俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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或いはそれは、自由と権利と義務と責任

 

「こっちはサイン終わり。そっちも終わったかー…」

「腕が死ぬとおもったわ…で、その顔だと例のお話みたいね」

「ええ、プリンセス。ブリュンヒルデからの通信よ、イーリ。天災の作品は現在戦闘速度で南下中…目的地は南硫黄島近くの岩礁らしいわ」

「そっか。あたしたちは往く。プリンセスはどうする?」

「勿論往くわよ。ねえ、あんたたちコレが起きることを予測してたの?」

 

 

「まさか。あくまでもジー様の読みだよ」


いきなりIS学園の危機

「…以上が現状だ。束の持ち込んだISは南硫黄島付近の岩礁で停止している。付近を航行していた『エンタープライズ』、及び公海上で試験予定だった戦闘用のレギュレーションIS『シルバリオ・ゴスペル』、『ファング・クエイク』、『モスクワの深い霧』(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)3機が対応予定だ」

 

 

 

訓練予定は中止となり、クラスのみんなはホテルで待機。そして俺たち専用機持ちと一名は『ジョブ&ホビー』の修理ブースで椅子に車座に座りながら織斑先生からこれからの予定を淡々と聞いていた。

 

 

 

「これからの予定を伝える。お前達の機体はあくまでも競技用のレギュレーションだ、アレと戦うことは出来ない。お前達に出来ることは、あくまで補給物資の運搬だ」

 

 

 

…俺達のISは、超音速で30分も飛べばエネルギーが切れてしまう。山のように武装を持ち運ぶことも出来ないし、生身の人間を標的にも出来ない。あくまでもスポーツのための機体だ。一方、軍事用のレギュレーションの機体は地球の裏まで超音速で鼻歌交じりで飛んでいける。関東くらいなら焼け野原に出来る火器を積める。園児だろうが赤ん坊だろうが…

 

 

 

「織斑先生…その、あの無人ISには安全装置は付いていないんでしょうか?もうそろそろ…」

 

「無駄だ、篠ノ之。束は昏睡状態に陥っている。脳波はある、呼吸も…だが、揺さぶろうが叩こうが目覚めん。アイツの服にもそれらしい物もメモすらなかった。我々が対処するしかない…まあ、先ほどもいったとおりお前達学生に出来ることは補給物資の運搬だ、さして危険はないだろう」

 

「あの…織斑先生。空母が近くにあるんなら、そこから運べば…」

 

 

 

目に見えて落ち込んでいる残り1名…シノさんの肩に軽く手を置くと、憂いを帯びた視線をシノさんに向けていた織斑先生はつい言葉を吐き出していた俺を見やり、面白くもなさそうに言葉を続けていた。

 

「そうだな、そろそろ準備が出来る頃合だとアークライト博士から伺っている。オルコット、凰、更識、デュノア、ボーデヴィッヒのパッケージ(換装装備)もな。機体を受け取ったら外にでてみろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、人はなぜ犯罪を犯してまでも金を稼ごうと思うのであろうか。

 

 

 

『みーつけた。ホント馬鹿だよねえ…緊急避難命令、ありとあらゆる言語で垂れ流しになってるのに。チャンコロって本当バカばっかり。どうせ先生なんでしょ?そんなお人よしの提案をしたの』

 

 

 

それは、貧しさからであろう。

 

 

 

『サンゴの密漁したって、どうせ買い叩かれて二束三文なのにね…さって、密漁船ゲットー!このまま岩礁にシューッ!超、エキサイティング!!』

 

 

 

鬼子母の逸話に遡るまでもなく、親は子供に楽な暮らしをさせたいからこそ危険な橋を渡り、法に反することなど百も承知で罪を犯すのだろう。

 

 

 

『あーあ、結構生存者出たなあ。まるでレンガひっくり返した後のダンゴ虫みたい…あ?助けてくれ?家でニョウボ子供が待ってる?』

 

 

 

 

 

…例え自らが死ぬほどの苦労をしようとも、子供には楽な思いをさせたい、それが親の心情なのだろう。

 

 

 

『そう、じゃあ、いますぐ楽にしてあげるわ』

 

 

 

…衣食足りてなお罪を犯す、それこそが真の悪人なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一人残らず木っ端微塵、餓えも乾きもない場所にソッコー連れてってあげる』

 

 

 

 

 

 

 

 

大型バスくらいの大きさの飛行物体…それは、宇宙船、飛行機と言うにはあまりもシンプルだった。シンプルで、のっぺりとしていて、笹の葉に似ていて、真っ白だった。

 

 

 

「どうだいエブリバディ!コレこそがNASAの宇宙開発におけるISの夢のザレゴト、そしてIS開発以前のミサイル開発戦争の夢のザレゴトのミックスジュース、そして『アンカー・スチーム』のパッケージ(追加装備)!その名もその名も『エアヘッド』(大間抜け、AIRHEAD)!」

 

 

 

 

 

…そう、それはまさに笹カマだった。大マヌケ?なるほど、ゲスジジイと織斑先生以外はマヌケ面を晒したままだ。その名ににふさわしいだろう。

 

 

 

『左右の衝撃砲をさらに1基ずつに追加した超攻撃型パッケージ「崩山(ほうざん)、あの機体にお見舞いしてやるわ』

 

『ビットをスラスターに換装いたしました高速機動用パッケージ「ストライク・ガンナー」なら、アレにも喰らいつけます』

 

『なら、パンツァー・カノニーアが援護には使えるだろう。レールカノン2門と物理シールド4枚を含む砲戦パッケージ、火力なら随一だ』

 

『なら、ボクは『ジャーダン・リドゥ』(カーテンの庭)で防護に回る。実体シールドとエネルギーシールドはコーリングさんが使った『イージー・リビング』も凌ぐ硬さだよ』

 

『じゃあ…私の『不動岩山』もあるから防護は折り紙付ね…広範囲防壁は厚さは負けるけど…カバーできる場所は勝るから…何?何か巨大な物体が…降りてくる!?』

 

 

 

 

 

 

 

つい先ほど各開発チームからISを受け取り、どこか上気した専用機持ちの面々は、一様に肝を潰している…成層圏からこちらめがけて極超音速で飛来してきたその笹カマのオバケは、我々の上空数メートルで鎮座したままだ。

 

 

 

『…おい、皆逃げろ!!スピードが尋常じゃない!マッハ5!?…!!?ああ、大丈夫だ、いまあの笹カマからデータが送られてきてる…そっか、たしかに遠いけど、アレじゃなかったら補給物資を運ぶのは無理、か…』

 

 

 

茨は『アンカー・スチーム』を纏ったまま、腕組みをしブツブツと独り言を呟いている…そうか、データが流れ込んできているのか。だが傍から見たら非常に怪しいぞ、ウン。

 

 

 

「説明しようじゃないかエブリバディ!ICBMの発達に伴いそれを防ぐための機構も発達した!イージス・アショアなんかのBMD(バリスティック・ミサイル・ディフェンス)がね!知ってる?知ってる?放物線を書きながら飛んでいくミサイルは基本的にはただ落下していくだけの大砲と理屈は同じだからカウンターだってやろうと思えばできないわけじゃない、じゃあどうやって防衛網を掻い潜り狙い通りに当てるか、その答えこそが、作られたのが極超音速兵器だ!最高時速はマッハ5、そしてただの弾道飛行だけじゃあない!グライダーのように大気を利用した滑空飛行、そして動力飛行で防衛網を掻い潜り標的を狙い撃つ兵器として計画されていた!だがねえ…隠密性、破壊力、機動力、防御力、全てにおいて上回る兵器が登場し、開発はお蔵入りとなったわけだ…そう、『白騎士事件』日本を狙いにつけていたミサイルを全て叩き落したISが核兵器、ICBMに代わる抑止力の象徴となったわけだ!」

 

「補足と訂正を追加します。本来宇宙開発用のISですが、どのような宇宙船を用意すればよいのか、NASAでは対応に苦慮していました。ISの皮膜装甲(スキン・バリアー)が活きる様な極限状態の宇宙空間では従来のシステムで構成された宇宙船では物の役には立たない…ならばISと同じシステムで宇宙船を作り、動力炉として格納されたISを使用。そして大部分のスペースは燃料槽、内容としてはISの緊急補給カートリッジと同様に植物性プランクトン…極超音速兵器を原型とした『エアヘッド』はあくまでも雛形、当初の設計の1%ほどのサイズでしかありません。ですが最大航続距離は100万km、月までの往復を行なっても十分に余裕のある設計となっております」

 

 

 

ゲスジジイとピクシーさんの説明にしばしあっけにとられていた私達…その意識を元に戻したのは織斑先生だった。相変わらず表情を何も浮かべないまま、淡々と言葉を紡いでいく。

 

 

 

「お前達の仕事は『エア・ヘッド』での補給だ。3対1での戦闘だ、あっさりと終わるだろうが万一を考えて補給を行なって欲しい。対処するISの武装に対応したカートリッジも十分に搭載されているんだ、やや心配性かもしれないが…」

 

 

 

…だからだ、その言葉が吐かれるまで、私達は誰も気付いてなかった。

 

 

 

 

 

「まあ、下手をしたら今日がIS学園最後の日になるかもしれないんだ、じっくり楽しみたまえ!それとパッケージ(追加装備)の能力もちゃんとお互いに調べておくことをおススメするよおススメするよ!何せ一番最初に狙われるのは…」

 

「ジイさん、どういうことだよ。何で今日が最後の日にならなきゃいけないんだよ!!?答えてくれよ千冬姉!!」

 

 

 

 

 

ゲスジジイの…アークライト博士の目は、少しも笑っていなかったというコトに。

 

 

 

 

 

 

 

 

アラスカ条約。

 

アラスカ州アンカレッジで締結されたこの条約は、世界初のISを開発した日本、そして世界で初めて戦場にISを投入したアメリカを危惧し、危機感を募らせた諸外国の請願により締結され、ISの情報開示と共有、研究のための超国家機関設立、軍事利用の禁止などが定められ、枷を嵌められた形となったアメリカ議会は与野党含めて非難を大統領に浴びせかけた。

 

…しかしながら、AOAを初めとしたアメリカ諸企業の躍進はめざましく、娯楽としてのIS産業、そしてアスリートとしてのISの立ち位置はこの条約がなければ無かったであろうし、巨万の富を稼いだアメリカにしてみれば、これはまさに『アラスカ』であり、恩恵の薄かった他国のやっかみを受けることとなる。

 

 

 

…余談では有るが、この条約が失効されるのは、3つの条件のうち、どれかが成り立った場合である。

 

 

 

1、いずれかの国がISを防衛以外の軍事用に使用した場合、当該国家へのアラスカ条約の効力は無効とみなされる。

 

2、いずれかの国がISコアを売買し、或いは強奪した場合、当該国家へのアラスカ条約の効力は無効とみなされる。

 

3、『天災』篠ノ之束博士が国家、企業、或いはそれに準ずる組織へISによって攻撃を仕掛けた場合、IS条約は廃棄される。

 

 

 

 

 

 

「…猿取、返す返すもお前の行動は英断だった。束のISのあの一閃…もし負傷者がでていれば、犠牲者がでていれば、アラスカ条約そのものが水泡に帰し…世界は、終わっていた」

 

 

 

…何だろうか、この重苦しい空気。どうしてこんな良いお天気の日にこんな暗い話するんですか織斑先生。何かまぜっかえしてくれよゲスジジイ。

 

 

 

「我々AOAとしても、アメリカとしても、血で血を洗う世界は、気軽に使える核兵器を野放しにする世界は願い下げです。攻撃3倍の法則などというさび付いた軍事学を持ち出す気はありませんが、駒が多ければ多いほど有利なのは確定的に明らかで…」

 

 

 

「なあ、ゲスジジイ。答えてくれよ…前言ってたよな。戦場にISを送り出さない現状、スポーツとしてのISを作り出している現状は最高にステイツには、ボク達にはハッピーなんだ、って。今でも、それは変らないか?」

 

 

 

ピクシーさんの言葉を遮りならつい口を突いて出てしまった言葉に、ゲスジジイは満面の笑みを浮かべて言葉を返していた…ああ、そうだよな。何となく分かるよ。ゲスジジイはそういうの嫌いそうだもんな。

 

 

 

「当たり前じゃないかトレイニー。好き好んで殺人者になる奴はいないし、殺人者になることを勧める奴はいない。だからさ…絶対に死んじゃあダメだよエブリバディ!大枚叩いて『最強院閃光大姉』とか『無敵院烈火居士』とかキラキラ戒名付けちゃうよエブリバディ!」

 

「そんな戒名付けたら化けて出るわよゲスジジイ!」

 

「そうです!そもそもボク達は皆無事に帰ります!吠え面かかせてあげますよゲスジジイ!」

 

 

 

「…そうそう、その意気だよエブリバディ。ボクはビール片手にみんなの勇姿を観戦してるからねしてるからね、まずいお酒飲ませちゃあダメだよエブリバディ!」

 

 

 

気色ばんだ鈴とデュノアさんをからかうとゲスジジイは『ジョブ&ホビー』へと駆けていく。そんな光景を尻目に、ピクシーは再び淡々と言葉を紡いでいく。

 

 

 

「さて…篠ノ之さん。『エアヘッド』ですが、複座式となります。無論個人でも起動は出来ますが、茨だけでは少々心もとありません。今回訓練用に用意された打鉄を…」

 

「分かりました。姉の起こした不始末、私にも拭わせて下さい」

 

 

 

 

 

「なあ、箒…おまえが…」

 

「いや。もし私が素直に受け取っていれば、こんなことはそもそも起こらなかった…だからだ。」

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、シノさん。自分が起こしたわけでもないことで思いつめないでくれよ…」

 

 

 

 

 

だからだろうか、誰も、気付くことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ゲスジジイが『天災』篠ノ之博士に、一切言及しなかったことを。




令和となり、とうとうゲスジジイでググっても1番上になることはなくなりました。

「んー…しかしながら、カスタム機も含めれば多種多様なんだな、ISって…」

「うんうん勤勉で何よりだよトレイニー。さて問題だよトレイニー。多種多様なIS、一つだけ共通項があるんだ、なんだと思う?」

 

日曜日の特別講習の後、資料集を見ながら何とはなしに呟いていた俺にいやらしい笑みを浮かべながらゲスジジイはのたまっていた。な、何って…

 

「…空を飛ぶことが出来る」

「むむむ、確かにソレもそうなんだけどさなんだけどさ、体型としての共通項だよ共通項だよ…正解言っちゃおうか、手が二本足も二本、そして羽が生えているのさ!」

 
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