ホラーエロ漫画の巻き込まれ主人公ですが、陵辱されたくないので魔法少女始めます。   作:クルスロット

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第三話 魔法少女と悪魔と鉄拳制裁

 

 

 ベリアルが言うに、〈ダークプロヴィデンス 〜少女惨劇録〜〉は、いわゆるエロ漫画のタイトルとのことだ。

 ただのエロ漫画じゃなくて、ホラー漫画でもある。

 つまり、ホラーエロ漫画。女の子が悪霊とか殺人鬼とか魔物とかによって、こう……エロい目に会う。

 後、グロいシーンもあるし、登場人物はかなり痛い目と酷い目に会うらしい。

 私が、好きなタイプのジャンルじゃないのは確か。いや、怖いじゃん。

 

「それで……私が、それの?」

 

「ああ、主人公だ」

 

 らしい。そうらしい。

 ……すごく、非常に困ったことになった。

 ドアの向こうで響く足音、あの男の人もかなり困った存在だ。けどそれよりも困ったのは、この幻覚……幻覚というには喋りすぎる悪魔のベリアルだ。

 

「私は、その物語の主人公……?」

 

 自分が絵と文字と言われて困惑しないわけがない。いっそのこと夢であればいいなと私は思う。

 でも背中に響く足音と与えられた痛みが夢じゃないと言ってくる。

 

「高次元的にはそうなる」

 

「高次元」

 

「世界は、神の書いた漫画だ」

 

「神の書いた漫画」

 

「うむ、投稿サイトに掲載されてたんだが神のやつ、雑なオチというか実質的なエター宣言というか。とにかくファンとしては許せなかった。思わず低評価も入れてしまった。罵詈雑言感想もしとこうと思ったけどBANされたくなくてぐっと我慢したんだ」

 

「はあ……」

 

「ただ溜飲が下がらなかった」

 

「ああ……」

 

 覚えがある。SNSでお気持ち構文を何度も書いて、下書きに保存してきた。

 

「それが気に食わなかったので書き換えに来た」

 

「な、なるほど……」

 

 ベリアルがここに来た理由が分かってきた。ちょっと私にも覚えがある。

 

「つまり……二次創作しに来たってこと?」

 

「うむ。原作オチがあまりに無価値で受け入れられない。苦しい……ってなった俺は、二次創作しに来た」

 

「こんなダイナミックな二次創作許されるんだ……」

 

「悪魔だからな。神にできないこと、やらないことをやるのが悪魔の役割だ」

 

「でも所詮漫画なのに?」

 

 自分で言うのもあれだけど。でも私だって読んでる漫画が気に食わないから中に入って改造しようなんて思わない。

 

「神の漫画は、それ自体が世界を成している。神は、人で言う創作から世界を創造しているというわけだ。書いて字の如くだな」

 

「なるほど……。だから契約しろってこと?」

 

 一応、流れが分かった。ベリアルの言う契約。これを受け取れば私は、きっとその原作オチっていう運命から逃れられる。

 私には、いいことしか無い。エッチな目に合わずに済むし、酷い目も合わないで済む。いいことづくめだ。

 

「そうなる。だが契約だけでも不十分だ」

 

「……というと?」

 

「契約すれば力が得られる。その力で、事前に処理する必要がある」

 

 ……足音が近い。でもベリアルの話は、今聞いておく必要があると思った。

 

「黒霧ミハ、お前に降りかかる試練は数多ある。それは今回の殺人鬼ネックハンガーのように不意に襲いかかってくる。このままだと四六時中警戒することになる。それは人間にできることじゃない」

 

 ホラー漫画ということならたしかに。連載形式だとあの殺人鬼一人だと難しそう。警察も馬鹿じゃない。警察がどうにもできない化け物とか悪霊とかもこれから出現するというのは、筋が通っている。

 

「先制攻撃をしていく必要がある。ホラーの巣穴に体を突っ込んで、先に破壊しておかなければ平穏はやってこない。それを可能にするのが俺との契約であり、しばらくの平穏との別れでもある」

 

「いや、タイミングがずるくない?」

 

 こんなの契約するしか無いじゃない。

 

「悪魔だからな。悪魔らしくいく」

 

「くっ……悪魔らしい……」

 

「で、どうする?」

 

 そりゃ、どうするもこうするも無いじゃないの。

 

「……悪い悪魔」

 

「ククク、褒められても何も出ないぞ」

 

 毒ついたのに褒めてしまった。ややこしい。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 殺人鬼ネックハンガーは、ロープを操る異能を持ち、若い女性を襲い、強姦しながら絞殺することを生きがいにしている。

 元々は、ただの独身のサラリーマンであったがある日、この廃墟に迷い込んだ際、魔物に取り憑かれ、ロープを操る異能を得た。それと同時に、寄生した魔物の影響で殺戮衝動及び性癖の強化を受けた。

 その結果が殺人鬼ネックハンガーの誕生だった。

 誕生の方法自体は、今のトーキョーメガフロートではありふれている。

 その脅威度も、メガフロートの海面下や低階層に住まう魔物に比べればではあるが作中では比較的低く見られていた。

 だがしかし、この世界を生きる一般人にはどちらにせよ脅威だ。

 そんなネックハンガーは、今、一人の少女を探していた。

 

「どこだぁ……?」

 

 この廃墟から逃げ出すのは、あの少女にはできない。窓などの主な出入り口は、物理的に閉ざしている。通信などの電子的面も彼自身も不便だが捕まりたくはないので封鎖している。

 だから逃げ込めるのは、彼のコレクションルームくらいだ。作業部屋の隣に、その部屋はある。ドアは四つ。どれも個室。最近手狭になってきたので、処分か拡張を彼は考えていた。

 そして、たった今、最後の部屋に立っている。ドアの向こうから声が聞こえた。

 あの可愛い少女の声。唇の端が持ち上がるのを感じた。いつのまにか大きくなった口は、少女を味わうのに便利だとネックハンガーは考えている。

 ドアノブに手を掛け、中にいる少女の恐怖を煽るようにゆっくりと撚って開ける。

 

「みぃつけたぁ……♡」

 

 ご機嫌な笑みを浮かべてドアを開けたネックハンガーを出迎えたのは──拳だった。

 

「魔拳少女 ベリ☆エル!」

 

 途切れゆく意識の中、鼓膜を震わせる低い声と奇妙な格好をした少女を見て、ネックハンガーは笑った。

 

「かわぃいなぁ……」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 『ナイスパンチだ。黒霧ミハ』

 

 腰のバックルで、デフォルメされたベリアルが喋ってる。ちょっと可愛い。

 

「ありがと。あとミハでいいよ」

 

「分かった。ナイスパンチだ、ミハ」

 

「ありがと」

 

 わざわざ言い直すなんて律儀な悪魔。と思う私の心臓は、早鐘を打っていた。理由は、興奮と緊張。バクバクで死にそうだ。

 ほんとに吹っ飛ばせた。すごい。これは本当にすごい。手を見る。グーパーしてみる。殴った感触がある。けど痛くはない。心地のいい感覚だけが残ってる。

 今の私は、先までの私じゃない。

 ぼろぼろにされたセーラー服は、白地に紫の花柄の着物、下は、黒のシンプルな袴風スカート。ローファーも同じ焦げ茶の編み上げロングブーツに。床を叩いてみると頑丈なのがわかる。

 髪もアップで編み込みながら後ろに流してすっきり。

 そして、両手には、黒と金の無骨で、ゴツゴツしてて痛そうなガントレット。私の手、腕を肘まで完璧に覆い尽くしている。防具じゃなくて、殴るためのもの。

 威力はたった今、実証済み。

 

「ねえ、ベリアル」

 

「なんだ、ミハ」

 

「センス、めちゃくちゃいいね」

 

 普通にかわいくて、かっこいいと思う。かっこかわいい。素敵。

 

「ありがとう。オタク冥利に尽きる。ありがとう、アスモダイ。今だけは感謝する……。俺はお前のおかげで最高の幸せを噛み締めている……」

 

 オタクって言葉、悪魔も使うんだ……。いやでも二次創作はオタクしかしないよ。ていうかアスモダイって誰?

 まあ、そんなことよりもやることがある。

 ぶん殴った男の人、ネックハンガーだったね。そのネックハンガーは、廃墟の壁で勢いが止まらず、そのまま隣のビルの窓と壁を破ってその向こうに転がっていた。丁度、起き上がりつつある。

 ちらっと部屋の中にぶら下がっている人たちを見る。私とそう年齢の変わらない女の子、女の人。ぐつぐつとお腹の底で煮えたぎるものがある。

 二度とこんなことを考えられないようにしないといけない。

 

「後悔させてあげなきゃいけない、ね」

 

「そうだな。だがミハ」

 

「なに?」

 

「もう終わってる」

 

「…………へ?」

 

 起き上がろうとしたネックハンガーは、起き上がれずにそのまま倒れた。その後、ピクリともしない。転がっていた石を投げてみる。当たった。動かない。反応がない。

 ……よくよく見ると白目を剥いている。

 

「この盛り上がった私の心と握りしめた拳はどこに向ければいいの……?」

 

「……次回、だな」

 

それはそれで嫌だな……。しなっと私の心が萎える音がした。

 

 

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