短編:スピアヘッド戦隊の軍医さん   作:御代川辰

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注意事項
※オリキャラとレーナの過去捏造あり
※性的な表現あり


ハンドラーさんは初恋を思い出す

 時間帯は夜、場所は共和国第一区。ミリーゼ家の邸宅にある自室にて、【ヴラディレーナ(Vladilena)ミリーゼ(Milise)】は上司であるジェロームから受け取ったスピアヘッド戦隊に配属されているプロセッサーの名簿を(なが)めていた。しかしその様子は少しおかしい。浮かべている表情は眉をハの字に曲げた困り顔、そして目線は二つの名前に集中している。

 一つは当然ながら戦隊を統括するアンダーテイカーだが、問題はその直ぐ下にある副戦隊長の欄にある。

 

サージャン(Surgeon)……執刀医ってどういうこと?)

 

 顎を手に置いて首をひねる。パーソナルネームには必ずプロセッサーそれぞれの特徴や個性を抽象的に表現する意図があるが、(こと)二人に関しては少し毛色が違う。例えば戦隊長のアンダーテイカーは直訳すれば墓掘り人の事で、転じて葬儀屋を表す語である。

 しかしつい昨日まで指揮を取っていた戦隊の副長からは、スピアヘッド戦隊への異動を告げた時に「死神と闇医者によろしく」と返された。この言葉の意味は、おそらくこの二つのプロセッサーの事であろう。

 

葬儀屋(アンダーテイカー)と死神……執刀医(サージャン)と闇医者……)

 

 深く考えなくとも、語感から何かしらの繋がりがある事は十分理解できる。できるのだがその先が分からない。こんがらがりつつある思考を何とかまとめようとメモ帳を手に取った瞬間、ふと手元の知覚同調装置(パラレイドデバイス)が視界に入った。

 自分がハンドラーを担当した部隊への着任挨拶は、過去に何度か経験している。無視されるのも初めてではないし、いきなり罵声を浴びせられた事も一度や二度ではない。

 一度連絡を取ってみようかと思い至っても、不安から躊躇してしまう。だが執刀医(サージャン)と言うと、どうしても腑に落ちない部分がある。

 

(……まさかね)

 

 そして、知り合いの医師と言うとレーナが連想する人物は二人しかいない。一人は幼少の頃からの付き合いで、生体解剖学専攻の技術士官として従軍している親友である【アンリエッタ(Henrietta)ペンローズ(Penrose)】。

 そしてもう一人は……

 

(……まさか……ね)

 

 思いかべるのは紫色の髪と瞳の少年。彼は自分より一つ年上で、生真面目(きまじめ)ながら謙虚で、口は悪いが礼儀正しい、大人ぶりしがちな子供。そして、レーナは面倒見の良い彼を慕い、その関係は限りなく良好。

 何をしていても彼の足音が聞こえれば「兄さん」と彼を呼ぶのを繰り返し、「止めろ」と怒鳴られても笑うばかりだった事をつい昨日の事のように覚えている。

 そして、いつからかその思慕はより大きくなり、彼を想うだけで鼓動が高鳴るようになって行き、幼心(おさなごころ)ながら初恋の(ひと)とより深く慕うようになった。

 

──ツバサ兄さん──?

 

 無意識にその名を口にした瞬間、心臓が大きく跳ねて身体が熱くなる。それは、政府主導の有色種排斥が始まるちょうど三日前の夜の出来事。記憶の奥底に封じていた経験を、(いま)だに忘れることができていない。

 ツバサの体温、ツバサの心音、ツバサの視線、ツバサの発言。抱き締められる感覚、口付けの感覚、全身を何かが駆け巡る感覚、そして痛みと熱。

 ここまでを思い出し、レーナの顔は瞬く間に赤く染まった。

 

(やだ……私ったらなんてこと……!……)

 

 だが、全てが鮮明に思い出せる。たった一度、人生で初めて(おか)した(あやま)ちは、今もなお少女の中で(くすぶ)り続けている。

 

 

 

 同じ頃、スピアヘッド戦隊兵舎の医務室。

 

(思い出したくなかったのだが…………仕方がない)

 

 戦隊員の診断書をまとめていたツバサもまた、今もなお悔いている一夜の(あやま)ちを脳裏に映していた。

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