「そっか…アンタ達も苦労してるんだね…何でも好きなだけ食べて飲んでって頂戴!勘定はパパにつけとくから…」
「マリ、ビール!」「泣いてる所悪いけどビール!」「マリに涙は似合わないぜぇ、ということでビール!」
「はいど-ぞ!人がもらい泣きしてるときに注文するなまだ昼よアル中ジジイ共!」
「ゴメンなジイさん、利かん気が強くて…あとお手柔らかに頼むぜ、『黒ウサギ』の皆様…ウチのおススメはきりきりに冷えたビールとバタータップリ焦げチョッピリのホクホクの馬鈴、硬くて塩っ辛いプレーツェル、甘酸っぱいソースのドネルケバブ…」
「そしてお爺ちゃんの燻したソーセージ。どうぞ、ブラッドソーセージですよ…ほんと、かわいらしい子たちねぇ、あ・な・た」
「だ、だから信じてくれよカーチャン!キッチンからそんな怖い顔で微笑まないでくれよ!ぺティナイフしまってくれよ!」
「あたししらなーい。」
「そ、そんな…恐縮です」「頂きます!」「…いただきます!」
「いい飲みっぷりだねー嬢ちゃんたち!ビールのおかわり俺のオゴリで!」「イヤ俺のオゴリで!」「お、俺が出すよ!」
「えーい触るな触るな触るな触るなアル中の菌が移る!…あ、ケバブね。削いでくる」
「…あのオネダリはちょっと無理っぽかったですよ、ボス」「みんな平等じゃあダメか?ってのが返答でしたボス」「アレだけ痛い目見ても懲りてないようです、ボス」
「そっか、じゃあ首相官邸にコレ持ってってくれ。あのババアだって命は惜しいだろ…あと、ジーサマはああ見えて寂しがりだからよ、たまにゃ山小屋に面でも出しにに行って来な」
「了解しました、ボス」「ビールも馬鈴も美味かったです、ボス」「先代からの、東からの恩顧、感謝しますボス」
「パパ、そういえばあの東洋人のおじさんは何処行ったの?…はい、ベークドポテトにドネルケバブ…って、あいつらいつの間に!?」
「アチチ、やっぱりイモも肉も焼きたてに限るな…まあ、運が悪けりゃまた会えるさ…あと、ジイさんたちの払いも俺に付けといてくれ」
※今回は、また別の人間の視点で語ります。
「…どうしたんだい、ピクシー」
一週間ぶりに会う孫娘は、雨に打たれた子犬のように憔悴していた…やはりオーバーワーク過ぎたのだろうか、未完成の『プライムバル』に彼の心を反映させるという大仕事は…時間は設定していなかったとはいえ、やはり気ばかり逸って…
「うぐ…ズルイれす…何の…活躍…」
チラリと後ろに控えた部下、助手…いや、後進だな…彼らは揃って視線をそらしていた。ああ、そういうことか。子供のときから勉強一筋、ミーナやサラ、ジョーンズ君が身罷ってからはさらにその傾向が強くなった…何度恋しても恋は恋なんだろうが、まあ、初恋は1度だけだろうからな。
「随分とオネツじゃないか、ピクシー。彼の何処に惹かれた?」
視線で後進たちを退かせると、僕は冷蔵庫からペットボトルのボルヴィックを出し、ピクシーに渡す…外からは見えないとはいえ、一応は学校内だ。寝室でほどほどに楽しむ分には結構だが、普通の日に大っぴらに酒を振舞えるほど僕も非常識じゃあない…まあ、十分に非常識か。僕の立ち振る舞いも、日常も。
「見た目じゃないれす…心れす…グランパ…」
「ああいうタイプは、ステイツには中々いなさそうだしね」
…そしてこの胸で十年前から疼く、この思いも。
◇
『おめでとう御座います、博士』
『おめでとう御座います!』
『おめでとう御座います!』
『確かに僕が今回のプロジェクトのリーダーだ…で、コレはなんだね!?』
2人目の男性IS適合者が発見され、我々AOAがそのバックアップを行うことが決まった日。僕は研究室のデスクに並べられた衣装をチラ見し、頭痛を感じながらいけしゃあしゃあと言葉を紡ぐ後進たちを睨んでいた。
『はい、やはり日本人といえばサムライでありニンジャ、それに対抗するにはインパクトが必要かと!』
『大人のエグさ、汚さを体現するにはコレくらいは当たり前です!』
『それで僕にDr.ドゥームやリドラーの変装をしろって言うわけか。君たちは馬鹿か!!』
僕の一喝にも柳に風、才能だけを見れば蓋世不抜といっても過言ではないだろうに…皆のバカさ加減にはホトホト困ったものだ。最近の科学者はパトロンたちへのウケを良くするために弁護士とスポーツマンのミックスジュースみたいなのばっかりなんだが、うちの社員は趣味と求道に全振りしているような人間ばっかりだな。
『まあいい…僕なりに考えてみよう。そうだ、面白いニュースを教えてあげよう』
その後の彼らの唖然とした顔は、中々に愉快なものであったことを付け加えたいものだ…まあ、師は弟子の鏡ともいう。鏡に映る僕だってそう見られたものじゃあないだろう。
『2人目の男子用のIS、素体はもう決まっている…『P』を使う』
◇
「よ、ゲスジジイ…帰ってきてたんだピクシーさん。ほい、コーヒー」
ノックをして僕の私室に入ってきた『彼』…猿取君の来訪は、われわれにとってはちょっとしたサプライズだった…鉄面皮を一瞬で装えたのは我が孫ながら鮮やかなものだ。
「頂きます、猿取君」
「どうしたんだいトレイニー?ああそうかボクへの恋心への代償行為なんだねトレイニー!」
「んなわけ有るかよ。大体スタッフの皆にコーヒー配ったよ…織斑先生から言伝。『プロヴィデンスはお蔵入りにするか仕様の大幅な変更をしていただきたい。我々はパイロットを養成しているのです。人間をパーツに貶めるような真似はエインヘリヤルだけでいい』…俺もそう思う。アレは…最悪オツムさえあれば足りるとかいう最悪のオチに向かいかねない。俺はヤダよ、カレンデバイスや阿頼耶識みたいになるのは」
甘さ控えめの缶コーヒーをダンボール箱から手渡しながら彼は言葉を続けていく…相変わらずのウンザリ顔だな。これさえなければそこそこ見れる顔なんだが…そんな顔をさせている僕が言っちゃあいけないな。
「ぶっちゃけボクもそう思うさ。だってさぁ、世の中のガールが憧れる職業のトップ3なんだよISパイロットは!iイーリが羽織ったデニムやスーツ、今朝食べたサラダのレシピが引っ張りだこになるご時勢なんだよ?教育、ファッション、エンターテイメント…コレは全て憧れに由来するんだ!キミ達のご先祖様が作ったような自殺兵器のパーツに成り下がるんじゃ誰もなりはしないし親御さんはカンカンだろカンカンだろ!」
「まあね…メッセンジャーボーイをしに来たわけじゃないけどさ。『アンカー・スチーム』を預かって以来、お礼も何も言ってなかったなあって思ったから、お礼がてらにコーヒー配ってるってわけ」
「『アンカー・スチーム』は、戦闘用に作られたISではありませんが?苛烈に戦える…」
ついさっきまで恋慕の情を切々と僕に訴えてた割にはドライな反応じゃあないか、ピクシー。まあ、皆に誓わせたんだ、僕が。『僕は学生たちの前では老醜を晒す。君たちは鉄面皮を貫きたまえ』って。
「確かに『白式』みたいに一撃必殺が出来るわけじゃないし、『ブルー・ティアーズ』みたいに全包囲攻撃が出来るわけじゃない。『甲龍』みたいに不可視の弾丸が放てるわけじゃあないし、FCSとの相性が悪くてミサイルの発射に戸惑う上に近眼で遠くの的に当てづらい…俺は俺で一夏のように剣術なんて知らないし、セシリアさんみたいに針の穴を通すみたいな射撃も出来ない。鈴みたいに火の出るように戦えるわけじゃあない。しかも、俺はビビリで武器を持つだけで神経が冷えて仕方がないときた…っと」
猿取君はダンボール箱の中の最後のコーヒーを取り出すと箱を潰し、開封すると一口飲み言葉を続ける。
「でもさ…相棒が『アンカー・スチーム』だったからこそ、少佐殿を救えた。他のISだったとしたらもっと戦えてたかもしれないけど、最悪…救えなかったら、ウマイ飯にはありつけなかった。楽しい食事だった、少佐殿だって悪いヤツじゃなかった…もし見捨ててたら、俺も一夏も笑えなくなってたと思う」
言葉を詰まらせると、彼はブルブルと震えだす…臆病?怯懦?いや、もっと崇高な何かだな。
「起きなかったことでビビるなんて随分なチキンじゃないかトレイニー、そうだ!ピクシーのカウンセリングでも今からタップリと…」
「バーサーカーや猪武者のほうが良かった?だとしたらもっと悲惨になってたよ…カウンセリングは明日にするよ、今日はもう疲れたから寝る…あ、それとさ…一つ質問があるんだけどさ。いいかな?」
「…質問は何でも受け付けるし、答えられる範囲でなら何でも答えるよ」
真剣な表情をした彼の視線を感じ、つい言葉が素に戻ってしまう…老人の素振りなど気にもならないくらい重要な話らしい。
「『ISには意思らしき物がある』って授業で習ったんだけどさ…会話もするものなのか?変なボヤキを聞いたんだ…俺の勘違いかもしれないけどさ」
「…会話、ね。少なくともISの声を聞いたことのあるパイロットってのは聞いたことはないよ。気のせいの可能性は高いよ。他に何か質問は?」
!?…驚いた。『P』との相性は中々いいと踏んではいたが、ココまでとはね…今はまだ『真実』を語れない。すまないが、『事実』で勘弁してくれ。
「そっか、ありがとうゲスジジイ。消灯前には少佐殿もデュノアさんも来るってさ。それとさ…『他のスタッフの人たちの名前って、公開しないの?出来れば教えて欲しい』ってクラスの子達から要望があったから。」
そうボヤくと猿取君はコーヒーを飲み干し、回れ右して部屋を後にした…ありがとう、か…残念だったな、ピクシー。まあ、まだ時間はタップリ有るんだ。急いてはことを仕損じるよ。
「ね?グランパ!ああいう飾らなさがカッコいいのれす…」
「だね。…分かってると思うが、彼の泣き所をつつく様な真似はお勧めしないよ」
彼のナイトライフは色々と漏れ伝わっている。彼の臆病にも似た慎重さから考えれば自分からという線は考えづらいし、あの副担任がコナをかけたというのはもっと考えられない。ジュウゾウやチズコか仕掛けたわけではないだろう。彼の口座の履歴を見ても、金銭に関連するモノゴトがあったとは思えない…分からないな、男女の縁というものは。
「わ、わかってるれす!」
「…そうだ、ボーデヴィッヒ君の受け入れ作業を行なうからさ。お願いしてもいいかいピクシー?」
▽
「ゴメンね。ビックリした?」
「…まあ、男にしては華奢だと思ってはいたがな…」
案内されたAOAの女性用スタッフの部屋。『IS学園から、身体検査とISの修復が終了するまでこちらでお休みくださいとの事でした。相部屋になりますが、クラスメイトの方ですのでご心配なく』と言葉をインド系の女性スタッフからかけられていたラウラはベッドに腰掛けていた同部屋の女性…シャルロットの胸元を眼を白黒しながら見つめていた。
「まあ、別に本国に報告しても…」
「そんな事はする気はない。少なくとも、私のほうに帰国命令を出されて処分されるほうが先だろう…」
自虐的な笑みを浮かべたラウラに、シャルロットは真剣な眼差しを向けながら言葉を返す。
「大丈夫だよ。そんな事にはならない…だって、織斑先生も、一夏も、猿取君も、アークライト博士だっているんだから。最後の一人は…あんまり信用できないかもしれないけどね」
「そうだな…ここに来てから、己の未熟さばかり思い知らされる…」
「だから学校があるんだよ。勉強することがあるからここに来たんでしょ少佐殿も?」
いたずらっぽい笑みを浮かべたシャルロットの言葉にラウラは瞳を白黒させ…苦笑を浮かべると言葉を返し、右手を出した。
「ああ…そうだ。よろしく頼む、デュノア君…」
「シャルでいいよ、少佐殿」
優しく握り返してきた手のぬくもりを感じながら、ラウラは言葉を返していた。
「そうか…では、私もラウラで良い、シャル」
◇
「【えっ!?】名前を知りたいって言われたんですか!?やったー!」
「フフフ…高度に発達した筋肉は魔法と見分けがつかない!理想的なビルドアップを可能とするには叡智もまた重要!初歩的ではあるがそれゆえに気付きづらい真理!」
「困るんよ…女子高生に興味もたれるとか…困るんよ…」
…ああ、まったく彼らはひっくり返したパック詰めのイチゴだ。人が隠さなければならない所をさらけ出して嬉々としている。
「まったく…君たちは博士課程を終了したんだろ?ハイスクールの学生じゃあないんだ。騒ぐほどのことでもないだろうに…まあ、交流も分かるが…」
「はい、『シュヴァルツェア・レーゲン』の調査と修復…取り掛からせていただきます」
「ボーデヴィッヒ少佐の治療と調査も取り掛かるんよ…自分は不肖の弟子だけども、遺志、尊重しないと駄目なんよ…」
…そして蔑ろにされかねない『良心』や『美徳』をきちんと中心に据えている。本当、AOAには勿体無い逸材だ。
「しかし、ココで骨を埋める気かい?総収入とかを考えたら…」
「引き抜きのメールなら皆山ほど来てますよ!どうせ勤めるならいいトコロが一番じゃないですか!」
「賛成!」「賛成!」「賛成!…って、何涙ぐんですか、博士!?」
「…人生宵の口に入ると、涙もろくなるものさ」
…本当、僕には過ぎた後進たちだ。
汽笛一声
「お疲れ様でした、一郎さん…本当、モスクワから丸一日でウラジオストクまで行けるなんて、鉄道技術の発展は大したものね」
「まあ、クリミアからも撤退したんだ。日本がロシアに投資しない理由はないよ…楯無様だって今ではロシア代表なんだからね」
「…はい、それとママへのお土産。まさかカルナックの水をカルナックの石でろ過しないと鉄の雑香がするなんて…及びもつかなかったわ」
「今つけてるんだね。とてもいい香りだ…」
「いつか、一郎さんから鉄の雑香が消える日が来ると良いわね」
「僕のことはどうでも良いさ、すみれちゃんから抜ける日が来れば良いよ」