『囲むっスよ、ダリル!』『右から仕掛けなさい、フォルテ!!』
『良いねエ…汝らが絆、固きこと鋼の如し。我らも鏨となり、汝らと剛を競わん…』
『ミセス・チャーチル!主婦業に専念されては如何です!』
『全員がソロで挑む…フレンドリ・ファイア回避の防御を見切る…そうでなくては面白くない!汝らが智、湧くこと泉の如し。我も吹雪となり、汝らと智を競わん…』
『これでラスト!一気に決めちゃえ!!』
『…なるほど、無意味に私を動かしたのは本命への布石…実に姑息で、手ごわい。汝らが力、強きこと魔の如し。我も炎となり、汝らと覇を競わん…』
※新生14の『光き強』は、まばゆきつわものと読むんですね、はじめて知りました。
因みに拙作の『醜き兵』は、みにくきつわものと読みます。
「こっちは終わった…怪我人は無し。仕掛けるなって散々警告したのにそれでもするなんて、本当頭が痛くなるよ…」
『こちらも欲しい情報はあらかた取り終えたわ…仕事ですもの。サラリーは時に命より重いのよ』
「或いは、自分の命より重い誰かの命をとられているか、だね」
『ごめんなさい。茶化していい話じゃなかった。もう、戻れないわね』
「いいさ。こういう気分がくさくさする日は、あの日を思い出すよ。3年前の、あの薄暗いベルリンを」
†
《試合終了。勝者アリーシャ・ジョセスターフ》
『はいシウマイ。2りまとめてハヤニエになった感想はどうかナ、ティーンズ?』
『ケラケラケラ!『あくぃら』ヌカセタノダケハホメタタエルゼ、てぃーんず!』
『…そんな、『イージス』が!?』
『お、おかしいッス…さっきまで追い詰めてたはずなのに…!?』
試合開始からきっかり1分、『コールドブラッド』『ヘルハウンドVer2.5』は大槍…『アクィラ』によって同時に刺し貫かれ、絶対防御を発動させていた。群青のIS『テンペスタ』に鎧われた女傑、アリーシャ・ジョセスターフは『アクィラ』を背後に構えながら楽しそうに言葉を続けていた。
『強いヨ、君たちは。その連携…イージスだっケ?アレも結構だった。瞬時加速(イグニッション・ブースト)で同情の傷薬(メディシーナ・シュンパティエ)すり抜けようって策も。デモね…すり抜けの策はヤンヤンが第一回準決勝の時に使ったのヨ。知ってタ?同情の傷薬(メディシーナ・シュンパティエ)は元々銃よ。銃弾と違ってジャベリンは投げる速度で当たりようが変るのヨ。それにサ…付け入る隙は、あるものじゃない、作るものヨ』
そして先程まで二機を翻弄していた『テンペスタ』と同じ群青色の子竜はその姿を再びピンク色のオオハシへ…仮初の物へと代え、テンペスタの左肩に止まっていた。
「『囲むっスよ、ダリル!』『右から仕掛けなさい、フォルテ!!』…ケケラケラケラケケラケラ!」
「…まさか」「そのアホウ鳥が、ニセ情報を…」
『そういうこと。今回は聴覚だけだけど、中々の演技だったでショ?目で行動を伝えられる位には頑張りなさいヨ…さっきのフィニッシュムーブは公爵様にお見舞いしたのと同じ『インパルスドライブ』、君達への餞別だヨ。ヤンヤン、公爵様、ソッチはどお?』
『無事終了いたしました。まだまだ宝石にはヒビは入れられぬようです』
『こちらも終了。ですが、光るものは多々見つかりました』
『で、誰がお先真っ暗のアラサーなのかナ?』
『ギャガガガガが!!!』
■
●
「…いよいよだな」
「正直な話をするよ。試合が始まる前が一番怖い。始まっちゃえばどってことないのに」
「どうした、ボーデヴィッヒさん?」
「…今までの試合、大なり小なり我々のほうが有利だと思っていた。だが…今回ばかりは不確定要素が大きすぎる。猿取君ほど読めない相手も居ない」
「茨、それはお前が臆病者ではない何よりの証拠だ。戦うことは誰にとっても怖い。本当の臆病者は戦っている最中に怖がるものだ。恐怖を知らないことは美徳ではない。いかに恐怖と向き合うか、それが重要だ」
「…ありがとう。大分気が楽になった」
「俺も茨も正直下から数えたほうが早いくらいの成績さ。でもさ、負けちゃいけない相手には絶対に諦めなかった。だから今回も諦めちゃダメだ。それに、今回は試合だ。もし負けたとしても、きっとそれは明日に繋がる負けだ。俺はそう信じてる」
「…ありがとう、織斑君」
「いくぞ、一夏と、ボーデヴィッヒさんが待っている」
「ああ、今までのありったけをぶちかまそうぜシノさん!」
「一夏でいいぜ、俺もラウラって呼ぶからさ」
「ああ、行こうい、一夏…安心しろ、取って置きの策も有る」
▽
「な、に、が、『織斑君、猿取君にどうぞよろしく』や!タヌキ共が色目使ってからに…安心せぇ山田先生、生徒や他の先生達と関わり持てんように校長と理事長、AOAの社長さんたちがVIPルームで歓待中や。ウチもおっつけ向かう」
「本当、皆様には足を向けて眠れないです…教頭先生、有難うございます」
第3アリーナ情報処理室、何時もの鉄面皮を崩していたIS学園教頭、重藤梓は毒づきを中断すると自分の部下である1年1組副担任…山田真耶に心配そうな視線を向け、言葉を続ける。
「別にウチらのことはええ…ウチが心配なのは山田君、キミや。生徒と火遊びが出来るほどキミは軽い女やない、そしてホイホイ誘惑に乗るほど猿取君はアホでもない。卒業まで隠し通す気か?」
「私はいいんです。私じゃない、きちんとした女の子にめぐり合ってくれれば…」
「アホ抜かせ!あの子はガチや。君ももう少し自分に素直になりや。若人がお互いに傷つくのはイヤや」
「私は猿取君より8つも…」
「歳は関係ないやろ!アレか!?それはタケちゃんと交際しとるウチへの当て付けか!?年甲斐もなく恋愛なんぞしとらんとサッサと籍入れぇ言いたいんやろ!?ウチがどれだけおカアちゃんから生暖かい視線送られてるか知りたいんか!?同級生が中学生の子供の入学式の写真送ってくるんやで!?どれだけウチが世間に…世間に…」
「ごめんなさい…教頭先生…」
「ええんや…若人は青春を謳歌せぇ…ゴメン…ちっと泣かせてや…」
「よ!邪魔するぜ…あ、取り込み中だったか?」
「ケラケラケラ!これハシュウタンバデスネ!」
「申し訳ありませン仕込みをするだけですのデ」
「やはり女子高は百合の咲く花園なのですね…」
「ビクトリアは普通の学校に進ませましょうか」
「だ、誰がビアンやねん!ウチはノーマルや!」
■
『頼みがある、茨君!』
『何?このタイミングで…』
入場も終わり選手紹介も終わり、さあ試合だってタイミング、個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)じゃなくオープンチャンネル…いや、会場のスピーカーにも行ってる、こりゃ余程の発言だ。何を言う気なのよボーデヴィッヒさん…
『これは学生としての私の頼みではない。ドイツ暫定代表としての…』
『それは違わないか?ラウラ。俺達はクラスメイトなんだぜ』
一夏、つい口に出すクセは直したほうがいいぞ。でも確かに何か違う。一応学生なんだからさ。ボーデヴィッヒさん自ら外の階級なんて関係ないって言ってたんだから、今更持ち出されても…
『!?…すまない、本当にすまない。そうだな、これではあの時の私と同じだ。あの…』
『ストップストップストップ!別に俺も一夏も断っちゃいないさ!』
な、涙ぐまないでよ!?ていうかホラ、『醜き兵』の話しちゃマズイよ!?色んな所のVIP来てるんでしょ!?下手したらドイツが叩かれるよ!
『俺はさ、ボーデヴィッヒさんが学年の皆に懇切丁寧にISの事を教えてくれたのを知ってる。ていうか俺もその一人だ!クラスメイトの頼みを無下に断るほどアホじゃない。『今すぐ白旗上げろ』とか無茶なこと言わないなら…』
『それに近い、茨君。この試合…一夏と篠ノ之さんとの一騎打ちに変更してくれ』
『『『えっ?』』』
●
『この試合…一夏と篠ノ之さんの一騎打ちに変更してくれ』
(何故一夏とボーデヴィッヒさんが呼び捨てにしあっている!?)
『シノさん…言っとくけどボーデヴィッヒさんと一夏が呼び捨てあう、そんな所に食いついちゃダメよ』
(言われなくても分かってる!!)
個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)でボヤいた茨が私の視線に肩をすくめたのを脇に、ボーデヴィッヒさんは切々と言葉を続けていた。
『君という対戦相手はあまりに読めない、猿取君。臆病に見えて果敢であり、無謀かと思えば慎重だ。確実に君を戦闘不能に追い込むためにはこの手しか思いつかなかった。』
…確かに茨は読めない相手だ、それは認めよう。だが、彼女はエースだ。どう見積もってもトランプで例えるならスペードの10だろう、茨は。それを潰すために彼女が降りるのは…
《コイツは殺し合いじゃない、試合だぜフロイライン。そして…何より心を躍らせるゲームだ!そいつをテメーの小癪な策で弄ろうってか。緞帳上がったら胸のすくゲームが待ってるんだろうなぁ?》
その声はコーリングさんか!相変わらず神出鬼没だ…そんな私の内心を知ってか知らずか、放送室から彼女は心底楽しそうに言葉を宣う。
《ギャラリーとしちゃあ、ショッパイ試合だけは勘弁カツオだぜ。その時には居残り組には厳しい罰が待ってるから覚悟しておけよ》
[勿論その時は君も同じ目にあってもらうからネ、黒猫ちゃン]
[取りあえず、テレビで映すことの出来る物にしておきなさい、イーリ]
[ケラケラケラ!けちゃっぷアリガトー!ナマタマゴアリガトー!おむれつダイスキグリとグラー!]
『ぐりとぐらはオムレツじゃなくてカステラなんだけど…で、いいのか二人とも?そういうことになっちゃったみたいだけど…』
…細かいことに一々突っ込みを入れるな、茨。気にしたら負けだ。まあ、私の答えは決まっている。
『やるさ。箒なら相手にとって不足はないぜ!』
『やるさ。相手を選べるほど私は強くない…茨こそいいのか?私はつい最近、一夏に負けた』
『だからこそ良いんじゃないか!一度負けた相手には二度負けない、勝ちたいなら何度でも立ち上がる、そうですよねイーリさん!』
《…そうだ。不肖の弟子にしちゃあ勉強熱心で何よりだ!》
…そうだ。立ち上がることが出来るなら何度だって挑む、それが私だ。
《それとお二人さん、モチロン応援歌の一つでも歌うんだろうな?なに、あたしも歌ってやるさ》
『えっ?まあ、良いですけど…』
『そ、そうなのか!?私はあまりレパートリーは…』
『…大丈夫、きっと、きっとまともな歌だから…』
…吹き出すような歌だったら、死ぬほど恨むからな…
◇
「流石はエイブの愛娘ね。思い切りと勢いの血は争えないわ…どうしたのよアル?まさかシャンパンの3、4杯でグロッキーだなんて言わせないわよ」
「想定外だ。少なくとも彼は…猿取茨はあの中で一番弱く、ラウラ・ボーデヴィッヒは一番強い、そう思われていた。それをお互いに退くのではない、ラウラが提案し、引かせたことで彼の能力に恐れを抱いていると…」
VIPルーム、殆どの来賓は酔眼で、或いは興味深々の目で試合を見つめていた…ただ2人、AOA社長、日本支社長の2人を除いて。美味くもなさそうにドンペリを煽る老人に、キリキリに冷やしたコニャックを口に含みながら老女は心底楽しそうに言葉を繋いだ。
「でも、もっと警戒しなくちゃいけないのはこの試合よ。『ブリュンヒルデの弟』『天災の妹』…そんなレッテルでしか見られなかった二人があそこまで派手に戦える、誰が予想できたかしら?本当、一振りの剣で世界をひっくり返すことが出来る、みんな忘れていたことよね」
「ああ、まったくだ。相変わらずだなハイジ。人の痛いところを容赦なく抉る癖、どうやら終生変わらずか。イーリでもナタルでも残りのBIG4でもダメだ、彼らを最短で鍛えるには…いや、天災が仕掛けた後だ、もし誰も死なずに済んだとしても生半の傷ではすむまい」
「…黄金の愛?彼女を教官に…」
「ああ。彼女は容赦も躊躇もない。無意味と思えば殺し、無価値と思えば殺す。それだけの剛の者でなければ意味は有るまい」
「…本当、貴方が最初に『P』を見出せたのは貴方だったから、それに尽きるわ」
「…そして、彼女が『天災』であることを見抜けなかった。僕の、一生の不覚だ…」
はるかな古、人はそれを『神の怒り』と信じ、そして現在、それを人は『災害』と呼ぶ。
ふっふー、完成完成!何とか間に合ったよくーちゃん!
だからおかーさんでいいんだよ、くーちゃん!…そう、これは束さんのクローンさ。『赤椿』のための。
…ん?勿論すっからかんだよ、オツムの中身は。ぶっちゃけ1日動けばいいんだし、束さんの意識をコピーすればすむことさ。
…何で作ったんだって?
決まってるじゃないか。
あのモブを殺すためだよ。