無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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一線(裏)

 お兄さんがわたしに対して独占欲を抱いてくれるようになると、それは行動に出ました。

 

 じっとわたしを見つめていることが多くなったり、お兄さんからのスキンシップが増えたり、抱きしめてくれる時の力が強くなったり。

 

 一歩引いたところから、保護者的な視線で見守ってくれていたのも心地良いものでしたが、こうやってある種のモノ扱いされているような感覚も、悪くありません。むしろ、求められているということが実感できるので、気持ちいいとすら言えます。

 

 わたしが買い物に行こうとすると着いてこようとするのも、お母さんと電話をしているとやたらとこちらを気にしているのも、少し離れたところに座ると近くに座りなおすのも、どれもこれも、お兄さんがわたしに執着しているからすることです。それが嬉しいから、あまり良くないこととわかっていながらも、あおるようなことをしてしまいます。

 

 もっともっとわたしのことを見てもらえるように、アピールしてしまいます。

 

 

 それが功を奏したのか、そんなことを続けていたある日お兄さんに突然抱きしめられました。どちらかと言えば締め付けると言った方が正しいくらいに、沢山力が込められます。肺が圧迫されて、息をするのも苦しくなります。手はほとんど動かせなくなります。

 

 苦しくて、きついはずなのに、お兄さんに与えられたものだと思えば、それすら愛おしくなりました。瑠璃華さんに痛いことをされた時は嫌なだけだったのに、お兄さんのせいで苦しいのは嫌じゃありません。

 

「……お兄さん、すこし、苦しいです」

 

 けれど、さすがに呼吸出来ないのはつらいので、お兄さんにそのことを伝えます。お兄さんの腕の中で終わるのは本当ですが、まだまだこれからいくらでも幸せになれる今終わるのは不本意です。

 

 でも、こんなふうに抵抗できないくらいに抱きしめられて、ドロっとした気持ちを向けられるということは、そういうことなのでしょうか。わたしのアピールが届いて、そういう対象として見て貰えるようになったのでしょうか。

 

 そうであれば嬉しかったのに、お兄さんはごめんと言って手を離してしまいました。残念ですが、今までで一番それっぽい雰囲気になった気がします。今なら、少し押してみれば、案外コロッと堕ちてくれるかもしれません。

 

「……なにも、しないんですか?」

 

 耳元で囁きます。何をしてもいいのだと、アピールします。わたしからこんなことをするのはふしだらな子だと思われそうで避けていましたが、体温を伝えるためにお兄さんの頭を抱え込みます。ここまでやってダメなら、しばらくは押し入れの中にひきこもらないとやってられませんね。でも、もう少し、あと一押しです。

 

「真剣に考えての結果で、ちゃんと責任を取るなら好きにしていいって、お母さんも言ってくれました。だから、()()()がしたいようにしていいんです。燐さんのすることなら、わたしはなんでも受け入れますから」

 

 燐さんの理性を、最後の抵抗を奪うために、お母さんからもいいと言われていることを伝えます。成人するまでは、避妊はしなさいと言われていますが、それはつまりそれさえしていればすることはしていいということです。

 

 わたしの意志も、よっぽど倒錯したことでなければなんでも受け入れられるということも伝えます。実際にやってみないと喜べるかはわかりませんが、燐さんが求めるのなら多少の我慢は覚悟しています。

 

 だから、何も気にしないで、何も我慢しないで、好きなようにしていいのに、残念なことに燐さんはそうしてくれませんでした。真剣そうに、わたしに離れるように言います。少し押し過ぎたのかもしれません。もう少し背中を押すだけでよかったのに、勢いをつけすぎてしまったせいで踏みとどまってしまった、そんな気がします。

 

 悔しさと、ここまでしたのに断られたという恥ずかしさと悲しさが沸き上がってきますが、ひとまずは燐さんの言うとおりにします。一度失敗した以上、今この場でこれ以上迫ったところで逆効果になるのは目に見えています。

 

「ごめんね、でも、今の僕の気持ちのままでそういうことをするのは、やっぱりいけないことだと思ったんだ」

 

 どんな気持であったとしても、燐さんが最終的に責任を取ってくれることくらいわかっています。だからどんな方法でもなりふり構わずに迫ったのに、これじゃあ台無しです。どうせ同じ結果になるのだから、少しも我慢なんてしたくないのに、こんなことを言われてしまったら我慢するしかないじゃないですか。

 

「だから、もう少しだけ待ってほしいんだ。ちゃんと、すみれの気持ちにこたえあれるようになるから」

 

 もう、たくさん待ちました。ずっとずっと我慢していたのに燐さんはまだわたしに我慢しろと言います。ひどい人です。鬼畜の所業です。

 

「……燐さんのヘタレ」

 

 だから、こんな言葉が出てきてしまっても、わたしは悪くありません。今までで一番頑張ったのに、断られたらしばらく引きこもろうと思うくらい頑張ったのに、こんな仕打ちなのですから。

 

「でも、いいです。燐さんがわたしのことをちゃんと考えて、向き合ってくれるのなら、今はそれだけで満足してあげます」

 

 それなのに、恥ずかしくて恨めしく思うのと同じかそれ以上に嬉しく思ってしまっているわたしもいます。だって、一度衝動的になったのに、そこから冷静になれるくらい、燐さんはわたしのことを大切にしてくれているのです。そしてそのうえ、これからはわたしのことをそういう対象として見れるようにするとも言ってくれています。

 

 このことが嬉しくないのであれば、一体何が嬉しいのでしょうか。大好きな人に大切にされていて、これからもっと大切に思ってもらえることが決まっているのです。これが嬉しくないという人がいるのであれば、その人はきっとどこかがおかしいのでしょう。

 

 でも、わたしは欲張りな子なので、悪い子なので、この嬉しさだけでは止まってあげません。真剣な顔をしている燐さんに再度顔を近付けて体重をかけます。こうしたら優しい燐さんはわたしを支えてくれて、そのせいでわたしの邪魔ができなくなります。

 

 すっかり無防備になった燐さんの唇。これはもう、わたしのものです。ほかの誰にも、触れさせたりはしません。その所有権を主張するために、そうして見せると意思表示をするために、奪います。三回目は、燐さんからしてくれるでしょうか。

 

 ほんの一瞬だけの、淡く甘美な時間を楽しみます。きっと次はもっと長く、もっと幸せに。

 

「安心してくださいね、燐さん。すぐにわたしの気持ちに応えたくなるようにしてあげますから」

 

 考えるだけで、頭が溶けてしまいそうです。我慢ができなくなってしまいそうです。ちゃんと我慢しきれる自信がありません。

 

 わたしは、燐さんが受け入れてくれるまで、我慢できるのでしょううか。いえ、できなかったとしても、いいのかもしれません。仮に寝込みを襲うようなことになってしまったとしても、そんなの、いつまでも待たせるようなことをした燐さんが悪いんですから。

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