「クレナ・ククミラ、アンジュ・エマ、カイエ・タニヤ、レッカ・リン、ミクリ・カイロゥ、ミナ・シロカ、マイナ・ヤトミカ。今月こそ例の定期報告書類をきっちり提出してもらおう」
スピアヘッド戦隊副戦隊長にしてスピアヘッド戦隊唯一の軍医であるツバサ・シュハーミットは、まさに怒りのあまり髪が天を衝いているような精神状態で戦隊の女性陣を睨み付けている。
一方の女性陣は、ツバサの剣幕に完全に呑まれてしまっており、言い訳の言葉も思い付かない様子だ。
「あー……ツバサ?あのね、これには深い訳があって――」
「医務室では呼び捨てではなく担当医を付けて呼べといつも言っているだろう!」
アンジュはツバサの怒号に思わず萎縮してしまう。ツバサの怒りの因なのだが、彼女達がここ数ヶ月に渡って報告を滞納しているもの…………月経の経過報告書だったのだ。
「いいかお前たち!まず第一に我々エイティシックスには、避妊具は愚か排卵抑制剤も精神安定剤も生理用品さえも基本支給されることはない!加えてここにいるのは思春期の最高潮を迎えた少年少女ばかりだ!性交渉を指導できる人間は私と整備士連中の他はいないし、性交渉を適切に説明できる媒体もない!何の考えも無しに一夜の床を共にしたことで性病に感染したり望まない妊娠をしたりすればどうなる!?最悪部隊ごと全滅もあり得るんだぞ!深い訳とやらも知ったことか!」
ツバサが言う通り、この〈レギオン〉支配域においてエイティシックス達はまともな医療を受けることもできず、またそうした知識や技術を持つ者も限られている。つまり、ツバサの忠告と指導を無視していたらいつの間にか仲間同士が子供を作ってしまいましたなどという事態になりかねないのだ。
戦闘による負傷ならまだしも、性感染症に罹患して死亡した、身重になって逃げ遅れたなどとなれば目も当てられない。
「仰る通りでございます……」
戦隊男性陣代表としてハルト・キーツが神妙に頭を下げる。彼もまた、ツバサに怒られる立場であった。
「ハルトは特に悪乗りが過ぎるからな!お前も滞納分の自慰行為と性交渉の記録報告書をさっさと纏めて提出しろ!」
ツバサはぷんすかと擬音が聞こえそうな様子で戦隊員たちを医務室から追い出した。
「……いつになく怒ってたな」
「当たり前だろ?何がなんでも俺たちには病気して欲しくないって思ってんだよ。あれでも心配してくれてるんだぜ?」
ツバサの説教を思い出して顔をしかめるライデン・シュガに対し、ダイヤ・イルマは肩をすくめた。
一人、また一人と戦隊員たちが外へ出て、静寂を取り戻した医務室。ツバサは部屋の窓際に置かれた机に過去の経過報告書が纏められたファイルを置く。
机の上にあるものの他にも何百冊とも知れぬ数のファイルが医務室の棚にあるが、その内容は半年分にも満たないものばかり。だが全てツバサが一人の医師として診察してきた、エイティシックスたちの存在を確かなものとする貴重な記録でもある。
「望ましくない……」
悲嘆しながら手に取ったのは、スピアヘッド戦隊に配属された初月に診断したカイエとアンジュの記録。前者のカイエは戦隊最年長と言うこともあって戦歴は長く、更に
後者のアンジュは
「設備と資材さえ揃っていれば治療は可能、だが現状は改善できず……」
戦隊配属初月の診断結果の内容を思い出す。
カイエ・タニヤ────極めて微妙ではあるが骨盤に歪みを確認、出産に支障
そしてアンジュ・エマ────卵管閉塞により月経周期に乱れがみられ、将来的に不妊症の恐れあり。
ツバサ・シュハーミット(Zubasa Suhermitt)
内容の通りスピアヘッド戦隊唯一の軍医。