無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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 所感:ここ一年以上エタノール75ml/日(最低量)を休肝日1/月以下で過ごしていた甲斐あって健康診断の肝臓の値がやばかったです。寝つきが悪いのも相まってやめられなかったけどそろそろ不眠症状で病院に行くべきか……(╹◡╹)



第101話

 

 

 お母さんと話した一週間後に、書類がないのならDNA鑑定でもどうにかなる場合がある、ということを教えてもらい、早速その事を伝えます。都合を合わせて2週間後に鑑定を頼むことが決まり、予約はお母さんがしてくれることになりました。

 

 お兄さんに連れて行ってもらって、立会人さんのいる採取場に向かいます。今回の場合は法的証拠になるものだから、誤魔化したりができないように公的な人の前でやらないといけないらしいです。

 

 お母さんにも途中で合流して、ぎこちないながらもおしゃべりをしながら待ちます。どんな話をすればちゃんと話せるか、お母さんが普通に話してくれるかを考えながら話しているのですが、もしかすると客観的に見たら沈黙が気まずくて無理に話しているようにも見えるかもしれません。そう思われているとしたら、少しかなしいですね。

 

 しばらくお母さんの仕事の話を聞いて、次第にお母さんとも普通に話せるようになって来ました。近付かれてしまうとまだこわくなってしまいますが、それはお母さんに限らずお兄さん以外みんな同じなので気にしません。

 

 途中、近付かれて震えてしまったのと、左手が使えないことに着いて突っ込まれて、瑠璃華さんの話をすることになりました。お母さんの顔色がなんて言ったらいいのかわからないくらいコロコロ変わり、しばらく空気がお通夜みたいになりましたが、本当のことを言っただけなので大丈夫でしょう。まあわたしはお通夜なんて行ったことがないので、本当のお通夜がどんな空気なのかは知りませんが。

 

 それ以降その前よりもずっとわたしのことをお母さんが気にかけてくれるので、むしろ話してよかったかもしれませんね。少しでも困ったことがあればすぐに知らせてほしいと、わたしにスマホを渡そうとしたのには驚きました。お兄さんにもらったものをダメにしてしまってからは、どうにもわたしからはお願いしにくくてまだしばらくは難しいと思っていましたから。

 

 お兄さんもお母さんがあまりに熱心なのに押されて、お母さんがわたしにスマホを買い与えることを許諾します。自分が親なのだからと意見を押し付けず、保護者の意見を尊重するのは、お母さんのいいところでしょう。親なのに保護者じゃないという変わった状態に関しては、突っ込んではいけない所です。多分一番気にしているのはお母さん自身でしょうから、何も言いません。

 

 検体採取もほどほどに、お母さんに連れていかれて携帯ショップに行きます。たくさん携帯が並んでいますが、残念ながらわたしにはどれがよくてどれが悪いのかなんてわからないので二人に任せてしまいます。もともとお兄さんが使わなくなったものを使わせてもらっていたわたしにとっては、どれもこれもがおーばーすぺっくです。

 

 傍から話を聞いているに、なるべくいいものをと最新機種を選ぼうとしているお母さんを、普段のわたしの使い方を知っているお兄さんが止めているようです。えふぴーえすが快適にできると言われても、わたしがスマホでやるゲームなんてソリティアがせいぜいなので、きっとスマホが泣いてしまうでしょう。

 

 速度だけを求めたら完成までに50秒を切ったソリティアの話はともかくとして、わたしもお兄さんの方に賛成ですね。持っているだけで使わないものなんて、もったいないだけです。何なら、ソリティアですらトランプがあるからやらなくてもいいくらいなのですから。

 

「客観的な事実として、すみれにはそんな高性能のスマホがあっても仕方がないんですよ。少し前までデジタル機器に触ってこなかったこの子にとって、最新の端末なんて未知の塊なんだ。昭和の時代に今のスマホをもっていったとして、まともに使いこなせる人がどれだけいると思いますか」

 

 まるでおばあちゃんみたいな扱いに、少し不服の気持ちが上がります。わたしだっていろいろ検索したり、電話やメッセージをつかったりと最低限使っているはずです。あんまりないいようにお兄さんに文句を言うと、それを聞いたお母さんが素直にお兄さんの言葉を受け入れてしまいました。何というか、すごく納得できません。

 

 結局、二世代前の、お手頃らしいものに決まり、基本的な携帯代はお母さんが全部払ってくれることになりました。わたしはまだ少しむくれていましたが、新しい携帯がお兄さんの使っているものの同機種で、二世代先のものと聞いて機嫌が直りました。少し違うかもしれませんが、お兄さんとおそろいみたいなものです。

 

 ……最新機から4世代遅れているお兄さんが、さらにその前に使っていたもので十分すぎたわたしが、新しいものを満足に使いこなせるのか、早くも心配になってきましたが、先のことは考えないようにしましょう。その方が精神衛生上いいと思います。

 

 買ってもらったばかりのスマホで、早速お兄さんと連絡先を交換します。一番最初に連絡先を入れるのは、やっぱりお兄さんがよかったです。順番が違っても何も変わらないことはわかっているのにそれでもそうしたいと思ってしまうのは、おかしなことなのでしょうか。お母さんに買ってもらったのだから、最初はお母さんと交換するのが妥当で、自然なことだとはわかっているのです。わかっていてなお、そうできないのです。

 

 

 

 いえ、そうできないとか、そうしたかったとか、そんなあいまいな言葉でごまかすのはもう無理がありますね。わたしはお兄さんの事が他の誰よりも好きだから、愛しているから、わたしの一番最初はどれもお兄さんであってほしいと思ったのです。お兄さんの一番を全部わたしがもらいたいと思うのと同時に、わたしの全部はお兄さんにもらってほしいのです。

 

 勿論、わたしもこんなことをそのままお兄さんに伝えたら引かれてしまうかもしれないことはわかっています。だから全部を全部そのまま伝えるなんてことはせずに、多少上辺を取り繕いながら、無邪気な好意を装いながらお願いして、無事に連絡先をもらいました。

 

 気にするかもしれなかったお母さんも、どこか微笑ましそうにわたしのことを眺めているだけだったので完全に問題はないです。お兄さんの後にお母さんにありがとうと伝えながら連絡先を交換すればだれにとっても不幸にならないパーフェクトコミュニケーションの完成です。

 

 最後にお母さんと一言二言言葉を交わしてこの日は別れます。相談したいことがあったら何でもしてくれていいからねといたずらっぽく耳打ちしたお母さんの声は、こっれまでわたしが聞いたことのないような、どこか楽しそうで幼げな響きでした。

 

 

 お母さんのこの声音が、わたしの中に残ります。話してもいい相手として、わたしがどうしたらいいのか相談できる相手として、残ります。だって、その声には楽しさとか期待とかはあっても、悪意とかそういう嫌な気持ちはなかったんです。わたしの想像の中のものでしかない、友達の恋路を面白半分に応援するみたいなそんなものと似ていたんです。わたしに友達なんていないので所詮ただの妄想ですが。

 

 

 けれども、わたしはそんな妄想に任せて、お母さんに恋愛相談をしました。わたしがお兄さんに向けているものが恋愛感情と呼べるものなのかはともかく、わたしの抱いている感情をどうすればいいのか、どうしたらお兄さんに気持ちが正しく伝わって、お兄さんにも同じように思ってもらえるのかを相談します。

 

 お母さんは、教えてくれました。わたしがお兄さんに向けている感情と、お兄さんがわたしに向けていてくれているものは多少の違いがあったとしてもほとんど同じものであると。このまま何もしなくてもいつしか自然と思いは形になるだろうけれども、それを促進したいのならば、あることをすればいいと。

 

 それは、わたしにとってはあまりにもはしたないことです。お兄さんとのことを相談して、その答えとしてえたものでなければ間違いなくそんなことはしなかったでしょうし、できなかったでしょう。

 

 けれど、わたしはそれを聞いてラッキーだと思いました。わたしがしたくてもできなかったそれで、お兄さんがわたしを思ってくれるのなら、一石二鳥というほかないでしょう。

 

 お母さんにそれを教えてもらってから、普段通りに過ごします。わたしの戸籍に関する話が次々と送られてくる中でも、あくまで平静を保ちます。来るべきそのタイミングまでは、なにも知らないふりを続けます。

 

 そうしている内に、わたしの戸籍ができました。お母さんの子供として自分の権利を、今までは主張できなかった権利を主張できるようになります。もういらない心配をお兄さんにかけることもないし、お母さんが認めてくれるからお兄さんとずっと一緒にいられるんです。やっとわたしは、お兄さんの下で普通の人として過ごせるようになるのです。

 

 お母さんのおかげですね。この手伝いがなければわたしがこうして普通になれることはありませんでしたし、仮に普通になれていたとしても、ずっとお母さんのことを引きずることになっていたでしょう。

 

 また何度も会う機会はあるはずなのに、なぜかお別れみたいなことをお母さんが言い出します。わたしはお母さんともう会えないなんて嫌です。また会いたいですし、前までは瑠璃華さんにしていたような、お兄さんにはしにくい相談もしたいです。

 

「……お母さん、また、会いに来てもいいですか?」

 

 なにか嫌な予感がしたので、お母さんの下に行って、ちゃんと確認します。涙をこぼしながらもちろんというお母さん。やっぱり、もうほとんど合わないつもりだったのでしょう。

 

 わたしにとっては全部丸く収まって、お兄さんの元に戻ります。少しじっとりとした視線をお兄さんから感じる気がしますが、わたしがこれからすることに比べれば些細なことでしょう。

 

 家に帰って、リラックスしだしたお兄さんに甘えに行くふりをしながら近付きます。いつもみたいにわたしのことを受け入れてくれたところで、無防備になっている口元を狙います。

 

 少しカサカサしたものが唇に触れました。触れるだけのものでしたが、わたしのはじめてです。

 

 顔を離すと、お兄さんの呆気にとられた表情が見えます。

 

 わたしのことをこんな風にしたのですから、何もなかったわたしを普通にしてくれたのだから、お兄さんには責任を取ってもらわなくてはいけません。

 

 もう、ただの家族のままじゃ、いられません。

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