俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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銃口は冷たく 引金は熱く

日曜日午後、俺たち1年生は自主トレを行なっていた。今日は火器制御に関して…ていうか何で俺と同じ第3アリーナに詰めてる一夏も聞く側に回ってるんだよ…


「俺は『雪片弐型』しか武器使えないし…」
「ダウト。FCSが射撃武器に対応して無いだけさ。ブレード振るう時はきちんと近寄ったり出来るだろ?…うし、じゃ基本の基本からレクチャーしようか」

「FCSってのは火器管制装置のことを言う。射撃の時の補正をする火器管制とフレンドリファイア防止や観客の安全確保が仕事なんだ…因みに、一夏の言っていたブレードも火器に入る。ほら、斬りかかる時の位置取りや間合いの調整も補助されるだろ一夏?」

そういいながら俺は脚部ハードポイントに収納されている『プレイヤー&バンカー』を使用許諾(アンロック)、白式…一夏に放り、同時にドローンをアリーナ内に浮遊させる。

《Unlock…adjusted》

いいね、このファイズギアみたいな音声…マダオさんとか串田さんとかペプラーさんとかホーチューさん版もあるけど、これが一番お気に入りだ…いや、一々『ブソウコウカーン!』とか叫ばれても困るだろ?

『照星と照門を合わせる様にして撃ってみ、一夏』
『お、おお…命中、撃破した。でもさ、高速で移動してる相手には…』

戸惑い気味の一夏に俺は片目を上げながら言葉を続ける…まあ、これは黒豹女の受け売りだが、きちんと教えておくべきだろう。

『勿論、目視で狙うのは高速戦闘じゃキツイ。でもさ、ブレードで回避しながら近づくとき、マシンガンやライフルで牽制ができるかどうかでも攻め手はぐんと増える。それにさ、ブレードは真正面に相手を見据えるからやろうと思えば結構当てられるぜ?…皆も覚えておいてくれ。打鉄やラファールなんかも同じでさ、まずは自分の中心に敵を見据えることがキモなんだ。真横や真後ろも見えるけど、やっぱり真正面が一番狙いやすい…ただまあ今回はタッグマッチだから自分や相手の相方がどう出るか、それも気をつけなきゃあダメになる。セシリアさんやシノさんとのタッグマッチ、何とか引き分けに持ち込めたのはそこいらだったと思う…』


…ホント、今だったらとてもじゃないけど勝てる自信が無いよ…



雨煙る闘技場で

俺、この話上げたらヴァナに復帰するんだ…

 

嫌な予感が頭をよぎる。後ろに思いっきりそらしていた頭…その一瞬後に相川さんの纏った『ラファール・リヴァイブ』の振りかぶったロケットハンマー『スカーレット』がそこを掠めていく…信じられるか?このゲテモノ『レッドパレット』作ったクラウス社謹製なんだぜ…

 

『うっそぉぉぉ!!?』

 

相手の口走った言葉などお構いなく、バク転から回復した俺は残り数発となった『ジャックポット』の引金を引く…散弾でもない、榴弾でもないそれ…強烈な火炎を発生させるドラゴンブレス=シェルが頭にまともに入る…が、『ラファール・リヴァイブ』の皮膜装甲(スキン・バリアー)を少々削るにとどまった…ダメージだけを見るのなら。

 

『ぜやぁぁぁ!!』

 

…そう、火炎によって塞がれた視界。それは何とか『メイルシュトローム』をし止めたシノさんの『打鉄』がこちらに来るまでには十分な時間だった。裂帛の気合と共に叩き込まれた横薙の太刀…『風切』…は、綺麗に首を薙ぐ…ホント、こいつが試合でほんとに安心できるよ。

 

《『ラファール・リヴァイブ』戦闘不能。勝者、『チーム・紫苑』》

 

湧き上がる歓声、そして拍手…相川さんとナディアさん…UAEの代表候補生で、フジャイラっていう国の出身だそうだ…も無事だ。二人に一礼をし、観客席にも一礼をすると俺達は引っ込んでいく…良かった、何とかベスト4までいけたよ。

 

 

 

 

 

ホント、シノさん抜きではココまでこれなかったな…

 

 

『ほお、ベスト4入りか…酷な言い方かもしれないが、彼にせよ天災の妹君にせよ、これくらいは見せてもらわなければこちらとしても示しがつかない』

『本当、酷な話よ。まともにISを動かせる男性は彼と織斑君だけよ…動かせない男が寄って集って嫉妬だなんて、見苦しくないの?』

『オレ達は弱者だぜ、ハイジ…そうそう、『A-H』『プライムバル』は順調に組みあがってる。納期には間に合いそうだぜ、アル…しかしまあ、アレくらいのイカサマ持ち出さなきゃあ勝テネー相手か?』

「ありがとうウー…それだけの難物だと思いたまえ、『天災』は…で、ハイジ…本当に来るのか?」

『勿論。アルがどれだけ学園を満喫しているのか気になるし』

 

 

「お疲れ様でした、箒さん」「とうとうベスト4ね、箒」「明日はボク達とだね、箒」

「ああ、ありがとう皆…シャル、明日は互いに全力を尽くそう」

 

第3アリーナを背にし明日の準決勝に思いを馳せつつも、私は別の事柄に思いをつのらせていた…いや、ここにいる残り3名も同じだろう。

 

((((遅い…))))

 

…そう、私たちが試合後シャワーに入り、身づくろいを整えてなお一夏と茨は現れない…遅い、遅すぎるぞ!?あれか、巌流島か!?

 

「…試合の後の火照る体をお互い慰めあう…ありえないとは言い切れませんわね…」

『な、何を言うセシリア!!一夏にせよ茨にしろ嗜好は普通のはずだ!!」

「…違うよ箒。ラウラも…そっか、だからか。ボクじゃあダメだったんだ、一夏…」

「違うわ、げいいんはきっとアホ茨にあるわ!だってそうじゃない!?だって一夏がソーイウ嗜好なら、私が…」

 

「はいはい、ボーデヴィッヒさんからのドイツ時代の織斑先生のお話で盛り上がってたんだ。お嬢様方、自販機のアイスでよければと思いましてお持ちしましたよー…それとさ、俺は嗜好はいたってノーマルだぜ…」

 

 

 

…ふむ、確かに一夏とラウラは茨の後ろで談笑中だ…なあ茨、お前も我々の気持ちを知っているのなら、こうもっとアシストする気があってもいいんじゃないのか?ん?

 

「…これは俺個人の感想なんだけどさ、一夏が有名になればああいう風な状況も割りと有るように思うのよ。目くじら立てて青筋浮かべられたら、百年の恋もストレスでマッハだぜ…」

 

 

…失礼な!確かに鈴もセシリアもシャルもそのような形相だが私は違う、違うはずだ!!

 

 

 

 

「おっかしーなおっかしーな、どーして箒ちゃんから電話もメールも来ないんだろー?どうしてだと思う、くーちゃん?」

 

周りは専用機持ちばかり、自分は量産機の順番待ち。むくれて連絡の一つも寄越す…あいつはそう思ってるだろうな。

 

「やはり、他人の目が気になるのでしょう。下手に手を借りれば総すかんを喰らいかねない、そう考えれば二の足をふむと思います、博士」

 

確かに、心象を悪くするデメリットはあるとしてもそういう依頼をする可能性は少なく無いと思います…やはり、ISが本質的にはどれだけ危険な存在か…それを理解しているのでしょう。

 

「だからおかーさんでいいんだよくーちゃん!…いっくんをモノにしたい、それが箒ちゃんの本音だよ。何とかベスト4までは行ったみたいだけど…相手は専用機持ちが2り、しかも片方は先生が開発に関わってるんだ!絶対瞬殺されて泣きべそかいて束さんに連絡してくるよ!」

 

…危険、か。ISはな、本来宇宙開発のためのマルチスーツだった、それをどれだけの人間が覚えているかな…

 

「…お母さんはお嫌いなんですね、箒さんのこと…」

 

勿論皆分かっています!篠ノ之博士が『白騎士事件』が起きなければ…軍事転用なんて…

 

「まさか。羨ましいよ、箒ちゃんは。私と違って普通だから」

 

…私が一番最初にISを見たのはな、あいつが『白騎士』をこしらえる遥かに前さ。

 

 

 

 

 

「で、織斑君は誰が一番手ごわかった?」

 

…俺達が勝ったと言うことは、裏を返せば負けた人がいるということだ。1年生全員で123名、勝ち残ったのは4組9名…簪さんとデュノアさんとのほほんさんは3人1組だ…つまり、俺達は57組114名の敗北の上に立っているわけなのだ…やっぱり食事中とは言え激闘の末に敗れた相手には聞きたいよな、谷本さん。

 

「…皆手ごわかった。茨やセシリアや鈴、シャルやボーデヴィッヒさんに色々と教わっていたから何とか足は引っ張らないで済んでる感じかな…」

 

かき揚げうどんをすすり終わると、真剣な表情で谷本さんに答えを返す一夏。思わず顔を真っ赤にしてうつむいてしまう谷本さん…ああ、初々しいねえ。だからおっかない顔で俺を睨まないでくれよ『淑女協定』の皆!一番最初に名前を出されたからってそりゃ無いよ!!本気で地雷扱いになっても知らないぞ!?

 

「ねえねえ猿取君は誰が一番手ごわいって思った?」

 

フォローありがとう沢渡さん。海鮮ちらしは美味しい?…話を振られた俺はハンバーグの付け合せのニンジングラッセを飲み込みながら言葉を返す。

 

「だねえ…1回戦の鷹月さんと沢渡さんチーム」

 

…あ、皆あきれてる。俺の隣の鈴がフライドポテトを掠め取ったのを指摘しようとし、中華セットBの唐揚げを置いていった事を確認すると俺は言葉を続けていく。

 

「俺達専用機持ちはさ、皆に教えてたわけじゃない?皆その延長線上かなあ…って心のどこかで考えてたんだろうな。二人ともさ、いつもの二人じゃなくて目の中に焼けた炭でも入ってるみたいに爛々としててさ…危うくキツイのもらうところだった…ッた!?」

 

突然頭に響いた衝撃、そして軽い痛み。驚いて振り返るとそこに居たのは織斑先生だった。空手チョップですか織斑先生。ていうか先生人の皿から唐揚げ掠め取っていかないでくださいよ織斑先生。

 

「トーナメントは基本後が無い。一戦一戦を全力でぶち当たる、それが基本だ…猿取、2回戦からは慎重に試合を運んでいるようだが、慎重なだけでは更識もデュノアも崩せないぞ…それと相川、ナディアにハンマーを持たせておいて武装を投げ渡し不意をつく…確かに良い策ではあった。だが…『当たった、勝った』と思わなかったか?」

「は、はい思いました…」

 

いきなり話を振られ慌てる相川さんを見据えると、織斑先生は言葉を紡いでいく。

 

「その思いは言うならば『喜び』、それは勝負が済んだ後に十分に味わえば良い。当てが外れればソレは『驚き』に変り、そして『怯え』になって仕舞う。無論、感情の制御など中々できるものではない。だがな…せめて取らぬタヌキの皮算用はするな。それだけでも勝ちの確率は抜群に上がるぞ、負けの苦杯を無駄にしたくないなら、覚えておけ…唐揚げは中々美味かったぞ猿取、わらしべ長者ではないが食っておけ」

 

「「「「「はい!!!!!」」」」」

 

…あ、サンドイッチありがとう御座います織斑先生。

 

 

 

 

「…それにしても、『田舎の3年、京の昼寝』なんていうけどココはホントにISに関しては進んでるニャ…ああー、ココのシュークリームはホント絶品だニャ!!」

「ん?おかしいんよ。君達倉持技研だってバリバリ研究してるんじゃないんよ?」

 

ノートPCの前で難しい顔をしながら何かを選んでいたピピンはシュークリームに齧り付きながら満面の笑みを浮かべていたペッパー…芥子田寧子に不審そうな視線と声を向けた。彼女はシュークリームを嚥下すると苦い顔をしながら言葉を続けていく。

 

「…ココだけの話だけど、今はウチの所属してる第1研究所は打鉄の換装装備(パッケージ)の開発がメインになってるニャ。結構なリソース…人材、資材、機材に資金は第2研究所に行ってるニャ…白式の調査のために」

 

「…確かに『白式』は良い機体だし、展開装甲が完コピできりゃあ万々歳だけどさ…そりゃあこの炙りサーモンをこっちのトロサーモンにする位無茶があるわな」

「どちかというとこの『オールドバー』をこっちの『響鬼』にする位無茶よ、それ』

 

 

 

 

「ところでピピンさんは何を難しいことを考えているんだニャ?」

「『ISSS』に詰めてるみんなの土産を何にするかなんよ。あそこは特殊すぎる立地だから何が一番か、ホント悩むんよ…」

 

 

 

「一つ教えてくれ、茨。何故…私たちのチームの名前を『紫苑』にした?『パラベラム』(戦に備えよ)とでもつけるのかとも思ったが」

 

自習も終わり、それぞれの部屋への帰り道。一夏は先にエレベーターに乗り込み…すぐに他の面々が乗り込み満タンになってしまった…まあ良い、少し心に引っかかったことでも茨に聞こう。

 

「ああ…それか。最初は『イエロー・ブリックロード』(黄色い煉瓦の道)にしようかと思ったんだけど、ホラ俺達の人種のことに勘繰られそうでパス。次は『ルビー・スリッパ』にしようかと思ったんだけどスミソニアンのボロボロの現物の写真見たらちょっと…って感じになってさ。パラベラムも良かったかも…」

「答えになっていないぞ」

「ああ、そのね…うちの家って、代々植物の名前を子供につけているのよ。お母さんは『すみれ』、バーちゃんは『あやめ』…でさ、シノさんに付けられた『紫苑』って名前は、きっとウチのお父さんが付けたと思ったんだけど…きっとシノさんのお父さんとお母さんの思いを汲んでいたんだと思う」

 

 

私の冷たい視線と口調に観念したのだろう、茨はおずおずと言葉を紡いでいった。

 

「紫苑の花言葉は『彼方にありて君を思う』…離れ離れになっても忘れない、そういう思いがあったと思うんだ。それにさ、シノさんは遠く離れても一夏のこと忘れなかっただろ?だからさ、シノさんの一夏への思いを何とか届けたいなあと思いまして…」

 

!?…そ、そうだったのか…言霊の力とは侮れないな…私のサマを見たのだろう、調子に乗った茨はにやっと笑っていた。

 

「そうそう、箒草の花言葉は『夫婦円満』なんだってさ!やったねシノさん!…って、ヤメテヤメテダブルアームリストロックはヤメテ!?ソコは涙ぐむとかはにかむとかいろいろあるでしょシノさん!?」

 

 

 

 

「消灯前なのに公衆の眼前でいちゃつくとかいやらしい…」

「あれはどう見てもいちゃつきじゃないよー、かんちゃん」

 

 




おっかないとは、こういうことさ


「ああ、今日は31話から40話までか…一応注意しておくけど、34話と35話は本気で怖いから注意してくれ。気分が悪くなったらスグに言って」

(コレは抱きつくチャンスということだな)
(コレは抱きつくチャンスということですわね)
(コレは抱きつくチャンスということね)
(コレは抱きつくチャンスということだね)
(コレは抱きつくチャンスということだよー、かんちゃん)(な、何でそうなるのよ…)
(コレは抱きつきに行きますということねこの淫獣!!)




「な、怖かったでしょ?」
「…何だ、この話は…」

みんな放置してた鏡餅みたいに固まって、青い顔してるな…『バックします』とかも怖かったけどコレはやっぱり段違いだよ。『君たちが苦しむほど、楽しいから』って…ほんと、社会現象にまでなったコレの中でも一番の衝撃的な回だよね。


「『憎しみに身を任せること』…これがテーマなんだってさ。もうちょっとモヤっとしてるのが下がる話もあるでしょ?このヒーロードラマ。でもさ…やっぱりこういうふうに描いたからこそ、コレは特別なんだと思う。」

「まあトレイニーはゴダイさんみたいにあそこまで落ち込めないよ!どちかというと普通にサムズダウンしてあのハリモグラをディスるだろディスるだろ?」

「な、なんで俺がソコで出てくるんだよ!ていうかジャラジはヤマアラシだよ!」

…ホント、あんな話はフィクションだけでいいよ、ウン。
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