俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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木曜日の夜に

「バイタルデータ、及びメンタルデータの解析終了しました。恐らくは異常はないかと」
「有難う。これで、私も本国に帰国と言うわけか」
「その心配はありません、とだけは言っておきましょう…それと、『ヴァルキリー・トレース・システム』が発動しても貴女が貴女のままでいられた理由、知りたいですか?」
「教えてくれ」
「『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』ですよ…瞳や耳、皮膚といった感覚器から死のイメージを『ヴァルキリー・トレース・システム』は被害者に送り込み、ISは死体に侵食して醜き兵とするのですが、貴女の瞳に仕込まれていたナノマシンが強烈なカウンター・プログラムとして反応したんです。鏡を見て気付かれましたか?瞳の色が金色から橙になっているのはそのためですよ。幽明境を異にする、とは死に別れることを表す諺だそうですが…世界を越える事を食い止めてくれたようですね。どなたが移植したのかは存じ上げませんが」


「ああ!!エイムズ博士の息吹を感じるんよ…いいんよ…このナノマシンの息遣い…本人の意思なくしては高みには登れない、かつ意思あるところには何処までも上り詰めていける伸び代…自分の遠く及ぶ所ではないんよ…そしてあの『越界の瞳』!バーバウズ先輩!まさに子を思う親心…泣けるんよ!!」


第3.5章 狂想曲(カプリシオ)は未だ鳴り止まず
Chihuyu:ドイツ、人事…あとはわかるな?


『ISを展開しろ、ボーデヴィッヒ』

「了解しました、き…織斑先生」

 

金曜日のお昼休み、サンドイッチで軽くお腹を満たした私たちは第3アリーナで少佐殿…ボーデヴィッヒさんのIS『シュバルツェア・レーゲン』の再起動の点検の見学を行なっていた。『ここに来た以上外の階級など無意味だ。呼び捨てで構わない』と本人は言ってはいたが、年下とはいえ先達だ。ソコまで無体な真似は出来ない。

 

『ああ…何事も有りませんように…無事に午後の授業にいけますように…』

『そういうのを『フラグ』って言うんじゃないの?よしなさいよアホ茨』

『『前振り』じゃありませんの?鈴さん』

『アークライト博士達AOAは信頼できるはずだよ、猿取君』

『ジイさん達を信じろよ、茨』

『そうだよそうだよ!おととい送られてきたシュバルツレア=レーゲンの修理用パーツの解析だってパーペキだったんだ!因みに結果はシロ!ボクのシャツの色も白!因みに下はトランクス、フロイラインの縞パンとおそろいのストライプさ!履き心地はどうだいフロイライン?』

 

 

「最低…」

「まったくだ…」

 

 

アリーナの席で私と簪さんはウンザリした顔を見合わせていた…簪さん以外の専用機持ちは万一の場合に備え、ISを展開しボーデヴィッヒさんを囲むように待機している…何をしでかすか分からない、と言う点においてはゲスジジイは信頼は出来るがな…ん!?

 

 

『何を言っているんだ博士?私の下着は上下とも白だ…ッ!?』

『いい加減にしろよジイさん…って、どうしたボーデヴィッヒさん!?』

 

『シュバルツェア=レーゲン』を展開したボーデヴィッヒさんは急に胸を押さえながら苦しみだした!?な、何があったというんだ!

 

 

『ふ、ふふふ…ま、ええっと…間抜けめ…きさ、きさ…』

『ダメじゃないかダメじゃないかフロイライン!キチンとリハ通りやってよフロイライン!ちゃんと台本読み合わせただろフロイライン!』

『…なんでJOJOなんだよ、ゲスジジイ…』

 

 

…技術については折り紙つきだというのは保障しよう。だがもう少し真面目にやってくれないだろうか。『ゲスジジイ』の称号は拭えないぞ。

 

『解散…で良いですわね、織斑先生…』

『ああ…ご苦労だったな。ボーデヴィッヒ、異常無しはこちらから報告しておく。安心しておけ』

『まあ、暴れ出すとかそういうのが無くてホント良かった…おし、取りあえず午後の授業の用意だ…あ、その前に購買行こう、もうちょい腹に何か詰めたい…』

『ゴマ団子ならぜいいん分用意してるわよ、『黄金と胡麻の魂』!』

『楽しみですわね。紅茶でよければご用意させていただきますわ』

 

 

…まったく、いい気なものだ。別に腹の虫がなったからとかそういうのではない。断じてない!

 

『じゃあ戻ろうぜ、皆…それとありがとうな、ジイさん!』

『ノープロブレムだよベビーフェイス!…そうだ、ムッシュ!新しいオべべを用意しておいたから楽しみにしておいてねムッシュ!』

『…はい』

 

「オべべ…?服を、用意する…?」

 

…まあ、楽しみにしておいてくれ、簪さん…

 

 

「点検は終了した…一応はシロだ。まあ、ソッチにはいろいろと噛み付いているんじゃないのか、ハイジ?」

『ええ。ドイツの皆様も必死ね…だからそろそろ新情報を提供する予定…これでドイツもそれどころではなくなりそうでしょうけど。でも意外だったわ。ここまでブリテンの皆様がご執心なんて』

『アル、オメーなら『テンペスタ』と『シュバルツ』ドッチを選ぶ?俺ならドッチも願い下げだな。『タイガー・シャーク』のカスタム機で十分だ』

『そもそも、今の機体はまだまだ『白騎士』のコピーの域を脱してはいない…そうだろう、アル?』

「ああ…各国の尽力は眼を見張るものがあるがな。そうだ、今日から『ヘラクレスの娘』は正体を表す」

『楽しみね…アルの面白い姿も素敵らしいけど』

「よしてくれ、正直アレは好きじゃないんだ…早い所素に戻りたいさ]

 

『で?『ブランク』はどうだった?』

「…『ホワイトナイト』だった、雁字搦めのね。枷は外しておいたよ…本当、技術大国日本というが、うそ寒いものだ。『天災』の足元にすら及ばない」

 

 

「そういや、剣道部のほうはどうなのさシノさん」

「勝ったり負けたり、勝率は5割だな…先輩も同級生達も強敵ぞろいだ」

 

午後の最後の授業も終わり、榊原先生が教室を出て行くと皆はSHRまでの短い時間、互いに色々なことを語り合う。『後でも良いんじゃないのか?』というツッコミはヤボだろう。話すことは楽しいことなのだ、誰にとっても。

 

「スゲェな、剣道部の皆…いや、俺も散々部長や副部長に打ち込まれたけどさ」

「そう卑下することもないでしょう。一夏さんは昨日、私たちのサーブに喰らいついておりましたわ」

 

…そうそう、『淑女協定』の皆も部活動に精を出すことと相成った…いや、その前から皆はスカウトされて所属はしていたのだが…一夏錬成訓練にかまけて皆余り顔は出していなかった、と言うか幽霊部員状態だった。織斑先生から『お前達も学生なら訓練だけではなく、余暇を楽しんだらどうだ』と言う言葉に皆不服そうであったが…

 

(なあ皆…織斑先生が自分の忠告をスルーする女の子を、何時までも一夏の側において置くと思うか?)

 

ホント、何か言う前に耳打ちできてよかった…俺って、ココ来てから口は上手くなってきたよな。頭はそれほどでもないけど…まあそれだけが理由じゃあない。『淑女協定』の皆が強いのは認める。でもさ、一夏を占有してるって悪評が流れたら終わりよ?横のつながりだって重要なのよ?やっぱり、多くの人と仲良くして欲しいのよ、俺としては。まあ、一夏は毎日違う部活に『見学』と言う形でお目見えするんだ。自習の時は一緒にいられるんだ、アンフェアだって思われる確率はぐんと下がるぞ!

 

 

「一夏!今日はあたしのところに来る日なんだから…」

 

 

鈴、SHR前にわざわざご苦労様…でもさ、多分それは叶わぬ願いになると思うぞ…

 

 

「皆さん、SHRのお時間ですが…今日は最後に転校生の紹介をしたいと思います…凰さん、そろそろ2組の教室に…」

「いや、凰もこの件には関わっている…入れ」

「はい」

 

…ほらね…ホント、やっぱりデュノアさんには女の子の姿が似合うわ…

 

 

 

 

「どうした、お前達?何を悩んでいる…新しく決まるはずの寮の部屋割りか?デュノアはボーデヴィッヒのいる部屋に来てもらうぞ」

 

部活動の時間も終わり、今から夕食…と言った辺り。鈴、セシリア、デュノアさん、ボーデヴィッヒさん…そして私と一夏は、食堂への道すがら、いつもの調子を取り戻せないままいつも通りの織斑先生と相対している…ボーデヴィッヒさんも、デュノアさんの身に起こったことを本人から聞いていたそうだ…ドイツ人とフランス人は相性が悪いとよく言われるが、例外と言うものは何処にでもあるのだ。

 

「いや…織斑先生…どうした…と言いましても…」

 

 

 

『猿取君がこんなことを吹き込んだのね!』

『とっても綺麗だけど、男の子は女の子にはなれないのよ!!』

『ていうか何よその乳は!PAD!?それともシリコン!?』

 

授業後のSHR、女性として教室に入ってきたデュノアさんにクラスの皆は大混乱に陥ったのは言うまでもない…茨がなぜか詰め寄られてはいたが、まあ、人徳の差というべきなのだろうか…大混乱に陥った教室を一気に鎮静させたのは、やはりと言うか…織斑先生だった。

 

『お前達、たかが男が女だったくらいで何を騒いでいる』

『皆さん、コレはデュノア社からの重大な依頼なんです。静粛に聴いてください』

 

…たかがですませられるモノゴトかどうかは分からないが、流石はブリュンヒルデだ。静まり返った教室内に、噛んで含めるような山田先生の説明が染み渡っていく。

 

曰く、『自らの血を引くものを』後継者とする先代デュノア社長の遺言を知った『許しがたい反社会的組織』が『先代社長のご落胤の孫』であるデュノアさん親子を狙ったテロを3年前に計画した。

曰く、その魔手を掻い潜るためデュノアさんは男装し、学園で保護することとなった。

曰く、そのために一夏はフランスで打ち合わせを行い、茨、セシリア、鈴が保証人として立会い、『日曜日から』ジョブ&ホビーに部屋を当ててあり、本日から寮で寝起することとなる。

曰く、先日『食中毒で死亡した』デュノア副社長と、4歳の子息は同組織に毒殺された可能性が高い。

曰く、同時期に縊死を発見されたデュノア社員…重役が多く含まれる…はニュースで言われているような背任行為の露見を恐れて自殺したのではなく、同組織に殺害された可能性が拭えない。

 

 

 

 

 

「デュノア、お前が気に病んでいるのは『自分が助かったのは間違いではなかったのか』そんな所だろう?」

 

…そして、デュノア社副社長は『各種慈善団体に寄付を行なう慈母』であり、『決して恨まれる人間ではなかった』…私たちが一夏の部屋で聞いた真実をそのまま伝えるわけに行かないのは重々承知している。だが、代わりに伝えられた事実がデュノアさんを打ちのめしていた。私達も、友人の親の仇の意外な一面に面食らい、意気消沈していた。それを察したのだろう、苦虫を噛み潰したような表情で、織斑先生は言葉を続けていく。

 

「私もな、現役時代は色々な慈善団体に寄付していたぞ。企業の斡旋した税理士の勧めるまま、節税のためにな…コンゴのゴリラ保護だミャンマーの識字率向上事業だのにな。乱暴な言い方かもしれないが…寄付金の使われ方なぞ、寄付した側は知ったことではない」

 

「先生…どうして、母さんと…副社長は…」

 

涙ぐみそうなデュノアさんをしっかりと見据えると、初めて織斑先生は真剣な表情になり、言葉を紡ぐ。

 

「皆まで言うな。私には、察することしか出来ないが…母親だったからだ。親ならな、わが子の将来は心配になるものだ。デュノア、お前が気に病む必要などない。もし、何かしらの責任を感じるのなら…その代わりに家庭を持ち、子を作れ。そして親の分まで愛を注いでやれ」

「はい!わかりました!!」

「…そうだ、ボーデヴィッヒ。ドイツからお前について連絡が来た」

「ひゃ、ひゃい!!」

 

…安心しろボーデヴィッヒさん。織斑先生が憤っているのは貴女じゃない。だからそんなに涙目になるな。それとデュノアさん、顔を真っ赤にして瞳を潤ませるな、一夏を見つめるな。

 

 

 

「…正式な発表は月曜日、お前の部下のハルフォーフたちにも似たような決定が下されるそうだ…お前にとってはショッキングだろうし、これからの人生は一変するだろうな」

「ち、千冬姉!」

 

ボーデヴィッヒさんは話してみれば悪い人間ではなかった。授業で織斑先生に聞きづらいことでも懇切丁寧に教えてくれていたし、ドイツ時代の織斑先生の話は、一夏が瞳を輝かせて聞き入るほどのものであった…だから、彼女が不幸な目に逢うとしたら、理不尽にしか思えない。

 

「ドイツは、お前を暫定代表に就任させることに内定した。お前の部下達は代表候補生とするとのことだ…どうしたお前達、鳩が鉄砲喰らった顔をして?」

 

われわれが同じ感想を抱いたのを見透かしてか、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべた織斑先生は言葉を続けていく。

 

「当たり前の話だろう?『シュバルツェア』の件に関してはボーデヴィッヒは何も悪くない。学園としてもみすみす見過ごすわけにもいかん。ドイツとしてもお前と言う貴重な人材を手放したくは無い…来週頭には『インフィニット・ストライプス』が取材に来るそうだ…夕食が済んでいないならボーデヴィッヒのドイツ時代の話でもしながらでもどうだ?」

 

 

『そっか、そっちは楽しそうだな…俺は家に帰ってからメシにする』

 

プライベート・チャネル(個人間秘匿通信)で一夏に現状を報告すると、俺は作業を再開する…織斑先生がいるのが予想外と言えば予想外だが、どうやら楽しい一時を過ごせていることは疑いないな、うん。

 

「…ていうか会長、去年の手紙の日付とか年度とか変えてそのまま送ればいいじゃないですか…」

「何馬鹿なこと言ってるのよ!そんな事したら去年送ったヤツと見比べられて手抜きを笑われるわよ!」

「…今回は去年までの学年別個人トーナメントとは違うんですよ、猿取君…」

 

ノートPCの前で頭を抱えながら文章を考えている逆切れ気味の会長をスルーしながら、布仏先輩は言葉を紡ぎながら赤ペンを置き、草稿を会長に手渡す。

 

「そ。今回は学年別『タッグマッチ』トーナメント。先生達や整備スタッフ、何より『ブリュンヒルデ』がアンタや織斑君の戦果を評価したってわけ…こんなに直さなきゃいけないの?虚…」

「こっちは封筒の準備完了です、会長…そっか、じゃあまた大騒ぎになりますね…」

 

各国や企業宛の封筒の宛名書きを終えた俺は、虚さんに封筒を渡していた。後は会長の美文が完成すればそれで完了だ…500枚書くのはキツかったけどさ。

 

 

『淑女協定』の一夏争奪戦が起きるんだろうな…頭痛いわ…

 

ま、あくまでも試合だ、気楽にいけるのはいいモンだよな…ほんとイヤだよ、『死ぬ』だの『殺す』だのいう話は。

 




やすめ きやすめ はねやすめ

「楯無様からね、どんな話?」
「『たまには温泉にでも行ってゆっくり休みなさい』ってさ…ありがたいね。先代よりもはるかに人間として出来ておられる…どうせなら義父さんたちも誘ってゆっくりしよう」
「若い子達も連れて行きましょう、働きづめでしたもの」
「だね…メールを送っておくよ」

「…ねえ、アナタ、ひょっとしたら…仕事用のメルアドに送ってない?」
「ホントだ!…まあいいさ、同業の皆にも言わなきゃいけないことは結構あるんだ」




「取りあえずは、コレはオシオキが必要ね…」
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