俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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エロスと、そしてタナトスと

「…しかし、僕的には箒ちゃんの教育は上手くいったのかどうか…柳韻さんに申し訳が立つかどうか…」
「何言ってるのよ一郎さん。性的なものをタブー視して隠してしまうことは厳禁なのよ!ビクトリア朝イギリスではピアノの椅子までふしだらである、って覆いをするくらいヒステリックだったから切り裂きジャックが生まれたのよ!」
「まあ、そうなんだけどさ…レディコミとかウスイタカイ=ホンやアツイイヤラシイ=ホンとかが普通に有る家庭っていうのもね。避妊にコーラみたいな無茶苦茶なのは無いと思いたいけど…」


「…ウチは、それが男同士の友情ネタしかなかったのよ…」





「さ、仕事だ。BIG4の残り3名がお目見えする…MI6にAISI、国家安全部からも『万一』が無いようにとのことさ」
「『万一』を起こしたくて仕方ない…そんな連中ばっかりだものね」



猿取茨観察日記(無許可)

「今日も元気だゴハンがうまい、天気は曇りでもいい一日になるな、うん」

「いつもながら美味かったな。特にピーマンの揚げ出し!」

「しかし…あのペラペラの薄片は何なんだ?実に香ばしかったが」

 

朝御飯が終わり、食堂からの帰り道。一夏とボーデヴィッヒさんの後に伸びをしながら俺はついていく。にしても相変わらず渋い趣味だな、一夏…ペラペラ?ああ、アレか…

 

「アレはタタミイワシっていうんだ、ボーデヴィッヒさん。釜茹でしたシラスを木枠で漉いて、天日干しにした保存食だよ。ここの特産品さ」

「釜揚げしただけのは釜揚げシラス、生で頂けば生シラス、生をしょうゆ漬けにすれば沖漬けシラス、乾燥させればチリメンジャコ、大きくなればカタクチイワシ、そいつを干せば煮干になる…ってな感じ。カフェテラスの今日のおススメランチはここのイワシで作ったアンチョビ・ピザだぜ、一夏」

 

さ、今日は土曜日。視聴覚室で21話~30話まで放映かな…ちなみにだ、残りの『淑女協定』の面々はささっと食事を済ませると足早に出て行った…何があった?まさかあのメンツがこの微笑ましい一時を奢ろうなんて考えたとか…

 

「博学だな、2人とも。ISのことしか頭に無かった私には…」

「そんなことはないだろ。『大切なものは目に見えない』って言って星の王子様のキツネがでてくる奴は中々いないよ、ボーデヴィッヒさん」

 

自虐的になりそうだったボーデヴィッヒさんをフォローするとは、成長したな一夏!ヒロインと畳は新しいほうがいいとかいう名セリフもあるんだ、こう次のステップに進むのもありなんじゃないか一夏!

 

「モテモテね、ボーデヴィッヒさん。織斑君、この間の話考えてくれた?…ああやっぱりそうだったんだ簪ちゃんにコナをかけていたのはそのおぞましい獣欲を満たすためだったのねさっさと失せなさいこの淫獣」

 

 

…何でこう微笑ましい一時を邪魔するんですか会長。俺は姉妹の時間をできるだけ取れるように気を使ってるつもりなんですが実はそれが重荷だとか言わないでくださいね会長。じゃあお暇を…ってどうして俺の服の裾掴むかなボーデヴィッヒさんは。

 

 

 

「…俺が茨を虐めるような人のいる生徒会に入ると思ってるんですか、会長」

「いや、俺は別に虐められてるわけじゃ…ボーデヴィッヒさん、離してよ」

「なら逃げるな、猿取君…生徒会長、猿取君をどうして嫌うんです?私個人の話で恐縮ですが、彼は織斑君と一緒に私を助けてくれました。少なくとも嫌悪される人間とは思えませんが。思うところがあるのなら少し語り合ってみたら如何です?」

 

…俺は大体理由は分かってるんだ、ボーデヴィッヒさん。簪さんに近づく悪い虫を排除したい姉心だろう…でもさ、俺は別にそういう下心は無いけど…まさか一夏からむき出しの敵意を向けられるとは思ってもいなかったのだろう、会長はしばらく瞳を白黒させていたが落ち着きを取り戻したのだろう、冷静な口調と余裕タップリの笑みを取り戻していた。

 

「そうね、少しお話しましょうか」

「上映会までには返してくださいね会長。いや、ホント楽しみなんだぜあのヒーロードラマ!」

 

 

ええ。下手なことを言ったら殺されるってのは分かります。扇子に『鏖』とか表示させなくて大丈夫です。一体それ何で出来てるんですか?…それと一夏、クウガを気に入ってくれたか。勧めた俺としてもほっとしてるよ。

 

 

「ホント、頭くるよ。茨があんなに嫌そうにするだなんて…」

「?あれは構って欲しくてイジワルをしているのではないのか?」

「じゃあボーデヴィッヒさんは茨に気があったのか?」

「ま、まさか…あれは、『ヴァルキリー・トレース・システム』の副作用だ。その、猿取君に対しては、思うところは無い…そうだ、引っ叩こうとしてたこと、本当にすまなかった。私で出来ることなら…」

「別にいいって…じゃあ、仲直りの握手!これで全部ノーカンな!」

「ああ…ありがとう…」

 

 

(温かいな…織斑君の手…電話をシュヴァルツェア・レーゼの面々にしておいてよかった…ハルフォーフの言っていたとおりだったな)

 

 

Σ

 

 

「お久しぶり、マリ!景気づけにビール!」「ビールお願いします!」「ビールで!」

「あ、ああ…5日ぶり…えらく機嫌がいいね、アンタ達…男でも出来たの?」

「違う!!隊長が…少佐が…いや、ドイツ暫定代表、我々のラウラ・ボーデヴィッヒが復活された。そして…昨日の電話から察するに…教官の弟君にも悪感情は抱いていない!むしろ淡い思いを抱かれている!」

「素直クール万歳!」「ノーモアツンクール!」「我々の隊長が帰ってきた!」

 

「…スナオクール?ツンクール?なにそれ?虫さされの薬?…あ、パパもお久しぶり」

「ただ今、マリア…さて代表候補生の皆様に連絡だ。今月末にIS学園で学年対抗トーナメントが開かれるんだが…皆様を観覧させたいと首相からのご依頼だ」

 

 

「「「「!!!!!」」」」

 

 

「それと…エイムズ博士は半年前にフランクフルトで亡くなられていた。親族の意向で今まで秘密にしておいてくれとさ…黙っていてすまなかったな。暫定代表にも…」

 

「いや、いい…少佐には私達から話しておく…皆、杯を。マリ、皆さんにも一杯づつ奢ってくれ…エイムズ博士に、バーバウズ博士に、私達に人としての道を与えて下さったお二人に」

 

 

 

「「「「「乾杯」」」」」

 

 

 

「そういえば、茨君は御伽噺の中ではオズの魔法使いが好きって本音ちゃんから聞いたわ」

「はい…俺も布仏さんから、会長は浦島太郎が好きだと聞いています」

 

何をするでもなく、俺と会長はブラブラとIS学園外縁、海岸線の道を歩いている…ホント、潮風が心地良い。これで曇り空でさえなければ最高なんだが、まあ多くは求めまい。

 

「ねえ、浦島太郎って変な御伽話だと思わない?いい事をした筈なのに誰も知り合いのいないくらいの未来に飛ばされた挙句お爺さんにされてしまう…どうしてこんな話が生まれたと思う?」

 

…そんな長い付き合いでも無いが、激昂していないときの会長の話し方には傾向があることが分かった…何となくだが。本論に入るまでがやや長く、入ったとしても核心を悟らせない…そんな人をケムに巻くような話口なのだ、落ち着いている時は。

 

「海に生きる人たちの教訓でしょう、『人として生きろ』って言う」

 

単刀直入な俺の言葉に会長は鳩が鉄砲喰らったような表情を浮かべた…鬼の首みたいに粘着する気は無いが、こんな表情を見れただけでも価値はあったかもな、ウン。

 

「ウチの地元はこの町で、港町ですけど…俺や実家の知り合いに漁業に携わってる人も結構いるんです。海沿いに住んでる人間は『口も荒いが気も荒い』なんて言われますけどそんな事は無かったですよ。昔から取り過ぎたら値が下がるし資源も枯渇するから網元同士で『どれだけとるか』って決めることもありますし、大きな網を沢山の船で引いて上がりを分け合うことだって結構ありますから協調性や計画性もとても重要なんです。『水神様が怒る』って漁以外では一切釣りをしないくらい信心深い人もいましたし、無意味に亀をいじめるなんてそれこそ『罰当たり』だって水神様の生贄に捧げられてましたよ。まあ、ウチじゃそんな罰当たりはいなかったっぽいですけど」

「…で、何でそれが浦島太郎と…」

 

顔をやや引きつらせた会長に俺は表情を作らないよう意識しながら言葉を続けていく。

 

「亀を食おうとしたんでしょう、子供達は。海が荒れれば船は出せない、日干しになるしかない…まあ、ウチの浜の人たちは田んぼや畑、山で木を植えてる人たちもいましたからそういうのは無かったでしょうけど。それでも浦島は亀を逃がして、浜の人間に殺された。死人だからこそ海の底にある竜宮城にホイホイ行けたんでしょう。歓待しながら乙姫様は勧めたんでしょう『人じゃなく海側、人に仇なすものの側に立て』って。でも浦島は固辞した…だから乙姫様は人として浦島を死なせてあげた。浜の人間ではなく、竜宮のせいで死んだっていう偽の記憶を刷り込んでまで」

「随分特撮じみた解釈ね。それってヒーロードラマ好きな猿取君の御爺さんから?」

「いえ、うちの父からです」

 

ちなみにこの話を聞いたのは3年前、中学校入学お祝いの時だった。いつもはお酒なんて飲まないお父さんはグデングデンに酔っ払った状態で呂律の回らない状態でこの説を教えてくれた。バーちゃん位は酒を嗜むお母さんはそのときは珍しく素面だったので、この珍説も頭に染みこんでいる訳だ、ウン。

 

「茨君、そろそろ上映しないと…皆楽しみにしてるし…」

「ごめんごめん簪さん。じゃあ行きますね、会長」

 

息切らせて走ってくるとかよっぽどお待ちかねのようだ、上映会。勘違いで来てた人たちはあらかた消えたから約50名…まあ、『淑女協定』は一夏目当てだって分かってるけどさ、ウン。

 

 

 

 

「お姉ちゃん…茨君と何、お話してたの…」

「浦島太郎のお話…簪ちゃん、私からの一生のお願い。『楯無』の名、『更識』の業は私が背負う…だから、簪ちゃんは自分の幸せだけ考えて。誰でもいい、素敵な人を見つけて幸せになって」

 

 

早起きですね、アークライト博士。あいつらが生まれるか生まれないかに放映していたドラマなんて食いつくとは思いませんでしたが。

 

「さって、そろそろ箒ちゃんのデビューのための捨石、起動させようかな♪」

 

 

例え何十年前のものでも、良いものは良いさ。『ロスト・ワールド』は、未だに賞賛を浴びているよ。

 

 

「あれ?あれ!?どうして!??起動しない!!おかしい、おかしいよくーちゃん!ユダヤの連中が開発してるはずのIS、クラッキングが出来ない!」

 

…アイツのことですか。

 

「こんなの絶対おかしーよ!折角オフライン状態でも解決できるように生体クラックシステムを…ねえ、くーちゃん。今生きているネズミのルート、全部教えて」

 

…テルアビブの『聖歌隊』に悪戯を仕掛けていたよ。まあ、警告は入れておいた。

 

「a,e,h,m,n,o,s,u…『Shame on U』(恥を知れ)…そう、それが答えなんだ。それがあたしへの先生の答えなんだ!!」

 

…仕掛けてくるとすれば、7月くらいでしょう。

 

「決めた。先生のオモチャ、絶対あたしが壊してやる。二度と使えないくらい徹底的に壊してやる」

 

…だろうな。本当にアワレだよ、『天災』は。人を嫌がったくせに、人に恋焦がれるなんて。

 

 

 

「…そうだよな、そりゃあ3ヶ月もあれば出来るよな…でもさ、いるならいるで俺に教えてもいいじゃないかよぉ!まるで俺はピエロじゃないかよぉ!!」

「何でそうなるのよ…」

 

上映会も終わり、食堂へと向かう一夏たちを尻目に向かった五反田食堂…やはりポレポレのカレーの魔力は絶大だったな…たまたま行き会った布仏先輩が『猿取君の幼馴染のおうちなんですか?4月から土曜日のお昼はココの煮魚定食に決めてるんです』と五反田食堂まで一緒だったのはビックリした。でもさ、まさかもっとビックリするとは思わなかったよ。最近土曜日は中々電話が繋がらなかった弾が食堂がお運びをやってて…俺と布仏先輩の顔を見比べて喜色満面の顔が絶望に染まるってのはさ。

 

「先輩、ちょっと中で待っててくださいね。弾、ちょっと外行くぞ」

 

弾を引っ張りながら食堂の外まで連れて行くと、俺はグスグス涙ぐむ弾にピシャリと言い放つ。

 

「俺は誰とも付き合って無い。布仏先輩の私生活も何一つ知らないぜ?前にも言ったと思うけど男女交際は禁止されてないし許婚がいるかもしれない…これで安心したか?」

「ほ…ほんとだよな!実は付き合ってて俺を玩ぶために…」

「どこのマンガだよそれ。大体俺はそんな事して面白がるタイプか!?」

 

よし、納得したな。涙をさっさと拭え弾。お前に涙は似合わないぞ弾。布仏先輩を何時までも放置するわけには行かないぞ弾。

 

…ホント、どうして俺はISを纏えるんだか…




ことり ひなどり あおいとり


「やっぱり、ロリコンなんだ、茨君…」
「違うわよ!『年上がいい』ってアホ茨は…まさか!?」
「会長とは無理筋じゃあ御座いませんか?」
「確かにな。茨は本気で嫌がってるし会長は会長で毛嫌いしている」
「!?…見てよ。ラウラはあの二人に話し合いの時間を提供したみたいだ…どこ行くのさ簪さん!?」
「きっとお姉ちゃんに酷い事される!」

元々設置されている監視カメラからの情報を傍受しているモニターに釘付けになっていた我々を尻目に、簪さんは『打鉄弐式』整備ブースから飛び出していく…がんばれ、茨。それとまだまだ脇が甘いぞ。元々設置されている監視カメラについては意識の外だろう茨。

「でも、かんちゃんがしょーじきになってくれて嬉しいな…」
「だが、肝心の茨へのアプローチにしり込みするようでは…」
「仕方ありませんわね…私のお部屋をお貸しします!是非簪さんは本願を!」
「ならあたしの部屋に一夏を誘うわ。セシリアは一夏たちの部屋へティナと一緒に…」

「あ、ボーデヴィッヒさん握手しましたよ織斑君と。このまま手をつなぐんじゃ…」

「「「「「!!!!!」」」」」

山田先生の言葉に、険悪になりかけていた我々の空気は吹き飛んでいた。我先に一夏の下へと向かっていく。
…だから、山田先生のつぶやきは、意味不明なものでしかなかった。


「…やっぱり若い子は若い子同士が一番いいんですよ…うん」
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