無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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 気が付くと100話目だけどいつも通りです(╹◡╹)

 これからもよろしくお願いします(╹◡╹)




人になる、ということ(裏3)

 

 

 お兄さんと出会ってから、お母さんと再会するまでの話は、以前一通りしたので割愛して、お母さんの話を沢山聞きました。わたしのことをどう思っているのかとか、なんでわたしのことをネグレクトしたのかとか。

 

 わたしのことは大切な娘だと思っていて、色々追い詰められて精神的に不安定になってしまっていたかららしいです。

 

「愛していたはずなのに、気がついたらそれ以上に疎ましく思うようになっていたの。すみれがいなくなって始めて、自分がおかしくなっていたのだって自覚した。でも、それを自覚した時にはもう遅かったの」

 

 お母さんは確かに、ずっとわたしに優しくしてくれていました。忙しい中でもわたしの相手を毎日してくれて、寂しい思いをすることなんてほとんどありませんでした。そんなわたしが、お母さんを追い詰めてしまっていたのなら、ああなってしまったのも不思議なことではなかったのでしょう。

 

「すみれのお父さんは、かなり乱暴で、執着心の強い人でね。私一人なら我慢出来るつもりだったのだけど、お腹の中のあなたには同じ思いをさせたくなくて。守らなくちゃって思って、少し過剰なまでに警戒していたの」

 

 わたしの生まれ、どうして戸籍がないのかを聞くと、お母さんはそんなことを教えてくれました。守ってくれる家族もいなくて、一人でわたしを守るしかなくて、逃げて、隠れて、それでもわたしの幸せのために頑張っていたのだと。

 

 お母さんが言っているだけだから、証拠がないからといって、信じないこともできるでしょう。でも、わたしの記憶の中の優しいお母さんと、お母さんの語るお母さんの姿は、とてもよく似ています。

 

 

「でも結局、私がしてしまったことに変わりはないから。今すみれが幸せなら、そのまま幸せでいてほしい。灰岡さんが迷惑そうにしているなら無理には、って思ってたけど、私よりもすみれのことを心配してくれているみたいだから、杞憂だったね」

 

 そう言って寂しそうに笑うお母さん。お兄さんはわたしのことを大切にしてくれているので当然ですが、もしかしたらそうでなかったらわたしのことを引き取ろうと考えていたのでしょうか。向氏の優しかったころのお母さんとまた暮らす、いやだとは思いませんがあまり心が惹かれません。

 

 あの頃はずっと戻ってきてほしかった生活なのに、今のわたしは今のままの方がいいです。わたしがいて、お兄さんがいてくれる生活。お兄さんがわたしのことを必要としてくれる生活。それだけあれば、十分です。今のままでも贅沢です。

 

 だってわたしは、お兄さんのおかげで生きがいまで手に入れました。安全も幸せも全部お兄さんにもらったものです。それなのにお兄さんの下から離れたいなんて、そんなことは思うはずがないんです。

 

「はい!わたし、お兄さんと一緒にいることができてとても幸せなんです!」

 

 言った勢いに任せて、お兄さんの方にちょこっとだけ体を近付けます。お兄さんが顔を少しだけ背けたのは、ひょっとすると照れてくれたのでしょうかわたしの想像でしかありませんが、もしそうならうれしいですね。

 

「そう。……灰岡さん、順番が逆になってしまいましたが、すみれのことをこれからもお願いしていいでしょうか」

 

「……はい。すみれはこれからも、僕の家族です」

 

 わたしが一人もの思いに耽っている間に、お母さんとお兄さんの間でやり取りが結ばれていました。これはもしかしなくても、これからはお母さん公認でお兄さんと一緒に暮らせるということでしょう。親公認の同棲というと、かなり特別感があっていいですね。戸籍を取った後におのずと親権を得ることになるお母さんを、先に落としておけたのは嬉しい誤算です。まだ戸籍が取れると決まったわけではありませんが。

 

「それを聞けて良かった。灰岡さん、少しだけどこれ、いろいろ入用だったでしょうから、その補填に使ってください。私なんかからもらいたくないってことなら、その辺の募金箱に入れてもらってもいいので」

 

 そう言って、お母さんはお兄さんに少し厚みのある封筒を渡しました。断りにくいように予防線を張って、さらには謝る側でありながらお願いされる側という立場を使った卑怯にすらおもえる渡し方です。

 

「それじゃあ私はこれで。何か役に立てることがあれば何でもしますからすぐに教えてくださいね」

 

 そう言い残して、お母さんは帰っていきました。寂しそうにしながらも、来た時よりも心なしか明るい様子で。きっと、ずっと一人でため込むしかなかったことを話せてすっきりしたのでしょう。誰にも言えずに一人で自分を責めるしかなかったわたしのことが、いい形に落ち着いたことに安心したのでしょう。わたしの知っているお母さんは、そういう人です。自分一人で全部抱え込んで、つらいはずなのにわたしの前では笑顔でいてくれる、そんな人です。

 

 

 少しの間何もしゃべらず、お兄さんに寄りかかって甘えます。何も聞かずに、何も言わずに撫でてくれるから、もっと甘えてしまいます。

 

 

 あまり長い時間居座ってもお店の迷惑になってしまうので、名残惜しく思いながらもほどほどで甘えるのをやめます。もう少し後少しと思ってしまう自分に、家の方がもっとちゃんと甘えられるからと言い聞かせて、豆腐の意思で乗り切りました。木綿だったから耐えられたけど、おぼろだったら耐えられなかったでしょう。

 

 家に帰って、お兄さんの膝の間に座ります。ここにいる時が一番、お兄さんがわたしのことを甘やかしてくれるので、わたしが甘えたいときにはこうしてアピールするようになりました。お兄さんもそのことに気付いているので、毎度しっかり甘やかしてくれます。気持ちがふわふわして、ドキドキして、落ち着いて。なんて言ったらいいのかわからないくらい、不思議な気持ちになります。その不思議なのが心地よくて、ずっとそれに浸っていたくて、最近甘える時間がどんどん増えています。

 

 あまり甘えすぎるのはよくないと、頭ではわかっているのに、どうしても我慢できなくなってしまいます。この幸せにおぼれそうになってしまいます。もっとお兄さんがわたしのことを愛してくれたら、もっと幸せになれるのでしょうか。もっとお兄さんを好きになったら、もっと幸せになれるのでしょうか。

 

 これ以上先があるなんて、考えるだけでもおかしくなっちゃいそうなくらい幸せなのに、まだ先があるのなら。それはぜひとも、手に入れたいです。もっとお兄さん

 に求め得られれば、さらに必要とされたら……。

 

 と、考えているとお兄さんは突然撫でるのをやめてしまいました。せっかく幸せな気持ちになっていたのに、お兄さんはまじめな顔になっています。経験上、こうなってしまうと甘える時間は終わりです。気持ちを切り替えて、シャキッとします。

 

「とりあえず、これからも一緒にいられそうでよかった。あとは戸籍の方だけど、相談に行くのは来週でいいかな。そこなら予約が取れそうなんだ」

 

 お兄さんの都合が合うのであれば、わたしはいつでも空いていますから大丈夫です。予定を作れるような何かがあればよかったのですが、あいにくわたしにそんなものは何もありません。そのまま来週の予定が一つ決まります。

 

「お兄さん、わたしのお母さんと話してみて、どうもいましたか?」

 

 わたしにとってのやさしいお母さん、けれども、わたし伝手にしか話を聞いていなかったお兄さんは、どうも悪印象ばかりを持っているようだったので、折角の機会ですから質問してみます。実際に合ったお兄さんもお母さんに悪いイメージを持つのであればわたしが間違っていて、そうでなければわたしの感覚は正しかったということになります。

 

「……悪い人、だとは思えなかった。やった事が事だけに、全面的に信じることは出来ないけど、根はいい人なんだと思う」

 

 伝わっていたようで、よかったです。お母さんはいい人なのに、誤解されたままになってしまうのは悲しいことですから。出来ればお兄さんにも、お母さんと仲良くなってもらいたいです。こう思ってしまうのは、わたしのわがままなのでしょうか。

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