里で買い物することになった。別に必要なものがあるわけではない。寒いのか暑いのかよくわからないこの忙しい時期に霊夢はどうしていることかと魔理沙が神社まで出向いて、淹れっぱなしの緑茶をそのまま湯飲みに注ぎ、片付ける時期を見失われたこたつに置いたとき、なんの気なしに霊夢が誘った。
魔理沙は興味のある場所、必要に駆られた場所以外をほっつき歩くのが好きではなかったが、しかしなんで、と聞き返す無粋をよしとするわけでもない。気疲れを癒やすには動くしかないのだろうと自分を納得させて、ついてきた。
店の通りを歩き始めて、面白いものでもないかとにこにこ表の棚を眺める霊夢を見て、勝手に背負った魔理沙の肩の荷が下りた。一緒するからには何か話をつなげなければと焦っていたが、そんな勝手な不安に霊夢は気づく素振りも見せず、魔理沙がいてもいなくても変わらないふうに、歩いていく。
下りたと思えば、むしろ霊夢のそんな様子がまた魔理沙に不安の種を植え付ける。霊夢にとって存在とはそこにあるもので、魔理沙にとってそれは許されるものだった。
「これかわいい」
路面にはみ出た机に霊夢が釘付けになって手に取ったのは、魚の肋に糸を通す穴を空けて作られた、裁縫針。
「ああ」
魔理沙はそれをまともに見る前に同意した。して、よく見る。わからない。実用するつもりならやめたほうがいいと思った。
霊夢は目を細め、にっと口角を上げて右手の人差し指と中指の付け根に挟んだその針を店主のところへ持っていく。
「こんなの、森の雑貨屋には売ってないでしょ」
「……ああ、んん」
今日やっと霊夢と関われた。関わってくれた。逡巡して苦し紛れに出した返事でも霊夢は意に介さず、もはや自分のものとばかりに満足げな顔をして、がま口の小さな財布から硬貨を数え取り出している。
「じゃ、私はこれ」
「"私は"?」
いくつも重ねられていたうち、亀が描かれた茶碗を手に取って、店主の机に置く。
「"じゃ"、これもお願い」
霊夢がその机に手を伸ばす。見ると伏せた茶碗の上にもう一つ、鶴の茶碗が重ねられていた。
「んー…… ああ大丈夫。ぎりぎり足りる」
「店儲かってないのね」
「利益は投資に回す」
一通り見て、通りへ出る。霊夢は知らない店を少しずつ開拓していくつもりらしい。魔理沙は得も言われぬ焦燥を胸に抱いて、少しずつ喉から吐き出しながら、どこまでもついて行くつもりでいた。
その茶碗は神社の今に立つ棚の手前に飾られることになった。