俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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RebeccaのCherry Shuffleを聞きながら

 



 

来年の桜を見るために、今年は家でおとなしくしてます、私。


あるいはそれは、奇術師手製の翠玉眼鏡

「俺が最初に立てた作戦は、一夏以外のISを囮にする、そして一夏が『零落白夜』を叩き込む…これしか勝ち筋が見えなかった。通信衛星、そして『ジョブ&ホビー』から流れてきたイーリさんや会長の戦闘データ…『ジョブ&ホビー』にある『プロヴィデンス』がはじき出したのもその答えだった。ISはダメージを受けると被膜装甲(スキンバリアー)が減少する。そして武装のエネルギーも共用してるんだけど、攻撃も被弾も続けていたのに『色なし』はずっと戦闘を続けていた…そんなでたらめが、無茶苦茶がどうして出来たのか…出てきた結果はエネルギーの総量が桁違いか、あるいはエネルギーを回復する手段があるからだってワタリをつけた。文字通りゼロに落とす技だから、零落白夜はそんな相手には唯一無二の弱点だってさ」

 

 

 

いつになく暗い顔をした茨は手に持ったビニール袋から懐かしい真っ白い包みのパンを出すと、私に差し出した。ああ、そうか。一郎さんとすみれさんからの差し入れか。

 

 

 

「俺が調子崩したってきいて、お父さんとお母さんが持ってきてくれたんだ、風邪の時でもコイツは食えたからかな…全然食ってなかったろシノさん。お母さんが言ってた、『うちの町のソウルフードだからぜひ皆にもご馳走しなさい』って…みんなの分もあるぜ」

 

 

 

愛らしいホルスタインのイラストが描かれた白い包みを破き、中に入っていたパンを千切り、口へと運ぶ。ピーナツクリームの優しい甘さと塩気の利いたパンのコンビネーション…母さんはお菓子は手作りしてくれたが、このパンだけは買ってたっけ。すみれさんも大好きだった懐かしい、優しい味だ。

 

 

 

 

 

「すまない、何から何まで…」

 

「俺ももらうよ、茨…美味いな」

 

「死ぬほどおいしいわけでも何がなんでも食べなきゃいけないわけでもないけど、売ってるとつい買いたくなるのよね…中学の時、2時間目の昼休みによく食べてたわね、アホ茨は」

 

「何だかんだで半分は鈴にご馳走してた気がする…ま、ブルーベリーとかコーヒー味もあるけど、こいつが一番人気なんだよな…さて、俺の立てた作戦にはいくつか致命的な見落としがあった。『色なし』の纏ったISは下手したら軍用レギュレーションよりも高性能だった、それが一番のチョンボだった。俺らが竹の防具で竹刀をふるうスポーツとしての剣道、軍用が具足着込んで真剣で戦う剣術だとしたら、『色なし』はコンバットスーツ纏ってレーザーブレード振るう宇宙刑事レベルだった。それをぎりぎりで受け流してたイーリさんや会長、ナタルさんが手練れだったから何とかしのげてたんだ…なのに、俺は考えなしで皆を飛び込ませた…『プリズム』できちんと受け止めるかいっそ『エアヘッド』をぶつけて動きを止めなきゃいけなかったんだけど、どっちもできなかった…」

 

 

 

 

 

皆にパンを配り終え、言葉を切ると軽く身震いし…茨は、淡々と言葉を続けていく。

 

 

 

 

 

「だから相棒は、『アンカー・スチーム」は次善の策を用意してたんだ…俺をわざと殺して、嘘をついたんだ」

 

 

 

 

 

 

あ、皆ドン引きしてる。だよな、自分の纏ってる機体が自分を見殺しにしたって思われたらいろいろとマズイ。

 

 

 

「ああ、ちょっと語弊があったかな。本来ISは被膜装甲(スキン・バリアー)でダメージを相殺して、ある程度以上のダメージが来ると絶対防御を発動してパイロットを守る。だけどそれでも相殺しきれないダメージを食らったら?そのままばっさり、もしくはハチの巣。それを防ぐために…『アンカー・スチーム』はわざと被膜装甲(スキン・バリアー)を切って、心臓に一撃を食らわせるようにわざと動いた。そしてここからが重要なんだけど…偽情報を、ワザと『色なし』だけに流したんだ」

 

 

 

「もし首を刎ねられたり胴体真っ二つにされたりしたら、どうするつもりだったんだよ茨君…」

 

 

 

パンを口に運ぶ手を止めて顔を真っ青にしたシャルを一瞥すると、俺は努めて感情をこめず言葉を続けていく…多分後で振り返ったら、俺も怖くてチビっちゃうかもな、ホント。ファイティング・ハイ…いや違うな。リヴァイブ・ハイ…いや、そんなのあるわけないか。

 

 

 

「『色なし』の根っこは機械だ、そう『アンカー・スチーム』は判断した…少なくとも戦闘面は。手っ取り早く致命傷を与えたいなら心臓を破壊すればそれでいい。そしてその瞬間相棒は偽情報を流して誤認させた。『俺は死んだ』って」

 

 

 

「茨君の死体を損壊する隙に一夏に『零落白夜』を振るわれたら元も子もない、そういう事か」

 

「踏み込み往けばたちまち極楽…だからこそ茨君をモズのハヤニエのように岩礁に突き刺し、一夏さんを、私たちを叩き潰した。機械ゆえの判断というわけですわね」

 

 

 

「そしてそんなイカサマを可能にしたのがアンカー・スチームが新たに獲得した『パイライト』(愚者の黄金)だったわけだ。『ジョブ&ホビー』で監視してたんだが、これは何かのシステムを流用したものじゃあない、トレイニーの編み出したオリジナルの能力だ。さっきの話から察せられるように偽情報を流して幻惑、ヘイトのリストから抜けた後で人工心肺の機能を使い生命維持、そして第2次移行(セカンドシフト)発動とともにトレイニーの傷を癒し蘇生させた…掛け値なしで凄いじゃないかトレイニー。イエス様だって3日かかったのに3分しないで復活だなんてさ」

 

 

 

セシリアとラウラの呟きにおっかぶせるように、ここから先は自分が話すと言わんばかりの勢いでまくしたてるゲスジジイ。そうだな。俺は技術的なことについてはチンプンカンプンだ。

 

 

 

「ここから先は僕が話すとしよう。AOAが今回用意したパッケージ(換装装備)の『エアヘッド』なんだが、搭載しているシステム的にはPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)や被膜装甲(スキン・バリアー)みたいにISの延長でしかない。言うなれば動力を持たない代わりに格納したISをコアとして動く、大型化したISでしかないわけだ」

 

 

 

「つまり、パッケージ(換装装備)としての機構は別にあるというんですか」

 

 

 

「ご名答サムライガール。それこそが『プライムバル』(原初)だ…ウー辺りなら『そこに太極あり、これ両儀を生じ、両儀は四象を生じ、四象は八卦を生ず』なんて柄にもなく言うだろうけどさ」

 

 

 

…なんだろう、いつもよりもゲスジジイは老け込んでいるように見える。いや、笑っていないからだ…なんだよ、そんなに深刻なのかよ。

 

 

 

 

 

 

「諸君。ピザにグラタン、ケーキにヌードル…この料理に共通する材料は何だと思う?」

 

 

 

「そりゃあ…小麦だろ」

 

 

 

一夏の答えに気をよくしたのだろうか、微笑みを浮かべるとゲスジジイはいつもの調子とは違う、少しだけ重々しい口調で言葉を紡いでいく。

 

 

 

「正解だよべビーフェイス。パサパサの粉が調理一つで千変万化!ほかにもあるだろ?こういう食材」

 

「卵だな。ホロホロの堅ゆで卵とトロトロの半熟卵…茹で時間が違う、ただそれだけでああも違う食材はなかなかないぜ…ああ、そっか。プライムバルってのは…作った側からはどんなものになるかわからない、そんなパッケージ(換装装備)だったってのか!」

 

 

 

茨の返答にますます笑みを深めるゲスジジイ…どうやらさきほどまで感じていた違和感は、落ち込んだような雰囲気は私の杞憂のようだ。

 

 

 

「なかなかいいカンじゃないかトレイニー!その通りさ…ISってのは心に反応する。そして第2次移行(セカンドシフト)は搭乗者とISとの相性、経験が発動に関係が深い。なら最初からスカラー量としてのエネルギーを湛えさせておいて搭乗者の心をトリガーとして心に沿った機能…ベクトルとして発動させる。そうすればISそのものの第2次移行(セカンドシフト)も導けるんじゃないか、そうAOAは判断し…ドンピシャリだったというわけさ!ささトレイニー、新たに目覚めた力…説明したまえ説明したまえ!」

 

 

 

 

 

「せ、説明したまえって…わかった。『プライムバル』(原初)が導き出した力は4つだった。まずは防御。『プリズム』の力を応用して被膜装甲(スキン・バリアー)の上から空間を湾曲させるフィールドを皆の機体全体に張り巡らせた。これで理論上どんな威力でも、どんな性質でも攻撃は通らなくなった、『零落白夜』を除いて…矛盾は生じない。盾よりも鉾のほうが強いんだ」

 

「まるで北欧神話の神、バルドルだな。トネリコ以外いかなる力も通さない」

 

 

 

目を白黒させた茨は言葉を詰まらせながらも砂浜に座り込み、言葉を紡いでいく。私たちが車座に座り込むのを見やり、ラウラの相槌に大きくうなづくと茨はまるで歌うように言葉を続けていった。

 

 

 

「2つ目は攻撃。月往復出来るくらいのエネルギーを利用して、武器の出力を青天井にした。かすっただけで木っ端微塵どころじゃない、雲散霧消するレベルの破壊力だったのさ、どれもこれも」

 

「豆電球に100万ワットの電流を流すようなものだぞ!?そんなものどうやって…」

 

 

 

思わず飛び出た私の言葉に片眉を上げると、茨は苦笑を浮かべた。

 

 

 

「そう。だから3つ目…機体、そして俺たちの体を延々と癒し続けた。壊れる端から完璧に動けるように。燃え尽きる直前に治される電球の芯みたいに。そして4つ目。これが一番重要でえげつない…俺たちの体に有機、無機のナノマシンを注入して、脳のクロック数を飛躍的にアップ…信じられるか?体感で18倍俺たちは機敏になってたんだ…反動で焼き切れかねない全神経は、筋肉は、内臓は、皮膚はナノマシンで修復され続けた。シノさん以外は『プロヴィデンス』に接続して戦場を俯瞰出来て、完璧な連携が可能になった…あの瞬間、俺たちは超人…いや、神だった」

 

 

 

 

 

 

『遅すぎ!』

 

 

 

 

 

 

 

『あ、が、ぁぁぁぁ!!?』

 

 

 

 

 

 

 

『灰色の鱗(グレー・スケール)』…パイルバンカーが土手っ腹を貫き、『赤椿』はピンボールのように吹っ飛ばされた…『プロヴィデンス』で打ち合わせたとおり、スロースターターのきらいがあるシャルロットが先に仕掛けた。クスリと笑うとセシリアは畳みかけるようにビットをけしかける。

 

 

 

 

 

『蟻の歩みに劣りますわ!』

 

 

 

 

 

 

 

セシリアのビットがまるで群狼のように襲い掛かり、機体の各部を穴だらけにし、ダメ押しとばかりに『スターライト』の接射が『赤椿』の…篠ノ之箒の偽物の頭まで貫いていた。

 

 

 

『楊管理官、技を借ります!!』

 

 

 

 

 

 

 

大きく仰け反った『赤椿』、それを囲むように鈴が火球を打ち出し… 

 

 

 

 

 

『今だ、鈴!』

 

 

 

 

 

その火球から抜け出そうとした『赤椿』の動きを読んでいたのだろう、ラウラはアクティブ・イナーシャル・キャンセラー(停止結界)で機体ではない、空間ごと動きを停止させ…

 

 

 

 

 

『燃え尽きろ!』

 

 

 

 

 

 

 

その一瞬を逃さず、鈴が手を締め上げ、空間そのものが捻じ曲げられ、圧壊される。

 

 

 

 

 

 

 

『ギャガアああああ!??』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周囲の火球ごと『赤椿』は雑巾が絞り上げられるかのように全身が歪み、燃え上がる…だが、恐ろしいことにそれでも『赤椿』はその機体を、体を修復させようと…いや修復しかけていた。

 

 

 

 

 

『とどめだ一夏!』

 

 

 

 

 

『もらったあ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…『ピーカブー』で姿をかき消されていた一夏は…『白式』もまたその姿を変えていた。その翼はさらに大きくなり、風切羽の部分から飛び出した青い羽根が『赤椿』に刺さり、動きを止め…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くたばれぇぇぇ!』

 

 

 

 

 

 

 

…野太刀の如く大型化していた『雪片』から撃ちだされた光波が、赤椿を両断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの後俺ら全員喉が溶けるくらい胃液吐いて、脂汗ダラダラ流し続けてただろ?あれは体の中からナノマシンを排出してたんだ。たった3秒使っただけでこれだった…もし10秒以上使ってたら月単位でナノマシンを排出するくらい神経や肉体に悪影響が出て、そして1分以上使えば死ぬ可能性が9割9分9厘…帰りの『エアヘッド』の中でまるでリボ払いの支払いでも見せられたような気分だったよ…シノさんをハブったのは帰りのためだ。もし俺たち全員がのたうち回る羽目になったら試合に勝っても勝負に負ける最悪のオチだった、説明不足でごめんなシノさん」

 

 

 

…だから、そんなすまなそうにしないでくれ。悪いのは私だ。意気消沈した茨の言葉を継ぐようにゲスジジイは言葉をつなげていく。

 

 

 

 

 

「まあそんな些末なことよりもさらにステイツにとっては都合の悪いニュースが山盛りなんだ。『プライムバル』は発動者たる『アンカー・スチーム』は一切能動的な行動ができなくなる。たった一人の『ナイト・イン・シャイニングアーマー』(英雄)じゃなく『レリック』(聖遺物)と『クルセイダー』(十字軍)のようにね。そして第2!トレイニーのビビりのせいかどうかは知らないが…」

 

 

 

いつものようないやらしい笑みを浮かべてクリームサンドに噛り付いたゲスジジイはゆっくりと咀嚼しながら言葉を続けていく…だから、きちんと飲み込んでから話をしろ。

 

 

 

 

 

「機体強化、身体強化を山盛りにしたおかげで『アンカー・スチーム』『エアヘッド』そして『ジョブ&ホビー』の全演算機能を使っても必要処理能力の1%にも満たなかった!だからねだからね、IS学園のホストコンピューターにアクセスし、コア・ネットワークを利用してIS開発8か国のメインサーバに演算処理をシェア、演算を平等に負担してもらい…その結果危うくシステムがダウンするところだった!今ロシアとイタリアの開発チームも押っ取り刀でここに向かってるところさところさ『プライムバル』の情報をゲットする為にね為にね!あーあ折角成果を独り占めにできたはずなのにはずなのに、トレイニーのせいで見込み外れだよ外れだよ!ま、このグッドテイストなスィート・ロール(菓子パン)に免じて不問に処してあげるよあげるよ」

 

 

 

…なぜだろうか、そんなにゲスジジイは悔しそうには見えなかった。




宵、酔、善、俶、よい、よいやさ

 

 

「御免なさい。私たちが不甲斐ないばかりに…」

「いえ、僕たちの責任です。楯無様のせいではございません」

「…あの日の後、すぐに『天災』は実家に参りました…先代は、ご存じのようでしたが」

 

 

「そう、あのベルリンの後なのね。茨君がIS適正を持ったのは」
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