俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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おもち とりもち よもぎもち

「助かった…ナノマシンで粘着力を上げるなんて可能なんですね、ピピンさん」
「ええ。温度を上下させるより簡単ですよ、織斑君。水分子の間隔をより狭くする…水を濃くすることで粘り気を出す、そのために白く濁るのです。片栗粉でとろみを付けるようなものだと言えば分かりやすいでしょうか」
『だから中和剤は私のISには仕込めないのよ。万一暴発すれば『モスクワの深い霧』(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)の装甲に悪影響がでるし』
「じゃあトリモチ・ボムなんて仕込まないでください、会長…」

「まあ、生徒会長が第3世代型装備を発動しなくてホント良かったね良かったね!じゃあ、ボクとイーリはディナーの準備に取り掛かるよ取り掛かるよ!ああ、BIG4の諸君も来てくれ給え、ちょっとばかりお手伝いして欲しいことがあるんだあるんだ!!」


或いはそれは、赤錆色の最期の願い

その日まで、私は両親は不仲だと思っていた。

 

「良かった…セシリアも、ジェーンも、リチャードも、陛下も、ISも無事よ、あなた」

 

母は、ビクトリア・オルコットは、父への愛などとうに冷めてしまっていると思い込んでいた。

 

「そうだね…だが、私も君も長くはなさそうだ。…まさかここまで身長が縮むとはね…」

「私は、ダイエットに成功したわ。左半分、大きな穴…」

 

父は、アーサー・オルコットは、気弱で、臆病で、およそ誰かの盾になれる人ではないと、心のどこかで嘲っていた。

 

「おじ様!おば様!気を確かに!救急車が今すぐ来ます!!」

「王室の、ウェリントンの名にかけて…」

そして、『BIG4』の一角、『無峰剣』の纏い手は、泣くことなど無いと信じていた。

 

「ジェーン、そんな大声出したらお腹の子が驚くよ…」

「セシリアの時は、不安だったわ…有難う…元気に育ってくれて…」

 

…そして、父と、母が、

 

「リチャード、一門としての最後の忠告だ…家柄しか自慢できないのは、ジャガイモと同じだ…君だって、いつかは、爵位を継ぐんだ…」

「ごめんなさいね、セシリア…もっと、見守って居たかった…」

 

血まみれで、目の前で、どんどん冷たくなっていくのを

 

 

「お、おい!?大丈夫か!?どうしたんだセシリア!?」

 

一夏の揺さぶりでようやくセシリアは我に返っていた。

 

「どうしたんだ?その…イギリス代表がお目見えしてから、ずっと、上の空だぞ…」

「大丈夫です箒さん。同郷人に会えて、つい懐かしくなっただけです。ミセス・チャーチルの実家は、私の本家筋でもあるのです…」

 

かくゆうチャーチルさんは波打ち際で微笑みながらじっと海のほうを見つめている。夕日はもう落ち宵の口、着替えを済ませたブランケットさんの忠告などどこ吹く風だ。

 

「み、ミセス・チャーチル!風がお体に触ります!お二人はすぐに戻ります!ですので『BIG4』のお三方やAOAの皆様と同じように校舎に…」

「ええ、きっと海水を肺の隅々まで飲み込んで戻るでしょうね。せめて、そのときまではここで待たせていただきますわ。ミス・ブランケット、レディ・オルコットについておあげなさい」

「あの…ミセス・チャーチル!茨君は、そのような人間ではありません!」

 

「ええ、そうでしょうねレディ・オルコット。でも、だからこそ待つのです。あの時の盾になれなかった私と、盾になれる彼…どうしてこうなってしまったのでしょうね。そして、私は、貴女にとっての盾でありましたでしょうか」

 

 

「4年前、列車の転落事故があったんです…それで、ロード・オルコット、レディ・オルコット…セシリア様のお父様とお母様は、なくなられたんです…」

「ママは…その時、同じ列車に同席されていました…私たちが、お腹の中にいたから…」

 

『ラテ・マッキャート一つ』

『アールグレイ…ああ、ミルクもレモンも砂糖も要らない』

 

「だからってさ、あんな無茶しちゃダメさ。いや、あのキックは実に良かった。でも『罰してくれ』っていうのは…ちょっとおかしいよ」

 

『日本の華族制度は消えて久しいですが、イギリスではいまだ健在ですね…ノブリス・オブリージュが染み渡っているからでしょうが』

『ええ。愛され、同じくらいには憎まれている』

 

「でも!!ベッドに顔を埋めてママが泣いているのを見たんだ!!『私は助けられなかった、女王の守り手失格だ』って!!僕達がいなかったらそんな事は…ど、どうしてソコで僕達の鼻をつまむんですか!?」

 

『WW2において、女王陛下の獅子奮迅の活躍を知らぬものなどいないでしょう。代々のウェリントン公が常に戦場に赴き、その一族郎党が数多く戦場にて命を散らしてきたことも、その分家であるオルコット家が兵站を担ってきたからこそ何不足なく戦えたことも、オルコット家のコンサルティングで戦後も凋落することなくウェリントン一門が家格を維持できたことも…』

『…私達夫婦は、オルコット家に多大な恩がございます。『白騎士事件』前、海の物とも山の物とも知れなかったISの開発に太鼓判を押し、多大の投資と保障をなされたのが先代レディ・オルコット…ビクトリア様でした。ジェーンのフィジカルトレーナーでしかなかった私とジェーンとの仲を取り持ち、仲人になっていただいたのが先代ロード・オルコット…アーサー様でした。そして、そして…』

 

「…君たちがそのことを重荷に思うのは分かる。でもさ、無茶したって誰も喜ばないぜ。何が起きたのかは俺は全然分からない…でもさ、きっとセシリアさんのお父さんとお母さんはさ…君のお母さん、君たちに生きていて欲しいから、そして自分の人生が大切だったから君のお母さんをかばったんだと思う」

「ど、どういうことですかミスター!!」

「自分の命が大切なら、逃げるんじゃないのですかミスター!!」

 

『Koco(カサンドラ・オイル・カンパニー)ですね。ISへの出資に難色を示したために折角のチャンスを不意にし、推し進めていたレディ・オルコットを逆恨み。極秘裏に開発が進められていた『蒼滴』のプロトタイプごと、陛下とオルコット家、奥様を…』

『…王家が、そして陛下がIS開発に出資されていることは機密でした。女尊男卑の風潮ならともかく、『貴種がその纏手を独占しており、臣従しているのは国家ではなく王家だ』などと吹聴されてみて下さい、階級闘争が始まってしまいます…』

 

「古今東西のヒーローは、強くて頭も良くて顔もいい、人もいいから誰からも好かれる…そんな好人物ばっかりだろ?そんな人たちが命がけで化物や悪党に挑んで大怪我したり死に掛けたり、最悪刺し違えたり返り討ちにあったりする…何で逃げなかったと思う?守りたい人、家族、村、町、国…それが自分より大切だったからさ。自分が大切だからこそ、自分を高められる。そんな大切な自分が好きなものだからこそ、体を張れる。俺はそう思う」

「…ぼく達は、どう生きればいいんでしょう、ミスター」

「託された命、どう使えばいいんでしょう、ミスター」

 

『そんなKocoも本日めでたく破産、主だった経営者は皆風穴が開いた状態で発見されたとか。まあ、コンゴでの油田開発のためのゴリラ虐殺の推進など、絶対に許せる所業ではありません。彼らの雇ったPMCの殲滅、そして虎の子のエジプト油田の爆発事故…因果応報とは申しませんがむべなるかな、といった所でしょうか』

『…そしてインド洋の油田の掘削事業の骨を拾うのはオルコットグループ。『更識』の肝煎りということでよろしいですね』

 

「ねえ、話は変るけどネズミーは面白かった?」

「「楽しかったです…」」

 

『まさか。国というシステム自体を憎むものも居る、とだけは申しておきましょう』

 

「ならさ、もっと笑顔にならなきゃダメさ!そうそう、今日のお昼は何食べた?食事だって楽しいだろ?そんな楽しさが分かるからこそ周りの人の楽しみも分かる。だから眼一杯遊んで鍛えてご飯を食べて、立派な大人になる!それが君たちの宿題さ!」

「はい、ミスター!」「今日のお昼はクラブサンドイッチでした、ミスター!」

 

『…せめて、子供達だけには因果は巡らせたくありませんね』

 

「おし、では俺のおススメのスシネタでもとって帰りますか!ああ、釣り針も網も要らないし、暴れたりもしない、殺生もしないから安心していいよ」

「これがスシになるんですか、ミスター!」

「とてもとても楽しみです、ミスター!」

 

『勿論です。だからこそ、僕は『貉』になったんです』

 

 

 

『あ、あの!今探してきます!!今ならアイツが早まった真似をしても…』

「今更ですよ、生徒会長。あの子達はキッパーのように塩漬けになっている頃合です」

 

かれこれ数分はこんなやりとりをチャーチルさんとISを纏った生徒会長は続けている。生徒会長のハイパーセンサーは研ぎ澄まされ、かすかな声でも拾えるようにスピーカーのように我々も傍受しているが、波の音と海鳥の鳴き声ばかりだ…確かに遅いといえば遅い。だが、ぐずる子供をあやすには足りないくらいの時間だ。

 

「ねえ…何でアホ茨の声を拾えないのかしら?ハイパーセンサーって宇宙空間で何百キロも離れてても相互に情報交換できるんでしょ?待機状態でだって大体の位置は絞れるはずなのに、全然分からないなんて…」

「水と大気、そして真空という差はとても大きいのです、鈴さん。水分、塩分、各種ミネラル、そしてプランクトンが阻害します。そして恐らくは『ピーカブー』を発動させているためでしょう。水中での運用は陸上や空中に比べれば…」

 

『すご…ヌルヌル…これ…』

『わぁ…とっても…』

 

「あ、無事みたいだねえ、3りとも」

 

凍り付いた空気の中、布仏さんの能天気な声が虚しく響く。なるほど、二人は無事のようだ。途切れ途切れの通信からも危害は加えられていないことは分かった。だが、ホラ、アレだ。年端も行かない子供達に、その、そのようなことをしているのか、茨!?

 

「…これは貴女の教育の賜物ということで宜しいですのね、更識楯無」

『い、いえ、あのですね…か、彼の担任は織斑先生でして…』

 

おかしい。口調も声のトーンも変わってはいない。柔らかな笑顔も変わってはいない。だが、波打ち際に居るはずの貴婦人はそこには居ない。そこにいたのはISを纏った会長すらたじろがせる、鬼子母としか言いようの無い一人の修羅だった…恨むぞゲスジジイ!どうして事態を収拾できそうな女傑を根こそぎ連れて行った!!

 

『ははは…いいぞー…つやつや…いき…まって』

 

「茨君の…裏切り者…」

 

押し殺したような簪さんの呟きがはっきりと聞こえるくらい、次に飛び込んできた茨の途切れ途切れの通信ははっきりと我々の運命を決めてしまっていた。アレか!?我々はそんなにお前に冷たく当たっていたのか!?だからといって、その…自意識が芽生えた程度の幼児を手篭めにするとは貴様それでも男か!?

 

「教師に責任を押し付けるとは、生徒会長の風上にもおけませんわ…お分かりですわね?」

『あの、どうか冷静に!どうか穏便に!?』

 

「もうだめだぁ…おしまいだぁ…」

「お慈悲を…お慈悲を…」

「夏の有明だけは参加したかった…」

 

…空気は痛いほど澄み、射殺さんとすばかりの殺気は海へと一直線に向けられている。生徒は怯え、すすり泣き、卒倒する者すら出てきている。さっさとでて来い、茨!弁明すべきことがあるなら言え!そして我々をこの殺気から解放してくれ!!

 

「ちゃ、チャーチルさん!猿取君はそんな事の出来る男ではありません!だって、私は…」

 

 

『チャーチルさん、海底散歩終わりました。あ、あとこれお土産です』

『これがスシになるそうです、ママ!』

『このヌルヌルが髪の毛をつやつやにするそうです、ママ!』

 

『「「「「「「「「「」」」」」」」」」』

 

『ど、どうしたのよ、みんな…そんなピリピリして…』

 

 

「まったく、仰々しいことだ、ハイジ。ドイツは必死に立て直しに奔走中だろうに…うちの若い連中にも『お誘い』があったそうだぞ。本社や支社からおあつらえ向きの人材でも送り込んで自分の色に染め上げたらどうだ、ハイジ?」

「それはダメよ、アル。エイブの遺志に反するわ…ディナーはスシだそうよ。とてもとても楽しみね」

『で、アレのお披露目ってワケか。実に羨ましいもんだ。コッチはISSSに張り付けで、この体じゃあな』

『すまない、ウー…』

『気にすんな、俺の選んだ道さ。少々不便だがな』

 

 

『ギブギブギブ!!!折れる折れるおれるぅぅっぅぅ!!』

『このスカポンタン!!大マヌケ!!皆がどれだけの恐怖に怯えていたのか知らないでしょうこの阿呆!!ギブもスペアリブも無いわよ覚悟なさい!!!』

『イダイイダイイダイ何で皮膜装甲(スキン・バリアー)は関節技には効かないんだよぉぉぉ!?』

 

…当たり前だ、茨。関節技とは苦痛を与えるためにかける技だ。折ろうとしてかけたのならそれを防ぐだろうが、ダメージが残らないならそれはそのままだ…しかし器用だな、会長。空中でプロレス技をかけ続けられるなんて。

 

「…で、それを採った後、『ピーカブー』でハイパーセンサーと聴覚をシャットアウトし、海中からぐるりと回りこむ形でわたくし達の後ろ、ちょうど反対側の陸地に上がりこみ、そこから聴覚と視覚のシャットアウトを切り替えて後ろから回り込んできたのですね、アーサー、ビクトリア」

「そして海水が付着していたことで『パシフィスト』の効果が中途半端に発揮され、音が途切れ途切れになっていたわけですか」

「は、はいママ、そしてレディ・オルコット。それと…なぜ、ミスターは、その…生徒会長にスコーピオン・デスロックを極められているのでしょうか?」

「お兄様、気付かないのですか!?あれは愛情表現です!素直になれない乙女心です!!そうですよねママ!」

「ええそうですよビクトリア。若いとはいいものですね。そう思いませんか織斑君?」

「い、いや思いっきり悲鳴上げてますよ、まずいですよ!!」

 

『誰がこんなヤツと!!ああそうなのねあんないたいけな子をダシに『将を射る者まず馬を射よ』戦法を採ったのね人を馬呼ばわりとかいい度胸じゃない馬呼ばわりしていいのは先代円楽師匠だけよいいわこの大空がアンタの死に場所よ!!!』

『こんな愛情表現があってたまるかぁぁぁ!!ていうか先代円楽師匠は若いころは2枚目で通ってたんですよぉぉぉぉ!!』

 

…ああ、そうだな。だがな、お前は私達を危険にさらしたんだ。少しそうやって反省するといい。

 

「茨君の、バカ…」

「ええ、まったくです。どうしようもない朴念仁です」

「そうですか?結果だれも傷ついていない、とてもいい子とだと思います」

 

…そういえば、チャーチルさんに山田先生は何を言おうとしたのだろうか。

 




或いはそれは、人の慾(のぞみ)を叶えた報酬
『謝礼?8割は学園に納めてくれ。残りはあたしの口座だ…特別ボーナスだ?ハゲタカから?それは学園に全部だ…あたし?あたしはいーんだよ!毎月キチンとお給料は学園から振り込まれてんだ!!』

「どうしました?そんなに給与明細とにらめっこして…」
「い、いえ、シスター・ファロン。嬉しいんです…ほんの少しだけだけど、お手当てが増えて…やっぱり、私って、欲張りですよね…」
「そんな事はありませんよ。頑張りに応じた給与は、ステイツの国是です!マザーも、国も、神もあなたを見守ってくれている何よりの証拠ですよ」

「ああ、イヤだイヤだ。ガキをまともに育て上げる仕事より、クズを地獄送りにする仕事のほうが何千倍も楽で儲かるだなんて、こんな世間は本当にイヤだ」
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