「お久しぶりです、カール。ミュンヘンからベルリンへの引越し、大変そうでしたね。随分とスリムになられました…ご家族はご健勝ですか?」
「やつれたのさ。カミサンもガキ共もイヤになるくらい元気さ…そういう貴様は相変わらずだな。その調子なら細君も健勝か。『憎まれっ子世にはばかる』というヤツか?」
「いいえ、口に憚るというヤツです…すみれちゃんも元気ですよ。しかしながらドイツの技術は世界一ですね。パイロットを併せて作ったのか、たまたまISに合ったのかは分かりかねますが」
「『合成モノ』は製造から12年目、たまたま合ったのさ…まあ、『黒い雨』とは喰い合わせが悪いらしい。半年前に拝領して以来、今じゃあ更年期のうちのカミさんや2日目の重いウチの上の娘位荒れてたそうだ。あんなのを引き取るとはIS学園も災難だな。まあ、ラボの狂人共が何を作ろうが俺には…」
「ドイツの危機です。他のEU諸国…いえ、ドイツ以外の全ての国家から白眼視され、敵視され、最悪攻め込まれ…」
「…俺の親父は元シュタージ(東ドイツ秘密警察)でね、散々西の連中には冷や飯を食わされてきた。家族を逃がす算段ならとっくに準備できてる。こんな国どうなろうが…」
「なら、こんな因果な身過ぎでは無く、麻薬でも鬻ぐべきでしょう、それに…」
「分かってる、オリジナルの『シュタージ・ファイル』(エージェントの名簿)回収の件は忘れたわけじゃない。勿論ブリュンヒルデの件もだ。貴様ら夫婦の借りほど恐ろしいものはない、さっさと返させてもらう…第1局を動かす、首相官邸か?」
「出来れば内閣の皆様が揃っていればベストです…それと、残りの黒兎も確保すれば、温かいポトフを堪能できるでしょうね」
「『どちらかというと大反対』みたいな言い方はよせ。まあ『混ぜモノ』もついでに確保しておく…その笑み、『ソウイチ』そっくりになってきたな、イチロー」
「よしてください、桑一さんや千鳥さんは今でも僕達夫婦の憧れです」
気付かぬうちにお気に入りが300超えていました、皆様応援ありがとう御座います。
『ふん…他愛も無い。所詮はこの程度か』
放課後の第2アリーナ。『シュヴァルツェア・レーゲン』(黒い雨)と相対した『打鉄弐式』…更識簪は善戦したといって良かっただろう…代表候補生とはいえ初期化(フォーマット)、最適化処理(フィッティング)が終了していない状態で軍人…ドイツ軍IS配備特殊部隊『シュヴァルツェア・ハーゼ』隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒと相対したのだ。5分間持っただけでも万々歳といえよう…例え一撃も当てることが出来なかったとしても。
(何だ…その瞳は…!?)
ラウラが戦い、そして打ち破ってきた相手はドイツ、或いはEU各国に数多いた。彼女をナメて、或いは警戒して、或いはむき出しの敵意を向けて…そして悉くを返り討ちにした。敗北者たちは泣き出し、あるいはへつらい、或いは恨みのこもった瞳で見当違いの敵意を向けてきた。
『なんだ…何が言いたいお前は!?負け犬なら負け犬らしく泣き喚け!!』
だが、簪は試合前も、試合後も…そして試合中も終始余裕を崩してはいなかった。まるで『負けることにこそ意義がある』とでもいうように…そして口を開いて出てきた言葉は媚びも謝罪も恨みもない、非常に恬淡としたものであった。
「貴女こそどうしたの?勝ったんだから誇らしくしたら?…負けて当然だから、別に悔しくないわ」
『何だと!?…なら、誇りを捨てた野良犬らしく…』
絶対防御を発動した『打鉄弐式』から解き放たれ、ISスーツ姿になった簪にラウラは嗜虐の笑みを浮かべ言い募ろうとする…放送室からの冷水を浴びせかけるような言葉をかけられなかったとしたら。
「あら、勝利に餓えたドイツ人らしい振る舞いですわね。ロマンの欠片も御座いませんこと」
「何言ってるんだよオルコットさん。敬礼にロマン(ローマ式)がタップリと含まれてるよ…ですよね少佐殿?」
「あれってローマ式なの?てっきりショッカーがオリジナルだと思ってたわ。ごめんなさいね少佐殿」
※ローマ式敬礼:ショッカー戦闘員がやってるアレ。ヨーロッパでやると袋叩きにされます、気をつけましょう。
『その声は覚えているぞ!イギリス代表候補生にフランス男か!喧嘩を売りたいなら言い値で買ってやる、さっさと降りて来い!』
「中国代表候補生もいるわよ…喧嘩を売る?馬鹿にしないでよ、喧嘩っていうのは同レベルの相手としか起きないものなの…おちょくってるのよ、徹頭徹尾」
「あら鈴さん、そのような言い様…喧嘩を売っているように聞こえても不思議ではありませんわ。相手は物のあやめも知らないお子様、もう少し…」
笑い混じりの言葉にさして丈夫でも無いラウラの堪忍袋の尾は音を立てて切れていた。彼女は血走った目を輝かせ、放送室へ向けてリボルバー式レールカノンを構えると怒号を上げる。
『良いだろう…そこを動くな!全員まとめて粉微塵にしてやる!』
「私もココにいるんだがな…ボーデヴィッヒ。まあいい、含むところがあるのならアリーナで決着を着ける、それがココのルールだ…さっさと出て来い、猿取」
『はい』
『!?申し訳ありません教官!今の発言は教官に向けて放ったものでは…』
『ああ俺はわかってるよ…取りあえず、俺が来るまで何もしないでね。それと簪さん、さっさと安全地帯まで引いてくれ』
故意ではないとはいえ、敬愛する織斑千冬に銃を向けたという事実に呆然としてしまったラウラを尻目に、ピットからの直通通路をゆっくりと…否、ナメクジのようにズルズルと『アンカー・スチーム』は歩いてくる。
『理不尽だ…何でこんな三文芝居の片棒…恨みますよ織斑先生…簪さん…後で覚えておけよゲスジジイ…』
その姿はふた昔前の恐怖映画のゾンビよりも生気に欠け、ランチャーを各部ハードポイントにコレでもかと積み込んだ姿は源平合戦の際に名をはせた伝説の僧兵、あるいは元コマンドー部隊の凄腕というよりも、重荷を背負わされた奴隷のごときだった。
『さあトレイニー!最愛のメガネちゃんをブジョクしたフロイラインに『ハイローラー・スィート』で誅罰を与えたまえ!具体的にいうとコーヒーフレッシュで一杯になったバスタブに投げ込んで写メ撮ってばら撒くくらいの!』
『ふざけてるんじゃねえゲスジジイ!…全部終わったらゲスジジイも、簪さんも、放送室の皆も、『ジョブ&ホビー』に詰めてる皆も侘びを入れに来てもらうから、今は堪忍してくれ少佐殿』
…そして、ISを纏うことの出来るもう一人の少年…猿取茨は、諦念と脱力に満ち、とてもではないがこれから戦いに挑む者には見えなかった。
■
「はあ!?もう少佐殿も簪さんもアリーナに行った!?布仏さんから聞いた開幕時間より30分も早いじゃないか!」
…今日の俺は1時間目から絶不調だった。後ろから獲物を見つめるように薄ら笑いを浮かべる少佐殿の視線は何より怖かった…ホント、お昼が『金星ラーメン』じゃなかったら何も胃袋は受け付けなかったのは請け合いだ…ひょっとしたらこんな所で運を使い果たしちゃったんじゃないだろうか、俺。ていうかイヤに人が少なかったな、今日の食堂。一夏がいないシノさんがあそこまで情緒不安定な姿を見せるとは思わなかったよ…だからといって30秒おきに電話するのはどうよシノさん。食事が終わった後で出くわしたとき『茨が心配していたぞ、一夏!』って俺をダシにするのはどうよシノさん。
「そうだよトレイニー、もうそろそろインする頃合かな頃合かな…ちなみにメガネちゃんは初期化(フォーマット)も最適化処理(フィッティング)も済んじゃあいない。勿論そんなハンデなんてフロイラインは考慮に入れないしどう足掻いても負けだね負けだね!」
で、だ。失神してる間にゲスジジイが持っていった『アンカー・スチーム』を『ジョブ&ホビー』に受け取りに来た俺を待っていたのは驚愕の事実だった。簪さんは何を思ったか少佐殿とミスマッチな機体で戦うのみならず、そんなハンデを背負ってまで戦おうとしているのだ。
「ふざけんなよゲスジジイ!さっさと返せよ『アンカー・スチーム』を!こんな馬鹿な争い…」
「ふざけてるのは君さ。さっさと返せ?すまないが今の君は冷静さに欠けている。そのまま第1アリーナに突っ込んで2人の間に割って入る気かい?そんな事したら遺恨が残るよ。そもそも賢い争いなんてあるのかい?利口な奴は争いなんて起こさない。折角貯めた資源を、資金を、信頼を、人命を際限なく浪費、残るのは恨みつらみだけ…こんなイベントなんてスルーするのが当然さ。まあ…ワザと仕掛けさせて足腰立たなくなるくらい強烈なカウンターカマすのは最高に気持ち良いんだけどさ!分かって罠にかかるバカも分からず罠にかかるバカも願い下げ、罠をしかけたアホを罠にはめるのがベストだよトレイニー!」
一瞬笑みを消したゲスジジイはまたもや満面の笑みを浮かべるとくねくねと身を捩じらせながら嘯いていく…ホントヤダ、コイツ…
「ところでさぁトレイニー、メガネちゃんは本当にい・ま・の・『打鉄弐式』に満足してると思うかい?例えるならトレイニーがセーラー服着るようなモンだよ!キモイねキモイねトレイニー!アルちゃんサブイボ浮いちゃったよ!かといってトレイニーがぶっ壊したら八百長だって思われるよねぇ?つまりはフロイラインは飛んで火に入る黒ウサギ、美味しい丸焼き一丁上がりってヤツなのさトレイニー!」
…結果だけを言おう、その後すぐに『アンカー・スチーム』は返却された。
…勝つための算段も詰めていた『打鉄弐式』開発チームがアドバイスし、機材もアリーナに用意してあると教えてくれた…だが、俺のやる気はまるっきり失せていた。いかにしてこの茶番を乗り越えるかしか頭の中に入っていなかった。
…だからゲスジジイの言う『罠を仕掛けたアホ』が誰なのか、分かっていなかったんだ、俺は。
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『き、教官!申し訳ありませんでした!!どうか、どうかお許しを!』
「猿取、これからの試合は観客に危害を加えようとした相手との『私闘』だ、ただそれだけだ」
『教官…教官!!』
一方的に通信を切った織斑先生に必死で少佐殿は言い募る…それを遮ったのは、相変わらずやる気の欠片もなさそうな茨だった…鈴やセシリアやデュノアさんと同じように放送室に行こうか?と思ってはいたが…あの辛辣な発言では一夏も百年の恋も冷めてしまう。観客席で見るのが上分別だ。
『取りあえず始めようよ少佐殿…今の織斑先生は怒りが有頂天だからいくら謝っても念仏状態だと思う、つまらない戦いになると思うけど、サッサとやったほうがいいと思うよ』
『うるさい黙れ!お前になどかかずらってる暇など…』
声高に言い募る少佐殿を遮るように、茨はゲンナリを通り越し、うんざりといった口調で言葉を紡いでいく…だからそのやる気の欠片もない態度は止めろ。私が織斑先生なら鉄拳をお見舞いするぞ。
『それとさ、少佐殿…お母さんに会いに来たんだろ?癇癪起こしちゃいけないよ』
『何だそうなのかいフロイライン!ブリュンヒルデのオッパイ吸いに来たのかい!後でおしゃぶり用意したげよう!それにしてもダメじゃないかダメじゃないかブリュンヒルデ!キチンとマスタード塗っとかないから乳離れが…』
『貴っ様あ!!!!…良いだろう、まずは木っ端微塵だ、瞬殺だ!!』
…そうか、彼女は母の姿を織斑先生に重ねている…だがマスタードを塗りたくれなどとハラスメント行為もいいところだぞ、ゲスジジイ。
『まあ、ホントつまらないと思うよ、マジで…だって今でさえつまらないもん、俺』
…そういえば、一夏はどこに行ったのだろうか?放送室にも客席にも見えないが…
■
『『呉下の阿蒙』もいい所だな…ハルフォーフと戦った時より何ら進歩していない。アイツがキチンと手を抜いていた事ぐらい察せ無かったとはな』
俺が『ハイローラー・スィート』をパージしたのと同時に少佐殿は俺の機体を停止させた。レールカノンを俺の土手っ腹に突きつけると嗜虐の笑みを浮かべて言い募る…ジョナサンさん一気にぶち切れさせたクマゾー君の煽りは一級品だったよな、ウン。まさかここまで少佐殿が凹まれるとも思えなかったんだけどさ。
『何か言い残すことはあるか?負け犬』
『『大切なことは目に見えない』って名セリフ、知ってる?』
『…『星の王子様』のキツネか。ならば蛇に噛まれて星の世界まで吹っ飛べ!』
そのまま俺は大穴を穿つ勢いのレールカノンに吹き飛ばされていただろう…へえ、星の王子様を読んだことがあるんだ。ちょっとだけ少佐殿を見直したかも。
『…なぁっ!!?』
『知ってるかいフロイライン?『ハイローラー・スィート』ってのはさ、『カモのための籠』って意味なんだよ!ローストとソバ・ヌードルどっちがお好みだいフロイラインは!』
パージしたランチャーから飛び出していったありったけの閃光発音筒が着弾し、俺の五体は自由になり、レールカノンを『パシフィスト』で弾く…『収集したデータからの推理ですが、『シュヴァルツェア・レーゲン』の機体を停止させた機構はISに搭載されている『パッシブ・イナーシャル・キャンセラー』を発展させたものだと思われます。目に見えないものには効果は薄いでしょうし、ある程度の集中が必要ですから閃光や騒音は有効でしょう』…読みはばっちり当たったわけだ。凄いねセンサー担当スタッフの人。筋骨隆々で怖い感じがしたけれども、やっぱり文武両道じゃなきゃAOAじゃあ勤まらないのかな…っとそういうのはどうでもいい、今は少佐殿を大人しくしないと!
『さあ今度はコッチのターンだ、まずはアンチマテリアルライフル『エニーセブン』!ヤマトの艦橋から船底までぶち抜けるくらいの破壊力だ!コレじゃあ古代さんイスカンダルに行けないよトレイニー!』
ゲスジジイの訳の分からない長広舌を無視しつつ俺はランチャーに紛れ込ませていたウェポンコンテナの中から排出された『エニーセブン』を受け取り、無造作に引金を引く…まあ、ヤマト云々はフカシにしても戦車2台はぶち抜けたのはこの目で見てる…装填されている弾が徹甲弾だとしたら。
『っつ!小ざかしい真似を!』
少佐殿が停止させた弾丸は爆ぜ、爆炎が視界をさえぎる…焼夷弾の炎を瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突っ切りながら俺は『エニーセブン』を腰のハードポイントに収めると近場のウェポンコンテナから排出されたガントレット(手甲)とソラレット(足甲)を両手両足に装着させた。
『ノリが悪いよトレイニー!お次は『テキサス・ホールデム』!さあ君の手札はなんだいフロイライン?ツーペア?スリーオブカインド?それともフルハウス?』
…ほんと、味方側の俺でさえイラつくんだ。少佐殿のイラつきは相当だろう…だからこそいいのかもな、こんなばかばかしい戦いには。
『ヒューッ!ライダー・キックだなんてクールじゃないかトレイニー!やっぱりこういうケレンミはマシマシで行きたいよね!』
『ハッ!必殺技など馬鹿馬鹿しい!』
勢い良くぶち込んだ俺の飛び蹴り…ケータローのゴルドスマッシュはカッコ良かったよな…を少佐殿はワイヤーブレードで防ぐ…ワンツーも同じように防ぎ、最後のおまけに叩き込んだソバットも余裕で防ぎ…『テキサス・ホールデム』は外れる…いや、ワイヤーブレードに吸着する。
『!!姑息な真似を!』
…瞬時加速(イグニッション・ブースト)で退避した俺を見て察したのだろう、少佐殿はワイヤーブレードを切り離そうとする…だが、一手遅い。腹の底から寒気のするような地響きと轟音が辺りを包み、少佐殿のISは爆炎に包まれていた。
『これぞ爆雷吸着機構『テキサス・ホールデム』!さあトレイニートドメをさしたまえ!無礼極まりないフロイラインに…』
『何馬鹿なこと言ってるんだよ!こんなアンフェアな戦い、意味ないよ…ごめんよ、ごめんよ少佐殿。ただ会いたかった、それだけなのに…俺の負けでいい!だから、もう、ヤメテくれよ…』
少佐殿のISは、もう戦闘続行は不可能だろう。あちこちから白煙が上がっているし、レールカノンは根元からひしゃげている…かく言う俺はほぼ無傷、『エニーセブン』をぶち込めばそこで終わりだ…
『意味が無いというのか!強さには!戦いには!!貴様はそうほざくのか!?』
『そうじゃないって!これは俺の実力じゃあないんだよ!ペテンもいいところなんだよ!だから…』
だからこそ止めなきゃいけないんだ、こんなアンフェアな戦いは。そんなおっかない顔しなくたって、泣き出しそうな顔しなくていいんだよ、少佐殿。
『ギギギ…ギァアアアアアア!』
…やっぱりこうなるのかよ!夢の通りかよ!俺の命は今日終わるのかよ!?
『ああ、やっぱりこうなるか、今日が僕の命日だね…葬式はブッディズムで良かったかなトレイニー?ボクは無神論者だから生ゴミの日にでも出しといてくれよトレイニー!』
『ゲスジジイ』でググると拙作が一番初めに出てくる件について
「やあ、早かったねメガネちゃん。ランチ抜きかい?ダメだねダメだねスチューデントは食べるのも仕事なんだよ。サイコロ・ステーキバーガーでもどうだい?食堂の売り上げを減らすのもアレだからキチンと頼んどいたよ…おお、形成肉じゃあなくて本物のビーフの角切りだよ!いいねえ、こんな美味しいゴハン毎日食べられるなんて羨ましすぎるよ!」
「鶏肉以外はかんちゃんはお肉苦手なんだよー、アルちゃん」「どうぞ、お座りください簪様」「はい、チキンバーガーとフィッシュバーガーとオニオンフライ」「お飲み物はアイスコーヒーでいい?」
「何で皆が…ココに…」
更識簪はIS学園整備施設、AOAブースの扉を開けた更識簪は渡されたトレイを持ったまま固まっていた…なにせ今すぐ初期化(フォーマット)と最適化処理(フィッティング)を済ませるためにおっとり刀で駆け込んだブースでは開発チーム全員が、AOAスタッフが…総勢200名近くの人間が長テーブルと椅子を据え、食事会を開いていたのだ。
「あ、皆きてたんだ…昨日はごめんな、ジイさん」「あまり気にする必要は御座いませんわ、一夏さん」「そうね、大方引っ叩かせて弱みを握ろう、恩を売ろうって腹だったんでしょゲスジジイ」「ご配慮ありがとう御座いました、アークライト博士」
「何で…ココに…」
茨、そしてラウラ以外の1年生専用機持ちが集ったことに目を白黒させている簪に、老人はケチャップをタップリと振りかけたフライドポテトを鷲掴みにし、クチャクチャと貪りながら嘯く。
「ボクがホノボノちゃんや2年と3年のメガネちゃん達にメールを送って集めたのさ。ああ皆まで言わなくていいよメガネちゃん。トレイニーの為に合わないドレス着てまで張り合おうって根性、ボク大好きだよ!ソコで相談なんだけどさぁ…キミ好みに『打鉄弐式』を作り変えるようにオネダリするから、ボクのアイディアに1枚カンじゃあくれないかな?ベビーフェイスにも悪い話じゃあないよ?キャンキャン吠えるフロイラインを大人しくしようって計画なんだ、ああいう重そうな子に粘着されるのは勘弁カツオだろぉ?」
「あ、アイディアって…」「ジイさん、何企んでるんだ?」「どのような陰謀なのか、実に興味深いですわね」「ああいう手合いはあたしに任せなさいよ一夏!」「ダメだよ鈴さん、下手したら君が強制送還されるよ」
未だに事態が飲み込めていない来訪者たちをどこか羨ましそうに眺めながら、老人はバナナシェイクを飲み干しながら一人ごちていた。
「…まあ、こんなバカな真似が出来るのも、今日が最後かもね」