俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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がーるず・とーく

「先輩、どうしたんですか…先輩らしくないです」
「嬉しいのさ…あいつが、あそこまで他人を思いやれることが。私は…保護者失格だからな」
「そんな事は無いです!センパイは…」
「リップサービスは不要だ。私は…最低最悪の女だ…」


ぼーいず・とーく

「そっか…汗をぬぐおうとして抵抗されたら、そこでコルセットが外れたのかデュノアさん」

「まさか女とは思わなかったからさ…明日もう一回キチンと謝るよ、俺」

 

寝付けなかった俺たちは、消灯後に愚にもつかないことを話し続けていた…いや、デュノアさん誤魔化してくれて有難う、ホント有難う…ばれてたら血を見てたわ、主に俺が被害者で。

 

「どうしたよ、一夏…眠れないのは分かるけどさ」

「ホント、ガキだよな俺…千冬姉と山田先生、ジイさんたちAOAはシャルを守るためにしたことなのに、俺…」

 

まだ時計は翌日にはなっていない位の時間…中1の時以来か?ここまでテンションの下がった一夏は。月明かりでも分かるくらいの落ち込みようだ。

 

「…千冬姉が俺に嘘つくなんて…俺、千冬姉に信用されてないのかな…」

《そうだ、織斑千冬は最低の女なんだよ…》

 

すっげえイイ笑顔の亡霊を脳内から振り払う。原作でもどの映画でも小説でも死んでしまう運命なんてアワレ過ぎるがテレビと小説に関しては因果応報なんだ、誘惑にのるわけにはいかないんだ!

 

「…なあ、先生たちにとって重要だったのはデュノアさんの命を守ることだった、そうだよな?そのためにはどうしても一夏が重要だった、そして一夏を信用してたんだと思う」

「お、俺を!?」

 

…ここで織斑先生をディスるのは楽だ。でも、そんな事をすれば一夏は俺を信頼してくれなくなる。一夏は織斑先生をけなしたいんじゃない、むしろ逆なんだ、何とかして信用したいんだ…こういうビミョーなところも分かるようになったのは、山田先生のお陰だよな、ウン。

 

「デュノア君が男として入学するためには、どうしても裏打ちが必要だよな?一番いいのはフランス政府が大々的に発表することだろうけど、そんな事をしたら今度は女性として生きる時、障害が出ちゃう…少なくとも2度とフランスには戻れないだろ。お前が太鼓判を押せば他の生徒たちだって信じるだろ」

 

ゲンナリした表情を意識しながら俺は一夏に言葉を続けていく…何とか『淑女協定』とかデュノア君にときめいてくれないといけないんだ!

 

「もし俺がフランスに向かってたらどうなってたと思う?俺はビビリで疑り深いからさ、デュノア君に会ったら絶対『女性じゃないんですか!?』って騒いでたと思う。それじゃ何もかも台無しだろ?だからさ、信用してくれる一夏が重要だったんだ」

「…ありがとな、茨…命を賭けて、シャルの両親はシャルを守ってる…ホント、ウチとは大違いだ。千冬姉を、俺を捨てた俺の両親とは大違いだ」

 

 

頼む、いつもの一夏に戻ってくれ!…なあ、捨てられた子犬みたいな表情をすんなよ。ゲスジジイに啖呵切った時の威勢はどこに行ったんだよ。

 

 

「なあ、一夏。もしさ…一夏のお父さんやお母さんがそんな無責任な親だったら、織斑先生が代表になったり、ブリュンヒルデになった時点で名乗り出てくると思う。ソレをしないってことは、きっと会いたくても会えない理由があるんだよ」

「…そうかな」

「そうだよ!お金に目がくらんだ見苦しい大人なんて掃いて捨てるほどいるだろ!」

 

よし、戻ってきた戻ってきた。ココからだよ、織斑先生にベッタリの生き方を少しでも修正しなきゃダメなんだ!

 

「…どうしたら、そんな汚い大人にならずに大人になれるかな」

「安定した生活と、家庭があることだろ」

「そ、そうなのか!?」

 

生き方は自分にしか選べない。俺は…AOAやらアメリカやらの押し付けてきた『カンパ』やら黒豹女の件でがんじがらめになってもおかしくはなかった。それでも選べることができるのは、AOAの皆が望むデータを提供できている、あるいは好き勝手にやらせようじゃないかってゲスジジイ辺りが説き伏せたのかもしれない…だからこそ、一夏だってしがらみの無い人生を送るべきなんだ。

 

「ジーちゃん曰く『貧すれば鈍す、心豊かで居たいなら懐に余裕が無いといけない。それと、ワシが今まで頑張ってこれたのは、バーちゃんやすみれ、茨がいたからだ』ってさ…まあ、男たるもの会社員でも自営でもイイから家族養えるだけの収入は確保したいよな…」

「だよな…中2の時は『調理師免許でも取って、鈴の親父さんの店で働こうかな』なんて思ってたんだけど、今から考えれば虫が良すぎたよな…」

 

鈴…なんで中国に戻ったんだよ!思いっきりフラグ潰してるじゃん鈴!それと良かったなシノさんにオルコットさん!

 

 

「一夏、イーリさんを後一歩まで追い詰めた山田先生に一夏は勝てたんだろ?だったら、3年みっちり頑張れば日本暫定代表くらいにはなれそうじゃないか!狙ってみようぜ代表の座!」

「む、無茶言うなよ!いきなり現れた俺に山田先生はテンパって壁に激突して、俺が勝ちになったんだ!俺が千冬姉みたいに…」

 

そうだったのか!山田先生ってテンパりやすいけどそこまでとは思いませんでしたよ。アレですか?俺の時は怒りのスーパーモードで黒豹女の時はハイパーモードだったってことですか山田先生。

 

「そりゃあ織斑先生みたいにいきなりなるのは無理さ。でもさ、織斑先生だって最初から強かったわけじゃないだろ?だったら狙う価値は十分に有るぜ!」

 

そういえば、どうして、織斑先生は日本代表になったんだろう、選ばれたんだろう。10年前ってことは俺たちと同い年だったはずだ。それから2年後に第1回『モンドグロッソ』が開催、『ブリュンヒルデ』になったんだけど…どうしてだ?篠ノ之博士が推薦したのか?でも10代20代の女性の武芸の達人なら、他にもはいて捨てるほどいただろうし…

 

「…だな。やっぱり茨も、茨のジーちゃんたちも格が違うな…今日は疲れた、もう寝ようぜ…」

「かなぁ…俺もジーちゃんもビビリだよ」

 

だな…寝よう、今日はもう疲れたよな、一夏。

 

 

 

「無事に着いたわね『ハーク』。アルが心配していたわ…お嬢さんは無事にIS学園で保護したそうよ」

「有難うございます…対価はデュノア社全てと私の命。スタッフの皆はどうか…」

 

『アーマメンツ・オブ・アメリカ』本社社長室。デュノア社社長室長が青ざめた表情で、微笑を浮かべる東洋人の淑女に付き添われながら退出していったのを横目で確認し、フカフカの椅子に腰掛けた老女…AOA代表取締役社長、アーデルハイド・エクスラー・アルブレヒツベルガーは、ブラッドウッドのデスク越しに憔悴した『狂王』…デュノア社社長を睨みつけると、事も無げに言葉を続けていく。

 

「死ぬんでしょ『ハーク』?死んだ後の事なんて気にすること無いわ。AOAを裏切った連中なんて生かしておく道理あるのかしら?少なくとも連中の居場所なんて用意する気はないわよ」

「…バススロット(拡張領域)の技術を持ち逃げした彼らをそこまで憎んでいるのですか」

「…社長っていうのは社員の命を預かってるのよ。例え無理矢理押し付けられた座でもね。そういう目が出来るなら生きてみなさい、見苦しい生でも、カッコいい死より遥かにマシよ…言っておくけど、私たちからのプレゼントよ、あれは。クリーンなあなたたちが発表したほうがこじれなくていいでしょ?」

 

殺気立った『狂王』に微笑みかけると、老女はデスク下の冷蔵庫からキリキリに冷えた缶ビールを2本取り出し、一本を『狂王』に渡しながら事も無げに言葉を続けていく。

 

「乾杯しましょう、デュノア社長。副社長とご子息…そして『墨守派』の冥福を祈って」

 

 

『お終いだよ、さっさと降伏しなよ少佐殿』

『ふざけるな、この卑怯者!』

 

アリーナの向こう側にある機体…少佐殿のISはあちこちから火花を上げている…ヒキョウくさい手ではあったが、ある意味自業自得だろう。あ、足もスラスターも完全に砕けてらぁ、アレじゃマトモに動けねぇわ。

 

『一瞬の油断が命取り、調子ぶっこきすぎた結果だよ少佐殿』

 

俺はそう吐き捨てると、『エニーセブン』を憎悪に燃える少佐殿の顔面に突きつけ、引金を引く…絶対防御があるんだ、死ぬことはねーけどタンコブ位はできるかな…などと考えていた俺はうぬぼれていたのだろう。

 

 

『ギギギ…ギァァァァァ!!』

 

ドロリと、少佐殿の纏うISが溶け、その姿は織斑先生の、そしてその纏っていた『暮桜』へと変貌する。

 

(あ、終わった)

 

そして、その得物が俺という血袋を縦に真っ二つにし、俺はハラワタを、脳髄を、ありとあらゆる物をアリーナにぶちまけながらくたばった。

 

『ギギ。ギギギ』

 

…そして、『暮桜』はまた、ドロリと溶け…その後には少佐殿が身に付けていたレッグバンドしか残っていなかった。

 

 

 

(…夢か)

 

布団から跳ね上がった俺は、漏れでる日の出の光をカーテンの隙間から確認し、安堵のため息を漏らしていた。

 

(だよな…俺がこんなことしてるなんて気付いたら、織斑先生が生かしておくわけないか)

 

御免なさい織斑先生、俺は貴女の最愛の人との破局を望んでいます。

御免なさい織斑先生、俺は貴女を慕う女性が貴女を射止めることを望んでいます。

御免なさい織斑先生、俺は貴女を慕う女性を何度も何度も抱いています。

 

「最悪だ…ほんとに最低最悪だ…」

「ど、どうした茨!?」

 

心配そうに俺を見つめる一夏。止してくれ、俺にそんな待遇はいらないんだ。

 

「おっかない夢を見たんだ、一夏。少佐殿…ドイツから来る転校生と戦ってて…後一歩って所まで追い詰めたら…急に…」

「千冬姉の『暮桜』に化けて、真っ二つにされて…その子も消えた…いや、ISに喰われた…」

 

な、なんだよ一夏!?お前何時から人の心が読めるようになったんだ…いや、違う!

 

「ま、まさか一夏も同じ夢を見てたのか!?」

「…ああ。怖かった…それだけ、あの子は恨んでるんだろうな、俺を…」

 

そう呟いて顔を覆う一夏を尻目に、俺は震えが止まらずにいた。

 

(鈴と殺しあう夢を見た時、鈴のISは夢で見たままの戦い方で…そしてすぐに戦うことになった)

 

いつもよりも、左手の親指に輝くスマイリーフェイスの指輪が重く、そしてきつく感じてしまう。

 

…なあ相棒、それに『白式』。お前たちがこの夢を見せているのか?

お前は一体、俺たちに何をさせたいんだ?

 

目ざまし代わりにセットしていたテレビのタイマーが点き、公営放送が朝のニュースを流していく。

 

 

…トップニュースは、フランスの航空会社、ヌーベルフランスのアメリカへの定期便の爆発事故、そしてデュノア社の副社長とその4つの息子の食中毒による死亡事故だった。

 

 

 

『ヘラクレス』の件は片付いたようだな』

『ええ。ゴーゴーの木に鈴生りに生った『墨守派』の皆様の代わりに、ウチの戦車や航空機畑の面子を送り込む予定…それと、第3世代装備はやっぱり完成していたそうよ。『幸福』だなんて…因果な名前ね』

『イグニッション・プランなど夢の正夢に過ぎんということを『狂王』は知っていたか…ドイツやイタリアは愕然とするだろうがな』

「問題はドイツ、そして『醜き兵』だ。どう考えてもアレはベビーフェイスを殺しに送り込まれている…『エイブの未練』にそこまでの敵意は無いとしてもだ」

『そこまでブリュンヒルデを憎むっつーのもな…黄色い猿扱いすりゃあどれだけ酷ぇ目にあうか分かるモンなんだが』

『矜持とは、一歩間違えれば驕慢でしかない。エイブは執念深い男だった…そういう手合いを許すはずも無い。アル、十分に注意しろよ…黙って食べたゼリービーンズのこと10年間根に持ってた男だ、どんなしっぺ返しがくることか…』

「僕達が子供の時は甘いものは貴重だったろ?例えステイツであろうとも、ね」

 




まさゆめ さかゆめ ゆめのゆめ

「またか…バーバウズ…」

用意された部屋は2人部屋だったが、住人は自分しかいない…昨日抱いていた優越感を呪わしく思い…ルームメイトがいないことを心底感謝しながら、ラウラ・ボーデヴィッヒは毛布で顔を覆う。

「貴女は、『人間になれ』という…だが、それにどれだけの意味があった!?あなたは優しく、美しく…そして残酷だった!私たちは強さを失ったことで無価値になり、ブリュンヒルデによって鍛えられ、強さを取り戻し価値を取り戻した!貴女は…私を、私たちをどうしたかったんだ!?」

怨嗟の言葉を吐き、真意を問いただせないことに苛立ちながらラウラ・ボーデヴィッヒはただ涙を流し続けていた。


涙の意味を、理解しないまま。
彼女は自分の何だったのか、知らないまま。
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