無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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 おめでとう!HAPPYEND?はBADENDにしんかした!(╹◡╹)

(もう残っていないと思うけど)苦手な人はブラウザバックして本当のハッピーエンドが投稿されるまでお待ちください(╹◡╹)
 今後の予定
 ハッピー→ワースト→ベスト?
 の順番で書きます。もう騙さないから安心してね!!(╹◡╹)


第106話

 ドアを開けると、焦げ臭い臭いがした。

 

 この時点で、僕の興奮は冷める。普段すみれは料理中に目の前の鍋から目を離さないし、離すことがあってもそれは弱火で、かつごく短時間の場合だけだ。火にかけているものが焦げるようなことは、普段ならありえない。

 

 それなら、この臭いは一体何だ?一人で暮らしていた時以来の、この臭いはなんでしている?そんなの、すみれに何かがあったからにほかならない。頭の中が真っ白になって、慌てて部屋の中に入る。すみれが料理中にうたた寝しているとかならまだいい。けれどもし、何かよくないことが起きているのなら。すぐにでも、何とかしないといけないんだ。

 

 すみれの名前を叫びながら、転びそうになりながら駆け込んで、まず目に入ったのは黒い煙を上げながら、なおも熱され続けている焦げ付いた鍋。煙自体は換気扇に座れているが、臭いは吸いきれていない。焦げ臭い臭いの原因はこれだろう。でも、今はそんなことはどうでもいい。

 

 コンロの火を消すことすらせずにリビングに向かい、そのまま奥の部屋に向かう。

 

 そこにあったのは僕が探していたすみれの姿だった。そこにあったのは、僕が見たくなかったすみれの姿だった。

 

 手足は投げ捨てられた人形のように放りだされ。お気に入りだったはずのパジャマはボタンが引きちぎられ、下着は汚されていた。さらさらだった黒髪からは赤い液体が染み出して、水たまりを作っている。

 

 

 

 頭が、理解することを拒んだ。だって、今日帰ったらすみれが笑顔で迎えてくれるはずで、豪華な晩御飯と嬉し恥ずかしい初体験が待っているはずだったんだ。朝、すみれがそう言ってくれたから、それを楽しみに一日休む暇も惜しんで頑張った。そのはずなのに、これはなんだ。なんで、見覚えのない段ボールの横で、すみれはこんな風に打ち捨てられている?

 

 わけがわからない。意味が分からない。右手に持っていた鞄が、手から滑り落ちる。頭が追いつくよりも先に、すみれに駆け寄っていた。

 

 

 名前を呼ぶ。肩をたたく。反応がない。

 揺さぶり、体を起こそうとする。いや、いけない。頭を怪我しているときは動かしちゃいけない。

 呼吸を確認する。小さいけれどもある。胸に触れる。ゆっくりと、鼓動が感じられる。

 

 

 まだ、まにあう。

 

 頭の中は相変わらず真っ白なのに、不思議と体が動いていた。すぐに119を押して、住所と状況を話した。説明を終えて、何かできることはないかと聞いたら素人は何もしないでいいと言われたから、ただすみれの手を握っていた。それしかできなくて、それしかさせてもらえなかった。幸いにも比較的近くに消防署があったことで直ぐにきてくれた救急車を呼び込むことしかできないままに、気が付くと救急車に一緒に載っていた。

 

 そのまますみれの入院が決まるまで、僕は何もできなかった。ただそばにいるだけで、何の役にも立てなかった。

 

 

 

 

 

 

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 インターホンを聞いて玄関に出るとそこにいたのは、見慣れた制服に身を包んだ、どこかで見た覚えのあるおじさんでした。

 

 届け物は予想通り荷物で、品物は燐さんがわたしのために買ってくれた、クラゲ用の水槽です。小さめの魚を飼育するのにつかわれるサイズのものですが、あまり動かなくて共食いもしないタイプのクラゲであれば、いくらか飼育するには十分な大きさです。

 

 燐さんがいないタイミングで届いたのは少し予定外でしたが、宅急便屋さんの働く時間を考えれば、このくらいの時間に来るのが普通ですので、特に疑うこともなく普通に受け答えます。そのまま受領票だけ書いて帰ってもらおうと、わたしの苗字である灰岡と書いてお引き取り願おうと思いましたが、ここで一つ思考が回ります。

 

 それは、今これを受け取ったとして片手しかつかないわたしにこれを運ぶ手段はありません。そうなると、わたしが燐さんを迎えるときに、明らかに異質なものが残ることになってしまいます。そんことになれば、燐さんはわたしに集中しきれなくなってしまうでしょう。

 

 それでは、締まりません。わたしの求める理想のものと比べて幾段と劣るものになってしまいます。そうすると、おのずとこの段ボールを家の中に運び入れる必要がありますが、わたしの手では残念なことに自力で運び込むことができません。意地を張ったとしても、廊下からリビングに移ることもできず、バランスを崩して大惨事になりかねません。

 

 そんなもしものことを考えて、わたしは玄関での受け取りではなく、部屋まで運び込んでもらえないか頼むことにしました。怪訝そうにしていたおじさんも、わたしが左手のことを告げると納得して運び入れてくれます。

 

 水槽の置き場所に選んだのは、寝室でした。だからそこに置いてもらって、お礼を言います。ここなら燐さんが帰ってきてからも変にムードを壊すことなく迎えられますし、完璧です。

 

 配達員のおじさんにお礼を言って、帰ってもらおうと思ったら、おじさんの様子がおかしいことに気がつきました。好色な顔になって、わたしを値踏みするような目で見ています。

 

 燐さんからそう見られた時はうれしいだけだったのに、知らないおじさんから同じようにされると、恐怖しか感じませんでした。

 

 おじさんが手を伸ばします。逃げようと、悲鳴をあげようと思ったのに、怖くて体が動きませんでした。声が詰まって、出てきませんでした。

 

 声が出るようになる前に、口を塞がれます。体が動きません。抵抗が、できません。

 

 ようやく抵抗を示せたのは、パジャマのボタンが引きちぎられた後でした。何をされるのか、何をされようとしているのかが明確になって、燐さんのために用意していたものが踏み荒らされそうになっていることがわかって、やっと拒絶の言葉がでます。腕を使って距離を離そうとします。

 

 でも、今更抵抗しても手遅れでした。口は塞がれていますし、わたしの力で、成人男性にかなうわけがありません。頭を殴られて、今更抵抗して萎えさせるなと言われます。

 

 それでも、そのまま受け入れることはどうしてもできなくて、抵抗を続けました。意味なんてないことは、わかってます。無駄に終わることも、わかっています。それでも続けて、

 

 顔を掴まれたまま、頭を何度も床に叩きつけられました。

 

 

 痛くて、こわくて、苦しくて。

 

 燐さんに、助けを求めながら、わたしの意識は途切れました。


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