俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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鳥ではなく、獣ではなく、蛙ではなく、虫ではなく

「歌…だと!?」「どうしました副長⁉︎」「大尉!?」「お姉様⁉︎」

 

「愛しい者の為に歌を捧げる、コレはマクロス案件では…」

「確かに空を高機動で飛びますし…」「我々の兵装では、ミサイルも一般的な武装ですし…」「男性も女性もボーカルがいますし…」

 

「待って下さいお姉様!ということは…アメリカ代表は織斑君に横恋慕を!?」「いや、むしろ猿取君も篠ノ之さんに…」「むしろ織斑君に横恋慕を…」「男同士の友情!そういうのも…」

 

 

「「「「「その話、もう少し詳しく」」」」」


遥かに流れる月の川

とうとう4周年です。5周年までに…臨海学校まで…何とか…

 

 

 

 

 

 

 

「気をつけてね、ブトナ…お嬢様にはもういいの?」

 

「はい。折れず歪まず心正しく過ごされている…ハークに伝えて参ります。それにお友達も沢山出来たようで、何よりです」

 

 

 

「どうにも、雰囲気が尋常じゃあない。後で様子を見てこよう」

 

「それはよくないわよ。恋愛トークに男が入る物じゃないわ」

 

 

 

 

《きーみーは何故ー、きーみーは何故ー、戦い続けるのか命を賭けてー》

 

 

 

…いい歌だとは思う。ピーターさんの生き方そのものじゃあないかって思うときも有る。作品だってSF要素や悲哀なんかも含まれてたし、同窓会じゃ滅茶苦茶活躍してた。

 

 

 

『あら?貴女もアメリカ人なら『サタデー・モーニング・スパイダーマン』を歌うものではなくって?』

 

『ンー?何でモパワー・レンジャーのオリジンらしーヨ?ブリティッシュもイタリーも大変だよネー、有名な童話が軒並みネズミーにアニメにされるト』

 

『ケラケラケラ!かがやくほしにこころのゆめを!!』

 

 

 

フォロー有難う、放送室の皆様…っと、歌はどうでもいいんだ。まずは決勝だ決勝!

 

 

 

 

 

『のぁぁ…っと!』

 

『せぇぇぇい!!』

 

 

 

 

 

 

 

試合は一進一退、強いて言うなら一夏やや有利という所だろう。広いアリーナを縦横無尽に駆け回り、鍔迫り合い…っと、フェイントからの平突きからシノさんが横薙ぎの一閃…これはもらったぜ、一夏!

 

 

 

『がぁッ!?…流石だな、一夏。だがまだだ、まだ終わらない!!』

 

『ああ、そうこなくっちゃな!』

 

 

 

⁉︎おい、回避しつつブレードを後ろ回し蹴りで払い、『雪片』持ってるほうの裏拳でカウンターとかなんつー対処法よ。コータさんだって出来ないよそんな回避。タイミング間違えたらお陀仏必至だぞ。

 

 

 

《マック、魅入るのは結構だが次はオメーの番だ。チャッチャと歌えよ》

 

『は、はい!』

 

 

 

 

 

…オーケー。場を冷やさないように頑張りましょうか!

 

黒豹女が日本語の歌歌ったんなら、俺はコレかな…

 

 

 

《This is my escape I'm running through this world and I'm not looking back 》

 

 

 

 

 

 

 

 

武とは矛を止めると書くように安易に振るうものではないと父さんから教えられた。竹刀で行う剣道であっても、木刀で行う寸止め形式の稽古であっても…いや、空手であろうが柔道であろうが対戦ごとに敗者は死ぬと見なされる。だからこそ、あらゆる武道は礼に始まり礼に終わる。

 

 

 

『がぁッ!?…流石だな、一夏。だがまだだ、まだ終わらない!!』

 

 

 

…私の愚考ではあるが、戦うこととは、勝つこととは『楽しい』物なのだ。中学の剣道の全国大会、優勝した時、表彰台に上った時の感動はひとしおだった…だからこそ溺れてはいけない。溺れてしまえばただの狂人だ。溺れることなく武を磨いてきた先達全ての人々への冒涜でしかない。

 

 

 

『おお、そうこなくっちゃな!』

 

 

 

…だからこそだ、今はただ己の全てを引き出し、戦うのみだ。勝利の喜びは終わってから存分に味わえばいい、織斑先生がおっしゃっていたように。

 

 

 

《We've all gotta start from somewhere And it's right there for me and the possibilities are never ending》 

 

 

 

 

 

…そして、有難う一夏。お前がいなければ、きっと私はどこかで潰えていた。溺れていた。そして有難う茨。お前がいなければ、この大舞台まで勝ち残ることは出来なかった。

 

 

 

《And now I feel so free Endless possibility!》

 

 

 

勝ってみせるさ、お前達のためにも!

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした。ケイシー先輩。御免なさいねフォルテ、貴女の5倍は楽なはずなのに一矢報いることも出来なかった」

 

「んな事ないって、サラ。『戴冠宝器(クラウンジュエル)』は強いっスよ、『イタリアの槍(ランツェア・イタリアーノ)に匹敵するほどに…コッチこそ皆々様が散々粘ってくれたのに良いとこ無しだったっス…も、勿論先輩は悪くないッス!ひとえに…」

 

「悪いのもいいのもお互い様よ…本当、強いわ『BIG4』は。あそこまでのハンデを抱えながらなお圧倒する…」

 

 

 

戦いが終わった2年、3年のパイロットコースの面々は興奮冷めやらぬまま、食い入るように決勝戦を見つめていた。飲み干したゲッコレードの紙コップを握りつぶすとイギリス代表候補生サラ・ウェルキンは無念さを滲ませたまま言葉を続けていく。

 

 

 

「ミセスは…もう十分に戦われた。私たちが不甲斐無いばかりに…」

 

「まあ、暇さえあれば古代の財宝探索に駆り出されるウチの代表は『さっさと交代させろ』ばっかりッスよ…先輩、如何したンス?」

 

「…努力に憾みが有ったとは思いたくない。機体だって十全だった…なのに、私は、私達は…」

 

 

 

 

 

 

 

「負けるのがそんなに嫌かいレディース?なら戦うのをやめなよ。少なくとも負けることはなくなるよなくなるよ?」

 

 

 

表情を曇らせていたカナダ代表候補生ダリル・ケイシーが、そしてフォルテが、サラが…その場にいた面々がウンザリとした表情を浮かべつつ振返る。今年の4月からの付き合いではあったが様々な恩恵を受け…それと同じくらいには迷惑に感じている老人がそこにはいた。老人…いや、AOA日本支社長アルフレッド・オーウェル・アークライトは缶コーラを一気に煽るといつもながらの下卑た笑みを浮かべながら事も無げに言葉を続けていく。

 

 

 

「昔のイーリの顔、知ってるかい知ってるかい?シキナミ…マキナミ?誰だったっけウルトラマンみたいなロボットアニメに出てくる鉄面皮?」

 

「…綾波じゃないッスか?」

 

「そうアヤナミ!ああいう子みたいに表じゃムスッとしてたけど社内じゃあ『何で勝てないんだよぉぉ!!』なんて大泣きしてたんだよぉ?ブリュンヒルデには1年間で通算50敗はしてたけど、お陰様でボク達AOAは沢山の戦闘データを入手できた!イーリだって『BIG4』残り3りと張り合えるくらいの肩で風切る女になれた!どうだい?諦めないこと、素晴らしいことだとは思わないかい思わないかい?」

 

 

 

「『汝諦めることなかれ』…猿取君も言ってましたね」

 

「ええ。猿取君の奮闘…そして成長。妬けますね、本当に…」

 

「でも、1年のあの子達みたいにはなりたくないッスね。せめて弟君がもう少し意中の子を絞ってくれてればコッチも色々と動けるンすけど…ていうか会長や薫子まで参戦っスか。波乱が波乱を呼ぶっスねえ」

 

 

 

鋭い視線を隠そうともしないダリルとサラを尻目に、フォルテはウンザリとした視線を近くの人だかりへと向けていた…席自体は満遍なく埋まってはいるのだ。だが、色々な都合があり、その席の近くには関係の薄い人間は少しづつ距離を開けていた。

 

 

 

 

 

「【えっ!?】誰も織斑君とは付き合っていない!?」

 

「しかも猿取君とも!?」

 

「15歳…試合後の高揚…何も起きない筈がなく…ですねわかります」

 

「違うもん!茨君は奥手なだけよ!だったら…私が…」

 

「ミドルティーンよ!15歳なのよ!!一皮剥けばマサイとケダモノで脳内が満たされている年頃なのよ!?幾ら来賓だからって言って良いことと悪いことがあるのよ!!もし思いつめて簪ちゃんが今夜アイツの部屋にレッツゴーしたらどうやって貴女方は責任を取るつもりなのよ!?」

 

「ああそれならだいじょーぶですよかいちょー。いばらんとおりむーは同部屋です」

 

「簪さん、僭越ですがわたくしでよろしけれb」

 

「簪ちゃん、チームメイトのボクに任せておいて。茨君を部屋で一人っきりにさせておいて上げるから」

 

「3人寄ればもんじゅの家、なんて名台詞を知らないのかしら?ここはぜいいんで行くべきよ!」

 

「何を考えているんれ、ですか。貴女方は学生ですよ。急いては事を仕損じるです。ここであられもない真似をしてしまえば折角上げた好感度が…」

 

「【えっ!?】子孫汁!?つまりお楽しみのシーンを目撃したということなんですか!?これは重大な発言ですよあなたのこれからの発言次第で展開はガラリと変るんですということでその件についてもう少し詳しく!」

 

 

 

 

 

…祟り神と分かっている祟り神に積極的に関わりたくはないものなのだ、誰であっても。まるで熱に浮かされたような彼女達を尻目に、試合会場に目を向けていた老人は目を丸くしながら嘯いていた。

 

 

 

「…ほう、どうやらベビーフェイスの本命はサムライ・ガールのようだねようだね!!」

 

「「「「「「「!!?」」」」」」」

 

 

 

そこには、打鉄を抱きしめる白式の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

『葵』…ブレードを振りかぶった刹那、一夏は『雪片』…ブレードを投げ捨て私に組み付いてきた。

 

剣道3倍段と俗に言われるように、武器を持っている人間の方がもっていない人間よりもはるかに手ごわい…ではどのようにすれば対抗できるであろう?飛び道具を使う?或いは武器を落とす?

 

 

 

「もらったぜ、箒!!」

 

 

 

だが、一夏が取ったのはどちらでもなかった。懐に飛び込み組み付く…そこから投げ飛ばし、或いは関節を極め、締め上げるであろう…そのうちのいくらかはISでも効果的ではあろうが、それでも皮膜装甲(スキン・バリアー)の前にはやや力不足であろう。

 

 

 

「天井にぶつける気か!そう来たか!?だが…!!」

 

 

 

…だが、皮膜装甲(スキン・バリアー)とて万能ではない。特筆すべきは同等のバリアー…遮断シールドと接触するとあっという間にエネルギーを消尽させてしまうところであろう。茨の…『アンカー・スチーム』の『プリズム』が接触してもエネルギーを消尽させない造りになっているのは実のところを言えば、とてもありがたいのであろう…こういうときは、特に。

 

 

 

 

 

 

 

(神羽振は…無理か!?なら…)

 

 

 

一夏のことを思えば、勝ちを譲ってやっても良いのだろう。ここまで頑張ったのだ、誰も文句を言う手合いもいまい…

 

 

 

「これで、終わりだぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

だが、私は、私達は119名の敗北の上にここにやってきた。誰も最後まで諦めず、全力を尽くしてきた。茨もボーデヴィッヒさんも戦うことなく私達に勝負を預けてくれた…なら、最後の最後まで諦めない、そうでなければ全ての人々に対して申し訳が立たなくなる!!

 

 

 

「まだだ、最後の最後まで終わらない!!」

 

 

 

拡張領域(バス・スロット)から『埋火』…リボルバーを引きずり出すと一夏の顔面へむけフルオートで引金を引き、同時に私はしたたかに遮断シールドに叩きつけられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『試合終了。両者戦闘不能による引き分け(ドロー)』

 

 

 

その宣告と同時に二人は絶対防御を発動し、ゆっくりと地面に向かって降下していく。そのまま逢瀬を楽しませよう。それが死闘を任せてしまった二人への何よりの…

 

 

 

『大丈夫か一夏!』

 

 

 

…月に群雲花に風ってヤツだろう。一夏とシノさんをボーデヴィッヒさんは抱きかかえていた。ああそうだね、同じチームメイトだ。地面にほおり投げる真似は道理に合わない…だからシノさん俺を睨まないでくれよ。ギューって抱きしめられてただろ?いまだってランデブー状態だろ?そういうの誰も味わって…

 

 

 

《青春してるじゃねーかベビーフェイスもサムライ・ガールもフロイラインも。ときにフロイライン、まだお歌を唄ってネーなぁ…マック!空気読んで代わってやれよ!》

 

 

 

『は、はい!』

 

 

 

放送室からの黒豹女からの突っ込みに慌てて俺は一夏とシノさんを受け取り、肩に担ぐ…ああ、これって山田先生と黒豹女の試合の後と…

 

 

 

『Moon river, wider than a mile I'm crossing you in style some day 』

 

 

 

「ど、どうしたんだよ茨?」

 

「急にブルブル震えだして…何があった?」

 

 

 

『急に怖くなっただけだよ。ゴメンな…』

 

 

 

そうだ、あんなことはもう起きない…いやむしろこの2りの間に起きれば俺も随分と楽になるんだ。そうだ起きてくれ!

 

『Wherever you're going I'm going your way 』

 

 

 

そうだ、いまはただ2人の健闘を讃え、観客に見ていただくだけだ。

 

 

 

 

 

『My huckleberry friend…Moon river and me』

 

 

 

…綺麗な歌声だな、ボーデヴィッヒさん。




何を持って智と言うのか

 

 

 

『えっ!?もし例の優先貸与権が手に入ったら、ウチ達1研が!?…いえ…はい。本当に宜しいのかニャ?…有難うございますニャ…』

 

「どうしたペッパー?フロント・リラックスでもそこまで脱力したらポイント減点は免れないぞ?」

「木偶…ゴーレムのコア、各国製作チームや企業が貸与権を求めてIS学園に申請してるのは皆さんもご存知ニャ…倉持が権利を得たら、その機体を開発するのは1研主導でして欲しいってヒカルノが上に推薦したニャ…」

「ん?それはとてもいい事なんじゃないんよ?」

 

「違うニャ!どんなことが有っても、どんな手を使ってでもその権利をもぎ取るのがヒカルノだったニャ!…最近のヒカルノは、おかしいニャ…変なのに、取り付かれてるニャ…」

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