俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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黄昏 たそがれ 誰ぞ彼

 

折角来てるんだ、妹さんには会わないのかい?

私から妹に会うことはありません、まだ。

 

君は人間をやめてしまった。人間であることを諦めてしまった。そんな君が人間にかかわっても悲劇しか生まないよ。

私は人を超えたんです。やめた訳ではありません。殺されたいんですか、先生。

 

 

僕を殺そうが、残るものはある。それが君の手に入れられなかったものさ。

…私は全てを手に入れます、これまでも、これからも。

 

 

…手に入れることは容易い、だがね、本当に難しいのは手放すことさ。


或いはそれは、その場にそぐわぬ無限の蒼穹

「いやあここまで美味いパフェ食えるとは思わなかったぜ、マック様々だな…じゃあ来週の予定だ、読んでくれよカイチョー」

 

「!?正気なのアンタ達!IS学園外で演習だなんて!」

 

「正気ですよ。初期化(フォーマット)と最適化処理(フィッティング)はもう終わらせています。ですが…公式の初起動として銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)はファング・クエイク同席の下、公海上のこの海域で試験を行う…そしてその立会人としてモスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)を指名いたします。ちなみにIS委員会にもテルアビブから明日連絡いたしますので、角は立ちません」

 

「打鉄1機…臨海学校で都合を付けてくれという依頼もその関係なのですね」

 

「ああ、そういうこった山田センセ。それなり以上にトンデモネー事態になる、ソレがジー様の読みだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏休み特別企画『身の回りのものの進歩展』か…うぇぇ、お腹が冷える…」

 

「当たり前です。もっと我々によそっても良かったんですよ、茨」

 

「ごめんなさい、茨君…今度二人っきりの時にまた頼もう、ね?」

 

 

 

いつもは閉鎖しているスペースで開催されている特別展を眺めながら、俺はパフェでパンパンになったお腹をさすっていた…いや、簪さんが気に病むことは無いんだよ。

 

 

 

『マック、メロンは好きか?アタシは好きだ』

 

『猿取君は朝御飯にはコーンフレークを良く食べてますね、どうぞ』

 

『こ、このハート型のキウイ上げる!』

 

『!!?そういえばアンタ猫もらったわね飼い主ってペットに似るらしいわねそういえばチョコって猫にとっては猛毒ねあんたの猫的な部分にこのチョコアイスはクリティカルに効く筈よね』

 

『…茨、コーヒームースは如何です?』

 

 

 

…もちろん俺も皆様に楽しんでいただけるように出来るだけよそって口に運んでいった。だが、皆々様のほうがよそうスピードが速かったのだ…まあ、最後のほうは皆満腹になったから俺に処分させたというのが実情だろう、多分。

 

 

 

 

 

 

 

「…しかしながら、こうやって見ると相互に作用してるんだって分かるよね、乗り物って」

 

 

 

ライトフライヤーのミニチュアを眺めながら何の気なしに俺は言葉を放っていた。近くにあるガイド板にはその当時の自動車の絵と『自動車産業の発達により作成が可能となったアルミをふんだんに使用した軽いガソリンエンジンが、世界初の動力飛行を可能としたのです』と書いてある。

 

 

 

「それは一方向からの見方でしかありませんよ、茨。ボーキサイトからアルミナを作り、更にアルミニウムを作り出す効率的な方法、そしてそれを可能とする電気の恒久的な供給、一定の質のガソリンを恒常的に生産する施設…新技術が実験室だけのものだけではない、当たり前の物となるには文明の平均的な進化が必須なのです。レオナルド・ダヴィンチは万能の天才ではありましたが、惜しむらくは社会はまだ彼の閃きに追いついていなかった。だからこそ彼のアイディアは彼のノートでしか拝むことは出来なかったのです。もし二十世紀の発明家がルネッサンス期のイタリアや百年戦争時のフランスに生を受けたとしたら、残念ながら詭弁を弄した詐欺師か魔術師扱いされた挙句火炙りだったでしょうね」

 

 

 

朗々とピクシーは言葉を紡いでいく…いや、こうしてみるとやっぱり年上の超一流企業のスタッフなんだよな。下手したら年下かと思うくらいさっきハシャイでたように見えたのはきっと気のせいだろう、ウン。

 

 

 

「ですね、ピクシーさん。近代的な戦車は自動車やトラクターが無ければ生み出される土壌は無かったです」

 

「だよね。蒸気機関車が出来たのは蒸気船があったから、蒸気船が出来たのは蒸気機関があったから…そしてディーゼル機関に、電気機関になっていった。どんな発明だって土壌がないと生まれないし育たない…あれ?じゃあISもそうなの?」

 

 

 

 

 

未だに車の自動運転はどのメーカーも実現していない。いや、ISが空を縦横無尽に飛ぶのだ、空飛ぶ車くらいは出来たっておかしくは無いはずだろう。なのに未だにドライバーにアルコールが入っていようがいなかろうがエンジンがかかり、アクセルとブレーキの踏み間違いをやらかすような自動車が売られてるし、ISの武装では当たり前の使用許諾(アンロック)なんていらない引金を引けば弾丸が飛んでいく銃ばかりだ…いや、ISと相互に影響を与えた発明って何かあったか?ISから技術が流れて発展した物って何か有ったか?

 

 

 

「私がいつも付けてるウェアラブルコンピュータが該当するわ…学校で使っているような投射型のディスプレイは高価すぎて、個人で持つのは怖いわ」

 

「茨も『プロヴィデンス』使用時にコンタクトレンズタイプのモノをつけていたじゃないですか。ちなみに私も持っていますよ、サングラスタイプですが」

 

 

 

「確かにアレは高性能だった。でもさ、市販されてないだろ?聞いたぜ、もし市販されたら五千万円だって。しかも一々専用の目薬さして注射打たないと使えないシロモノなんて…」

 

 

 

アレは使い勝手が悪かった。妙に目がゴロゴロした…ていうか、あんなもの本当に日常で使えるのか?ネットゲーとか動画とか見ながら運転とか出来るのか?事故とか起こして使用禁止になるのがオチだぞ、多分…

 

 

 

「よう、マックにメガネちゃん。大人のお話は終わりだ。どうした?そんな深刻な顔して…ああ、モーテル予約してなかったってか?」

 

「そもそもそんな所に行かないって…」

 

 

 

 

 

…今でも思う。

 

 

 

あの時、もっと頭を回していたら、

 

 

 

 

 

あんなことが起きる前に、

 

 

 

 

 

 

 

本当の答えに、たどり着けていただろうか。

 

 

 

 

 

Ψ

 

 

 

考古学上、技術的にありえない代物が発掘されることはまま有り…そして後の世には否定されるものが殆どであった。

 

 

 

水晶髑髏はドイツの古物商が作ったものを埋めなおし、カブレラストーンや恐竜土偶は自作したものを埋めていた。また、錆びない短剣は流星を鍛え上げたものだと判明し、コスタリカの石玉はその頃の技術でも十分に作成可能であったと判明している。

 

 

 

現代において発表された『インフィニット・ストラトス』…無限の蒼穹。

 

 

 

 

 

『天災』篠ノ之束博士によって発表されたソレは現代の科学技術では再現不可能なオーバーテクノロジーの塊であったが、だれも狂人扱いされたくなかったのか…このような声を上げるものは責任あるメディアでは絶無であった。

 

 

 

 

 

『本当に、これは人間の発明したものなのか?』

 

 

 

 

 

Ш

 

 

 

 

 

「聞いてよシスター!マイクが言ってたの!『神様なんて居ない、居たとしたら僕達みたいな不幸な人間が居るわけけない』って!」

 

「…だってそうじゃないか、ジェニー。僕達はパパやママに捨てられた。もし神様がアダムとイブを作られて…ど、どうしたんですかシスター!」

 

 

 

バルーニング学園、日曜日の礼拝の時間。何時ものように神への礼拝を始めようとした子供達の中で起きたちょっとした喧騒。礼拝堂で優しく男児を抱きしめていたシスター・ファロンは愛児に語り掛けるように言葉を紡いでいた。

 

 

 

「神とは、何者であるかわかりますか?万物の創造主、偉大なる父…そういうものではないのです。心のよりどころであり、己の中の良い心でしかありません。神の名において人を害するものが破滅するのも、神を信じず人を害する者が破滅するのも同じことなのです…マイク、神を信じなくとも私は怒りません、神も怒りません…良心だけは捨ててはいけません。もしも捨てた時は…」

 

「捨てません、シスター!神様も信じます!だから…離して下さい…」

 

 

 

 

 

 

 

『マイク、良心だけは捨てないでくれよ。あたしみたいに人の命を射的のヌイグルミぐらいにしか見られないクズになりたくないならな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっそらーにゆーべのほしがでるー、ほっしがでるー…おし、じゃあお休みマック。また会おうぜ」

 

「それでは、また会う日まで」

 

 

 

『レゾナンス』隣の駅。横須賀のベースまで向かうリムジンに乗り込んで帰っていった黒豹女とナタルさんを見送ると、俺達は学園への家路を急いでいた。日は落ちて一番星がそろそろ輝く頃だ、さっさと寝て明日に…

 

 

 

「そ、それじゃあおやすみなさい、先輩!」

 

「ええ、それではお休みなさい」

 

 

 

 

 

…ああ、もうちょっと学園に帰るのは遅くなりそう…

 

 

 

「弾、そのにやけた顔を何とかしろよ。厳じーちゃんにゲンコツされるぞ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おねーちゃん、何ニコニコしてるの…わかった、彼氏が出来たんだ!」

 

「!?何よソレあたしがアイツからの毒牙に簪ちゃんを守っていたとき男と逢引!?不公平よそれ!!」

 

「そんなんじゃありません…だって、私は『産衣』を継ぎますから…」

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよお姉ちゃん、私が継ぐ。お姉ちゃんは…」

 

「いいのよ。私もいずれ日向の道は歩けなくなる…お母様の後は、私が継ぐわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※よく分かる星の王子様の舞台裏

 

 

 

 

 

 

 

俺は出版業界通してやってる自他共に認めるアメリカ人なのだが

 

先日絵本に無関心だった亡命フランス作家が急に星の王子さまを出版して来た

 

俺はどうせ死ぬ気だなと踏んでいたんだがどうやらその通りみたいで、

 

薄汚いナチに一泡吹かせるために自由フランス空軍に志願して偵察飛行隊に入隊したらしい

 

そういうの嫌いだから俺は「いや、そういうので飛んで欲しくないから」と言ったら何か決死な顔して歩み出ていた

 

そしたらムキになってなんか本気で偵察するらしくて1人でむくむくと飛んでいた

 

俺/s「・・・」

 

俺/s「今の飛行機はアナタの手には負えないほどの力秘めてるんだけど・・・」

 

仏/t「ですね、今気づきました」

 

仏/t「なんとかなります。心配ありがとう」

 

俺/t「あっそう。」

 

しばらく待ってるとピッキーン!敵機と遭遇

 

しばらく待ってると、機体がずたずたになってアントワーヌ死亡 まぁわかってる(半世紀後に遺品発見)

 

仏/t「探さないでくださいますか^^;」

 

だがナチの国はこの世から消えうせた今度は神様が見逃さなかった勝手に人の祖国を奪うやつは万死に値する事実(リアル話)

 

 

 

 

 

 

「まあ、こんな感じなのよ『星の王子様』の出来た舞台裏は」

 

「ええ!?これってファンタジーじゃなかったのかよ!」

 

 

 

五反田食堂前、俺が近くの本屋で買ってやった星の王子様の文庫本を鳩が鉄砲喰らった顔で見つめる弾…まあ、俺だってジーちゃんやバーちゃんから教えてもらわなかったら分からなかったけどさ。

 

 

 

「ファンタジーだよ。だけど、そのほかにも色々な要素が混ざってるのさ…まあ、一番強いのは恋についてだよ…今日、どんないい事が有った?」

 

 

 

俺の言葉にニヘラー、と締まらない顔になった弾…手でも握ったか、或いはチューか…ホント、中三の頃の俺だったらハンカチかみ締めて悔しがったろうな。

 

 

 

「お前にいい事があったのはさ、毎週土曜日にここに来てご飯を食べる先輩にお前が真摯に対応してたからだろ?俺だって分かるさ…なあ弾、お前が一番心待ちにしてるのは曜日なら土曜日だろ?朝起きると土曜日が来たことが嬉しくて仕方ない、食堂のお手伝いしながら店が開く時間が待ち遠しい、先輩の来る1時過ぎにはもううきうきして仕方ないだろ?それが習慣であって、その習慣こそが先輩と弾の間に結ばれた絆なんだよ…なあ、なんか気の張ったプレゼントでも贈ろうかなんて考えてないか?危険なことをしたり、無茶をして怪我すれば先輩が悲しむって前にも言っただろ。先輩と過ごしてきた時間の分、弾は先輩に責任が有るんだ…これもこの星の王子様にのってる、まさに恋愛を描ききった物語だな」

 

「お、おう…」

 

 

 

「弾、もうメシだぞ!茨!オメーの声はあやめに似て響くんだ、ヒソヒソ話ならもう少しボリュームを抑えろ!…それと、今日は晩メシ食って帰れ。到来物でカツオ貰ったんだが、4人じゃ食いきれねえ」

 

「は、はい!」

 

 

 

弾のジーちゃんの大声に引き寄せられるように俺達二人は食堂へと入っていった…だから、言葉を続けて墓穴を掘ることは無かった。

 

 

 

俺にも好きな人が、責任をとらなきゃ、持たなきゃいけない人がいるって事を。

 

 

 

 

 

俺の願いは、その人と、手をつないで日なたの道を歩いていたいだけだって事を。

 

 

 

 

 

 

 

そして俺は、そんな大切な人を、最愛の人を汚し続けてるってことを。




りくるーと

 

「会長、人手不足ですよ。何時まで居残ってるんですか…」

「しょうがないでしょ、信頼できる人間はそんなに居ないわよ」

 

現在午後9時、生徒会室において山盛りの書類の前、布仏先輩の入れたエスプレッソを流し込みながら怨嗟のうめき声を上げる会長。のほほんさんはさっさと切り上げて帰っていってしまった。一方先輩は眉一つ動かさず赤ペン片手に書類の校正を続けている…先代生徒会長であるとケイシー先輩が教えてくれたが、やはり伊達じゃないな。

 

「…猿取君は信頼できる人脈に心当たりがあると?」

「ソコまでじゃないですけど、会長と布仏先輩に面通ししていただいて信頼できるようでしたらスカウトしていただくのはどうかと」

 

「どうも、1年4組沢渡観月です!猿取君に紹介されました」

「1年3組、UAE代表候補生ナディア=アブドゥル=イスマイルです」

「1年2組、ジブチ代表候補生ホリヤ=モハメド=ザイードと申します」

「1年1組、鷹月 静寐です…ねえ猿取君、本当に大丈夫?簪ちゃんが怒らない?」

 

「ああそうなのね簪ちゃんだけに留まらずイバラガールズまで集めだしたのねホント性根が腐ってるわねいいわその根性叩きなおしてやるわ根性が砕けなかったらの話だけど」

 

 

 

 

「あ、逃げちゃいましたね…ていうかいいの相川さん?」

「大丈夫よ、アレくらいじゃないと更識さんのところに入婿できないわ」

「顔が笑ってるわよ、相川さん」
「では、皆さんに日々の業務をお教えしますね』

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