ホラーエロ漫画の巻き込まれ主人公ですが、陵辱されたくないので魔法少女始めます。   作:クルスロット

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第二十九話 魔法少女と悪魔とようこそ、山奥因習村

 

 

「……ねえ」

 

「……なんとなく何言われるか分かっちゃったな」

 

 大穴をしばらく落下し、着地した先にあった光景に私とココは、困惑していた。濃い霧が一面に立ち込めている。1メートル先ですら見通せない。空気もひんやりしていてどこか澄んでいる。美味しく感じるくらい。足元の地面に敷き詰められた草混じりの土は、足跡がくっきりと残るほどには水を含んでいる。

 

「ここどこ……?」

 

 ココの言う通り。大穴は中層から下に続いていた。物理的に考えて下層に降りることになるはずだけど……下層のようには思えない。どうしても思えない。そういう雰囲気じゃない。

 

「ベリアル、分かりますか」

 

「……確かにこの話はあった。あったが……それはここの、トーキョーメガフロートの話じゃない。なんでこうも何もかも上手くいかない……!!」

 

 イライラと空中でばたばたと手足を動かすベリアルの姿は、コミカルだけど困惑ともどかしさを感じた。私たちだってそう。困惑しっぱなし。説明してほしい。

 

「じゃあここはどこなの?」

 

「……日本だ」

 

「ここ日本だけど?」

 

「沈む前の日本だ」

 

 なるほど。それなら……それならじゃないんだけど!? 

 東京沈没と同時に、日本列島そのものほとんどが海の下に消えている。僅かに残った部分も今では小さな島で、人が住むには難しいからトーキョーよりは小さいけどメガフロートがあるって聞いてる。

 だからそれはおかしな話。だけどおかしな話だと否定できないのが悲しい。だって私たちが今、トーキョーメガフロートで一番おかしな存在だから。

  

「Y県M市の一角に、険しい山脈と森林により外界から切り離された、地図にも載らない閉鎖的な村が舞台となる」

 

 その時、吹いた風が霧をゆっくりと動かした。視界が晴れていく。

 

「タイトルは、『ようこそ、山奥因習村』」

 

 霧の向こうには、映像でしか見たことのないあまりに田舎然とした田舎風景が広がっていた。私たちは、田んぼのあぜ道に立っていて、後ろに前、左右ともにあぜ道が続いている。田んぼには植えられたばかりの稲が青い葉を微かに揺らしている。泥臭い臭いが私の鼻を突いた。

 遠くには山すら見える。家屋のようなものも見えた。

 

「ねえ、ミハ。空がある……」

 

 言われて見上げてみると分厚い灰色の曇り空がどこまでも広がっている。まるで外みたい。もちろん、降りてくる時に使った大穴は見当たらない。

 

「……やられたな。ここ自体が魔物の支配域だ」

 

「原作通りって感じじゃ無さそうだね」

 

 まあいつものことだけど。

 

「遺憾ながら……。そもそもあの大穴に突入するなんてイベントが無い。許してくれ」

 

 そりゃ普通、あの大穴に飛び込むのは自殺する時だもんね。魔法少女じゃない私が飛び込むとは到底思えない。

 

「ただ原作にあった場所を忠実に魔物が再現している。理屈は分からんがそうとしか考えられない」

 

 なるほど……。

 

「どういう魔物がやったの?」

 

「魔物というか……村人に気をつけろ。この村は、外から人間を招き入れ、特殊な儀式を行う」

 

「特殊な儀式?」

 

「村人総出で、再起不能になるまで輪姦し、神と呼んでいる謎の生命体に捧げる儀式だ」

 

「え!? 嫌すぎる!?」

 

 嫌とかそんな次元じゃない。犯されたくもないし捧げられたくもない。

 

「そんなシナリオがあるんですね……。やはり趣味が悪いですよ、原作者()

 

「いや、実はそれがめちゃくちゃえっち──なんでもないです」

 

 おいベリアル。冷ややかな視線の集中に、ベリアルが小さくなった。

 

「とりあえず、そんな村さっさと脱出し……あれ」

 

「これは……」

 

 気づくとココとベリアルがいなくなっていた。ほんの一瞬手前まで居たのに。残ったのは、私とアスモダイさん。

 急いで周囲を見渡すけど、2人は影も形もない。まるで煙のように消えてしまっていた。

 

「……アスモダイさん」

 

「……困ったことになりましたね」

 

 異様に静かな田園の中、立ち尽くす私の背中には、嫌な汗が浮かんだ。

 この状況、とてつもなくまずいんじゃないかな。

 

「アスモダイさんってこのシナリオ……」

 

「……私、二次創作勢というやつでして。ベリアルが初見なんですよね」

 

 だよねー。なんかそんな気はしてた。

 

「まずいな……。知ってるベリアルがいないと下手に動けない。何より変身も……」

 

「あらあら、外から来られた方かしら」

 

 静寂を破った声の方に振り向くと女の子がいた。

 日除けの傘に、黒髪ツインテール。大きな胸が押し上げるピンクのワンピースの裾から出た足には、先の細い黒のハイヒール。

 すごくこの田舎風景にそぐわない格好だった。別に風景に合わせる必要はないんだけど。

 そんな可愛い女の子がにこにこと笑っていた。何か違和感を感じさせる笑顔。偽物の笑顔、作り笑いを思わせた。ちゃんと笑っているのに。

 

「……ええ、まあ」

 

 アスモダイと一瞬目配せしてからとりあえず私は答えた。

 

「それは素敵! それじゃあもてなさなきゃ!」

 

「もてなす?」

 

「ええ! この村では外から来る人なんてほとんどいないからせっかく来てくれた人には、村をあげて楽しんでもらうようにしてるの!」

 

(どうします、ミハ様)

 

 どうもこうも……どうしようね。ベリアルの話を聞いてからだとついていく気にならない。そもそもここが普通じゃない以上、あの子も普通じゃない。

 

「ごめんね。そのお誘いはとても嬉しいんだけどちょっと今、友だちとはぐれちゃって。探してるところなの」

 

 題して、『友だちを探すのでまた後出会いましょう作戦』

 

「だからまた後で伺うね。どこに行けばいいの?」

 

(…………いいと思います)

 

 なによ。何かあるなら言っていいよ。

 

(いえ。いい切り抜け方かと。現状、相手が人と同じコミュニケーションをとってくるならそれで対応するのは間違いないと思います。現状、襲ってこられると対処しかねますしね)

 

「へえ。そうなんですね」

 

「うん。そうなの」

 

「それじゃあ、私もお手伝いしますよ。この村、なにもないくせに広いですから。私がいたほうがきっとすぐ見つかります」

 

 なんて善意満点の提案。絶対に逃さないつもりだ。どうしよう。どうしようもなにもどうせ魔物なんだから適当に振り払っても問題ない。人じゃないんだから。

 だけどそれで本性を剥き出しにされたらそれこそどうしようもない。

 

(ミハ様。遺憾ですがここは一度、提案を受けましょう)

 

 それしかないかあ……。

 

(変な場所に誘導されないように気をつけていただいくようにしてください。私もアドバイスします)

 

 分かった。私頑張る。

 

(ありがとうございます。……しかし、もしものことがあれば最終手段があります。その時は任せてください)

 

 最終手段? なにそれ。

 

(必要になったその時にお伝えします)

 

 ? まあ、分かった。じゃあとりあえず……。

 

「おおう、どうしたカオルちゃーん」

 

 振り返るとクワとかスコップなどの農具を持った農作業帰りのおばさんたちがいた。日に焼けていて、化粧のないシミのある肌、皺の寄った柔和な笑みを私に向けている。

 ……気配の一つもしなかった。まるでそこに突然現れたみたいな違和感。シンプルに嫌な予感がする。

 

「このへんで見ない子だねえ」

 

 視線が集中する。視線だけで穴だらけにされそう。舌舐めずりして、値踏みされているように感じた。

 

「カオルちゃん、どうしたんだい。この子」

 

「外から来られた方なんです。けどお友だちとはぐれちゃったみたいで……」

 

 私の隣を通り過ぎて、女の子――カオルが老人たちの方へ歩いていく。微かな、何かの花のような匂いが鼻を擽った。香水? うんん、どこか生々しい感じ。なんだろう。

 

(……おそらく、栗の花ですね)

 

 栗の花? なんでまた……。

 

(さあ……。見当もつかないです)

 

「へえ、そりゃあ大変ねえ」

 

「そうなの。大変なの。だから一緒に探してあげようと思って!」

 

 ちょっと、これは……。カオルと老人たちの会話が盛り上がっているのを他所に、私の喉はカラカラに干上がっていた。飲み込む唾もない。

 

(まずいですね)

 

 アスモダイの言う通り。ますい。すごくまずい。とってもまずい。

 

(……逃げましょう)

 

「あらあらそれはいいわね」

 

「わたしらも一緒に探してあげようか」

 

「え!? ほんと!? ありがとう!!」

 

 話がまとまりそうなのを聞いて、私は、後ずさって踵を返し――走った。あぜ道を蹴っ飛ばし、一心不乱に前に行く。どこに道が続いているか分からないけど、とにかくここにいたらだめだ。離れなきゃ。

 

「走った」

 

「走ってる」

 

「逃げた」

 

「逃げた」

 

「逃げた」

 

「――逃げた!!!!」

 

 その背中をさっきまでの穏やかな仮面を脱ぎ捨てた怒声が叩いた。いや怖い怖い怖い。久々に思い出す恐怖の感触。おぞましい手触り。伸ばされて、追いすがる怒り。足を止めたらだめだ。

 

「捕まえろ!!」

 

「捕まえろ!!!!」

 

「捕まえろ!!!!!!」

 

 全力疾走。あぜ道を蹴っ飛ばして、駆ける。

 

「ひいいいいいい!! 来ないでぇぇぇぇえええ!!!!」

 

「ファイトです! ミハ様」

 

「バカ!!」

 

 

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