「…終わったか、シャル」
「うん、ラウラも終わったみたいだね」
「泣くことは実は健康に良いんだよフロイラインにマドモアゼル!アルちゃんも泣きたい時は泣くようにはしてるんだけどさだけどさ、中々泣けなくて困るんだよね困るんだよね!」
「ご心配をおかけしました、博士」
「覗き見は悪趣味ですよ、アークライト博士」
「ああソコはサムライ・ガールやトレイニーみたいに『ゲスジジイ』でいいよ!そうだ、一つ頼まれてくれないかなくれないかな?ベビーフェイスをココにつれてきて欲しいんだ、ああ勿論ゲストは多ければ多いほどいいからねいいからね!…それと、女の涙はサイキョーの武器、天下の砲塔なんだから是非ベビーフェイスにお見舞いしたまえ!」
「狙って泣けるわけが無いでしょう、博士。それと伝家の宝刀ではないのですか?」
「…ホントにゲスですねアークライト博士。一夏は連れて来ますけど」
とうとう3周年&UA10万超えです。皆様のご愛顧感謝します。
「っと!熱烈な歓迎センキューな、カイチョー。それとあたしじゃなくて学生の子だったら…大事だったんじゃネーの?」
「次はイボ付きと極太どっちがいいー?なんて聞くような生徒はここには居ないわよ!余程死にたいようなのね弟子も薄汚いなら師匠も薄汚いわねIS学園の門を潜ったことを後悔させたげるわカフェオレ女」
朗らかに声をかけながら生徒会室のドアを開け…同時に飛んできたペーパーナイフを2指で掴んだイーリス・コーリング。そのナイフを閃かせ二撃目の文鎮を叩き落とすと会長室の豪奢な椅子に鎮座し、カッターナイフを構えながら悪鬼のごとき笑みを浮かべたIS学園生徒会長…更識楯無に花のような微笑みを浮かべながら言葉を続けていく。
「大姉御とヤンヤンはお説教が終わってIS学園の見学、マックは公爵様をお迎えに上がってる。それが今から30分前…迎えに行っちゃあくれねーか?カイチョーとしては部下がかどわかされるとあっちゃー心配じゃねえの?」
「何でアイツの心配しなくちゃいけないのよアンタがあんなもの送り付けなかったらアイツはウチには来なかったわよ大体アイツがどうなろうが…」
「ケラケラケラ!!『あいつ』ヨバワリトカ絶対脈アリデスゼ、アネサン!」
「ベーリング海峡をまたいだ恋の鞘当、ご馳走さマ…生徒会長が部下を見捨てるとカ、良く無いわヨ?」
「照れ隠しに決まってるでしょう?きちんと迎えに行ってくれますよ…そうですよね生徒会長?」
「!!?あ、あの、いつからそこに!?すみません、お迎えに上がれず…」
イーリスの後ろから顔を覗かせたアリーシャ=ジョセスターフと楊麗々(ヤン=レイレイ)に慌てふためく楯無を尻目に、イーリスはニヤリと笑いながら耳元で囁いた。
(なあ、大姐御達とぶち当たりたいだろ?頭の中空っぽにしてヤリアイたいだろ?)
■
「おいしゅう御座いますね、ココのティーもスィーツも…どうしました?遠慮なくお召し上がりを…憚りながら支払いは任せてくださいませ」
(違うんだよ…俺は一刻も早く帰らないといけないんだよぉ!)
『レゾナンス』一ケーキの美味しい喫茶店『シャラララ』、定番のデートスポットであり俺のような非モテにとっては敷居の高い場所だった。だが、正直俺はここがこれだけ居心地の悪いとは思いもしなかった…いや違う、喫茶店が悪いんじゃない!こう、ホラ…そう運が悪いそれだけなんだ!
「5月の大型連休でご帰国なされた時、雰囲気が大いに変わられていたので驚きだったが…レディ・オルコットはIS学園で活躍をされてるんだな。ありがとう猿取君」
…IS学園に入学してから、本当に美少女、美女ばかりが周りにいる環境になったけど…何となく分かったことがある。
「レディ・オルコットはIS学園でも抜きん出ているのですね!!ありがとう御座いますミスター!」
こういっちゃナンだけど性格の悪い美女ってのはいない…いや、ちょっと語弊があるな。性根ってのは顔に如実に表れる。嫉妬に狂っている時の『淑女協定』の面々と助け合いながら困難を乗り越えているときのそれとじゃあ同じ人間なのに月とスッポンだ…ソコから考えるとさ、俺が嫉妬に狂ったらもう見られたものじゃあないだろうな、ウン。
「でもおかしいです、レディ・オルコットが準決勝敗退するなんて…まさか何かあったのですかミスター!?」
…でもさ、やっぱり美人の中でもいろいろベクトルがあるんだ。誰が一番美しいかなんて結局は主観でしか語れない。花で例えるなら織斑先生が桜、中国代表が牡丹、イタリア代表がツツジ、黒豹女がヒマワリ、山田先生ならコスモスだとするのなら、誰が一番素敵かなんて結局は俺視点でしか俺は語れない…コスモスのたおやかさが俺は一番好きだけどさ。
「単純な話ですよアーサー、そしてビクトリア。織斑君たちがレディ・オルコットたちより強かった…あまり猿取君を困らせてはいけません」
彼女たち…イギリス代表ジェーン・チャーチルさん一家の皆様は、例えるなら純白のバラだろうか。気高く、美しく、そして棘も忘れていない。『レゾナンス』で俺がジェーンさんを見つけた時、男を侍らせるのが趣味で御座い、みたいな勘違い女の後ろで重い荷物を持たされて今にも倒れそうな男の荷物を旦那さんのジョシュアさんが肩代わりし、男をジェーンさんがお姫様抱っこし、呆気にとられた勘違い女に『本当のいい女は自分で持てる荷物しか買いませんのよ。ところでこの殿方持ち帰ってもよろしいかしら?』とにこやかに微笑みながら白木の杭のようなセリフを叩き込んでいた。『ぼ、僕が無理を言って持ってたんです!』と男がフォローを入れなかったとしたら勘違いさんが泣くまで塩を摺り込んでいただろう事は想像に難くない…白磁のような肌、サファイアのような瞳、純金の如き癖の無いロングのブロンド、無駄が無く均整の取れ、それでいてグラマラスなボディ…一家揃ってネズミーの帽子被っていなかったらほんと非の打ち所の無い光景だったろうな。
「お嬢様は息災なのですね。それだけで私は安心しました…どうしたのですか?脂汗を流して…」
「あ、あの…先程から言ってますが、織斑先生が首を長くして待ってるんです!制限時間もそろそろ切れるんです!」
(俺の命は風前の灯なんだよ…時間遵守はアンタ達のオツムの中には無いのかよぉ!!)
…そんな微笑ましい光景の後から約45分後が今現在、例えるなら針の筵だ。学生服姿の俺が恐る恐る話しかけるや否や『お買い物に付き合ってくださいまし』の鶴の一声で土産選びにつき合わされ…電鉄サブレに海苔ヨーカンは美味いぞ、ウン…そしてそのお礼と称して喫茶店で茶を頂きながら学園での様々なお話をしている。利発そうなお子さんのアーサー君とビクトリアちゃん、そしてセシリアの家のメイドのチェルシーさん…『彼女の無二の親友にして片腕ですわよ、大学生ですがレディ・オルコットの家の切り盛りは彼女が行なっているといっても過言ではありません』の言葉に真っ赤になっていた…ああ、時間制限さえなければ俺も茶を楽しみつつ至福の一時を過ごしていただろう。織斑先生から言い付かってきた猶予の時間は1時間、残り後5分なのだ。もうダメだ、まるで新ナイズルで連続5回2F飛び&ランプが来たとき並だ…あ!?
「あら、ブリュンヒルデからの電話ですわね…私が応対しますわ」
●
「…何だ、これは…」
「ご挨拶じゃあないかサムライガール!今回イーリがVIPを招くにあたりIS学園のほうに泊めるのもアレだからね、ボク達のほうで用意したってワケさ!」
シャルとボーデヴィッヒさんの言伝で呼び出された『ジョブ&ホビー』前。4月に見た時のように空から飛んできた沢山のコンテナが積み重なり、『ジョブ&ホビー』に新たな階層が付け足されていく。ゲスジジイはその光景を満面の笑みで見つめ続けている。
((((うわぁ…))))
「実に低俗なデザインですわね…」
「きっと、委員長達への敬意の表れなんでしょうけど…」
「これは、ひどい…」
「ないな、うん」
…だが、それは悪趣味極まりなかった。神殿じみたギリシャ風建築やら紫禁城じみた中華風建築、そして、赤レンガのイギリス風建築が無節操に交じり合う外装…そして中央に鎮座するのは『Welcome to Fabulous Las Vegas』の馬鹿でかい看板…デザインした人間の正気を疑いかねない代物だった。
「…本来はあの看板だけをすえる予定でした。AOA日本支社長の強い要望によりゴタゴタした外装が追加されたのです。学生の皆さんはご存知ですか?あの看板はベティー・スミスという女性デザイナーがデザインしたものですが、会社もデザイナーも使用料を取ることなくネバダ州に権利を譲渡、州も無料開放しておりますのです…斯界に生きる身としては恥じ入るばかりです」
「やあハイジお疲れ様、それじゃあボクは…」
!!?…私達の後ろから朗々と響いた声、振り返るとソコにいたのは西部開拓時代を髣髴とさせる緑色のドレスに身を固め、髪を結い上げた氷の如き表情の老女だった。水色の日傘を差し、レディースハットを被りなおすとゲスジジイにツカツカと向かっていく…逃げる気かゲスジジイ!?…って!?
「ノオッを!?…ひどいじゃないかプレジデント!トリモチ銃だなんて危ないじゃないかプレジデント!」
「なら逃げるな!アルフレッド・オーウェル・アークライト!!貴方がのらりくらりと社長就任を行わないから、こちらはどれほど…」
発砲音、そして硝煙の匂い。傘に仕込まれていた銃にはトリモチが仕込まれており、ゲスジジイは足をとられ動けなくなっている。先程とは一転、烈火のように怒り狂う老女は我々の視線を察したのだろう、傘を放り捨て咳払いを一つすると先程と同じように淡々と言葉を紡いでいく。
「さて、ラスベガスにある本社、デトロイトの支社…これに続く利益を上げている場所はどこだと思います?ここ、IS学園に設置した出張所でした。ですのでココに正式に支社を設置することと相成ったのです」
「すいませんお婆さん。ココってそんなに儲かっていたんですか?確かに色々お願いしてる部分は有ると思うけど…」
「ええ。因みに修理の外注(アウトソーシング)はギリギリ黒字といった所でしょうか。実際に利益を上げているのはISの開発情報のフィードバック、そして情報漏えい予防措置といった所でしょうか」
一夏のぶしつけともとられかねない質問にも顔色一つ変えず老女は淡々と言葉を返す…プレジデント?社長なのかこの老女が!?
「そんなに儲かってるんならわざわざ支社になんてしなくていいじゃないですかプレジデント!」
「貴方がそれを言いますかアルフレッド・オーウェル・アークライト!この間のドイツとの諍いがどれだけの混乱を当社にもたらしたか…」
「!?」
その言葉にボーデヴィッヒさんはつい体を固めてしまう。知ってかしらずか老女は言葉のトーンを下げ、言葉を続けていく。
「失礼。当社といたしましても対外的脅威は僅かでも減らしたいのです…アークライト博士、貴方のリクエスト通り宿泊施設の外装を作らせていただきました。貴方も権利と自由を享受するのなら、義務と責任を果たしなさい、支社長」
「フガっ!?」
そのまま彼女はすたすたとゲスジジイに歩み寄り、彼の口に辞令書らしき物をねじ込むと回れ右して校舎の方へと去っていく…しかし、ゲスジジイ以外にまともな人材はいないんだろうか?
、
「ああ見えてもアークライト博士はゼミでは名物博士で通っていましたし、博士がもし退職したとしたら各国から引く手あまたでしょう…それに、博士がいたことで起こったトラブルよりも、起きなかったトラブルと解決したトラブルのほうがはるかに多いのですよ…トリモチの中和剤です、博士。さっさと帰りましょう」
ぴ、ピクシーさんか…相変わらず神出鬼没だな…
■
『久しいな、レディ・ウェルズリー…お前の国では時間励行というものは無いのか?オルコットはキチンと時間を守れる女だが、どうやらお前は反面教師として良いお手本になったようだな』
「あら、鉄道にせよ飛行機にせよバスにせよダイヤを遵守しておりますわよ。貴女こそわざわざ時間制限を設けてしまうなんてどういう了見ですの?」
…さっきまでの状況が針の筵だと言ったな、アレは嘘だ。今がそれだよ!電話越しなのに殺気が感じられるなんてどんな状況だよ!?
『政府や委員会に頭を下げてわざわざ作った時間を無為にする、実にイギリス人らしい行いだな。太陽の沈まぬ国など、もうこの世のどこにも無いぞ』
「貴女がオネダリすれば、何時間でも何日でも自由にISを使えると思ってましたのに、実に予想を下回る影響力ですわね」
『大方、ビクついた猿取を振り払ってそこで長火鉢を決め込んでいるんだろうが、残念ながら明日までモノレールは動かんぞ。感動の再開は明日に持ち越しのようだな』
「あら、少なくとももう1回はモノレールは動くはずですわ。そちらに住み込みの従業員の方ばかりではないのでしょう?その方達に不便を強いるようなことを貴女はよしとするのですか?」
…ああ、そろそろ先生の堪忍袋が切れる頃合だ。逃げよう。ここじゃないどこかに。
「…なるほど、お前が決勝戦までこれなかったのはそんな心理戦ばかりしていたからだろうな。もう少し実力を磨いたらどうだったんだ、レディ・ウェルズリー?」
「私、5年前に結婚してその姓は捨てましたの。貴女も結婚されたらいかがです?ああ見なくても分かりますその様な恐ろしい顔つきでは…切られちゃいましたわね」
ああ、聞こえたよ。『バキィ!』ってケータイが砕ける音が…あ、一夏からだ…先生からだろうな…
『猿取、代われ…貴女とディナーをご一緒したい。時間は30分後だ…間に合えますか、ミセス・チャーチル?』
「もちろんでございますわ…何をちんたらしてるんですか猿取君!このままではミッション失敗ですよ!!」
…そうですね。急ぎますとも急ぎますとも。
どうして、俺はこんな星の元に産まれたんだか…
演じるということ
『感動の再会はどうだった、アル?』
「…最高だったよ、支社長の座さえ押し付けられなかったらね」
『そうふくれるな。オメー以外が座ったらそれこそハイジが黙ってねえ…AHは完成したぜ。今慣らしをやってる所だ』
『それにしても、本当に仕掛けてくるのか天災は?』
「ああ。そうなるだろうさ…篠ノ之君は『天災』の有りようを善しとはしないだろうからな」