ホラーエロ漫画の巻き込まれ主人公ですが、陵辱されたくないので魔法少女始めます。   作:クルスロット

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第二十話 魔法少女とスライムとラブホテル

 

 

「やっと声が収まった……」

 

 15分後。やっと隣の部屋から聞こえていた声が止まった。助かった……。やっと肩から力が抜ける。たまんないよ、ほんと。魔物と戦う前に力尽きちゃいそう。私が先に後悔させられそうになる。

 ラブホテル、なんて恐ろしい建物だ。

 

「ほんと、やれやれね。ココ」

 

「…………」

 

「ココ?」

 

 そういえば寝転がったまま動かない。寝ちゃったかな。寝ちゃうのは流石に困る。一人で残されるのは寂しい。という私の視線に気づいたのかココが体を起こして、耳からワイヤレスイヤホンを取り出した。

 

「ず、ずる……!!」

 

「声、止んだね……ごめん。イヤホンしていたから聞こえなかった」

 

「ず、ずる……!!!!」

 

「それは聞こえてる。仕方ないじゃない。あんなの聞いてられないもの」

 

 確かにそうなんだけど……! しかし、用意周到だなぁ。私も見習おう。

 

「……ふう、危なかった…………」

 

「? 何が?」

 

「なんでもないよ。気にしないで。ちょっと私お手洗い行ってくるね」

 

「あ、う、うん」

 

 すごい速度で早歩きしてトイレのドアをバタン!と閉めたココをぽかんと見送った。

 

「なんだったんだろ……」

 

 答えは誰からも返ってこない。顔赤かったけど大丈夫かな。

 暇なので、ベッドを端から端まで転がる……と何故かココの居た場所が一部ちょっと湿ってる。やだな。雨漏り? 天井を見上げても特にそれっぽい様子はない。首をかしげて端末を触ってるとぽーんと高い音が鳴った。部屋のチャイム?

 

「あれだ。ミハ」

 

「ああ、なるほど」

 

 ベリアルに言われるまで気づかなかったけど部屋の隅に配膳用のエレベーターがあった。ランプがちかちか光っている。こうやって届くんだ。感心しながら開閉ボタンを押して開くと頼んだ料理が乗っていた。

 

「手伝うよ」

 

「そこのテーブルに食べよっか」

 

 いつの間にかトイレから戻ってきていたココと一緒に、ぱぱっと料理を並べる。いい匂い。冷凍食品だろうけど、それでもお皿に乗せればちゃんとしてるし、スパゲッティもグラタンも美味しそう。くうくう鳴いてるお腹には十分ご馳走。

 

「それじゃあ早速いただ──「ブブブブブブブ、ブブ」────え?。

 

 ココと顔を見合わせる。蝿の羽音みたいなノイズ音。どこから? 

 

「ジジ、ジ────■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 上! 意味不明な言語が天井のスピーカーから流れ始めていて、スピーカーの穴から赤色の何か粘着質で液体のようなものが現れようとしていた。タイミング悪いよ! 

 

「ベリアル!」

 

 ハンバーグお預けだなあ……。と思いながらそそくさと料理を部屋の隅に運ぶ。運んでいると。

 

「来るぞ!」

 

 ──スピーカーから現れたのは、赤色の、巨大なスライム。

 私とココよりも30、40センチ近く大きい。だから私たちはスライムを見上げる形になる。

 

「変っ、身──!!」

 

 音声諸々省略! いつもの和装。いつものガントレット。いつものブーツ。靴底で床を軋ませ、拳を握る。何か仕掛けられる前に、倒す!! 

 

「ミハ、触れないようにしろ! 溶かされる!!」

 

「ええ!? じゃ、じゃあこれだ!」

 

 バックルから聞こえたベリアルの声にインターセプトされて、手を止める。ずるずるとスライムが来る。入り口までの通路を塞がれた。ココを庇って前に出る。どうしよう。どうする? 何か──よし! これで行こう!

 

「ココ! 離れてて!! 後伏せて!!」

 

 さっきまで寝転がっていたベッドを片手で掴んで、持ち上げて、スライムへ横薙ぎに叩きつける! びたんと欠片を飛び散らせながらスライムがディスプレイの方に飛んでいく。うわ、一瞬でディスプレイが蒸発した。これはやばいって。

 

「ベッドごといけ!」

 

「了解!」

 

 ベッドを盾みたいに構えて壁に押し付けて、殴る!──と、壁が耐えられなくてそのまま隣の、隣のそのまた隣の部屋まで吹っ飛んでいった。

 

「あっ……」

 

「あっ……」

 

 声が丸聞こえなほど壁が薄いのを忘れていた。やっちゃった……。もうもうと上がる白煙の中からこそっと覗いて、空いた穴をくぐる。するとびっくりした顔のおじさんと女の子に目が合う。

 

「あ、ご、ごめんなさい。お邪魔してます……」

 

 ──そして、おじさんの巨大なものを見てしまった。

 

「きゃっ……ええ、えっと、ごめんなさい……その何か……隠して……」

 

「あ、ああ……こちらこそすまない……」

 

「ハインツおじさま。私も一緒に探します」

 

「ありがとう、ミーシャ……」

 

 いそいそと隠すものを探すおじさんとそれを手伝う女の子の様子を見ていると肩を叩かれた。振り返るとココが拳銃を抜いて立っていた。表情は明るくない。真剣な顔に私も引き締まる。

 

「私、足手まといになりそうだし、この人達と避難するよ」

 

 ココの指差す方を見ると、奥の壁の穴から何事かと呆然とした顔が複数覗いた。さっきの2人以外にも無事な人がいた。よかった。無駄じゃなかったと胸を撫で下ろす。ただ……。

 

「足手まといだなんて……」

 

「実際そうよ。あれ銃弾効かなそうだし。さっさと逃げたほうが邪魔じゃないでしょ」

 

「ミハ。ココの言う通りにしたほうがいい。あの魔物は、厄介だぞ。見ろ」

 

 言われて足元を見ると私たちの部屋に散らばっていたスライムの破片がずるずると私の空けた穴の方へ這った後、バッタみたいに跳ねながらさらに穴の向こう、隣の部屋から向こうの部屋の方へと消えていった。それが一つじゃない。破片全てがそうしていた。

 

「予想しなかったというと嘘になるが、これは今まで通りにはいかないかもしれないぞ。覚悟しろ、ミハ」

 

「……わかったよ。ベリアル」

 

 確かに、ベリアルの言う通り、私一人の方がいいかもしれない。

 ただでさえあのスライムは、私が触れるのも危険なんだから。ココが触られるときっと生きていられない。

 

「それじゃあお願いね、ミハ」

 

「うん。気をつけて、ココ」

 

 ココにお客さんたちを託して、私はスライムを追う。次の穴を抜け、無人の部屋をいくつか抜け、そして。

 

「あっ……」

 

 男の人の死体があった。終点の部屋で死体を前に立ち尽くす。傷跡、というかもうバラバラになってるんだけどスライムに溶かされて殺されたみたいだ。

 

「馬鹿な……」

 

「ベリアル、これおかしいよね」

 

 おかしかった。何故ならこの人だけは、死んでいるはずがない。

 

「来る前にも伝えたが今回の元シナリオは、ミハは雨宿りで偶然このラブホテルにやってくる。雨の過ぎ去るのを待っていると各部屋に、スライムタイプの魔物が魔術師により召喚される。ミハは運良く脱出できたが、他の客たちは皆、スライムに殺されてしまう」

 

「その魔術師、この人だよね?」

 

 聞いていた特徴、スキンヘッドにタトゥー。異様なほど青ざめた肌。正反対のブラックスーツ。うん。間違いない。

 

「ああ……スライムの処理を済ませてから探せば問題ないとたかをくくっていたが、まさかスライムの制御に失敗して殺されているとは……。すまない」

 

 しょぼんとベリアルが落ち込む。

 

「まあ、仕方ないよ。誰だってミスはある。とりあえずスライム探そう。あれを処理すればもう終わりなんだから」

 

「うむ……」

 

 見落としがあったかもときびすを返す──足が掴まれた。柔らかく、そしてなにより熱い。

 

「え?」

 

 瞬間、視界がブレた。景色がぐにゃんと加速して、上に──背中が硬いものにぶつかり、硬いものが砕けて、耳を砕く轟音。気づけば空中にいた。

 痛みが遅れてやってくる。口の中で鉄の味が広がる。視界が涙でぼやける。焼けるように足が痛い。見下ろすと掴まれていた場所が赤く黒く爛れていた。

 

「ミハ! 大丈夫か!!

 

「だい、じょうぶ……!!」

 

 重力に足を掴まれるまでの束の間の空中浮遊、見下ろす先には、大穴が空いた屋上があって。

 

「嘘、でしょ!?」

 

 巨大な、先程より数十倍は巨大化した赤色のスライムがラブホテルを引き裂き、破壊しながら中から現れていた──スライムの触手が来る!! 

 私は、反射的に両手をクロスしてガードする――も意味をなさず、そのまま私の体はさらに空高く打ち上げられた。両腕が衝撃に痺れて、何より熱く痛んだ。

 

 ──やばい。

 

 衝撃に明滅する視界、痛みに揮発しそうな思考、それらを餌に恐怖を思い起こす心が同時に思った。

 

 このままだと殺される。

  

 

 


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