俺の待ってた非日常と違う   作:陣陽

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最近のあれこれ。

ワクチン打ちました。


αは泣いた、『理想(ゆめ)は醒め、悪夢(ユメ)は覚めない』と

「で、どうだったんだ?アメリカは」

 

「どうって、一週間たたずに帰ってきたんだから特に変わったことはないさ。ほい、土産のTシャツと『ハイドラ』のボトル。よいしょっと…弾のジーちゃんにはグラスとビールの詰め合わせ。弾のお母さんと蘭ちゃんにはコスメバッグ…なんだけど、マリアンヌで講習か蘭ちゃん」

 

「そ…あら!可愛らしい猫ちゃんね。茨ちゃんの飼い猫かしら」

 

 

 

 

 

五反田食堂、昼の営業が終わった休憩時間。お運びの手伝いを終えた弾の軽口を交わしつつ段ボールから土産の包みを手渡していく。テーブルで茶を啜ってた弾のお母さんは白と黒の猫のイラストに顔をほころばせながら受け取り…弾のジーちゃんはふっと気づいて俺に疑問を呈した。

 

 

 

「茨、結構な値段したろうに…大丈夫か?」

 

「あ、それなら大丈夫、弾のジーちゃん。これ全部試供品なんだ。『土産に持ってってくれ』って…来週にこのビールは売り出されるし、コスメバッグの中に入ってる香水も秋口に日本で売り出されるんだ」

 

 

 

「確かに試供品ってわざわざ書いてらぁ…おお、このISが茨か」

 

「そう。アンカー・スチーム…俺の機体は全身装甲(フルスキン)だから素顔は分からないんだ」

 

 

 

…ビールのパッケージには日本の有名なラノベのイラストレーターの手により一夏…『白式』や『ブルー・ティアーズ』や『甲龍』『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』や『シュヴァルツェア・レーゲン』…淑女協定の面々と同様に俺も描かれている。もっとも、相棒…『アンカー・スチーム』は第2次移行(セカンド・シフト)を起こす前だったから俺の素顔を晒すことには…

 

 

 

「あら?この姿はIS学園の学生服かしら。後で学校の写真も送って頂戴ね」

 

「え。まさかそんなことが…って、そう来たか…」

 

「ブフッ…一夏がロックで茨がハムエッグかよ。もうちょっといいヤツが居たろうにな…ククク…」

 

 

 

弾のお母さんが引っ張り出したスタイニーの瓶ビール。確かにそこには学園の制服に身を包んだ俺たちがいた。なるほど、これならリアルの俺がどんなのかわかるわけはないだろう。

 

 

 

「だからってさ、マンガの神様やフニャコさんやゴルゴさんのプロダクションにに書かせることはないでしょ。ていうか、一夏は2枚目で俺は3枚目だな…笑うなよ弾、ホントに泣くぞ」

 

 

 

脱力しながらも俺はほんの1日前の事を思い出し、心の中で反芻していた。

 

 

 

(ああ、皆には話せないし、言ったところで理解できないだろうし…下手しなくても正気を疑われかねないもんね…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奇妙なもんだな。昼間歩いたハイキングコースと同じ道なのに同じとは思えないや」

 

 

 

…あの後、俺たちはゲスジジイの先導の元ISを纏い、地面すれすれをゆっくりと飛んでいる。俺はピクシーとゲスジジイを肩に乗せ、シノさんと一夏を先導する感じだ。

 

 

 

「いやあいい月だ。諸君の国じゃ『月夜に釜を抜かれる』なんて言ってひどく油断することに言われるそうだが、確かに明かりのない時分じゃ、月はいい明りだったろうな…もう少しまっすぐ行きたまえ」

 

 

 

満月の下、明かりには困らない。疲れもしない。だが、どうしても違和感がぬぐえない…ああ、そっか、いつものゲスい笑みがないんだ、ゲスジジイに。

 

 

 

「1947年に出来たエニアックは円周率をたった2047桁までしか計算できなかった。その20年後にはアポロ計画でサターンロケットの航路を完璧に計算できたコンピュータとは思えないだろう?そしてその15年後にはそれよりも高性能な演算装置を搭載したニンテンドーのビデオゲームがたった150ドルで発売される…何を言いたいかわかるかい?」

 

「技術の進歩には時間が必要という事でしょうか、グ…支社長」

 

 

 

俺の左肩に座ったピクシーの返答に片眉を上げると、右肩に座ったゲスジジイは淡々と言葉を紡ぎ続けていく。

 

 

 

「正解ではあるがまだまだ欲しい。諸君は何だと思う?」

 

 

 

 

 

「…そうだな、周りが進歩してないのに一個だけ進歩してるっていうのはないな、ジイさん。原始時代に電気はないし、戦国時代にダイナマイトもない」

 

「技術は生まれた以上、進歩していきます。今のゲーム機は一昔前のスーパーコンピューターくらいの性能があります」

 

「発明された技術は10年は経たないと使い物にならない。飛行機だって蒸気機関だって本格的に使い物になったのは10年以上たってだし、VRだってゲスジジイの言ってたゲーム機の会社が作ってから20年以上たってからようやくまともに普及しただろ」

 

 

 

ISを纏った一夏、シノさん、俺達の返答はお気に召さなかったのだろうか、ゲスジジイは仏頂面のまま問いを続けていく。

 

 

 

「次の問いだ。武器と兵器の違いとは何だい?」

 

「兵器は訓練すれば誰でも使える。武器はそうじゃない。剣も弓もいくら訓練してもセンスや体格で優劣がつくのは兵器にはならない」

 

 

 

俺みたいなヒョロヒョロがいくら練習しても弓の名手にも剣の達人にはなれそうにない、そう思っての発言だったんだが、どうやらゲスジジイの想像は違っていたようだ。呵々大笑しながら言葉を紡いでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、銃は引金さえ引けば2歳の子供でも大の大人を撃ち殺せる!ま、及第点だ…この2点を踏まえると、ISというのは実にイビツな存在だ、そうおもわないかい?…現実の技術と隔絶した能力、性能。既存の技術、製品から出来上がったわけでもなく、技術の転用はほぼない。2人の例外を除いて女性しか纏えず、女性であっても適性が無ければデク同然。そして極めつけは心がある!へそを曲げてサボタージュしたことはまだないが、これから起きない可能性はないわけじゃない…さて、こんなオーパーツを作成できたと言われている篠ノ之束は…最初は宇宙宇宙開発用のマルチスーツとして発表した」

 

 

 

 

 

 

「篠ノ之束は…宇宙開発用のマルチスーツとして発表した」

 

 

 

興味津々な視線をゲスジジイは向けてくる。姉さんは…

 

 

 

「…どうした箒。大丈夫か?」

 

 

 

…出てこない。仮にも家族なんだ、高校卒業と同時に姿をくらましたとはいえ家族なんだ、夢を語る、あるいはくだらないことで願いを挙げる思い出の一つくらいあったはず。なのに、なのに…

 

 

 

「製作者の思いはさておき、宇宙開発の手段としては、まさに突破口だった。知ってるかい?乱暴な意見かもしれないが…ロケットの基本的な構造はここ100年変わっていない、推進剤を燃やして飛ぶ鉄の箱さ。それでもロケットの大型化で何とか月までは行けたが…そこまでなんだ。ベースキャンプを作って補給しながら進む、或いは冷凍睡眠も考えられるが冷戦の終わりと同時にプランも消えた。人類は月までの狭い世界で朽ちていく、そのはずだった。わかるかい?パッシブ・イナーシャル・キャンセラー…重力制御による推進は同量のエネルギーではるかに行動域を拡大させた。そして兵器としての重要性が全世界に知れ渡って、誰もむげには扱わなくなった…さて終着点だ。行きたまえ、そして、為すべきことを為したまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイキングコースにほど近い岸壁。そこには何もない…一夏、どうした…いや、ハイパーセンサーか!?

 

 

 

「ハイパーセンサーで確認してくれ、二人とも。洞窟だ…ジイさん、何でこんなところに仕込んだんだ」

 

「心理迷彩だ。『ここには壁しかない』ってかかってる…『パシフィスト』が無かったら視覚じゃ分からない。鬼は鬼でも酒呑童子、蛇は蛇でもヤマタノオロチが居そうな場所だぜ…」

 

「支社長、AOAはここに何隠してるんれ、ですか!?」

 

 

 

ピクシーさんの問責じみた問いにゲスジジイは心底楽しそうな笑みを浮かべながら言葉を返す…どこかで見た笑みだ。

 

 

 

「AOAが隠したわけじゃない。元からザイオンにあった。知ってるかい?ザイオン渓谷はネイティブ・アメリカンの聖地でもあるんだ。この場所はね、彼らにとっては儀式の場所だったそうだ、人身御供のね…それとね、別にパシフィストが、ISが無くたってこの場は見いだせる。人間のメンタリティを持つ者には見いだせない。ただそれだけの話さ。クスリをキメるか、元からイカレていれば見えるんだよ…さて、最後のヒントだ。ISの正式名称は何だと思う?インフィニット・ストラトスじゃない…インテリジェンス・スフィアさ」

 

 

 

そうだ。思い出した。姉さんだ。

 

 

 

姉さんにそっくりなんだ、ゲスジジイの笑みは。

 

 

 

 

 

 

ガイア理論、というものがある。

 

生物は地球と相互に関係し合い、自身の生存に適した環境を維持するための自己制御システムを作り上げているとする仮説であり、地球そのものを命とみなす仮説である。

 

さて、生物には感覚器官が存在しているものがほとんどであるが、巨大な地球を生命とみなすのなら感覚器官とはどのようなものなのであろうか?

 

 

 

 

 

 

「洞窟っていうより祠だったな、ココ」

 

 

 

照明を点け、入り口を抜けるとそこそこ大きな空間がそこには広がっていた。10メートルも歩かないうちに行き止まりになっている。

 

 

 

「どう考えてもまともな神殿じゃないな」

 

「祀られているのは神は神でも邪神の類だ」

 

「…わかってる」

 

そして、そこにはそこかしこに骸骨が積まれていた。腐臭は感じないところを見ると100年以上は経過しているが、壁面に書かれたよくわからない絵と共に恐ろしさを…ん?どうしたピクシー?

 

 

 

「これ…骨じゃありません、プラスチックです。壁画に使われている白い色は白墨です」

 

「クソ、ご丁寧に値札までくっついてやがる。一個5ドル99セントだと…」

 

 

 

…急におどろおどろいしい雰囲気から安っぽいセットじみてきた。アレだ、何とか探検隊だ。ピラニアに噛まれたのがアップになったり時計の跡がある原住民が居たりするアレだ。

 

 

 

「何がネイティブアメリカンの聖地だゲスジジイ!こんなところに私達を連れ込んで…」

 

「あ、暴れないでください篠ノ之さん!グ…支社長は嘘は…」

 

 

 

足元のシャレコウベをけ飛ばしたシノさんを止めなかったのは失敗だったかもしれない。シャレコウベがぶつかった壁が脆くも崩れ…いや、壁が、床が天井が…ありとあらゆるところが崩れだしぽっかりと穴が開き、天へと向かって落ちていく、いや、地へと向かって飛んでいく。

 

 

 

「「「「」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

…お久しぶりだね。こうやって直に会うのは3年ぶりか。

 

…お久しぶりです、博士。酷なことをいたしますわね、可愛らしいお孫さんに。

 

 

 

 

 

真っ白な舞台。真っ黒な舞台。真っ赤な舞台。真っ青な舞台。

 

 

 

…ありていに言って、不思議の国のアリスのアニメは失敗作だった。たった2ページを描写しなかった、それだけで単なるスラップスティックに貶めた。

 

…あの舞台こそ、まさにそれでしょう。姉のいないアリス。ワンダーランドに閉じ込められた哀れな私たち。

 

 

 

 

 

真っ白な舞台に向かったのは一夏。

 

真っ黒な舞台に向かったのは茨。

 

真っ赤な舞台に向かったのは箒。

 

真っ青な舞台に向かったのは私。

 

 

 

…だが、必要な行動だ。たとえそれで発狂したとしても仕方のないことさ。君もそうだろう?

 

 

 

青い舞台は夕暮れの墓地。ああ、10年前のあの事故だ。シャトルが木っ端微塵になって、パパとママが骨のひとかけらも残さず天へと召された後のグランパだ。

 

 

 

…ええ。今回は仕留められなくて実に残念でした。折角のチャンスでしたのに。

 

 

 

 

 

パパとママの真新しい墓標。それを背にグランパは誰かと話し込んでいた…いや、詰問だ。

 

『何故、あんな形で発表した!?あれでは君の…』

 

『前にもお話したはずです。人間は宇宙開発に興味などない。人間は火星を諦め、月を捨て、この大地のみで資源を食いつぶしながら朽ち果てていくだけの存在です』

 

 

 

…なら、あの場で二人を仕留めず撤退することもないだろう。いや、『クラウン・クラウン』で仕留めるべきだった。君ならベガスから逐電することくらいお茶の子さいさいだろう。

 

 

 

グランパは涙声だった。妙な話だ、パパやママ、グランマが亡くなった時も泣き顔を見せなかったのにこんな声をグランパも出すのだろうか。顔が見えない誰かは女性なのだろう、白衣を纏った彼女は淡々と言葉を紡いでいく。

 

『それは違う!冷戦が終わり秩序は乱れた。パクス・アメリカーナは新たなる秩序になるには未だ力不足だが勢いは止まらない。いずれ…』

 

『先生。秩序は私が作ります。私の『白騎士』で。その行き着く先は滅亡です』

 

 

 

…イーリへの手心ですよ。あの子は寂しがりやです。愛用の抱き枕を壊すほど悪辣ではありません。

 

…そうか。ああ、全員フラフラになって出てきた。さっさと回収してベッドに転がしておくよ。

 

 

 

『一つだけ忠告しておく。自分のものでない力は信頼するな。足元をすくわれる』

 

 

 

舞台は暗転し、世界は崩れていく。

 

 

 

『それは発明者でも発見者でもない、発表者でしかない私への皮肉ですか』

 

 

 

私以外の3名はどんな舞台を垣間見たのだろう?

 

 

 

『どう取ろうが君の勝手だ』

 

 

 

視界が暗くなる前にふとそんな思いが心をよぎった。

 

 




げんけはちりょう

 

「ロシアでの再調整お疲れさまでした、楯無様」

「ありがと産衣…ま、修理自体は『ジョブ&ホビー』で終わっていたから…ねえ、またなの?」

 

ロシアでのISの調整を終え、久しぶりに鎌倉の自宅へと戻っていた更識楯無。溜まっているであろう諸業務を片付けようとデスクに目をやり…山と積まれた見合い写真に眩暈を感じながら秘書…布仏産衣にうんざりした言葉を投げつけた。

 

「…つかぬことを伺いますが…楯無様には心の中にどなたかおられるのですか?」

 

柔和な笑みを絶やさない秘書のいつになく真剣な視線。一瞬逡巡した楯無は当たり障りのない答えを返そうとし、脳内にちらついた生徒会の雑用係の顔を振り払うと、決して靡きそうもない男子の顔を思い出しながら言葉を返す。

 

(織斑君、ごめんなさいね…)

「あ、当り前じゃない!ウチにはISを纏える男子がいるのよ!!」

「」
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