短編:スピアヘッド戦隊の軍医さん   作:御代川辰

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スピアヘッド戦隊の勉強会

「……お前の報告書を読む度に思うが……」

 

 戦隊基地の医務室にて、衛生キャップとマスクにバイザー、そして血まみれのゴム手袋と白衣とエプロンという完全に外科手術を終えて間もない姿のツバサがスピアヘッド戦隊長シンエイ・ノウゼンに話しかけた。

 先日レギオンの襲撃に対処するために迎撃し、敵の攻撃によって瀕死の重傷を負ったクジョー・ニコの体内に残った銃弾や乗機の金属片を取り出す手術を終えたばかりであるツバサが、長時間にわたる手術によるストレスを吐き出すかの如 くシンに続ける。

 

「シンエイ、お前には丁寧な字の書き方を何度も教えているが一向に理解できない記号ばかりが羅列されているぞ。何時になったら改善するんだ」

 

 ソファに座り本を読むシンの隣には、とても文字とは言えないぐちゃぐちゃな丸や線が書き連ねられ見事に黒く汚された白い紙が重ねられていた。

 これら全てが健康管理・性管理・食事管理・運動管理・精神管理の報告書であり、その厚みから分かるのはツバサが如何に戦隊員たちの健康状態に気を配らせようとしているのかが(うかが)える。

 ツバサから向けられる不機嫌な視線に応えるようにシンは一言、

 

「…………努力はしている」

「この馬鹿垂れが。今夜の自由時間は勉強会だ」

 

 いつも通りの口調で大嘘を吐いたことで当然ツバサの逆鱗に触れ、この日の自由時間は勉強時間へと変更された。

 

 

 

「積分の方程式は……」

「シン、今回ばかりは擁護できないからね」

 

 ツバサから提示されたプリントに書かれた数学の問題に淡々と回答するシュリ・ジリス。彼の隣に座るセオト・リッカは、虚空を見上げてペン回しをしながら思い出したかのように小さくため息をつきシンエイに愚痴をこぼす。

 

「…………」

 

 セオの文句を他所にシンエイは黙々と問題を解き続けていた。普段なら真っ先に音を上げて席を立つはずの彼が珍しく真面目に取り組んでいることに感心しながら、セオの後ろの席に座るアンジュが隣の席のハリズ・センヤに尋ねる。

 

「ねぇ、ハリズはどう思う?」

「……何の話?……ああ、ツバサへの報告書のことか……」

 

 普段から本を良く読んでいるシンが文字をまともに書けないというのは周知の事実。だからこそ彼が机から目を背けずツバサから与えられた課題をひたすら解き続けるというのは新鮮な光景だ。

 

「そうだな、確かに珍しいと思うぜ?でもまあ、それだけ必死なんだろうな」

 

 ハリズの返答に満足そうな笑みを浮かべると、アンジュは前を向いてペンに手をかけた。

 しかし、

 

「あーっ!もう無理!」

 

 机を叩いて席から立った人物が居た。スピアヘッド戦隊を構成する六人の小隊長が一人、ガンスリンガーことクレナである。

 

「ちょっとツバサ文句があるんだけど!あたし計算嫌いなのに何でこんな問題解かせようとするわけ!?」

 

 クレナからの文句に思わずスイッチが入ったのか、ツバサは直ぐ様反論に出た。

 

「馬鹿垂れ!狙撃手は数学者だ!風向き風速に重力加速度に加えて位置高度や自転の速度と座標と標的との距離そして銃弾の初速!全て数学だ!ジャガーノートに積んだコンピューターが故障したらお前自身が自分の状況を判断して最適な射撃を行わなければならないんだぞ!」

 

 ツバサからの説教を受けたクレナは、椅子に座って頭を抱えて項垂(うなだ)れた。

 脳筋とまではいかないが考えが少々脆い彼女にとって数学は苦手とするものだったらしく、手で持つ銃ならまだしもコンピューターの補助を前提とするジャガーノートの主砲の扱いはほとんどコンピューター頼りであるようだ。

 

「あー、もう!めんどくさい!」

「騒ぐな!さっさと終わらせろ!」

 

 結局この日の勉強会は深夜まで続き、勉強会に参加させられた戦隊員と手術で徹夜を強いられたまま二日目の徹夜へと突入したツバサ、さらに病室で休養していたクジョー、そして整備員を含めたスピアヘッド戦隊員全員が寝不足のまま朝を迎えるというさんざんな結果であった。

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