俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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Ibara:陸フグとか聞いたことないんで抜けますね^^;

 

「茨、『BIG4』3名とイーリからのお土産です」

「ピクシー…それって二者択一?」

 

ピクシーと芥子田さんが抱えてきたのは何処からどう見ても昔話の葛篭だった。大きな葛篭を大儀そうに降ろした芥子田さんはズレた眼鏡を直すと事も無げに言葉を続ける。

 

「まさか、両方とも可愛がってください」

「…受け取り拒否はできるでしょうか?」

 

…「二ー」とか「フナオー」とか鳴くクッキーやチョコなんて有るわけはない。生き物を土産にするなんてありえないだろう、普通…小さな葛篭を大きな葛篭の上においたピクシーは指で十字を切ると恐ろしいことをさらりと言ってのけた。

 

「分かりました、そういえば沖縄では鍋にするとか。あと、三味線業者に…」

 

「分かった!!分かりました!!責任を持って飼わせていただきます!!」

 

 

 

「…トルコから特別に譲り受けたヴァン猫がオス、アメリカから取り寄せたメインクーンがメスだとさ。責任重大だよホント…取りあえず部屋の扉は入り口に通り抜けられるよう小さい入り口作ってもらったぜ、一夏…っと、トイレの躾が出来てるのは嬉しいところだな…」」

「で、この子達名前は何にした?…っと、ペットペースト好きだな、この子達…」

「オスがポン(凡)、メスがぺー(平)…見た目が非凡だから、名前だけでも平凡でいこうかな、と」


第4章 行進曲(マーチ)は流れ、凶刃は砕かれた
物事は事前の準備が7割、らしい


※やっぱり、剣と魔法と時々機械じゃないと受けないんですよタバタさん。

 

 ナウなヤングはスマホでガチャに興じるんですよタバタさん。

 

 

 

 

 

『こちらセシリア、ターゲットはアイスコーヒーを購入した後19番乗り場に向かいましたわ。箱舟山行きのバスに乗る模様』

 

『了解。こちら鈴音、アタッカーはいま準備の途中…キャミソールは品が無いし、ロリータは重過ぎ。白のサマードレスがいちばん効くわよ』

 

『こちらシャル、タクシーは呼んでおいた。次のバス停で落ち合えばいいよ』

 

「一応、『レゾナンス』は一巡りした。会長は居られない」

 

 

 

『こちらラウラ、織斑先生は家に帰った。あと、駅からはうちの生徒は来ないみたいだ…なあ皆、なんでそんなに…その、簪さんを応援するんだ?』

 

 

 

 

 

『『『「渡世の義理よ」』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「山田先生、茨は箱舟に行きました。山のほうにある資料館です…いまからなら間に合いますよ」

 

「有難うございます、織斑君…どうして、そこまで私に?」

 

 

 

 

 

「俺は、茨に幸せになってほしいからです。あ、あと格好は白のサマードレスがいいですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様でした」

 

「あ、あの…これ、俺が作りました!どうぞ召し上がって下さい!」

 

「美味しい…弾君のお爺ちゃん、お母さん、弾君お借りして宜しいですか?」

 

「かまわねえよ。弾!下品な真似はするんじゃねえぞ!」

 

「晩御飯までには帰ってきなさいよ、弾」

 

「はは、はい」

 

 

 

 

 

「時代は変わったわね…まさか女の子から声をかけるなんて」

 

「そうか?優から聞いたが、お前から…待て待てそんな怖い顔するんじゃねえよ!?」

 

「あ、そうだ。ようやく目処がつきそうだから夏には招待したいって、先週言ってたわ優ちゃん」

 

 

 

「優にも、苦労かけるな…雪には顔向けできねえよ…」

 

「そんな事無いわ、きちんと説明してくれたし、月に一度は私も様子を見に顔出すし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの!今日はどこまで行きましょうか!」

 

「竜ヶ崎の恋の鐘まで行きましょうか。あ、そのまえにメール送りますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?とうとう毒牙にかける気よあの淫獣この間のアシストは確かに最適だったし医務室のベッドでは簪ちゃんが待っててくれたしスポドリもキリキリに冷えててありがたかったし確かに感謝はしてるけどもけどもソレとこれとは話が別よコッチが大人の対応してたら付け上がりやがって今日という今日は目に物見せてやるわあの薄汚いカフェオレ女に伝えなさい本音アイツの死に様をとくと拝ませてやるわ」

 

「つまり箱舟資料館で会談するんですね、かいちょー…あ、あとカッコは白のサマードレスでお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ああああ…いまきっと茨はニコニコ顔でお買い物なのれす…何で、何で…」

 

「だからさ、別にカイチョーとの会談に立ち会わなくたって…お、噂をすればってヤツかね…先回りするぞピクシー!ナリは白のサマードレスだとさ!折角だ、レゾナンスでお買い物しよーぜ!」

 

「あら、私も行くけど貴女達の恋の鞘当には参加しないわよ、イーリ、ピクシー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリッキリに冷えたアイスコーヒーが、喉を潤していく。フカフカのバスのシートも悪くない。

 

 

 

「終わった…」

 

 

 

会心の笑みがこぼれてしまうのを止められない。キラさんきっとこんな気分だったんですね。ジェバンニさんがあそこまで偽造テクすごいだなんて気付かなかったのは仕方ないとしてもリンドさんぐっと堪えてたらきっと何とかなったでしょうにね。ていうか俺なら怖くなってノート焼いちゃうかも。

 

 

 

「確かに、終わりましたね茨。生徒会長に見つかるなんて致命的な致命傷ですよ」

 

「あらあらそんなにニヤついて何を妄想しているのかしらここから先は地獄の宴よ」

 

「大丈夫ですピクシーさん。お姉ちゃんは、私が不幸になることをするわけがありません…ね?」

 

 

 

『一夏、どの水着がいいと思う?お前に選んで欲しい』

 

『これかな…』

 

 

 

 

 

…まさか『レゾナンス』の日曜のお買い物、学生達の水着のチョイスに織斑先生が乱入するとは思わなかった。折角蘭ちゃんに渡りを付けて水着売り場の近くに呼び寄せておいたのに血の惨劇になるところだったうん。何も聞こえない、聞こえないよ。

 

 

 

 

 

『2者択一で水着を選んでもらいなよ、皆。一夏、2つのうち1つを選ぶくらいなら大丈夫くらいだろ?』

 

『あ、ああ』

 

 

 

…ああ、殺気立つ前にフォローが出来てよかった。そして一足先に退散できてよかった。『淑女協定』の皆には竜ヶ崎の恋の鐘を教えてやった。あそこは絶好のデートスポットだ、後は何とかなるだろう。俺はお気に入りのスポットで夕方まで時間を潰して帰ろうそうしよう。ああそうだそうすればこんな幻影も幻聴も消えるはずだうん。

 

 

 

「で、どこにいく気だマック?アレか?メガネちゃんとモーテルまでしけこむ気か?」

 

「!!?茨君、大胆…」

 

 

 

 

 

…オッカシーナー、どうして目の前に八尺様の幻影が見えるんだろ?それにさ、八尺様って色白だろ?どうしてこの八尺様は色が浅黒いんだろ?ああアレか、最近ハヤリのオルタってヤツか。

 

 

 

 

 

 

 

「残念だったわねアンタのよこしまな企みはとっくにお見通しよ男としての尊厳と命どちらが奪われるのがお望みかしらああ大丈夫よ簪ちゃんあなたは悪いお友達に騙されていたのよキチンとオーバーホールしてあげるから忘れなさいソレが一番幸せよ」

 

 

 

…コッチの色白の八尺様は俺を後ろから絞め殺そうとしてきやがる。ていうか男としての尊厳ってアレですか?『ご立派様』ですか?奪うって事はねじ切るんでしょうか?ということは見なきゃいけないと思うんですけど大丈夫ですか?

 

 

 

「茨君…私が守ってあげる。大丈夫、お姉ちゃんだって分かってくれるから」

 

「茨、分かっているとは思いますが清く正しい交際を心がけていただけるようお願いします」

 

 

 

そして脇を固めるのはインド系の八尺様と眼鏡の八尺様だ…ああ、そういえば八尺様は八尺、240cmはあるはずなんだ。だから彼女達はプチ八尺様なんだそうなんだ。俺の知人の誰かじゃない、白のサマードレスも麦わら帽子も皆愛らしい、可愛らしい、美しいんだ、だけどこんな祟り神ムーブはやっぱり八尺様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、錬成講習の時は青息吐息だったのにこんなモテモテだなんて…妬けますね猿取訓練生(トレイニー・サルトリ)」

 

「ええ、学校でも大人気なんですよ」

 

 

 

「どうもお久しぶりですナタルさん…ていうかイーリさん、ずっと日本にいたの?1週間ぶりだけどアメリカ空けて大丈夫なんです?」

 

「アホ、横須賀や厚木のベースに詰めてるパイロットへの会合だ一手指南だマレーシアだフィリピンだ近隣のご機嫌伺いだ仕事漬けだったんだよ、この1週間…この休みが終わったらまたお仕事さマック。ガクセーの皆とは違うんだよ、大人はさ」

 

「ようやく正気に戻りましたね、茨」

 

 

 

 

Δ

 

 

 

「あ、アークライト博士もお買い物ですか?」

 

「そうだよホノボノちゃんに2年のメガネちゃん、ボクだって最後の夏を楽しみたいからねたいからね、カッコいい水着で周囲を釘付けにするのさするのさ!」

 

「アルちゃん…どうしてそんなこと言うの?アルちゃん元気だし、まだまだ長生きできるって」

 

 

 

「…まあ、渡世の義理ってヤツかなヤツかな…って、どうしたんだいホノボノちゃん!?」

 

「じゃあ、最後の夏をトコトン楽しもうよ、アルちゃん!竜が崎まで行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「…」」」」」

 

 

 

微笑む山田先生は、簪ちゃんは、ピクシーは、会長は、黒豹女は…彼女達は、美しかった。

 

もし、いまの彼女達を写真に収めることが出来るのなら、きっとソレは青春の1ページの貴重な記録となるだろう。ああ、もし写真にこの光景を収められたのなら俺は写真展の特選くらいはもらえるだろう。

 

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ山田先生から順番にお召し上がり下さいね」

 

「有難うございます、茨君」

 

「「「「…」」」」

 

「ああ、本当に妬けますね…」

 

 

 

 

 

そして、彼女達は恐ろしかった。もし10m先で同じ光景に出くわしたら回れ右して逃げ出し、5m先なら机の下に隠れる…今?テーブルの向こうでせめて楽に死ねることを祈ってるよ!ていうか何で皆殺気立ってるんだよ!?ヒドイやナタルさん見捨てないでくれよ!ていうか何でこうなったんだよ!?

 

 

 

『ここは元々美術館として作られたんですけど、バブルがはじけた影響で収蔵品が買えなくて…その代わり市民が寄付した骨董品とか日用品とか、あとはうちの市のほかの博物館で要らなくなったけど捨てるにも惜しい、そーいうモロモロを収蔵してるのよ、この資料館…一番のお気に入りはこの直立不動のティラノサウルスかな』

 

『意外とこういうものほど後になって学術的な価値が出るものよ、何処から出てきたのかしらこの昭和の怪獣じみた活躍想像図…』

 

『中々趣が有るじゃないかカイチョー、マックを青田買いするだけはあるな』

 

『!?…ずるい、そんな…』

 

『イーリ、そうやって学生を困惑させてはいけません。そうですよね山田先生?』

 

『ええ。大丈夫ですよ更識さん』

 

 

 

 

 

 

 

…ああ、さっきまでの資料館の案内はみんな普通だった。なんでレストランではこんな雰囲気になるんだろう…

 

 

 

 

 

『『七夕限定・ミルキーウェイパフェ…カップルで手をつないで写真を撮った方のみ限定!』…ねえ、これ食べよう茨君』

 

『スターフルーツにパイナップル、マンゴーにメロン…フレッシュフルーツが沢山入ってるな…こりゃ美味そうだ』

 

『ということは最低3りは食べたいというわけですね。しかしながら腕は二本、どうすれば…』

 

『ああ私にいい考えがあるわコイツの腕を真っ二つに裂くのよそうすれb』

 

『そんな事をしなくても大丈夫ですよ。逃げなくても大丈夫ですよ猿取訓練生…まずしゃがんで下さい。手を水平に…山田先生はこっち、イーリはここ、生徒会長はここで更識さんはここでピクシーはこっち…はい、チーズサンドイッチ!』

 

『あ、あたしは食べないわよ!何でこんなヤツと…』

 

『アアそっか毎晩マックのアレをすすれるからいらないってk』

 

『パフェなんて怖くネェ!テメェぶっ殺してやる!』

 

 

 

 

 

…見事な六芒星ポーズだった。だからってショーケースのサンプルの6倍のパフェは無いだろう。コレどう見てもビール用のピッチャーだぞこの器。その上にまるでスカイツリーみたいにフルーツやらクリームやらアイスやらが乗ってやがる。値段も六倍だからイーブン?いいんだよそんな事は!

 

 

 

『で、何よこの長いスプーンは?地獄の食事か何か?』

 

『確かに自分じゃコレ、掬えませんね。交換してもらってきます』

 

『何バカな事言ってるんですか茨。お互いに《アーン》するんですよ』

 

『あ、あーん…』

 

 

 

(ああ、そういう…)

 

(五又なんだ…)

 

(アレが最後の晩餐なんだ…)

 

(密会スキルが無かったばっかりに…)

 

 

 

ああ、周りの皆様の視線が痛い。ああ対面の皆の視線も痛い。

 

 

 

 

 

マジパンで出来た、彦星のマスコットが、最下層の真っ赤なベリーソースへと沈んでいった。

 

 

 

 

 

そういえば、性淫らなる者は血の池地獄に落ちるんだっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、まさかジーさんまで竜ヶ崎にいたとは思わなかった。シラスピザご馳走様でした」

 

「ジュースもごちそーさま、アルちゃん!」

 

「気にしちゃいけないよベビーフェイスにホノボノちゃん!!夢を持ってると胸が一杯になるけどお腹は空くものなんだよなんだよ!ソコに御馳走をオゴッて恩を売りたがるのが汚い大人なのさ!老い先短い老人なんだ当たり前だろう!くらいのズーズーしさを持ちなよ持ちなよ!」

 

 

 

夕暮れ時の竜ヶ崎、恋の鐘という絶好のデートスポット…お膳立てしてくれた茨には悪いが、ゲスジジイが乱入してきた時点で結果は分かりきっていたことだった…残念だったな蘭。折角茨が呼び寄せていたんだろうが世の中とはそううまくはいかないものだ。

 

 

 

 

 

「えっと…貴方がアークライト博士、ですか?茨が時々話題にしてました…」

 

「トレイニーの事だしドーセ悪口だろ悪口だろ?ぜひとも聞かせておくれよおくれよ!」

 

 

 

…ふむ。まさかゲスジジイにときめく少女が居るとは思わなかった。まあ蓼食う虫も何とかという諺も有るんだ、老いらくの恋を…

 

 

 

「…かなり変ってるけど、悪い人じゃない、だそうです…」

 

「何だよ何だよ?それじゃあ褒めてるんだかけなしてるんだか分からないじゃないか?ウィットとパンチの効いたトークをリクエストしたいねしたいね!」

 

 

 

…ああ、きっと涙のようなものが見えたのは私の気のせいだろう。

 

 




渡世の義理

 

 

「カッテキタヨ」

 

「しーッ!大きな声を出すな!」

「誰かに見られては居ないでしょうねアホ茨!?」

「盗聴器もカメラも無いことは予め調べがついておりますわ」

「さっさと出しなよ、茨君…」

 

「コレが0.01mm、コッチがジェルがタップリ、コッチが滑り止め付き…」

「こ、これが…」「す、滑り止め!?」「イボイボが…なんて猥褻な!?」

 

「テイウカサ、ドウシテオレニカワセルノヨ…こんびにデモどらっぐすとあデモカエルシ、ブッチャケカッタモノノナンテばいとハ…」

「「「「あ?」」」」

「アアワカッタワカッタカエルヨ、ツカイカタハハコトカセツメイショヨンデネ…」

 

「ど、どうした茨?死にそうだぜ…」

「ダイジョウブ、スコシネタラナオル」

 

 

よくある落し物の中にゴムが入ってて…なんてネタ、あれ嘘だね。うちのアマゾネスどもは男に買わせに行かせやがる。アレか、ヘタレだから脅すような真似なんかしないって思われてるんだろう。 

…それとも信頼されてるのかしら、俺。


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