「ココもか…ったく、死後硬直はまだ解けてねぇ、時間的にいやあ大体2日前…吊ってた他ン所のホトケさんと同じ位か」
「警部!デュノア社の背任罪のタレこみ…コレはコロシもコミになりそうですね!一体あの東洋人ドコの…っつう!」
「滅多なことを言うんじゃねぇ!まずは鑑識待ちだ…言っただろ?ありゃあ人間じゃねえ、化けモンだ…思うに、足はデネェだろ、他ん所と同じように」
「…ここなら出るかもしれないじゃないですか、警部。まさかあの東洋人が…」
「…そんなドジ踏むヤツなら、俺が真っ先にふんじばってらぁ…」
「…いやいや今回も人使いが荒い…ふむ、次はドイツですか…乞い願わくは、ヒトデナシ以外は誰も殺さず済みますように、私が殺したヒトデナシがどうか迷いませんように…どうか茨が、殺しも殺されもせず人生を全うできますように」
『グッドモーニング、アル。こっちはグッドナイトの時間だがね』
「グッドモーニング…『打鉄弐式』の件だが、『プロヴィデンス』を使い圧倒する予定だ」
『へぇ…アレは軍事用のシステムよ。手の内を晒して大丈夫?』
「学園の生徒たちにはいい経験になるだろう、浮ついた気持ちは…」
『それだけじゃないだろう?大方、『醜き兵』辺りが疼いて噛み付きに来るんじゃないかって読みか?』
「そうだ。アレは危険だ。理事長夫婦と『ブリュンヒルデ』の合意は得た。』
『…絶対に助けてくれ、アル』
「分かっている…もし見捨てたとしたらその時は我々は終わりだ」
●
朝のSHR。ただ一言『ラウラ・ボーデヴィッヒ』と自己紹介を行なった転校生の少女は、一夏の目の前で立ち止まると憎悪に燃えた瞳を輝かせ…右手を振り上げた。一方の一夏は達観した表情を浮かべたまま机から動こうとしない。
(いけない、このままでは…)
一夏自身、第二回『モンドグロッソ』の件は自身の責任だと自嘲していた。事件のあらましを知らない者なら一夏に当り散らすだろうし、実際にいわれの無いそしりを受けたこともあったそうだ…朝食時、茨はオムレツを飲み込むと『正直、中学の入学式の時の一夏はかなりヤバかった。仲良く出来たのは冗談抜きで奇跡だった』いつものボヤキとは違う、真剣な表情で言葉を紡いでいた…鈴がもっともらしい顔でうなづいていた事は、後で茨から根掘り葉掘り聞くことで許してやろう。
「もし一夏さんを打擲なされるなら、非常に不味いことになりますわよボーデヴィッヒ『少佐』」
「それは穿った見方だよセシリアさん。軍人、しかも士官が他国の民間人に暴行したら一発で懲戒免職だよ。そんな向こう見ずなことをするわけ無いよね、ボーデヴィッヒ『少佐』?」
…イギリスもフランスもドイツに含むところがあるのかどうかは知らないがナイスフォローだ、セシリアにデュノアさん。一方自分がどれだけ剣呑なことをやらかそうとしたのか『少佐』殿は遅まきながら気付いてしまったらしい。冷汗を流しながら視線をぐらつかせている…すまないが自分のまいた種だ、きちんと刈り取ってくれ。
「一夏と握手したいんだろ、少佐殿?わざわざ振りかぶらなくていいよ。一夏、女性に先に手を出させるのはどうよ?」
「あ、ああ…よろしくな少佐殿」
…そういえば茨はGWに少佐殿と試合をしたそうだ…少なくとも悪感情は抱いていないのか…それともアレか?日本の男の多くが罹患しているとかいう例のコンプレックス持ちなのか?茨。
「…よろしく…頼む…」
「どういうことだ説明しろ!」
「どういうことって…イタイイタイ引っ張らないで引っ張らないで!」
「がんばれいばらんー」
SHRが終わり、先生たちが職員室に戻っていったのを見計らったように少佐殿は茨を引きずり出していった。手を振る布仏さんにほっこりしている隙にセシリアとデュノアさんが一夏の側にいた…いつもながら侮れんな、セシリア。それとデュノアさん、イヤに近いぞ。いつまでも男装をするわけにもいけないんだ。一夏にあらぬ噂が立ったらどうするとか思わないのか?
「ごめんな二人とも…あの子が怒るのは無理ないんだ。俺は…」
「気にする必要は御座いませんわ。事実を知らないのは私たちも同じ、それなのに一方的に暴力を振るおうなど…」
「川向こうの野蛮人呼ばわりする気はないけど、もう少し思慮深くあるべきだよ、彼女は」
「一夏…一体、何があったんだ?その…3年前」
「悪い、箒…まだ何もいえない。キチンと説明するからさ、皆に。だから今日は勘弁してくれ…シャル、そっちこそ大丈夫なのか?ニュースで、その…」
「大丈夫、アレがアークライト博士の言っていた『落とし前』だと思う…まだまだ混乱は続くと思うけど。そろそろ先生が来るよ、準備をしよう」
血生臭い話題を早々に切り上げた私たちは机に向かい、授業の準備を始めていく。
…きっと私の気のせいだったんだろう、一瞬だけ織斑先生が、血も凍るような視線を少佐殿に向けていたのは。
「ところで布仏さん、どこにメールを打っていたんだ?」
「かんちゃんに。あのままだといばらん教室に戻って来れなさそうだったから助けてあげてって」
△
「あ、猿取君のところに行くんだ。麗しの君によろしくね」
「そ、そんなんじゃないわよ沢渡さん」
布仏本音からのメールに顔を顰めると、クラスメイトの冷やかしを流しつつ更識簪は廊下に出、キョロキョロと周りを眺め、意中の相手を見つけ出す。
(べ、別になんとも思ってないけど…何時もお世話になってるし、これくらいはしないとね…茨君もお人よしよね、接待試合の相手なんて適当にあしらえばいいのに…)
簪は廊下の突き当たりで腰を抜かしていた茨を見つけ、声をかけようとした…が、織斑千冬とラウラ・ボーデヴィッヒが仁王立ちしながら囲んでいる姿に足を止めてしまっていた。
『どういうことだ!?顔に…相手をしてやれ…当てられませんでした…うまれ…』
(ま、まさか…茨君!?ソッチの接待もしてたっていうの!?いやらしい…いやらしいわ!)
…さて、世襲が世間において認められるのは、教育が親に、或いは兄や姉から授けられるという観念があるからである。更識簪もその例に漏れず深窓に生まれ、両親の、家令たちの、そして実姉である更識楯無の薫陶を受け育ってきた。器用万能の姉が異常なだけであり、白眉の尊称は受けてしかるべき女子であろう。
(でもあんなに嫌がってる…まさか!?…女の子から無理矢理!?写真とか動画とか撮られて!?)
…であるが、物事にはメリットとデメリットがある。性的なものを忌避しがちな上流階級において幸か不幸か更識簪は好奇心が強く、知りたい情報を手に入れるだけの能力も有り、意思もあり、姉が自身の側近…布仏虚から借り受けてきた多種多様な『参考資料』も容易に閲覧できた。
※ ダイジェストでお楽しみください
『分かっているだろうが、コレを口外するのならこの映像をばら撒くからな…随分とフニャフニャじゃあないか』
『ダメです少佐。こいつもう起ちませんよ』
『もう無理…煙も出ないよぉ…連続10回なんて…』
『ふん…男は子供を仕込む機械なんだ、ソレができないのなら『処女』を頂こうか』
『え?…ひぎぃ!!?』
『凄いです少佐!またカチカチになりました!』
『もぉやだよぉ…何で…ただ試合するだけって聞いたのに…何でこんなことするんだよぉ…』
『お前をパパにするんだよ』
『私がママになるんだよ』
(かわいそうな茨君…私が救ってあげる!!)
…耳年増になってしまうのは、まあ、むべなるかなといったところであろうか…
■
「どういうことだ!なぜアイツはクラスメイトから信頼を勝ち得ている!?教官の顔に…」
「鬼の首みたいに過去に粘着してればそうなんでしょうけど…正直、こだわってる子はいないですよ。ていうか、俺らにとっちゃあ小6の話ですよ…」
「お前の話などどうでもいい!」
血相を変えて詰め寄る少佐殿を落ち着けるべく、俺は言葉を続けていく…いや、『ブリュンヒルデの栄光を台無しにした』なんて考えてる向きもいなかった訳ではない。だが、入学以降そういう批判の視線は少しづつ、しかし確実に減ってきていた。本人の性格、能力、そして努力に外見…及ばずながら俺もそれに一役買わせてもらっている。AOAの『穴埋め』や『参加賞』の配布情報、或いは『特別講習』の話は一夏を通して他のクラスや上級生の皆さんにお伝えすることにしているのだ。
『ホントにいいのか?その、お前が言ったほうが…』
『虎の威を借る狐にされるのは俺はいやだよ。頼む!皆だって助かるし1組の情報を1組代表が他のクラスに教えるのは自然だろうし織斑先生だってお前が皆の役に立ってる姿を見れば喜ぶだろ?俺を助けると思って、な!』
…まあ、2組代表は鈴だし、3組代表は鈴のルームメイトだ。4組代表の簪さんにはのほほんさんが伝えてるし、一夏情報だっていう俺の意図は汲んでくれるはずだ。
「ところでお聞きしたいんですけど『何処で』一夏がさらわれたか…ご存知ですか少佐殿?」
「そんな事はどうでもいい!重要なのはあの男が教官の顔に泥を塗ったことであって…」
というか、『キツネ君を!キツネ君をどうかよろしくお願いします!』なんてビラとお菓子配りながら宣伝する虎なんて何処の世界にいるんだろうか。どちかというとアレか、オデブとユートさんか。4号で見たけど相変わらずでほっとしたよユートさん。たっくんもいい感じで渋くなったよな。ていうか少佐殿そろそろ解放してくれ。
「…お前はもう少し利口だと思ったんだがな、ボーデヴィッヒ。ここに来て今更何を学ぶ気だ」
「ひいぅ!??」
…織斑先生、後ろからいきなり現れるのは止めて下さい。腰が抜けちゃいました。
「教官!どうして教官はこのような所で…」
「私からの質問に先に答えろ。お前には教えるべきことは全て教えた。そしてその結果をお前は示したはずだ…今のお前が此処にいる意味とはなんだ?」
無様に倒れた俺など気にも留めずに2りは言葉を交わしていく。少佐殿は見せたことの無いような哀願を切々と言葉に込めながら。
「私は…教官をお迎えに上がりました!教官はこんなところで有象無象の…」
「自分は特別だと?思いあがったものだなボーデヴィッヒ。ドイツにいれば学べるのはドイツの人間だけだろうが。IS学園はどこの国の生まれでも門戸を開いている…お前のように学びたければココに来ればいい、それだけの話だ」
そして、織斑先生は超然を超え、冷酷といっても差し支えないほどに言葉は鋭く、棘を含んでいた…IS学園に来る前はドイツで教鞭を取られていたのは一夏から俺も聞いていた。でも何でそんなに刺々しいの織斑先生?俺らよりも年下ですよ?
「…猿取、四組の更識と放課後に試合をするそうだな?その後ボーデヴィッヒの相手をしてやれ。ボーデヴィッヒに欠けている物を骨身に刻んでやるといい」
「お言葉ですが教官!この男はハルフォーフに無様にも惨敗を喫しました!まともに攻撃すら当てられませんでした!試合をする価値など…」
「フ、あからさまに手を抜かれていたことも気付けんとはな…いつものように叩き潰してやれ、猿取…どうしてお前をIS学園に入学させる許可をドイツが出したのか、その答えを見つけておけ、ボーデヴィッヒ」
…えっ?何その風雪の湿布?いや伝説の呂布?何その意味深な含み笑い?何考えてるんですかどう足掻いても勝てませんよ何処行くんですかああもうそろそろ授業ですもんね職員室ですよね織斑先生。
「ししし少佐殿俺は弱いから!アレが全力全開だから!だからお願いだから落ち着いテ!」
「まさかそこまで舐められていたとはな…いいだろう、生まれたことを後悔させてやる、楽しみに待っていろ」
だだだだからそんな表情はヤメテ!何その舌なめずり!?気絶したり失禁しないだけでも俺褒められるよね!それともアレですか!?恐怖に対するブレーカーが落ちてもう何も怖くない状態!?マナーモードにしないでアジトに乗り込んでった一条さん状態!?だけどこの震える体は何!?武者震い!?
「その必要はないわ、茨君」
「何だ貴様は」
どどどどうしたの簪さん!?何があったの!?確かに助け舟は嬉しいけどとてとてだよ少佐殿は!?下手に釣ったら瞬殺だよ瞬殺!?
「貴女ごときに茨君が汗を流す必要はないって言っているの。私、更識簪が相手になってあげるわ…私に勝てたなら、茨君に戦う権利を譲ってあげる」
「大きく出たな…良いだろう、有象無象が教官の恩寵を受けるなど百年早いことをその身に教えてやる」
あ、行っちゃったよ少佐殿…ていうか無茶だって!?死んじゃうよ簪さん!
「だいじょうぶ茨君?痛いところとか膿とか出ていない?」
「は?大丈夫だけど…それより無茶だって!少佐殿は滅茶苦茶強いよ!今からでも謝りに…」
恐怖で身を震わせる俺に 誰かが優しく 後ろから 手をポンと 肩に 置いた。
「猿取君、健闘をお祈りしますね」
そのこえは すずのように すんでいて
どのことばよりも こわくて
そのことばが ひきがねになって
おれは いしきを てばなした。
「ダメじゃないかトレイニー!こんな所で寝てたら風邪引くよトレイニー!そうだ、今日の試合で活躍してもらうためにもさ、ちょっと『アンカー・スチーム』借りていくよトレイニー!返事が無いって言うことはOKなんだねトレイニー!」
結局、ゲスジジイの殴り書きのメモを頭に載せた俺が目を覚ましたのは1時間目の授業を担当する榊原先生が揺り動かした時だった。
『どうしてお前をIS学園に入学させる許可をドイツが出したのか、その答えを見つけておけ、ボーデヴィッヒ』
織斑先生のその言葉が、へばりついたガムみたいに俺の頭から離れなかった。
マッカランにて
「か…完成したのれす…コレでIS学園に戻れるのれす…」
「デバッグも終了したんよ…コレで一安心なんよ…バグがあったらナノマシンが大変なんよ…」
「…ところでピクシー、アンタの考えてる仮想敵って、何だった?…まあ、皆同じなんだろうけどさ」
「同じれすね」
「同じだと思うんよ」
「「「白金の平和」」」