無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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 この作者な、自分で苦労して編んだマフラーを勢いよく解くのが好きなんだ。努力が全部無駄になった時の開放感と徒労感が堪らないんだ……(╹◡╹)

 このエンディングのために重ねてきた40万文字(╹◡╹)



第107話

 

 

 病院に着いても、僕が何も出来ないことに変わりはない。処置室に運び込まれたすみれの無事を祈って、その前のベンチに座っているだけだった。

 

「危ないところでした。あと30分遅かったら、命は危うかったでしょう」

 

 待っていた僕にかけられたのは、そんな言葉。命が無事だったのは不幸中の幸いと言うべきだろう。たまたま今日、早く帰ることができたから間に合った。そのことに安堵すると同時に、間に合ったのが奇跡のような、危うい状況だったことに背筋が凍った。

 

 早いうちに帰らせてくれた上司に心底感謝しながら、処置室からでてきた医者の言葉を待つ。

 

「詳しくは検査をしてみなくては分かりませんが、体の機能に障害が残る可能性や、このまま目覚めない可能性、最悪の場合は、急変することも考えられます」

 

 告げられたのは、そんな言葉だった。突然こんなことになって、まだ受け止め切れていないのに追い打ちをかけるようなことを言われる。そのまましばらく放置されて、少しするとやってきた警官に事情を聴かれた。

 

 詳しい事情なんて、何も知らない。僕はただ帰った後のことを楽しみにしていて、突然あんな状況に放り込まれただけなのだから、一番事情を知りたいのは他でもない僕だろう。

 

 それでも、わかる限りのことは話した。今日のこと、家に帰ってからの事、部屋の中で感じた、些細な違和感。全部話して、事件性がありそうだと判断されたらしく、家の中を調べていいか確認されたので、好きなようにしてくれていいと伝える。見られて困るようなものも、取られて困るようなものもどうせない。何なら、鍵をかけ忘れていたことにすら今になって気付いた。

 

 けれど、いいといったからそうですかともいかないらしく、その場に立ち会うことを求められた。本当はすみれのそばにいたかったけれど、医者にもはっきりと何もできることはないから協力してきた方がいいと言われてしまったので、おとなしく言うことを聞いて一度家に帰る。

 

 

 こんな時、どうすればいいのかが僕にはわからなかった。何をすればよくて、何をしてはいけないのか、何もわからなかった。

 

 だから僕よりも詳しい人の言うことを聞いて行動することしかできなかったし、そうした結果このようになったわけだ。あとから聞いた話だが、この時の僕はまともに頭が働いていなかった、現実を受け入れられていなかったせいか、ひどく冷静であるように周囲からは見えていたらしい。被害者の身内ということを踏まえても、変に気をつかう必要がないくらい冷静なように見えていたらしい。

 

 けれどそのかいもあったのか、現場である僕らの家とすみれの体に残っていた残留物の鑑定結果と、念のためと取られた僕のそれから、かなり早い時点で僕の疑いは晴れたらしい。そして、僕が何かをする前に状況確認をできたおかげで、すみれをこんな目に合わせた容疑者の候補も立った。

 

 何でも、玄関から部屋までの間に抵抗や争った痕跡が見られなくて、その部屋でのみ抵抗や暴行の痕跡があったことから、あの部屋に置いてあった見知らぬ段ボールの箱、その元の持ち主に疑惑が回り、その日やたらと不自然な行動があった配達員に疑惑が寄せられているらしい。

 

 そのあたりのことは僕にはどうしようもないので、僕は空き時間のほとんどをすみれの横で過ごした。いつ目を覚ましても、すぐ隣で迎えられるように。ただただ一日中、面会時間いっぱいまですみれのそばにいた。

 

 それができたのは、すみれとの時間のためにあらかじめ金月と取得していた休暇のおかげだ。本当はもっと幸せな時間のために使うはずの休暇だったが、すみれが目を覚ますまでそばにいるためには、役に立ったのでよかった。

 

 

 

 結局、すみれが意識を取り戻したのは、ことが起きてから四日目の昼頃。深刻そうな顔をした医者に、今後目を覚まさないことも考慮した方がいいかもしれないと忠告された翌日の事だった。

 

 目を覚ましたすみれに、まず抱いたのは安心。前日にもう起きないかもと言われたのだから、それは安心もする。その次は、すみれを一人にしてしまったことに対する、強い後悔。

 

 目を覚ましたすみれは、出張から戻ってきた時と同様に、いや、その時よりもずっとひどく、人を恐れるようになっていた。一番すみれに信じてもらえている僕なら、だれよりもすみれに受け入れられてる僕ならまだまともにやり取りができるだろうと思ったのにそんなこともなく、他の人たちと同じかそれより多少ましなくらいで、普通に怖がられた。

 

 なるべくすみれを怯えさせないように、その場にいた全員で見つけた方法は距離をとること。そして一番まともに会話ができたおばあさんの看護師を間に立てて話をすること。

 

 もどかしさもやるせなさもあったが、それが一番すみれの負担にならないのだから、仕方がない。おばあさんも快く協力してくれたこともあって、すみれの事情聴取は比較的すぐに終わった。聞けた話は、荷物を運んでもらったらその宅配員から暴行を受けたというもの。そして、かなり早い段階で意識を失ったから、何をされたのかがわからないということ。

 

 被害者の供述を聞いた警察は容疑者を確保するためにすぐに行動を始めて、残ったのは僕と病院の人。

 

 痛いところや違和感のあるところはないかの、自覚症状の確認がまずあって、その後検査に移る。ひとりで上手く立てないすみれを、怖がらせてごめんねと謝りながらおばあさんが車椅子に移動させた。

 

 そして検査の結果知らされたのは、右脳の機能の著しい低下と、一部内臓のダメージ。具体的な症状は、まず左半身の不随。こちらはリハビリ次第では多少快復する可能性も残っているらしい。とはいえ多少の快復で、可能性はあるという程度の物言いだから、もう治らない可能性の方がずっと高いのだろう。

 

 

 そして二つ目は、今後子供は望めないということ。それを聞かされた時のすみれの表情は、きっと一生忘れることができないだろう。そこにあったのは、僕の言葉では言い表せないほど深い絶望だった。

 

 





 時間をかけたものほど、思い入れのあるものほど壊れる姿は美しいのよね(╹◡╹)
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