レーナは、この上ない緊張に体を震わせていた。いや、この際は不安と表現した方が正しいかも知れない。
エイティシックスと呼ばれる彼らが、自分たち
昨日の着任挨拶では、スピアヘッド戦隊長のアンダーテイカーとしか言葉を交わせなかった。そして、彼らの本当の名前を知ることもできなかった。
だが、今の最優先事項は
(ツバサ兄さん……)
覚えていてくれているだろうかと、不安な気持ちが湧くと同時に、それは無理な話だと冷静な声も聞こえた気がした。何しろ最後に顔を合わせたのは、小学校二年生に進級して間もない七歳の頃。
忌々しい人種排斥政策が実行された年のこと。普通のエイティシックスなら、自分たちを豚と蔑む白系種の“人間”とどのような関係を持っていようと、覚えていたくもないと考えている者の方がずっと多いはずだ。
まして今の世代は自分と同じ子供で、親兄弟からは労いや誉め言葉よりも、白豚どもへの恨み言を多く聞かされている。物資の補給のために送られて来る兵隊すらも、彼らに向けて暴力や罵倒を浴びせている事実がある。
当然憎悪は育ち続け、しかしその憎悪を向けるべき相手に拳は届かず、行き場のない怒りをレギオンにぶつける他はない。
(そこに、いますか?)
立場が違う自分が彼らに同情する資格もない。だが指揮官の立場からなら、遠回しな形ではあるが彼らを助ける事はできる。レーナは無自覚ながら、「憎まれ役なら喜んで演じてやる」と覚悟していた。
「パラレイド、
この一言を口に出した時、時計は九時を指していた。
「レーナ、久しぶりだな」
その男の声が聞こえた瞬間、戦隊員24名の視線が一斉に部屋の扉へと向けられる。ハンドラー・ワンの挨拶にシンが答えるより早く、ツバサが割って入った事に驚愕したのはもちろんレーナも同じ。
向こうから話しかけるであろう事は理解していたが、開口一番にこのような問いかけをされたなら、混乱するのは自然と言っていいだろう。
『……ええ……お久しぶりですね、ツバサ兄さん』
だが、受け答えは至って冷静なもの。だが少し歓喜が交じっているような印象で、まさしく長く会えなかった間を忘れて今再会した幼馴染みの姿を、目の当たりにしている。その事にシンは少し目を瞠る。
クレナは見るからに驚愕している。カイエとアンジュは呆然とし、セオト他エイティシックスたちも呆気にとられている。無理もないだろう。女っ気の欠片もない無愛想な闇医者に、年下の異性の幼馴染みがいた事など、今まで知りもしなかったのだから。
「そろそろ、貴女の声を直接聞きたいと思っていた頃だ」
『っ…………!!』
口調に少し揶揄うような響きが混じるツバサに、レーナも微かな笑みの気配を含ませて応じる。
『それはまた、ありがとうございます』