来るのは難儀しただろう」
「そうでもないさ、マッカランからジェットを飛ばせばあっという間だよ…技術の進歩とは、実に素晴らしいものだね」
「そんな事はない!私はあの子を…『醜き兵』を…」
「それが、お前の未練かい?」
「ああ…あの子は…」



「…そうか、『黒い雨』には『醜き兵』が、か」
「ああ。『黒い枝』からは外されてはいるが…恐らくは『ブリュンヒルデ』を…」
「…変っていないな、ドイツは。相変わらずのゲルマン人至上主義か」

「…すまない、本来は私がやるべきなのだろう…だが、だが…私の命は、もう…」
「なら、僕がやるよ、エイブ…作り手へのお灸、もう済まして有るんだろ?」
「ああ…だが猶予は与えてやった。警告に従い『醜き兵』を外しておけばそれでよし、そのままなら…」
「分かったよエイブ…エイブ?…エイブ!」



「お早うございます、博士!…どうしたんス?花粉症っス?」
「…亡霊に散々なじられたよ、『お前は何時私の未練を晴らすのか!?』ってさ…さあ、朝御飯を食べたらお仕事だ、明るく楽しく行こうじゃないか」


「…安心しろ、エイムズ。お前の懸念も、未練も、解決してみせる」



終点、起点、淑女たちの園にて

「貴様、教官はどこだ」

「…遠路はるばるやってきて第一声がソレですか少佐殿」

 

月曜日の放課後、俺はもう1りの転校生の応対をするべくモノレールの駅でたたずんでいた…ドイツから来るって聞いてたから嫌な予感はしてたけど、やっぱり貴女が来ましたか少佐殿。また俺をイケニエにしたんですか織斑先生。供物をリサイクルとかお釈迦様でもトップロープからミサイルキックするレベルですよ。

 

「お前とは話す舌を持たん。さっさと…」

「発声するのは舌じゃなくて喉じゃないんでしょうか。ま、いいんですが」

 

こんなギスギスとした会話を続けながらも俺にトラベルバッグを渡し、後を追いてくるあたり心細い部分も有るんだろう…まあ、俺たちよりも年下だろうからな。

 

「織斑センセは3りめの男子がクラスに来たから色々とお忙しいのよ…職員室に顔を出せば居られると…」

「何処だ、さっさと案内しろ!邪魔立てするとためにならんぞ!!」

「…今向かってますって…」

 

ああ、こんな感じでドイツでも粘着されてたのか…いや、粘着じゃないよな。何て言えばいいんだろ…

 

 

「たまには船旅ってのもいいだろ?すみれちゃん」

「カレーからドーバーまでだなんて余りにも短すぎないかしら?一郎さん…しかもまさか作業員で乗り込まされるなんて」

「良いですね、体を動かすのは。鬱屈した心が溶かされていくようです…撹乱のためですか。まさか髭まで剃られるとは思いませんでしたよ」

 

船舶会社の作業着姿の東洋人の紳士淑女、そして金髪、鳶色の眼の紳士は連絡船での出航の作業の後、缶ジュースを手に憩いの一時を過ごしていた。サイダーを呷ると東洋人の紳士は何とはなしに言葉を紡いでいく。

 

「もうそろそろ、貴方が乗るはずだったジェット機が我々の上を通過するはずです…貴方の席は、ネットオークションで何処の誰とも知らない方が落札されているはずです。」

「シャルル・ド・ゴール発デトロイト・メトロポリタン行…夫婦仲が宜しくないというのも、こういう時は功を奏するものですね」

「一体何が…」

 

その数瞬後、閃光と爆発音が空を包み、さして大きくない連絡船は木の葉のように大きく揺れた。

 

 

「どうやら、これが奥様の回答のようです…ざっと300人巻き込んでも宜しいとは、中々の烈婦ぶりですわね」

「…アレとは、結婚前も結婚後も褥を共にした事はありません、それに私は出来ないように処理しております」

「…では『ご子息』も」

「ええ、何処から種の都合をつけてきたのか…まあ、2,3心当たりはありますが」

 

 

船内で休憩を取っていた他の船員たちがおっとり刀で甲板へと駆けつけ、大声で叫びだす。その様をどこか人事のように眺めていた紳士と淑女は、にっこりと笑いながら金髪の紳士へと宣告した。

 

「それでは、駆除作業を開始させていただきます『ヘラクレス』…もう少しすればイギリスのコーストガードが来ます、それに便乗して僕達は雲隠れと行きましょう」

「日本には、『7つまでは神のうち』という言葉がありまして…気に病む必要はございません」

 

そして、『ヘラクレス』…金髪の紳士は、青ざめた顔で頷くばかりだった。

 

 

 

「…悪くないな、ココの食事は。まあ、私の許容範囲の崖っぷちだが」

「お褒めに預かり恐悦至極です、少佐殿。きっとドイツのディナーは我々の一歩先を行っておられるのでしょうね」

「フ…無論だ」

 

 

俺と少佐殿は早めの夕食を取っていた…ロシアンジョークを知らないのかよ自信満々の少佐殿…いや、まだお腹は余裕はあったんだけどさ…ツナトマトのスパゲティが丁度するりと胃袋の隙間に入り込んでいく、そんな感じだ。

 

 

『教官…教官!お久しぶりです!!ボーデヴィッヒです!!お会いしとうございました!!う、う、ううぅぅぅ…』

『…久しいな、ボーデヴィッヒ』

『先輩にハグとか…どこ中よ…』

 

あの後、職員室はちょっとした騒ぎになっていた。泣きじゃくりながら抱きつく少佐殿と頭を撫でる織斑先生…何ていうのかな、カッシュさんが涙流しながら感動してるのにウザそうに接するクロスさんってのは色々な意味で無いだろう。そしてそれに嫉妬するウォンさんってのはどうなんだろう…『腹が減ったろう、先に食事を取って来い』のお言葉で少佐殿は素直に食堂に向かわれたが、流石に5時半にメシは早い…まあ、冬なら当たり前の時間なんだけどさ、ウチの家じゃ。

 

 

 

「言っておくが、お前たちと馴れ合うつもりは無い。教官をドイツへお迎えするために私はここに来た、それだけだ」

「はあ」

 

…いやさ、俺はガキだから良く分からないけど織斑先生にだって都合とか契約とか有るんじゃないの?それガン無視して来てくれって言っても絶対無理なんじゃないの?そこいらの所どうなのよ?とりあえず唇の端のトンカツソースはぬぐったほうが宜しいんじゃないですか少佐殿?

…だが、俺の口から飛び出したのはそれとはまったく違うセリフだった。

 

「少佐殿は強いんですよね?この間俺が手合わせした大尉殿よりも遥かに」

「当たり前だ」

 

…何馬鹿なこと言ってやがるって顔ですね少佐殿。じゃあ、この質問にも答えられるんですよね?

 

「そんなに強いんなら、別に織斑先生からご指導ご鞭撻いただかなくても宜しいんじゃ?」

 

 

…彼女は強い、IS学園に入学する必要が無いほどに。だからこれ以上織斑先生の指導など受ける必要など無いはずだ。それを否定するなら彼女は弱いことになってしまう。

 

「!?いや…その…いや…だから…それはだな…」

「まあ少佐殿にも都合が有るんでしょう。お食事が済まされましたらお部屋にて身辺整理を行ないください」

 

 

まあ…織斑先生が一夏を置いてドイツに行かれることはないだろう。もしそうなったとしたら『じゃあ俺ドイツ行くから』って一夏も行きかねない。そうなったら俺はどうなる!あのアマゾネス共がどれだけ怒り狂うか分かったものじゃないぞ!?何とかしてデュノア君辺りにコロッと靡いてもらわないと!?

 

「俺はちょっと野暮用が有るんでおひとりでお願いしますね。地図は情報端末にあるんで…」

「…ああ、分かった…」

 

 

因みにデュノア君は午後のプールの授業を『熱が有る』ということで見学していた…まあ、休み時間もお昼時も群がってきた女子に辟易したんじゃないか?一夏も心配して『様子を見てる』ってことで放課後はデュノアくんに肩貸しながら部屋に引っ込んじゃったし。鼻血流しながら食い入るように見つめてたっけ、黛先輩…まあ、少佐殿と一夏はなるべく逢わせたくないのだ…その、3年前の一夏のことを思い出すと、特に…

 

「ところで…このピラフとスパゲティとサラダとポークカツの乗ったこのプレートだが…何故トルコライスと呼ばれているのだ?」

「まあ色々と説はありますが、トルコのケバブとサラダとピラフの乗ったプレートランチを模倣したんじゃないかなあって俺は思います」

「なるほど…わざわざドイツの国旗までピラフにあしらうとはな。このプディングも悪くない…まあ、ドイツとは雲泥の差だがな」

 

…そうですね。でも普通のトルコライスは新幹線型のお皿には盛られませんよね。

 

 

 

 

しかしなんなんだろうね、黛さんからのメール。『打鉄弐式について重大な事柄を会議します、関係者総員はAOAブースに集合』だなんて…装備もOSもFCSもあらかた完成したってのに…

 

 

『到着したか、エイブの未練は』

「ああ。その前日には『ヘラクレスの娘』もね…ハイジ、そっちはどうだい?」

『取りあえず『合併』の話はナシで。『業務提携』ってところが落とし所…今のデュノア社はいがみ合うアンフィスバエナよ。そんな状況じゃあ百害あって一利なし』

『…『ヘラクレス』は無謬ではないが、邪悪でもない…少なくとも、誰かを殺そうなどとは死者が出るまでは考えにもなかったろう。故にだ…もう一方を叩き潰し常山の蛇へと生まれ変わってもらうとしよう』

『同じ男としては、同情はするが…不器用な男だな』

『これで、駒は粗方揃ったかしら』

「…恐らくはね。The Day Is Coming」

『『『『『『『『『The Day Is Coming』』』』』』』』

 

 

『そういえば、整備施設で女子生徒に色々と手助けをしているそうじゃないか、アル』

『ミーナに詫びなきゃいけないことはしてないでしょうね、アル』

「…ゲスの勘繰りは止めてくれ。元々若いのが面白がってやり始めたことだ…まあ、乗りかかった船だ。何処まで行くのか差し入れ持参で確かめるのも老人の義務なのかもね」

 

 

「このままじゃ、誰も幸せになりませんよ」

「…短気は損気と思いますが、簪様」

 

いつものIS学園整備科修理施設AOAブース。1年生の整備科コース希望者、整備科コースの上級生の皆さん、先生たち、整備スタッフの皆さん…総勢200名以上の関係者が一同に集合していた。

 

「…だけど…でも…」

 

そしてその中心にいたのは簪さんだった。昨日俺のミサイルの演習を見学すると脱兎の勢いでブースへと転がり込み、ローテで詰めていた子と共に『山嵐』の仕様とOS 、FCSとの相性を確認し、不具合を一掃し…ほぼ完璧な状態に仕上げていたのだった。本当に凄いよ、簪さん。天は二物を与えずなんていうけど与える人には惜しみなく当たるモンなんだな、ちょっとどころじゃないくらい不公平だな、天。俺にも何かくださいよ、天。

 

「デモもサボタージュも無いです!中途半端なものを作り上げればここにいる皆も落ち込むんです!」

 

だが、皆の中心であった簪さんは今、皆に詰め寄られながら翻意を促され続けている…そしてそれは、他でもない『打鉄弐式』のせいであった。

 

(…この状況、どうすりゃいいのよ…)

 

「まあまあセニョリータ、スキっ腹じゃあマトモな結論なんて出ないよ出ないよ!チーズやサルサ、野菜タップリのタコスでもかるーくつまみなよつまみなよ!アミーゴだってそう思うだろ思うだろ?」

 

…そうだね、ありがとうゲスジジイ。わざわざ大皿に山盛りのタコス用意してくれるとか涙が出るほど嬉しいよ。AOAスタッフも大皿に山盛りタコス持ってきてるし、皆満腹になること請け合いだね。皆カリカリしてるもんね…でもさ、なんでメキシカンルックなのよゲスジジイ?なんだよそのポンチョやバカでかい付け髭は?アミーゴって俺のことか?『友達のおおしおへいはちろうです』ネタでも振ってほしいのか?

 

 

「有難うございます…皆食べて。一度落ちつきましょう…」

「あるちゃんありがとー!かんちゃんも、ヒットした頭を一度おちつけなよー」

 

だね、一度雪だるまの話でもして落ち着こうよ皆…まさかゲスジジイの手作りとかじゃないだろうなタコス。ピクシーも大概だったけど輪をかけてアレだもんな、ゲスジジイは。

 

 

 

「エッキシ!?…フフフ…猿取君が噂をしてるのれす!コレはもう頑張るしかないのれす!」

 

ミシガン州デトロイト。ラスベガスがIS開発のメッカであるとするのなら、デトロイトはISビジネスのメッカであった。名銃『レッドパレット』を製作したクラウス社、ISスーツ作成では欧米では確固たる地位を築き上げたミューレイ、イングリッド…そして徹底的な再開発を行なったAOAの企業城下町であった。多数のアリーナにて繰り広げられる試合、試験、実験。それを観戦する観客に、企業に、メディアに対する数々の産業…一時期破産状態にまで陥ったデトロイト市は完全に立ち直り、フォード、クライスラー、GMが牛耳っていたときよりも遥かに多くの富が、欲が、そして夢がこの町に渦巻いている。

 

「…にしても、ホントにこんな恐ろしいものを組み込むんだ。トレイニーのボーヤのために…ナタルと『シンセサイザー』込みのイーリが組んで勝てない相手が来るって上は判断してるわけ?」

「かなりの確率でれす」

 

ミシガンセントラル駅廃墟を爆破解体し、外観は寸分たがわぬ壮麗を誇る『アーマメンツ・オブ・アメリカ』デトロイト支社。地下の電算機室で一心不乱にプログラムを打ち込み続けるスタッフたちを眺めながら、黒人の女性とインド系の小柄な女性カウンセラー…『ピクシー』は言葉を続けていく。

 

「で、『プライムバル』のトリガーは何にしたの?闘志?それとも恐怖?」

「…理想、信念れす」

 

 

…例えばだ、ガンタンクはキャタピラと大砲のついた戦車モドキだからガンタンクなのだ。キャタピラも大砲もない二足歩行の接近戦用モビルスーツを『ガンタンク』と名づけるような真似はバリさんもカトキさんもシドミドさんでもやらかさないはずだ。

 

「やっぱり、無茶だってかんちゃん。今の『打鉄弐式』とかんちゃんは合わないよ…くー、ハラペーニョたっぷりで辛くておいしー!ありがとアルちゃん!」

 

同じようにだ。パイロットにだって得手不得手は有るだろう。『赤いから乗れ』って言われてシャーさんがガンキャノンに乗るだろうか?例え幼女がセットになっていたとしても『チェンジ』って言い出しかねない。ていうかガルマさん以降マトモな友人なんて1りもいないし実の妹には銃向けられるし彼女といえばインド人以降地雷ばっかりだしほんとシャーさんリアルボロボロだよな。

 

「…仕方ないじゃない。もうそろそろ本格的な訓練が始まるし、後1月で学年別個人トーナメントよ…こっちのガーリックシュリンプタコスも、絶品ね…」

 

で、だ。『打鉄弐式』は名機と名高い『打鉄』の後継機であり…防御を主体とした基本コンセプトは何ら変っていない。扱いやすさ、整備のしやすさは何ら変らず…『打鉄』の機動力は『ラファール』に、攻撃力は『テンペスタ』や『メイルシュトローム』に、そして総合力では『タイガー・シャーク』にどうしても見劣ってしまう。扱いやすいというのは裏を返せばプロには物足りない仕上がりだ、というのは口さがないAOAスタッフたちの言であった。…バカでも使えるIS作ってる誰かさんには言われたくないだろうけどさ!そんなIS乗ってる俺はもっと何もいえないけどさ!

 

 

 

 

「パッケージ(換装装備)で何とか対応できないものなんでしょうか?布仏先輩、黛先輩。簡単な改修だったらここでも出来るでしょうし…」

「どれだけアメリカのISが恵まれた設計か分からないんですね、猿取君」

「アメリカ産の『タイガー・シャーク』がシェアNo.1を誇る理由…アークライト博士は言及されてはおられませんでしたが、フレーム構造の優秀さも挙げられるのです。『打鉄』が換装装備(パッケージ)で発揮できる機能を簡単な改修で遜色ないレベルで発揮できる…どれだけ凄いかわからないでしょう?」

 

いや、そんな怖い顔で力説されても意味わかんないんですけど…そんな2りの言葉を引き継ぐように簪さんと赤髪の樽のような体型のAOAスタッフが言葉を紡ぐ。

 

「『打鉄』も『ラファール・リヴァイブ』も『メイルシュトローム』も機体そのものの拡張性は、ほとんどないの。狙撃や防御に特化させたいならパッケージ(換装装備)が必要なの。それに、ほとんどの試合ではパッケージ(換装装備)の使用はレギュレーション違反よ…」

「一方我々の設計した『タイガー・シャーク』、及び『ファング・クエイク』は設計に余裕を持たせておりますので大規模な改造、或いは換装装備(パッケージ)を施さなくとも十分にユーザーの要求に応えられるのです」

「そんでもってメガネちゃんのポジはタンカー(盾役)じゃなくアタッカー(矛役)なのさ!タンカー重視の『打鉄弐式』とはちょーっと相性が悪い!例えるならご飯のおかずに野菜サラダ!かといって今から機体を改造し始めたら何時までかかるか分からない!学年別個人トーナメントが一月後に控えるクラス代表としては、何時までもセニョリータたちを拘束させて訓練に割く時間を浪費させたくない!泣けるね泣けるねアミーゴ!」

 

…説明ありがとうゲスジジイ。だからクッチャクッチャしながら喋るのはやめてくれゲスジジイ。

 

「…パイロットコース志望の子達まで、参加してくれているのに…猿取君も、『アンカー・スチーム』の設計については関わってはいないんでしょ?だったら、私も今の『打鉄弐式』で頑張ってみせる」

 

簪さんの気持ちも分かる。でも、そこで妥協したら色々と不味いんじゃなかろうか。まだ初期化(フォーマット)や最適化処理(フィッティング)は行なわれていないのだ。今ならまだ間に合いそうな気もする。

 

「もう少し手を加えるべきだと思う。このままだと誰もハッピーになれなさそう…」

「説明と補足をさせていただきますと、猿取君が『アンカー・スチーム』の初期化(フォーマット)、最適化処理(フィッティング)を行って以降現在までに247箇所を改修しております。これは『ファング・クエイク』の流れを汲むISであるからこそであり、最適化処理以降の他のISであれば同工程を行なった場合ほぼ倍の時間はかかるといって過言ではないでしょう。今手を加えるほうが結局は時間の節約になります」

 

…ああ、やっぱりまだ納得してないや簪さん。でもさ、やっぱりココまで来たんだから中途半端は宜しくないんじゃないのかな…ん?どうしたののほほんさん?

 

「かんちゃん、今の『打鉄弐式』で、今のいばらんと戦っても勝てる自信、ある?無いならもうちょっとでもいじったほうが…」

「有るわ!だから…」

「じゃあ戦いだ!『思い立ったが運の尽き』なんて名セリフを知らないのかいメガネちゃん?」

「では、第1アリーナを準備しておきましょう。明日の放課後で良いですね簪様、猿取君?」

「分かりました、虚さん」

 

…えっ?何で俺が巻き込まれてるの?何で皆俺を見つめてるの?何その連携、布仏先輩とのほほんさんとゲスジジイ、皆してどうやって意思の疎通したの?瞼パチパチでモールス送ったの?

 

「返事はどうしました、猿取君?」

「まさかここで『イヤです』なんて言わないよねアミーゴ?今や『打鉄弐式』開発スタッフの希望の星なんだよアミーゴ?」

 

 

 

 

「はい、分かりました…」

 

 

…俺の訓練の戦績は、あんまり良くない。一夏にはトントン、セシリアさんや鈴には負け越している。一方黒豹女との『穴埋め』で先陣を切った簪さんの動きは中々のものだったそうだ。

 

「ねえ布仏さん、どうしてあそこで俺の名前出したのよ?俺は弱いし、勝てる自信だってないよ…」

「いばらん、本当にいばらんが弱いなら…何で『ゴーレム』が乱入してきたとき、逃げなかったの?」

 

星が瞬く寮への道。恨み節を吐く俺にのほほんさんはいつもの笑みを消し、刺すような視線を俺に向けてくる…なんで、って言われてもなぁ…

 

「…分かんない。たださ、あそこで逃げたら一緒に『木偶』と戦ってた一夏やセシリアさんや鈴、後ろにいたシノさんや簪さんや山田先生がどうなったのか考えたくなかった…みんながいたから、ああいう風に戦えたんだ」

 

…何処までオクビョーモノなんだろうな、俺は。逃げることすら恐れるなんて。

 

「今回は大丈夫だよ、いばらん!かんちゃんは優しいし、試合だから死ぬことは無いって!モチロン負けちゃダメだよ!負けたら怒るから!」

「気楽に言ってくれるよ、ホント…」

 

いつもの笑顔を浮かべたのほほんさんにゲンナリしながら言葉を返すと俺はズルズルと体を引きずりながら家路を進む…簪さんは明日のためにブースに篭り、その他のスタッフは明日の作戦会議のために『ジョブ&ホビー』へと篭った…ホント皆元気だよな…ん?シノさんどうしたんだ?

 

「シノさんどうしたん?今の時間は食事なんじゃ…」

「…いや、まだ一夏が食堂に顔を出してないらしい。デュノア君もな。済まないが、食事を持っていってくれないか?」

「イイの?持って行ってあげなくて…」

「…デュノア君もいるからな。流石に私が行くのもアレだろう」

 

…だな。意外と空気読めるんだなシノさん。俺が言うのもアレだけどさ。

 

 

…結局、俺はガキであり、ガキでしかなかった。

 

子を思う親は、どれだけの鬼になれるかっていうことも知らなかった。

無垢さとはどれだけ脆く、ソレにつけ込む大人はどれだけ汚らしいかっていうことも知らなかった。

 

…俺は何も知らなかった。

 




姉と妹と、そして狢と

「…そう、明日完成するんだ。その後猿取君と練習試合ね。何も無いとは思うけど、気をつけなさいね」
『…有難う。ねえ、姉さん…いつでも良いんだけど、戦ってくれないかな。その、真剣に』
「良いわよ。ただし!機体も自分も万全じゃないと怒るから」
『…わかってる。じゃ、お休み』
「…おやすみ」

「ふう…ど、どうしよう!?か、簪ちゃんと戦う!?モチロン勝つけどきっとあのタラシがそこにつけ込むはずよ!?『俺が癒してあげるよ』とかいいながら汚すのね!?いえむしろ戦う前よ!?『会長が知らないことを知ってる、それだけで勝率はぐんと高くなるよ』とかいいながら…」

久々の妹との電話の後、ジタバタと生徒会室を転がりながら生徒会長…更識楯無はあらぬ妄想に身を捩じらせていた。それは、純真無垢な乙女そのものであり、もし第3者が目撃したとしたらただでさえ低下した彼女の株は回復不能なほどに下がっていたであろう…その電話によって中断されなかったとしたら。

「もしもし?…分かった。生存者は絶望的、ね…いいわ。よろしく頼むわ…ただし、不要の殺生は絶対にダメよ。それだけは約束なさい…はい、じゃあね」

「ホント、あいつらほど熱心で、無欲で…始末におえない奴らもいないわよね…」
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