俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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「おかえり。会社から連絡が来てたわ。」
「おお、おかえり。今回はゆっくり出来そうじゃの。」
「…ただいま…ねえ、何も聞かないの?」
「おお、そうじゃった。一郎君は外に居るんじゃろ?今日は花冷えじゃ、早く連れてくるんじゃ」
「そうじゃなくて!私達は今まで何をしてきたんだとか…」
「すみれ、夫婦の間でも秘密にしてることは有るのよ。親子の間でだってあるわ。それで良いでしょ?」
「…ありがとう、ママ」
「さし当たっては、茨の部屋で休むとええ…あいつのことを偉いさんがリクルートに来たからの、慌てて片付けて以来そのままじゃ」



0泊2日の強行軍

「っキシ!…寒…いやホント仕事熱心ですねアークライト博士。あっちは暑いでしょうに寒くないですか?」

 

今日は昨日と打って変わって冷える日だ、三寒四温ってヤツなんだろうな。空の飛行機雲が寒気を誘う。

 

「ノープロブレムだよトレイニー!君への愛があれば寒くない寒くないよ!ところでアルちゃん思うんだけどさ思うんだけどさ、使い捨てカイロって凄く便利だよね便利だよね!…ありがとうトレイニー!みなよ、凄い量だ凄い量だ!」

 

満面の笑みを浮かべるのは良いけどさ、その状態で鼻水垂れ流すのはどうなのよ?あんまりな絵柄にポケットティッシュを差し出すとゲスジジイは思いっきり洟をかみ…こっちに見せ付けてきた!

 

「汚ったねえ!何見せてるんだよゲスジジイ!」

「…いいねいいね、うん。素直になりたまえ、『ゲスジジイ』で結構。しょげ返ってるよりもいい感じだよ」

「…何だよ、気味悪ぃ…」

「だってさだってさ、特別な存在って事なんだろ!?トレイニーにとってのアルちゃんはさ!甘くてクリーミーだよトレイニー!」

「離せ離せゲスジジイ!鼻水が制服に付く!」

 

ていうか校庭で待っていろって言ってたけど、何処に修理用の機器があるんだよ!?ゲスジジイとお付の連中しかいないじゃないか…ん?

 

「お…来た!鳥だ!飛行機だ!そうだ、50年経ったのにいまだ現役のB52ストラトフォートレス、アメリカの所持する76機全てだ!」

「…B52って…爆撃機じゃねーか!」

 

豆粒のように小さな点々はズンズンと大きくなり、形がくっきり分かるくらいまで高度を下げていき…空一杯に機影が広がる。おい、マジでやばいんじゃねーのか!?

 

「ISの発展のお陰で退役するからコイツがラストフライトさ!いやあホントホント篠ノ之博士は『天災』だね!アルちゃん楽しくてあと30年は死ねないよ!…そしてご照覧あれ『ジョブ&ホビー』!!」

 

馬鹿でかい爆撃機達の腹が開くと中から山のようにコンテナが落下してきた…って!あんなの落ちてきたらただじゃすまないぞ!あと本当に寿命があるのかゲスジジイ!

 

「因みに全落下質量は4000tはあるんだ!ちょっとした駆逐艦ぐらいだよトレイニー!」

「マジでこの学園を終わらせる気かゲスジジイ!!…って!?」

 

…それは、ある種幻想的な光景だった。猛スピードで落下していたはずのコンテナがパラシュートもなしに減速していき、あるものはふんわりと着地しながら足が生え、群がりながら組み合わって土台となり、またあるものは空中で合体しながら土台とかみ合わさり…あっという間に雑居ビルクラスの建物が組みあがっていく。

 

「これこそが全世界初公開!全自動組立型ファクトリー『ジョブ&ホビー』だ!カムカムエブリバディ、楽しい科学教室の始まりだよー!こんなのどの教育チャンネルでも見られないくらい勉強になるよー!」

 

何処からか取り出してきた拡声器で嬉しそうに声を上げるゲスジジイ…その先には、怯えた表情でこっちを遠巻きに見つめていたクラスメイト達が居た。

 

「なんだよなんだよ、イマイチ受けが悪いなぁ…ああ、AOAの事を授業でやったのかい!?ダメじゃないかダメじゃないかトレイニー!2日目に教えるだなんて!もうちょっと時期をずらしたほうが色々と美味しいのにさあ!」

 

いや、あの行状を『美味しい』とか言えるあんたのメンタルこそダメだよゲスジジイ…

 

 

「ようこそようこそ!ボクはアルフレッド・オーウェル・アークライト。君達のクラスメイト、猿取茨君の纏うIS『アンカー・スチーム』の作成プロジェクトリーダーだ!愛を込めて『アルちゃん』と呼ぶのを許可するよ?ん?ん?」

 

見学者の私達は、猿取君やそのISとは別の部屋に通されていた。

 

「何だ…?俺達の教室そっくりじゃないか…!?」

 

そう、部屋の大きさから内装は勿論、ちょっとした備品にいたるまで教室そっくり…いや、そのままだった。そしてその教壇に居たのは、猿取君が「ゲスジジイ」と呼んで憚らない白衣の老人…であるアークライト博士。

 

「どうだいどうだい?君達の教室にそっくりだろ?何せIS学園を設立しろって日本におねだりしたのはステイツなんだ。ピーナツの1袋も渡さなきゃマナー違反だろ?建設費は半分出したし、設計も僕達が相当数手伝わせてもらったんだよ。スゴイだろスゴイだろ?で、どうだい本日の授業は?質問は何でも受け付けるし、答えられる範囲でなら何でも答えるよー!」

「何様だよ、アンタ…」

 

…人間とは、ここまでゲスになれる。それを体現するにふさわしい老人だった…そして一夏、相手は一応、仮にも、あくまで賓客だ。そう嫌悪感をむき出しにするな。

 

「そーだそーだ!ボクは口下手なんでね、あらかじめ君達が欲しがりそうなものは出すことにしよう!詳しいデータが欲しい人はIS学園のライブラリにぶっこんでおくから好きにしなよ好きにしなよ!」

 

その言葉を合図にそばに控えていた赤毛に樽のような体系の白人男性と、金髪碧眼の長髪の美女がプリントの束を配り始める。何気なく目を通した私は、思わず目をむいてしまっていた。

 

(こ…こんなもの!?正気か…!?)

 

そう、そのプリントには『アンカー・スチーム』の基本スペックや武装、センサーの有効範囲や装甲材など素人から見てもとんでもない情報が踊っている。見学者の中には国家の意を受けているのも相当数居るだろうし、欲に目がくらんで情報を売る学生や教師だって…

 

「ルートのあぶり出しですの…?意外と姑息ですのね、アンクルサムは…」

「お、おい箒?オルコットさんは何を言ってるんだ?」

「そこはボクが教えてあげるよベビーフェイス(善玉君)!こちらのレディはボク達が情報の流れを知るために、ワザと機密を流したと思ってるんだ!アラスカ条約でISの開発情報は開示しなきゃあいけないけど、あらゆる法の適用外たるIS学園で開発する分には情報なんて開示する義理は無いからね!…でもねえでもねえ不正解だよ!…そこのネクラそうなメガネちゃん!答えどうぞ!」

「誰が、ネクラよ…」

 

老人から指名された簪さん…昨日の女子会の時、教えてもらった…は顔を顰めながらも黙考し…口を開く。

 

「偽情報を…混ぜていて…自国のIS開発に使ったとしたら…ドカン?」

「いいねいいねえ!トロイの木馬みたいでいいねえ!でも不正解!じゃあ窓際のポニーテールの君!答えてドーゾ!」

 

…私!?私なのか!?…ええっと…その…

 

「今日の修復で、最新型に更新されるから、もうその情報は役に立たない…?」

 

だめだ、どう考えても外れだ…

 

「お、いいセン行ってるじゃないか行ってるじゃないか。『天災』の血縁は伊達じゃあないね伊達じゃあないね…でも半分不正解!補足説明、君達よろしく。」

 

そう言うと老人は鼻歌交じりで部屋を出て行く…何故私のことを知っている!?…それを引き継ぐように、樽のような男性が言葉をつむぐ。

 

「今回の情報公開の理由とは異なりますが、仰るとおり『アンカー・スチーム』は今回の交戦記録を元に、現在若干の改修を施しています…モニターをご覧ください。『オートスミス・マークナイン』により修理が完了しました。ただ今から交戦データを元にした若干のアビオニクスのOS、及びスラスターの改修を行います」

 

別室にすえられたカプセル状の修理ユニットが猿取君のボロボロのISを見る見る間に新品同様に直していく様をモニターは移している。ノコギリだのカナヅチだのアイスピックだののような機器が山のように生えているイソギンチャクのような内部の姿はおぞましかったが。

 

「は、はあ…試合記録なんてそんなに役に立つんですか…?」

 

目を白黒させている鷹月さんに、文字の羅列がとんでもない速さで流れていくモニター内の小さなウィンドウを見据えたままの赤毛の中年白人男性と金髪碧眼の美女が無感動に言葉を返す。

 

「ええ。戦闘とはとっさに取った行動の積み重ねです。そしてそれは各人特有の癖がある。射撃のタイミング、回避の方向、スラスターの絞り具合…これを参照すればより彼にあったISに調整できるのです。…脚部スラスター出力-3、確保できた余剰は肩部独立スラスターユニットに全て回す。」

「了解…また、『ブリュンヒルデ』のオペレートのデータが有るというのも大きいのです。彼女が同じIS、装備を纏っていたとしたら行っていたであろう行動をなぞっている可能性は少なくない…まあ、FCSと武装のミスマッチという要因も無視できませんが…バランサーをやや右寄りに修正。」

 

画面内の『アンカー・スチーム』の周りには老人が連れてきたスタッフが群れていた。人種も体格も年齢もてんでばらばら、共通項といえば無表情で白衣を纏っているくらい。そんな科学者達が夢中になっているのはたった1つのIS…

 

(いや、猿取君もだな…)

 

「今猿取君は、疲労回復、あるいは戦闘でどの部位に疲労が現れたのかの検査を受けています。ISが人の纏うモノである以上、どうしても個人個人の差異が表れるのです」

 

ISスーツに身を包んだ猿取君はといえば、CTスキャンやらレントゲンを撮られた後に採血を受け、何かの点滴を受けている…そんな様を授業の教材のようにお付の解説を受けながら、私達は巨大モニターの分割されたウィンドウで眺めている…だからだろうか、いつの間にか教室に戻っていた老人に私達は気づいていなかった。

 

「どうだいどうだい?中々イキの良い教材だろ?」

「何だよ、茨をモノ扱いしやがって…」

 

不服そうな一夏に満面の笑みを浮かべた老人は言葉を返す。

 

「何を言ってるんだいベビーフェイス。ボクたちの作品である『アンカー・スチーム』と同様、彼もまた大事な作品なんだ。モノ扱いなんて…」

 

その言葉を聴くと、一夏は我慢の尾が切れたのか激昂して老人に吼えた。その瞳には、混じりけの無い敵意が篭っていた。

 

「何が作品だ!ISを人殺しの道具に変えた元凶のくせに!!」

(…まずい、殴り飛ばしてでも引き離すか!?)

「馬鹿いっちゃいけないよベビーフェイス!兵器としてのISをボクたちに教えたのは他ならぬ『白騎士』さ。そしてボク達はこれ以上ないくらいキックの利いた最高の兵器を作り上げたんだ。ボク達AOAは誇りに思えど後悔なんて微塵もないさ!…それにさぁ」

 

老人は一夏の態度を微塵も気にすることなく、下卑た笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「イラン、イラク、アフガン、シリアにお灸をすえたお陰で原油は今じゃあ1バレル30ドルだ!南シナ海でちょっともぐら叩きゴッコをしただけで中国はビビッてフィリピンなんて目もくれなくなった!メキシコのハッパ売りとグルになってたアホどもは粗方消し飛ばしたし、今じゃあイスラエルは羊並みに大人しくなった!ボク達は実働僅か一ヶ月の兵器でこれを成したんだよ!さあみんな褒め称えてプリーズプリーズ!」

「ふざけんな!死んでいった人たちは…」

 

一夏の鋭い瞳を見据えたまま、笑みを消した老人は言葉をつむぐ。

 

「そうだね。僕達は自分の夢、希望、平和、或いは望んだ道を進むためざっと五百万人は殺した。でもね…命ってのは他の犠牲無しには成り立たない。歩み続けるためには、安らかに暮らしたいなら、絶えず何かを奪い続ける。それが命さ。『話せば分かる』なんて言うけどさ、この世に嘘がある以上はそんな綺麗事は通じないよベビーフェイス」

「…1つ質問があります、よろしいですかアークライト博士?」

 

私のすぐ後ろの席から矢のような視線でアークライトを見つめていたのはセシリアだった。

 

「オーケーオーケー!何でもいいよ答えるよ!湿っぽい空気は嫌いなんだ!こう見えてもボクはネバダ在住なんだよ!」

「『黄金の愛』『白金の平和』の成れの果てについても後悔はありませんか?」

「…反省すべき所は多々あるよ。いかに魂が危ういものかも知った。だからこそ悟ったのさ。魂なんてものは、所詮は肉体と同じ消耗品だとね」

 

一度言葉を切ると、老人はこれ以上ないくらいの笑みを浮かべながら舞い踊るように言葉を続ける。

 

「ボク達は、魂が燃え尽きる恐怖くらいじゃ止まらない!止まったら、殺した全ての命に申し訳が立たない!正義なんて安い言葉よりもそれこそがボク達を縛る信念なのさ!クゥーッ…ボクってなんてカッコいいんだろ!」

 

…姉さんでももう少しまともだった気がする…というか、とことんまで自己陶酔できる人間とは、ここまで醜くなれるんだろうか。質問したセシリアも絶句している。

 

「そうだ!まだ正解は出てないよ!さあベビーフェイス、何故洗いざらいボク達が情報を垂れ流すのか分かるかい?」

 

「それは…ISの情報は、全て開示しないといけないからだろ!」

 

余りにも教科書的な答え。 あちこちから失笑が漏れ、セシリアなどはあからさまに侮蔑の視線を送っている。確かにISに使われている技術は全て開示しないといけないが、IS学園では『新技術に必要とされる試行活動を許可し、またそれらのデータの提出は自主性にまかせるとして義務は生じない』という金科玉条の下、データの開示をしないで実戦データを得られるIS学園に各国は専用機を送り込んでいるのだ。なぜわざわざ…

 

「正解!やはり『ブリュンヒルデ』の血筋は争えないね争えないね!トレイニーと同じようにアルちゃんなでなでしてあげよう!」

「きったねえ!離せよジジィ!」

 

一夏に抱きつこうとして振り払われた老人…いや、ゲスジジイだ…は、後頭部から倒れこみそうになり…そのままくるりとトンボを切ると何も無かったかのように明るく言葉を続ける。見かけや歳によらない俊敏さに思わず舌を巻いてしまう。

 

「いいかい?アラスカ条約はステイツのために作られたんだ!そんな僕らが条約を守らないで誰が守る?秘密にしててもいいからといって誰も情報を開示しなかったら、どうやって後続の国は技術を伸ばす!?悪いが…戦場にISを送り出さない現状、スポーツとしてのISを作り出している現状は最高にステイツには、ボク達にはハッピーなんだ!何せIS登場後、アメリカの軍事費は最大時の60%にまで減った!PMCの連中は軒並み失職だ!軍の余剰人員やそいつらの再就職先には難儀したけど、おかげで景気もだいぶよくなった!そしてその利潤がAOAに流れ込んでいるのさ!親善試合じゃイマイチ成績は振るわないけどね振るわないけどね…ダメじゃないかエブリバディ!ココこそが笑うところだよ!ちなみに『黄金の愛』と『白金の平和』の情報はトップシークレットだよ!効力遡及禁止の原則が有るからね有るからね」

「…補足するならば、一方がデータを開示する以上、もう一方が秘匿する意味が限りなく薄れてしまいます。戦闘記録を追えば、相対する機体のデータは容易に想像できますし」

 

部屋は静まり返り、何人かは恥ずかしさからか下を向いてしまっている。セシリアは瞳をにじませるほどに悔しさを顕している。

 

(そうだったな…守らなくてもいいからといって、守らなくても良い理由にはならない。これが『罪』の文化なのか…)

「お、そうだそうだ!そろそろハッピータイムの始まりだよ!」

 

満面の笑みを保持したまま、ゲスジジイは指し棒でモニターをコンコンと叩く。そこには、カウンセリングを受けている猿取君の姿があった。彼と対峙している少女の言葉に、静まり返っていた教室の空気は一変した。

 

「今からセックスしませんか?」

 

「今からセックスしませんか?」

 

ゲスジジイの部下は老若男女てんでばらばら、共通項といえば男女ともスーツに白衣を羽織っているくらいだろう。

 

(それと、何があっても変わらない無表情さなんだろうなぁ…)

 

目の前に居るひっつめ髪のインド系の少女…下手をすれば、俺より若い…は、錬成講習の時も世話になったカウンセラーなんだが毎回とんでもない掴みでこっちを翻弄してくる。初回は『あなたはアトランティスの光の戦士ですね』って無表情で言ってきた。死ぬほど怖かったぞ、アレは。

 

「…ゲスジジイが言ってたでしょ、『楽しい科学教室の始まり』だって。サカッた犬猫じゃあるまいし衆人環視のなかで出来るほど豪傑じゃないです」

 

「残念ですね。あなたの精子、高く売れそうなんですが…さて、カウンセリングをはじめましょうか」

 

…華奢だけど顔つきは可愛らしいし、ほんと、無表情なのと訳のわからないところが無ければかなりポイント高いんだけどな…

 

「今失礼なことを考えましたね」

「貴女ほど失礼なことじゃないんで安心してください」

 

 

 

「どうですか?まだISを纏うとビビッてます?」

「…ええ。まだまだビビッてます。英雄豪傑ならガハハと笑いながら戦えるんでしょうけど」

 

そう、怖くて仕方が無い。引き金を引いて飛び出す弾丸は、ミサイルは、平気で他人の命を奪う代物だ。もし俺がイカレてしまえば…ダメだ、とても耐えられそうに無い。

 

「…その気持ちは大切ですよ。恐怖に慣れれば初心を忘れてしまいます。死に慣れれば命の有難味を忘れます。悪に慣れれば正しさの有難味を忘れてしまうのと同じように…質問を続けますか。じゃあどうして貴方はISを纏って戦い続けられるんです?」

 

…最初は、出たとこ勝負だった。『アンカー・スチーム』を纏ってからもそれは変わらなかった…でも、昨日の山田先生との『試験』では、丸っきり違っていた…

 

「まだ、なんとも言えません…でも、もう少しで何か掴めそうですね…」

「そこで私の胸に行かない辺り、貴方ホモですね」

「掴むほども無いじゃないですか」

「ハラスメント行為だと思いますが」

「貴女に比べれば、何ぼかマシです」

 

 

「疲れた…」

 

修復された『アンカー・スチーム』を指で撫でながら、思わずぼやいてしまう。正味30分ほどの修復だったが、その時の見学者からは『猿取君のヘタレ!』だの、『そうよね…織斑君との友情が一番よね…』だの、色々と感想を頂いてしまっていた。ホント、カウンセラーの子の冗談に乗らなくて良かったよ…

 

「腹減ったな…授業まで後10分か…ジュースでも飲んで空腹誤魔化そう…」

 

『ジョブ&ホビー』は飛行モードとやらで厚木のベースに向かって飛んでいった…日本列島一帯なら、無補給で移動できるらしい…。ゲスジジイ一行も飛んでいったのかと思ってしまったが、普通にモノレールに乗って帰ってしまった。『週末の試合が終わったらまた来るからさ、楽しみに待っているんだよトレイニー!』というありがたいゲスジジイの言葉に、思わず涙がこぼれてしまう…だからだろうか、目の前に差し出されたビニール袋に一瞬反応が遅れてしまう。

 

「これで…貸し借り…無しだから…」

「あ、ありがとう。頂きます…」

 

俺が眼鏡の同学年生…生徒会長の言っていた簪さんだろう…からビニール袋を受け取ると、彼女はそそくさと立ち去ってしまう。中には俺が昨日注文したのと同じサンドイッチが入っていた。

 

(お…良いねぇ。今から食べれば授業に間に合う!)

 

そんな事を考えていた俺は気付いてしまった。

 

少し離れたところから、山田先生が、にこやかにこちらを眺めていることを。

その手には、同じ大きさのビニール袋が、握られていることを。

 

サンドイッチ2人前を授業前に完食できた俺はほめられていいとおもうな、うん。

あと、『優しさを無駄にしない、男たるものかく有るべきだよなあ…』とか言ってた一夏、後でシメる。




「っしゃー!生千冬様の生ボイスゲットー!」
「ああ…VTシステムなんて目じゃない…ブリュンヒルデの生データだ!メシ食ってる場合じゃねぇ!」
「ああ…最高なのれす…恐怖を隠すことなく、決して飾らず戦いに挑むその態度…スーツケースの中といえど、ここは楽園なのれす!!」
「いいんよ…また週末にナノマシンが勇躍するんよ…それだけでいいんよ…」
「まったく…君達は元気だねぇ…というか、きちんとパスポートやら何やらを持ってまでスーツケースや宇宙服を着込んで来なくても良いだろうに…」

老人は国際空港でAOAの特別便に乗り込む面々を頭を抱えながら見送っていた。

「…あれ?博士は帰らないんです?」
「…週明けにはおめもじしないといけないんだ。近くのホテルに泊まるとするさ…ああ、君達は帰りたまえよ。業務が滞っては本末転倒だ」
「「「はーい」」」
「…そうだ、何か君達の目から彼やブリュンヒルデ、その弟君に変わったことは見受けられたかね?」
「そうれすねぇ…ブリュンヒルデにも副担にもいい人はいるみたいれす!ソースは無いけど絶対そう!」



なお、帰社したスタッフ達は山積みの業務を神速の勢いで片付け、嬉々として日本行きの休暇を申請したそうである。
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