俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

65 / 90
待ちぼうけ
「オルコット、お前の家のメイドも御付で来ているそうだ。30分という時間制限を設けたが猿取の事だ、十分に余裕を持ってくるだろう…さっさと準備をしておけ。ウェルキン、お前もな」
「…はい、分かりました織斑先生…」
「はい、織斑先生!…セシリア、貴女が気に病むことはありませんよ」



オレンジ色の海と空と

 

 

「いや、海の中から見る夕日って初めてだけどさ、すごいなあ…スキューバ背負うかドザエモンになる覚悟なしじゃおがめないぜアーサー君にビクトリアちゃん」

 

務めて明るく振舞いながら俺は俺の両肩に座り体を縮こませている双子の兄妹…アーサー君とビクトリアちゃんに声をかけた。そういや3歳だっけ?そう言われるとムーンちゃんと背は同じくらいだ。ホント、俺が『アンカー・スチーム』纏ってなかったらきっと支えられなかっただろうな…いや、そもそもこの皮膜装甲(スキン・バリアー)無しでは枕を揃えて溺れてた。ホント、相棒様様だよ。

 

「…」「…」

 

さっきまでの元気が嘘のようにアーサー君とビクトリアちゃんは沈み込んでいる。まるでここ…IS学園そばの海底の雰囲気に飲まれたみたいだ。でもさ、ハイパーセンサーと『パック』無しじゃきっともっと暗くて何も見えなかったと思うぜ?ここから夕焼けが見えるなんて絶対無理だよホント。

 

「なあ、一体何があったんだよ、一体何がそうさせたんだよ。それだけでも俺に教えてくれよお二人さん。このままじゃみんなの前に顔出せないぜ…」

 

 

鼻声の俺の哀願に根負けしたのだろう、2人は重い口を開き、ポツポツと話し始める。これがベイビー・サブミッションというやつだな、うん。

 

「どうして私たちがアーサー、ビクトリアの名を受け継いだのかご存知ですかミスター?」

「それこそが、ぼく達がああ振舞った理由なんですミスター」

 

…あ、今のやっぱりなしワンモア…

 

 

「おお、頑張ってるじゃないかトレイニー!『パシフィスト』の新たなる形態を見出した上にあそこまで会長をしのげるなんてさ!『無鋒剣』の纏い手コミだとしてもナカナカだろナカナカだろ?」

「何でソコで貴方が自慢げなんですか、アークライト博士」

「これからはボクも『ゲスジジイ』って呼びますけどいいですね博士」

 

…今から30分前、茨からコア・ネットワークを通じ『今からIS学園に帰還します。随行するのはイギリス代表ジェーン=チャーチルさん、そのお子様のアーサー君とビクトリアちゃん、チェルシー=ブランケットさん。夫のジョシュアさんはこちらのホテルでお待ちになるそうです』との連絡が入った…ブランケット女史とはセシリアの縁者らしいが、浮かない顔をうかべていたのは気にはなっていた。

 

『ぁぁぁぁああああ!!?お願いだから落ち着いテ!チャーチルさんもお願いだから煽らないデ!!?』

『あらあら、喧嘩を売ってきたのは生徒会長のほうですわよ…ソコを右、上上下下左右左右…』

『何馬鹿なこと言ってるのかしら私はいつでもクールで落ち着いてるわだからさっさと止まりなさいそして穴だらけになりなさい大丈夫アンタが食い散らかした簪ちゃんの体と心のケアは私がねんごろにしてあげるわ』

『だからその砲撃をやめてくだしぁぁぁぁぁぁ!!!??』

 

…一体何がいけなかったのだろうか。茨だけで4人も人間を運べるのか?という危惧は『パシフィスト』の新たなる形態『ペガサス』…サーフ・ボード状になりワゴン車位は人や物をISの速度で運べるようになる…で何とか解決できた。

 

『相棒に迷惑ばっかりかけてる気がするよ、ホント』

『馬鹿だなマック。頼りがいのある相棒だと大いに自慢しとけ!そういうのが信頼になるんだぜ』

 

などという茨のボヤキとコーリングさんの軽口の通信の中、順調にチャーチルさん一行はIS学園へと向かっていた…モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)…生徒会長が合流するまでは。

 

『お待たせしました、ミセス・チャーチル…いえ、レディ・ウェル…』

「わたくし、人の名前をわざわざ言い間違える人とはお話しませんの。それともイワンの間では飲酒を抑える時はそのような自慰行為が流行っておられるので?」

『あの、何があったのかはわかりませんがチャーチルさん、その…』

『アンタ口を挟むの止めなさいこれは…』

「ああ、喫茶店で涙ながらに訴えられていたのはこのことでしたのね、合点がいきましたわ。こんなモンスターに粘着されていては命も貞操もいくらあっても…右に避ける」

『…宜しいですねブリュンヒルデ、ミス・コーリング』

『!!って!!!?何いきなり撃ってるんですか会長!?もし当たったら…』

 

表情を能面の小面のような薄笑いに変えると拡張領域(バス・スロット)から大型ランスを取り出し、会長は無言で茨に向かい発砲する…マシンキャノンを内蔵しているのか、あれは!?にしても的確なアドバイスだった。もし正面や左に避けていたとしたら真正面から茨は喰らっていた。

 

『あー、ウォッカ切れってヤツか?公爵様は茶は嗜んでもオコチャマの前じゃあヤらねーんだ。まずは部屋で一瓶空けてからもう一回出直しなカイチョー。それといいぜ。』

「あら、この水の弾丸はお酒ではございませんの?期待していたのに残念ですわね」

「み、ミセス・チャーチル!お願いです自重してください!!お子様もおられるんですよ!?」

「そうですママ!ハイスクールのスチューデントがお酒を嗜まれる訳がありません!」

「そんな事をしたら犯罪です!少なくとも代表の座は諦めなければならなくなります、ママ!」

『お願い!皆煽らないデ!?会長もお願いだから落ち着いテ!?織斑先生助けてください!!』

「そうですね。ミセス・チャーチル、更識はロシア代表とはいえまだ未成年です。貴女のような既婚者で子供も居る成熟した婦人ではありません。もう少し大人らしい対応をしたほうが…」

「ケラケラケラ!コレハツマリ『テメーノヨウナアガッタばばあハクチヲダスナ』ッテヤツデスカ?BIG4はゼイイン四捨五入30歳ノ癖二ツケアガッテマスゼアネサ…ギャガガガガ!?やめてやめてねっくはんぎんぐつりーハやめて!!」

「酷いわネ、ヤンヤン。ミセス・チャーチルは私より2つ年下ヨ…どうしたのコリブリ?そんな泡を吐いテ…いつからカニになったノ?」

 

 

「カイチョーにお願いしたのはあたしさ。ゴーサインを出したのもな。ロシア代表とはいえ未成年だ、大目に見てくださいませんかイギリス代表ジェーン・チャーチル?」

「…ミセス・チャーチル、更識は私の代理人だ。お前の雑言が気に触ったら遠慮なく撃てと指示したのもな。猿取が更識の攻撃を凌ぎ切りここまでたどり着けたら何かしらの願いは聞いてやろう」

…混沌の坩堝と化そうとしたIS学園の波打ち際、その空気を一変させたのは織斑先生と意外なことにコーリングさんだった。相変わらず織斑先生は仁王立ちで、コーリングさんは伸びをしながらの言葉にチャーチルさんは驚きの声を放っていた。

「あらあら、そのような事を仰ってよろしいのですか『ブリュンヒルデ』?わたくし夫も子供も御座いますのよ?」

「!!?この人もセンパイを!??」

「私は異性愛者だ。LGBTには興味は無い」

「いーのかよ織斑センセ?懸想してる子は一杯居るんじゃねーの?」

 

苦虫を5、6匹まとめて噛み潰したような表情の織斑先生と愕然とした表情の山田先生、苦笑しているコーリングさんの顔を見比べたであろうチャーチルさんは心底楽しそうに宣言していた。

 

「あらあら、愛の無い生き方よりも何かしかを愛せる、そういう人生のほうが楽しいものですわ…勝利条件は私たちがそちらに到達するかどうか、それでよろしいですわね」

「ああ。絶対防御が発動したらお前の負けだ。回収は…」

「ミス・ブランケットとうちの豚児たちだけで結構。貴女の手で果てるのなら本望ですわ。ああ、あの白絹のような肌、的確なボディタッチ、かき回しよう…」

「更識、遠慮は要らん。全力で殺しに行け」

『はい織斑先生。今の言葉を聞いたわね年増のイギリス女の肩を持ったことを心底後悔させてやるわ人妻ならチョロイとでも思ったのかしらその浅はかさは愚かしいわ今からの時間は私にとっては神からの贈り物だけどアンタにとっては地獄の宴よ』

『俺はただ送迎してるだけですから!お願いだから落ち着いテ会長!!』

 

…それが今から10分前、『ペガサス』をサーフボードのように操りながら『プリズム』の如く弾きながら茨は、『アンカー・スチーム』は回避に専念している状況ではあるが中々の善戦をしている…いや、やはり口ではああだこうだといってはいても女子の間でまことしやかに囁かれているとおり会長と茨は、その、出来ているのか!?

 

「あはは!!すごいですミスター!」

「ネズミーのライトニング・マウンテンよりダイナミックですミスター!」

「あ、アバババババ…」

 

いや、手抜きなど一切していない。ランスからの水の弾丸を弾き、海面からの激流を辛くも避けている。モスクワの深い霧、水に関わる攻撃がメインなのか…

 

「『ペガサス』、中々の機動力ね。お姉ちゃんの猛攻をしのいでる…」

「気になりますか?簪さん。あれは元々緊急事態用の脱出システムです。宇宙服を着ていない人間と一緒でも大気圏を突入しても平気なほどのスペックは保障されています。あの機動でもミセス・チャーチル一家の皆様は無事で何よりです」

「マックに身びいきが過ぎんじゃネーか?ピクシー…かぁっ、相変わらずの戦達者だね公爵様は。なあレディ、ガンナーにとって一番大切なものは何だ?針の穴通すような射撃の腕か?それとも得物を選ぶ選択眼か?」

「機動、移動です…」

 

気落ちしたままのセシリアの返答に微苦笑を浮かべたままのコーリングさんは言葉を続けていく。本当にどうしたんだセシリア?らしくも無いぞ…

 

「ご名答、レディ。アリーナは狭い。正直、ブレーダーやグラップラーの方が闘いやすい…しってっか?公式戦じゃあ公爵様は当たりをほとんどもらってねー」

「指示から機動のタイムラグ込みの回避の先読み…錆び付いてはいないですねミセス・チャーチル」

「そういうヤンヤンも錆落としは要らなかったみたいネ」

「ぼ、ぼくモミナサマハトテトテニウルオッテルトオモイマス!!マルデくれごーごーろく!!!」

 

…ああ、かしましい。そんな空気をものともせず超然としているブリュンヒルデ…織斑先生はやはり格が違うのだろう。

 

「で、逃げないのかい逃げないのかいブリュンヒルデにイーリ?」

「…私は猿取を信頼しています、アークライト博士。こんな所で後先考えず馬鹿な真似をしないと思う程度には」

「…まあ、マックに殺されるなら本望だな」

「どういう意味よ、ゲスジジイ」

 

「はい、そこで『瞬時加速』(イグニッションブースト)」

 

そう鈴がゲスジジイに問いかけた時、上空の茨…『アンカー・スチーム』と海岸線の我々、その直線状に妨げるものは何もなかった。

 

 

 

『白騎士事件』の後、各国は熾烈なIS開発競争に乗り出すこととなるが、国家主導のIS開発には企業とは違う問題が起きている。

曰く、血税を投入するという批判…協賛企業は数多存在し、開発費を相当額拠出している…女尊男卑の風潮を国家が助長している…大多数の発言者は男性優位主義者であった…だが、イギリスには他の7カ国には存在し得なかった切実な問題が付き纏っていた。

 

初のイギリス国家代表であり、第1回、第2回『モンドグロッソ』において第3位に輝き、『BIG4』の一人であるジェーン・チャーチル…旧姓ウェルズリー…は現ウェリントン公の娘であり、貴種(ブルー・ブラッド)であるという厳然たる事実である。

 

 

『な、なななな何言ってるんですかいきなり!!?』

冷や汗がダラダラ流れるのを背中に感じつつ俺は抗議の声を上げていた。スグに気づいて全力でブレーキをかけたから良かったものの『ペガサス』の20センチ先には織斑先生の顔がある。も、もし少しでも遅れたら、お、俺は、織斑先生を…

 

「あらあらビビッて無様をさらけ出すかと思いましたのに。恐怖心の欠如こそがサムライの生き様でして?『ブリュンヒルデ』」

「…何ふざけてるんだよ。怪我人が出たらどう責任取るつもりだったんだ」

腕を組み仁王立ちしたままの織斑先生は、にこやかな笑みを浮かべたままのチャーチルさん、俺、そして顔面蒼白の会長にセシリアさん、腰を抜かした生徒の皆、睨む一夏を見比べながら吐き捨てるように言葉を紡ぐ。

 

「安心しろ、織斑。ISには人命保護の機能が組み込まれている。少なくとも生徒や客をひき殺すような真似はしない。お前の挑発に乗るほど私は安くない、ミセス・チャーチル。ディナーに遅れるぞ、さっさと降りろ」

 

…で、ですよね。ほ、ほらチャーチルさんみたいにさっさと降りましょうよ、ブランケットさん?

 

「…」

…そうだ、あんな戦闘用の機動で滅茶苦茶動いたら誰だってビビる。ハイパーセンサーで増強された俺の五感、嗅覚に引っかかったそれ…ツンと鼻についたアンモニアっぽい匂いは何があったのか鈍い俺にだってわかった。ど、どうする?どうやってごまかす?

 

「たー!」「てやー!」

 

助け舟を出してくれたのはちびっ子達だった。俺にガシガシ蹴りを入れてくる…いや、クロスで飛び蹴りを入れられるって凄いね。『血は争えない』ってこういうことを言うのかな。

 

『う、うわぁー…っと』

 

うん、すっげーワザとらしい。『ペガサスを解除するにしても何でわざわざ海の上まで移動して解除した』とか突っ込まれるのは想像に難くない。まあ、尻餅をつくくらいの浅瀬で解除した。ブランケットさんには怪我も無い。アーサー君、ビクトリアちゃんも濡れる前に回収できた。さっさと帰ろう…

 

「僕達は不甲斐無い避けように呆れて貴方にキックを入れました、ミスター!」

「どうか私達を罰してください、ミスター!」

 

え、ええ!?君達はお手柄だよ。何とか誤魔化せたんだ、ジュースでも奢りたいくらいだよ!

 

「そうですわね。どうかうちの豚児たちに厳しい罰をお与え下さいまし、猿取君」

 

…そうですね。貴女が不必要に煽らなければこんなことにはなりませんでしたよね。じゃあ、お礼と罰を与えましょうか。

 

『了解しました。[海の下にも都がある]ってこと、教えて差し上げます』

『ち、ちょっと待ちなさい!!』

 

俺はそのまま二人を肩に抱えると、仰向けに水の中に入り…そのまま海底へ、水底へと潜行していく。黒豹女と訓練した時にヒューロン湖で潜ったから慣れてるけど、やっぱり水の中はやや勝手が違う。2りのバイタルサインは異常なし…っと。思いっきり動揺してた会長の放った『何か』はギリギリで回避できた…ホント、後ろにいたみんなに当たったらどうしようとか考えなかったんだろうか、会長。

 

『じゃ、海底見学と行きましょうか、お二人さん』

 




ばーど・らいむ

「じゃあ、茨は身を投げたわけじゃないんだな、箒…で、」
「ああ。『海の底にも都はある』とは、平家物語で安徳帝が身を投げた時に乳母が言っていた台詞だが、義経千本桜で二人は生きていた。で、」
「そして仰向けに海に飛び込むのは『碇知盛』の真似ですわね。で、」
「歌舞伎まで勉強してるなんてホント博識ね、セシリア。で、」
「人形浄瑠璃もあるよ鈴。で、」
「日本文化とは奥深いな、シャル。で、」
「「「「「「どうして会長は、トリモチ・ボムなんて撃ったんです」」」」」」

『だ、だってしょうがないじゃない!!アイツマジであの可愛らしい子達を道連れに身を投げようとしてたと…』

「100歩譲って人命救護のためだとしても、どうして後ろの我々を巻き込むような形で撃ったんですか!!いくら暴徒鎮圧用で殺傷の恐れは無いといっても…」
「まあまあそう怒らないでくれよサムライガール!!ベビーフェイスと一緒に白くてベタベタまみれになるなんてとてもとても羨ましすぎるよサムライガール!いま中和剤を用意させてるからそれまでの辛抱だよエブリバディ!!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。