俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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その嵩張りとの闘い

「にしてもシャルはすごいな!あんなに持ってる武器を使いこなせて」
「ありがとう一夏。でもさ、茨だって多様な武器を使いこなせるんだ。あんまり自画自賛は出来ないよ…」

日曜の訓練も終わり、アリーナからの帰り道…なあデュノアさん、わかってやってるだろ!?自分に向けられたヘイトを思いっきりなすりつけて行っただろ!?

「俺とデュノアさんでは技量は雲泥の差だよ…それにさ、俺はISを展開してウェポンラックからハードポイントに格納しないとほとんどの武器は使えないのよ。あらかじめ拡張領域(バス・スロット)に仕込んでおけるデュノアさんのほうが上さ」
「…??っと…どういう風に違うのか、教えてくれないか?」



「織斑君、白式は拡張領域(バス・スロット)に雪片弐型しか入らないのは理不尽だと思うか?ISは待機状態から展開する時の総量は決まっていて…それには機体そのものも含まれる」
「恐らくは白式の場合、雪片弐型のスペックだけではなく機体そのものもかなりの水準なのでしょう…ブレードのみというのは心細いかも知れないでしょうけれども、織斑先生も同じだったと考えればよろしいのでは?」
「?じゃあ『アンカー・スチーム』は『パシフィスト』が嵩張ってるのか?」


ボーデヴィッヒさんとセシリアのコメントに頷いていた一夏は、ふと思い出したように俺のほうを向いて問いかける…ああ、やっぱり気になるか。

「そ。拡張領域(バス・スロット)に突っ込めるのはレッド・パレットなら2丁ってところ。いつもならキノ・チケットを1丁、レッドパレット1丁が基本だな」
「そして拡張性を高め、戦闘能力を維持するために多数のハードポイントに武装を格納する…本当、AOAの技術力は侮れないよ」
「…かなあ?拡張領域(バス・スロット)と違って載せれば載せるだけ重くなってくし、機体のレギュレーションの総火力にもきちんとカウントされる。ミサイルランチャーに被弾したら大ダメージ…良し悪しだと思うけどな、デュノアさん」

…因みに拡張領域(バス・スロット)に余裕がある状態でもハードポイントに武装を乗せる選手はアメリカには多いそうだ。『拡張領域(バス・スロット)から武装を引き出すよりも、早撃ちのほうが得意な選手も稀によくいるものですよ』…ナタルさんは苦笑しながら教えてくれたっけ。


「そういえば、『アンカー・スチーム』が格納できる武器で一番破壊力があるのは何?『テキサス・ホールデム』?」
「アレは完全にレギュレーション違反だぜ鈴。戦闘用リッパー…『ビンゴ・カード』かな。まあ、短いからかなり使い方は限られるけど」

…ま、短いからこそ使いようがあるらしいけどさ。


勝利の意味は

「準備は良い?トイレは済ませてきた?」

「お腹は空いてない?エチゼンクラゲヒマワリミルクチョコで良ければご馳走するわよ!」

「お腹一杯。ていうか何その組み合わせ!?俺を殺す気!?」

 

ここは第2アリーナ控え室。準決勝を控えた俺とシノさんは準々決勝まで倒してきた相手、そしてその相手だった子達にいろいろとケアをされている…俺の人生、ココまで女の子に構われたことって多分無いよな…俺の唖然とした表情を見て察したのだろう、準々決勝の相手だった相川さんとナディアさんが苦笑しながら言葉をかけてきた。

 

「大丈夫!あたし達別に猿取君に気があるわけでも恨みがあるわけでもないし!」

「そ。私には婚約者がいるし…ていうかこんな制服姿、ほんの数年前なら鞭打ちか石投げされてたわー」

 

 

 

 

…俺もニュースでいろいろと見ていた。『結納金が少なかったから婚約者にガソリンをかけて火をつけた』だの『高校に通ってる子の頭を銃で撃った』だの、外道な所業をやらかしていたクズどもがISが世に出る前は相当数いたんだけど…そいつらはその所業の何万倍ものしっぺ返しを喰らっていた。それぞれの国が主導で効力遡及禁止の原則なんてお構い無しにベーコンみたいに吊るした挙句、燃えるゴミと一緒に焼却場でウルトラ上手にこんがりホッカホカにされたり、ミンチにされて豚のエサにされていた…イスラムやユダヤ、キリスト教じゃ火葬はタブー中のタブーだし、イスラム圏じゃ豚は不浄の生き物だ…何より恐ろしいのはリンチじゃなく国策として女性に乱暴を働いてきた男どもを吊るし、燃えるゴミ、生ゴミとして処分されているところなのだ。引きつった俺の顔を見たのだろう、苦笑を浮かべながらナディアさんは言葉を続けていく。

 

「安心して。UAEは元々シューキョーに関しては緩い所だったし、公共の場所で泥酔したり肌を晒さなかったら服装や飲酒だってガタガタ言わなかったし、うちの実家のスーパーでだってビールやウィスキーみたいなお酒は売ってたわよ!でもさ…ウチの売り物の絵本の白雪姫やシンデレラ見ながら思ったんだ、『こんなドレスは人前では着られないな』って…だからさ、ISが生まれてからウチの国の中学や高校はそろって日本みたいな制服導入して皆うれし泣きしてた…お父さんやお母さん、お爺ちゃんやお婆ちゃんもよ!」

「ココだけの話だけど、猿取君の事、あたしは羨ましかった。アメリカやAOAがバックについて、あれこれバックアップしてくれてるなんて…正直、マスコミが噂してるような軟派なヤツなら、正直ケーベツしてた…でもさ、猿取君はみんなのために東奔西走してくれた…本当感謝してるんだよ!特別講習とかコーリングさんの穴埋めとか『打鉄弐式』の再開発に関わる色々な講習とか…」

 

一方、いつもとは違う深刻な表情をした相川さんは切々と俺に語りかけてくる…参ったね、ここまで重苦しくなるとは思ってもみなかったよ。その口調にベンチに座り黙想していたシノさんも眼を開き視線を向けていた。

 

「…それに、猿取君が立ち向かった『ゴーレム』や『醜き兵』に『アンカー・スチーム』や『パシフィスト』を持ってたとしてあたしが勝てたのか?って考えたらとても思えなかった。だからさ、絶対勝つんだ!って頑張ったんだけど…後一歩届かなかったんだ、うん」

「俺だってそうだよ!いつだって怖かった。一人だったら、誰かがいなかったら勝つことなんて…」

「その点については私も同感だ、茨。私も茨も欠けたところは多い。一方シャルも簪さんも強敵だ、普通に当たれば敗北は確定的に明らかだろう…だからといって抜きん出ているところが無いわけではない。」

 

 

「…俺の抜きんでている所って?」

 

デュノアさんは通常1~2秒かかる装備の呼び出しをほぼ一瞬で行う事で戦闘中リアルタイムに最適な武器を使用する器用さ、そして選択する瞬時の判断力を兼ね備えている。纏うIS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』はそれに合わせるかのように基本装備(プリセット)を極限まで廃した代わりに拡張領域(バス・スロット)に20種類は武装を突っ込めるという器用万能の機体だ…そして簪さんは簪さんで『打鉄弐式』を完璧に乗りこなしている…遠近万能のアタッカーぶりはあまりにも手ごわすぎる。一方俺はといえば近接も遠距離も平均以下の不器用貧乏、シノさんは一通りこなせるとは言えど近接戦…ブレーダーが持ち味だろう。妥当な質問にシノさんはニヤリと笑いながら言葉を続けていた。

 

 

 

「思い切りの良さだ」

 

 

 

さて、ISというものがこの世に生まれ出で、その身にまとう女性が増えるにつれ、動きの良し悪しが顕在化することとなる。武道を極めた女性、或いは筋骨隆々の女性といえどISを指一本動かすことが出来ず、一方年端も行かない幼女、或いは枯れた老婆であろうと自身の肉体の延長以上にISを乗りこなせた。この個体差…IS適正…については一体何が原因なのか、侃々諤々の議論が戦わされたが、学術的には未だに結論はでていない。一方、一部の乗り手たちのなかでまことしやかに囁かれている推測があるが、一切の根拠は無いということを予めお断りした上でアメリカ在住の某女性の言葉を紹介したい。

 

『マック、オメーのIS適正はどうだった?B+か、詐欺師にゃあ気を付けろよ。因みにあたしはA-だ、弁護士やらケーサツやらには気ぃ使わせてるからまあ大丈夫だとは思うがな…知らねーのか?ISはな…お人よしじゃネーと乗りこなせねえ…何だよそのツラは!?』

 

 

「お疲れ様、本音。簪様とデュノアさんはどうだった?」

「んー、かなり気合入ってた。『絶対勝つぞ!』って」

 

第2アリーナ観覧席の外れの立見席。満員のアリーナをニコニコと眺めなら、少女…布仏本音は姉と、そしてその主人である更識盾無に言葉を続けていく。

 

「でもしょーじき、かんちゃんもでゅっちーも気負いすぎてる感じがしました、かいちょー。いばらんはいばらんで気後れしてるところがあるし…」

「そんなことよりきちんとカメラをアイツの控え室に仕込んだでしょうねケダモノぶりを簪ちゃんは知らないのよ20人以上ケアしてくれる女のコが居るだなんて絶対やらかすはずよ」

 

 

『白旗揚げるなら今のうちだよ、茨』

『んー…やるだけやらないとこっちとしても後悔するし、パス!』

 

自分の世界に浸っている生徒会長…更識楯無を生暖かい眼で見守りつつも、布仏虚は開始された準決勝第1試合に眼を丸くしていた。

 

「あら、意外ですね。猿取君が一気呵成に畳み掛けてくるなんて…ワイヤークレーンなんて装備、『アンカー・スチーム』にあったんですね」

 

 

 

 

 

「…正直、簪ちゃんもデュノアさんも強敵よ。一気にしとめるしか勝ち手は無いわ」

 

 

 

 

『のぁぁぁぁl!』

 

試合開始と同時に『パシフィスト』を含めたほとんどのハードポイントの武装をパージ、そして左腕部ハードポイントに装備された『クイック=キャッシュ』…工具ボックスの中からワイヤークレーンを取り出し、デュノアさんに射出…『テキサス・ホールデム』の吸着機構を流用して作られただけあって吸い付きは格別だね。パージした『ラッキー38』をシノさんの『打鉄』が振り払い、アリーナの地面に衝突したのを確認すると俺はワイヤーのウィンチを猛烈に巻き上げた。

 

『くッ!?』

『デュノアさんから離れなさい!』

 

…さすがだねデュノアさんに簪さん。『春雷』…荷電粒子砲が良い感じで俺の装甲を、皮膜装甲(スキン・バリアー)を削っていくし、デュノアさんは『グレー・スケール』…パイルバンカーを起動させている。俺の機動時間は持って10秒くらいだろう。

 

『でもさ、それくらいあれば十分なのよ』

 

『クイック=キャッシュ』もパージすると、俺はバス=スロット(拡張領域)から戦闘用リッパー『ビンゴ=カード』を二本引きずり出すと二刀流の要領で構え、デュノアさんの鎖骨辺りと土手っ腹に突き立てた…本当、『剣が短ければその分踏み込め』なんて言うらしいけど、怖いよホント…ほら、チェーンソーみたいな刃はガリゴリ皮膜装甲(スキンバリアー)を削ってはいるが、これじゃあちょっと倒しきるには力不足だ…その前に俺はパイルバンカーで大穴開けられてEndだろう。

 

『…だから、後はよろしく頼むぜシノさん!』

 

 

 

吹き飛ばされる刹那、神速の突きが俺の体の横を掠めていく、そんな感じがした。

 

《『アンカー・スチーム』、戦闘不能》

 

 

 

 

『流石ね、篠ノ之さん…でも、私達が勝つわ』

 

雪嵐で虫の息のシャルを仕留めた後、私と簪さんは幾合かの打ち合いの後、間合いを離されていた…いや、まさか薙刀もココまで扱えるとは恐れ入る。血は争えないとはまさにこのことだ…確かにこの間合いなら『山嵐』で炙り出された挙句『春雷』で仕留められて終わりだろう…。

 

『奇遇だな、同じことを考えていた』

 

だが、ここまで茨がお膳立てをしてくれたのだ、負けて仕舞えば顔向けが出来ない…だからだ、私は最後の仕込みを解き放っていた。

 

『!!?だから武装をパージしたのね、茨君!』

 

…そう、茨のパージしたミサイルランチャーは手で払った時、私の『打鉄』の管制下に置かれていた。地対空ミサイル『オーリンズ』は射出されていた『山嵐』に絡みつくように相殺し、爆炎は『打鉄弐式』を炙っていく…

 

 

『…そしてこれが、あの時放てなかった『不動』だ』

 

 

…そして、居合いの構えから放たれた『不動』は、綺麗にその胴を薙いでいた。

 

 

《『打鉄弐式』戦闘不能。勝者、『チーム・紫苑』》

 

 

 

「…以上だ。彼と天災の妹君が決勝に向かう」

『どうした?浮かない顔をして…ハイジと会うのはそんなにイヤか?』

「…そんな事は無い。お互い歳も歳だ、これが今生の別れになるだろう…僕が懸念しているのはアレさ」

『こないだの臨時株主総会のアレか!それこそ良いお話じゃネーか!』

 

 

 

「他にいないのかい?人材は…」

『そうむくれるな、アル。最後のご奉公と思えば良い』

 

 

 

「やっぱり格が違うな、茨!ああいう手があるなんて思わなかったぜ」

「ああいう手を使わないと勝てない位強かったんだよ、デュノアさんも簪さんも…一夏こそおめでとう、まさか決勝で会えるとは思わなかったぜ」

 

夕焼け空の下、俺達は食堂への道を歩いていく…どうした一夏?そんなに浮かない顔をして。

 

 

「…結局、俺はボーデヴィッヒさん頼りでココまで勝ち上がってきてこれた。結局、他のコンビだったら…った、どうしたよ鈴!?」

 

「お、おいどうしたよ鈴!?負けたのは分かるけど当たる事は…」

「違うわよアホ茨!一夏…もしさ、一夏がそんなヤツならあたし達に当たる前に負けてたわよ!」

 

一夏の耳を軽くつねると、俺達の後ろを歩いていた鈴は瞳を赤く染めながら一夏に思いをぶちまけていた。その言葉を継ぐようにセシリアが、そしてデュノアさんが言葉を紡いでいく。

 

「一夏さんがボーデヴィッヒさんにおんぶに抱っこだとしたら、あそこまで完璧な連携は取れませんでしたわ。憚りながら決勝に行くのはわたくし達だと意気込んでおりましたのに…」

「一夏、それに茨君、勝ち残ったのには理由があるんだ。謙虚も結構だけど行き過ぎれば敗北者への侮辱になるよ」

 

「分かった。明日の決勝で会おう、茨…そして絶対勝つ!」

 

おお、やっぱ気力がみなぎった一夏はおっかないね。でも、やっぱりここまで来たんだどうせなら…

 

「…残念だがそれは無理だ」

「ど、どうしたよボーデヴィッヒさん!?いきなり後ろから現れたと思ったらそんな発言…」

「…そうだな、残念だがソレは無理なんだ…」

 

ど、どうしたよシノさんまで!?一体何が…織斑先生!?どうしたんですかそんな浮かない顔をして…

 

「…日課の変更だ。明日来賓が来ることになった…。決勝戦は明後日となる…」

 

 

 

俺はまだ気付いていなかった。

 

 

どうしてここまで織斑先生が気落ちしているのかを。

そして『来賓』とは誰なのかを。




らいしゅうぜんじつ


「じゃ、ヤンヤンに大姉御に公爵様、手筈通りな…」
「ええ、では一番槍はお任せします」
「とても楽しみネ。『コリブリ』もウキウキだヨ」
「真打は最後に来るもの…うちの息子と娘もわくわくして居りますわ」

「楽しみにしておけよ、ブリュンヒルデ」
「楽しみにして下さいね、ブリュンヒルデ」
「楽しみにしておいてヨ、ブリュンヒルデ」
「お楽しみはこれからですわよ、ブリュンヒルデ」
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