俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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※この物語はフィクションです。実際の組織、団体、会社とは一切関係が有りません。

朝六時。起床のアナウンスが流れる中、同室の子がベッドで眠い目をこすっているのを横目に着替えを済ませた私は化粧台の前で入念な確認作業を行っていた。
(髪型、よし…化粧、濃すぎない…よし、服装、乱れなし、よし…)

「お早う、篠ノ之さん…初日から気合入ってるね。やっぱり、昨日のお話の幼馴染?」
「いや…その…」
「誤魔化さなくてOK!6年越しの再開かあ…ドラマチックだよねえ…」
「…」

ルームメイト…鷹月さんの夢見るような視線に思わず赤面しながら、私は一月前の驚天動地の出来事を思い出していた。
女にしか動かせない筈のISを起動させた二人の男子、そのうちの一人は6年前に別れたっきりの幼馴染…織斑一夏だった。テレビや新聞に写る姿はあの時の少年の面影を残しながらも凛々しさを感じさせた。

(…本当、野ノ原さんには感謝しないといけないな)

重要人物保護プログラムに従えば、私は知り合いすら出来ないスパンで異動を繰り返す必要があった筈だった。だが、『それでは人格形成に悪影響が出かねない。そうすれば束博士の協力など夢の正夢だ』と養父母はあちこちに掛け合って山陽の1都市に落ち着かせ、家族旅行という形で実の両親に年に数度は面会させてくれていた。

『いい?箒ちゃん。お姉さんを敬遠する気持ちはわかるわ。でもね…ISの知識は絶対に必要になる。必要になった時に慌てても、絶対にいい結果にはならないわ』

共同生活を送り始めるとすぐにISの知識を教え、中学校は専門のカリキュラムの存在する女子校への入学を勧めてきた義母の言葉に当時の私は従いながらも内心では反発したが、義母の行動は吉と出た。IS学園への入学が政府から命じられた時は姉を呪ったものだが、一夏がいるのなら話は別だ。

(野ノ原さんのお子さんか…どんな子なんだろうな)

私を実の子のように愛してくれた義父母。だが、そのために一つの家庭を引き裂いていた。いくら謝っても謝り切れないのに、私は一夏との再開に浮ついている。

『いいかい、君は幸せになることだけ考えなさい。茨の…息子のことは僕たち夫婦が背負わなくちゃいけないんだ。』

なんて嫌な女だろう、私は。義父母の言葉を免罪符にして、自分はのうのうとしている。

「どうしたの?篠ノ之さん。顔しかめて…わかったわ!キスの練習ね!」
「ち、違います!」

…下手の考え休むに似たり、後は行動するだけだ。行こう。IS学園へ。一夏へ会いに。茨君に謝るために。

「私も着替えるからちょっと待ってねー、食堂は六時半からだったし」

…そ、そうだな。折角の再会が空腹で上の空になったり腹の虫が鳴ったのでは死んでも死に切れないしな。



メインヒロインですか(笑)

「…起こしますかあ。女性って身支度が手間取るから早く起こすべきなんだろうけど、下手に起こせば血を見そうだし…」

「綺麗…先輩…」

 

現在朝5時。俺は夢の世界の住人となっている織斑姉弟をいかにして起こそうか苦慮していた。

 

「ああ、添い寝したい…先輩…」

「そう言ってさっき蹴り飛ばされてましたよね山田先生。ま、いいんですが」

 

一夏と織斑先生は安らかに眠り続けている。本当、邪魔しちゃ悪い気がしていけない…キスマークだの汁だのにまみれていなければ。

 

「ああ…このまま眠ったままならきっと二人ともIS学園を追われてしまいます…でもご安心ください、この山田真耶、最後まで先輩と添い遂げます…」

「ていうか起こしましょうよ山田先生…一夏、おき…」

「安心しろ、寝坊したりはせん。起きろ、一夏…んむ…」

「んあ…おはよ、千冬姉…」

「…いいなあ…」

 

目覚めてるんならさっさと起きましょうよ織斑先生。おはようのチューですか見せ付けてくれますね織斑先生。それと山田先生、目が笑ってないですよ。

 

「先にシャワーを使わせてもらう…来い、一夏。」

「了解、千冬姉…ご免な茨、山田先生。」

「ああ、大丈夫ですよ織斑先生…そうだ、織斑先生って寮長なんですよね?」

「そうだ。それがどうした」

「ちなみに私は副寮長ですよ猿取君」

 

凛々しい表情で俺を見つめる織斑先生。本当、見ほれていただろう…一糸纏わぬ姿でキスマークとかいろいろな汁とかが付いてなければ。

 

「ここに二人ともいて急患とか突発事態があったら拙かったんじゃないですか?」

「…さっさとシャワーを浴びるぞ、一夏」

 

そういってシャワールームに消える織斑先生…だが、頬を伝う一筋の汗はごまかすことは出来なかったようだ。

 

「一夏、その…今度から織斑先生と一緒の時は、寮長室に行ったほうがいいかもな…」

「そうする…サンキューな」

「まさに、門出を飾るにふさわしい日和ですわね」

 

暖かな春の日差し、肌をくすぐるそよ風、咲き誇る桜。まさに青春の幕開け、初登校にはもってこいの天気だった。その中で教室への道を歩むイギリス代表候補生、セシリア・オルコットの胸に去来していたのは、無事入学できたという安堵でもなく、祖国を遠く離れたことへの心細さでもなかった。

 

(『IS学園への主席入学、さらに実技での教官の撃破…これはセシリア・オルコットの優秀さを示すものではない。BT(ブルー・ティアーズ)が優れていただけだ』…凡愚は本当に度し難いですわね)

 

そもそもBT兵器自体がまだまだデータのサンプリングを行っている段階の実験兵装であり、運用は試行錯誤を繰り返している状況だ。使用者であるセシリアでさえ、欠陥兵器でしかないのでないか?という疑念を抱いたことさえある。

 

(それでも私は勝ち続けなければならない…家名にかけて、祖国にかけて、そして我が名にかけて…)

 

そう、彼女が胸に抱いていたのは決意だった。両親という寄る辺を失い、金の亡者によってその遺産を良いようにされそうな窮状を救ったのはISの適正能力であり、唯一BTを稼動可能なレベルに動かせた適性能力であり、才能にあぐらをかかずに貫いた弛まぬ努力であった。だからこそ、視界に入った少年の背中…たった2人の男のIS起動者の片割れ…は彼女にとって不愉快な代物でしかなかった。

 

(どうせ、女の園に来たと有頂天になっているのでしょうけど…身の程を教えて差し上げましょうか)

「そこのあなた、ちょっとよろしくて…っ!?」

 

彼女の言葉にゆらりと振り返った痩せぎすで、ボサボサ髪の少年。その表情にセシリアは思わず息を呑む。

 

彼の表情を占めていたもの、それは諦念であり、絶望だった。

 

 

陽気も良いし、肌を撫でていく風も良い、満開の桜も最高だ。ホント、最高の天気だよ。

 

「最悪だ…」

 

昨晩から続いた口にするのも憚れるような一連の出来事さえなければ、俺だってウキウキ出来たよ、うん。

 

「最悪だ…」

 

一夏も織斑先生も山田先生もみんなケロッとしてたよな。一夏と一緒に朝御飯食べに行ったとき、織斑先生なんかジャージ姿で監督してたし。一夏なんて何人の女子とメアド交換してたんだろ?俺なんてコーンフレークかき込むのが精一杯だったぞ。

 

「最低だ…」

 

どうなんだよ旧友とその姉の関係を口止めする代わりに副担を【頂きます】するってのは?青春とは言えないだろ!?むしろ対極だろ!?少年週刊誌とかじゃなく成人向けの世界だろ!?

 

「最悪だ…」

 

そんなぬかるみに俺は踏み込んでしまったんだ。『童貞が許されるのは小学生』?違う!青春を楽しみたいならあんなことをするべきじゃなかった!無理矢理でも押しとどめるべきだった!黒豹女!?あれは無理矢理だから!うちのシマじゃノーカンだから!

 

「最低だ…」

 

想いを成就するってのは卒業式とか3年生のクリスマスとかだろ?伝説の木の下とかの後の話だろ⁉︎始まる前から終わってるじゃないか俺の青春は⁉︎アチスソフトじゃなくアクトやエンペラーの世界じゃないか⁉︎

 

「そこのあなた、ちょっとよろしくて…っ!?」

 

何だよ?人のツラ見て凍りつくとかそんなに酷いツラかね金髪のお嬢さん?ヒョロヒョロのモヤシなのは自覚はあるんだが。

 

「何か用?」

 

おっとと図らずともぶっきらぼうな言葉を使ってしまった感、こりゃあ嫌われたかね?

 

「い…いえ…何をそんなに悲観しているのかと…」

「別にそんなんじゃないよ、始まる前から終わっていた。それに気付いただけ」

 

そう、俺の青春は終わってる。だが、その言葉に彼女は激昂した。

 

「…ニヒルを気取ったつもりですの、このモヤシ!そんなしょげ返っているようでは負け犬人生まっしぐらですわ!」

 

…妙なもんだね。あからさまな敵意が闘志を燃やすってのも。それとも男を立てるってのも淑女の嗜みってやつなのかな?

 

「いや、そこまでナルシストでも無いよ。女の園にほおりこまれてナーバスになってただけ。俺は猿取茨。お名前は?」

「…セシリア・オルコット。イギリス代表候補生ですわ。標本は標本らしく身の程を弁えてくださいましね」

「了解でございます。恐れながらそのような言葉遣い、淑女にはふさわしくないかと…」

 

ああ…売り言葉に買い言葉。まあ、これぐらいが丁度いいのかもね。

 

「待ってください!納得がいきませんわ!」

(面倒くせぇ…)

 

この学園に入学式だなんだが無いのは釈然としないが、覚えなきゃいけない事が山ほどある身としてはありがたくもある。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!…」

 

一夏の幼馴染も入学していたらしく、休み時間に紹介してもらった。良いぞ一夏、異性はお姉さんだけじゃないんだ!弾の妹の蘭ちゃんだっているし中国に引越したが鈴だっていた!何なら俺以外のクラスぜいいんと関係持ってブリュンヒルデ泣かそうぜ!…しかしながら、どうにも妙な視線を幼馴染の女の子から頂いていたのが気になる。安心しろ、俺はノーマルだ。何とかして織斑先生から一夏を奪い取れ。助力なら惜しまない。

 

「いいですか!クラス代表は実力トップがなるべき!そしてそれはわたくしですわ!」

 

で、何でこのイギリス代表候補生様が激怒しているかといえば、3時間目の頭に織斑先生がおっしゃられた訳だ。「再来週に行われるクラス対抗戦に参加する代表者を決める。自薦他薦は問わない」まあ、平たく言えばクラス長で生徒会やら委員会にも顔を出さなきゃいけないという責任あるお仕事ってわけであり、『はい、織斑君を推薦します!』『私も織斑君がいいと思います!』まあこんな感じで一夏が引きずり出されてそれが気に入らないというわけだ。

 

「ち、ちょっとまった!男なら茨もいるだろ!どうして…」

「はい織斑君。アムロとカイ・シデンならアムロに票を入れるだろ?まあそんなもん」

 

俺の指摘がツボに入ったのか、あちこちから噛み殺した笑いが漏れる。どうやらそれがお気に召さなかったのか、ますますセシリアさんは激昂する。

 

「実力からいけばわたくしがクラス代表に選ばれるのは必然!それを、物珍しいからといって…」

 

…正直、聞き苦しい発言が多々ある代表候補生様ではあるが、これ以上暴走させるといじめだの何だのが発生しかねない。係わり合いになるのはごめんだが発破をかけていただいたお礼もある。

 

「…織斑先生。猿取茨はセシリア・オルコットさんを推薦します」

「…理由は?」

 

一夏押しの娘達はスルーで俺に理由を聞きますか織斑先生。でも大丈夫、そこいらも考えている。

 

「やる気のある人間がやるべきでしょう。イギリス代表候補生で専用機持ちなら能力も有るでしょうし」

「後はいないか?いないなら決選投票だ。」

「はい、織斑先生!」

 

そこで手を上げたのは一夏だった。何だ?幼馴染の子でも推薦するのか?

 

「織斑一夏は猿取茨君を推薦します!AOAのテストパイロットで専用機持ちなら能力も折り紙つきだと思います!」

 

おい馬鹿やめろ、折角自己紹介の時もぼやかして伝えていたのに俺の平穏を破壊するな。

 

「…ふむ、倉持から織斑の機体が届けば専用機持ちが3人か。どうだお前たち、このまま決選投票でケリをつけるのも癪だろう。今週末には織斑の専用機が用意される。アリーナで代表を決めてみるか?」

「受けて立つぜ!」「望むところですわ!」

「…返事はどうした、猿取?」

 

織斑先生の問いかけに、俺は重い口をあける。

 

「巴戦になりますよね?どう考えてもわだかまりが残ると思うんですが…」

 

セオリーとしては2VS1からタイマンになる訳だが、誇り高きセシリアさんが俺や一夏との共闘を望むとは思えない。となるとセシリアさんVS一夏&俺、セシリアさんを撃破できたなら一夏VS俺になるわけだが…誰が勝ってもセシリアさんは素人に負けたという汚名を被り、俺&一夏は2人がかりで負けたという汚名を被る。だが、俺の浅知恵を見透かしたかのように織斑先生はニヤリと笑って言葉を続けた。

 

「安心しろ、その点も抜かりはない…さて、クラス代表決定戦タッグマッチに参加したい奴はいるか?放課後の自主トレに使用できる打鉄を1機用意する、先着1名空クジ無しだ」

 

そのお言葉にすばやく反応したのは一夏の幼馴染だった。

 

「織斑先生、篠ノ之箒が立候補します」

 




「猿取君、放課後時間空いてます?」
それはクラス代表決定戦の一連の騒動が終わった休み時間のこと。自らのクラスの副担任であるその女性の言葉に痩せぎすの少年…茨は体をこわばらせる。だが、彼女がつむいだ言葉にほっと胸をなでおろした。
「入学試験の実技、猿取君だけが行っていないんです。実施しませんか?」
(一夏もやってるんだよな…じゃあ、断る理由も無いや。勝ったのは一夏とセシリアさんだけらしいし、負けて元々だ、うん。)
「分かりました山田先生。放課後どちらに伺えば良いでしょう?」
「第3アリーナでお待ちしてますね、猿取君。」
明るく言葉を返してその場を離れる副担任。だが、もう少し茨は注意深く彼女を観察すべきであっただろう。

彼女の笑みは、狩猟者のそれであったということを。
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