ここは日本のどこかに位置するとある公立高校。
今は休み時間で、生徒たちは友達と話したり勉強の予習をしたりと各々自由に過ごしている。
そんな普通の高校のある教室。
窓際の席で机に顔を伏して眠っている男子生徒がいた。
髪は銀髪のウルフカットでやや高身長、そして少し目付きが鋭い男子が気持ちよく眠っていると不意に話しかけられた。
「オイオイ獅狼!昼寝するにはまだ早ぇだろ!」
ハイテンションな声に彼は重い目蓋をゆっくりと開き顔を上げては相手にだるそうに返す。
「俺が何しようが勝手だろ…ったく、人が気持ちよく寝てる時に起こしにくるんじゃねぇよ」
彼の名は『金城獅狼』
どこにでもいる普通の男子高校生。
部活に属してはいないが助っ人として運動部に呼ばれる程の運動能力があり怒ると凄く怖い性格である。
「いいじゃんかよ~。眠そうにしてる親友の眠気を吹き飛ばしてやったんだからさ」
「誰が親友だ」
先程からハイテンションな彼は『橋澤輝樹』
獅狼とは中学からの付き合いでいわゆる腐れ縁である。
相変わらずの輝樹のテンションに獅狼はツッコミを入れつつ体を起こして伸びをして話に付き合うこととなった。
「ところで昨日のジェットバトル見たか?」
「…見てねぇよ。大体興味ねぇし」
「カーッ!なんて勿体ないことを!それでも日本人か!」
2人の会話に出てきたジェットバトルというのは、最近話題沸騰になっている女性限定の海上スポーツのこと。
獅狼はまったく興味がないが、輝樹はドップリと嵌まってしまっている。
「とにかく見ろよ!昨日の大会のダイジェスト動画がアップされてるから!」
興奮を押さえきれない輝樹はスマホを操作して動画投稿サイトに上げられている1つの動画を再生して獅狼に見せた。
面倒くさそうにする獅狼ではあるが渋々スマホに視線を向けて見ると、昨日のジェットバトルの動画が流れていた。
水上バイクのような乗り物に乗っている選手たちがフィールドである水上を駆け回り、後部座席に同乗する選手たちが銃のようなもので撃ち合っていく。
互いにぶつかり合う白熱した姿に観客たちは力一杯声援を送っていた。
動画を見ている獅狼に輝樹は改めて問いかけた。
「さぁ獅狼よ、これでジェットバトルの魅力が」
「分かんねぇ」
「即答かい!」
相変わらずのジェットバトルの興味の無さに輝樹はツッコミを入れてしまう。
輝樹にしつこく言われて獅狼自信も何度も見返したものの、自分でも分からないほど興味がまったく湧かなかった。
「お前だってゴルフとか興味ねぇだろ?それと同じだ」
「マジかよ~……じゃあせめて選手の顔だけでも覚えとけよ。特にこのチーム」
獅狼をジェットバトルファンにさせるのを諦めきれない輝樹は動画で優勝をしたチームを指差す。
そのチームは『KAZAMI SEA TEC 』という企業からのチームで今一番勢いがあるチームらしい。
「ちなみに俺のオススメはライダーの相馬」
「ハイハイ分かった分かった。後で見とくから」
「聞けよ!」
説明しようとした輝樹を適当にあしらうと、獅狼は窓の外を眺めて切り上げたのだった。
◆◆◆◆◆
学校のすべての授業が終わり夕方。
学校を出た獅狼はいつも絡んでくる輝樹から逃げるためにまっすぐ家へと帰っていた。
そしてしばらくすると『金城駄菓子』と書かれた看板が掛かっている木造の家へとたどり着いた。
獅狼の実家はこの駄菓子屋で近所の子供たちがよく足を運んできてくれる。
「ただいまバッチャン」
「あらお帰りシロちゃん」
中に入ると出迎えたのは獅狼の祖母のみや子。
獅狼はここで祖母と2人で暮らしており将来はこの店で働くことを決めている。
「お風呂沸いてるから入りなさいよ」
「分かった~」
そのまま2階へと上がり自分の部屋に入ると布団に寝転がる。
しばらく天井を眺めてボーッとしているとスマホを操作して輝樹が見せてきたジェットバトルの動画を再生した。
その他にもいろんな動画を再生したもののポツリと呟く。
「………やっぱ全然魅力が分からねぇな」
獅狼からすればただ水上バイクを操作して撃ち合う、それだけした感想が出てこなかった。
選手にも注目してみたが、それでも心が動かされない。
どうしてここまでジェットバトルに興味がでないんだろうと獅狼はしばらく考えると、ふとあることを思い付く。
「…やってみるか」
動画サイトを閉じて次に開いたのはツイッター。
しばらくスマホを操作しては獅狼はあることをネット上に呟いた。
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昨日のジェットバトルの大会を見たけど
正直何も伝わらなかった
そもそもジェットバトルすらまったく興味が湧かない
誰でもいいから魅力を教えてほしい
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輝樹から耳にタコができるほどジェットバトルの凄さや魅力などを聞かされたが、獅狼は敢えて第三者の意見を取り入れることにした。
そうすればいろんな意見が出てくる筈だと浅はかではあるもののこれしか思い付かなかったのである。
「……風呂にでも入るか」
ツイッターで呟いても何のコメントがつかないのが大半のため、獅狼はあまり期待せずにスマホを落とし部屋を後にした。
しかしこの投稿が、後々獅狼の人生を大きく揺るがすことなど誰も知るよしはなかったのだった………