無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

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HAPPYEND 鳥籠の中の終わらない幸せ、わたしたちだけのやさしい世界3

 お兄さんが帰ってきたら、いつも通りご飯の時間です。鞄を運んで、お兄さんのためにご飯の準備をして、いつも通りのご飯の時間が始まります。普通のハンバーグと迷って、直前で変えたロコモコ丼です。レタスを千切って卵を焼くだけの違いですが、お兄さんの反応を見るにこの選択は正解だったようで、いつもよりも嬉しそうにしていました。お兄さんが丼ものが好きなのか、みんな丼ものが好きなのかはわかりませんが、どちらにせよ、お兄さんが嬉しそうなのは事実です。そして、事実は変えようのないものであり、お兄さんの反応を見るしかないわたしにとっては何よりも参考になる要素でもあります。

 

 お兄さんが美味しそうにしていたのなら、それだけが大事なことです。幸いなことにお兄さんとわたしの味覚はそれほど相違のないものであるようなので、わたしにとって美味しいものを作れていれば問題ありません。それでもマンネリ化を避けるために、ある程度新しいレパートリーの更新は必要になりますが。

 

 それで、今回に関しては問題なくお兄さんに美味しいご飯の時間を過ごしてもらえました。お兄さんの反応がいつもよりも気になるのは、わたしがお兄さんに対して伝えたいことがあるからでしょうか。

 

 お兄さんに対して言いたいこと、わたしの本音を隠した状態での提案は、やっぱりよくないのではないかと思いながらも、伝えることを、それによって得られるものを諦めることができずに、することを決めてしまいました。

 

 しかし、それは決めたとしても、どのタイミングが一番いいのかはわかりません。帰ってきた直後、ご飯を食べ終わったタイミング、そのどちらも、今ではないという感覚が強くて、ダメでした。結局、お兄さんは今お風呂に入っています。

 

 こうなるともう、この後の時間、普段のんびり過ごしている時間に話を持っていくしかありませんね。少しだけハードルが上がりましたが、本来真剣に話さなくては去らない話題なので、これが適正なのだと思うようにしましょう。

 

 洗い物を終えて、机を片付けてお布団の準備をします。わたしのお布団は机を片付けてからじゃないとスペース的に引けませんから、これをすることもお兄さんがシャワーに入っている間にしなくてはおけないことです。正直、毎食の度にしなければならない洗い物については、もっとシンクが広ければいいのにと思いますが、いつも綺麗を保つためであればこれでいいのかもしれませんね。

 

 お兄さんが上がってきて、ホカホカと湯気を上げながら、少し水分の残った頭でベッドに横たわります。ちゃんと乾かさないで寝るのは良くないと読んだことがあるので、ドライヤーで乾かしてあげたくなりますが、さすがにそこまでわたしに干渉されるのは、お兄さんとしても嬉しいものではないでしょう。こんなところでお兄さんに嫌がられるのは本意ではないので、ここは何も言わないでおきましょう。わたしの伝えたいことは、話したいことは、ここではないのですから。

 

 どのタイミングで、どうやって話を切り出せばいいのかわからないまま、時間が経ちます。お兄さんのことをちらちら見ながら、お兄さんに話しかけられそうなタイミングを伺います。

 

 きっと、話しかければ特に気にせずに聞いてくれることはわかっています。なにか作業をしている途中でも、きっと切り上げて聞いてくれるとは思います。でも、お兄さんになるべく迷惑をかけたくないわたしとしては、一番問題ない時を探してしまうのです。お兄さんが暇を持て余していて、わたしに話しかけられることが嬉しいと思ってくれる時を探ってしまうのです。

 

 結局そんなタイミングを見つけることは出来ないままで、一時間が経ってしまいました。お兄さんの起きる時間以外は気にしなくていいわたしとは違って、次の日に起きなくてはならない時間が決まっているお兄さんは、あと一時間もすれば寝なくてはいけない時間です。お兄さんの寝る時間に合わせるわたしも同じ時間に寝なくてはいけませんが、それは今は置いておきましょう。

 

 

 そしてそうなると、わたしがお兄さんに話しかけていい時間はもう残り僅かになってしまいます。別に今日しなくてはいけない話ではないので、そこまで気にする必要のない内容ではありますが、もう頭の中のほとんどをお兄さんとのハグで占められてしまっているわたしにとっては、この状態をあと一日、あるいはそれ以上キープしなくてはいけないという事実は、とても辛いものです。辛いものですので、なるべく早く解消しなくてはなりません。そして、それを解消するにはお兄さんにお願いするしかありません。

 

「お兄さん、お願いしたいことがあるのですが、今お話しても大丈夫ですか?」

 

 だから、わたしは話しけるしかありません。幸いなことに、時間を持て余しているとまではいかなくても、お兄さんは今それなりに暇そうです。だから話しかけてみようと思って声をかけてみると、お兄さんはスマホをすぐに置いて、わたしの方に向き直りながら全然大丈夫だと微笑みかけてくれました。

 

 

 話しかけてしまった以上、いいと言われてしまった以上、もうわたしに逃げ道は残っていません。お兄さんにたいして、わざわざ話しかけた理由を話すしかありません。ひとまず、今日の朝いつもみたいにちゃんと起きれなかったことから、話を切り出します。

 

「それで、寝起きがよくない原因を調べてみたんですけれど、ストレスが理由になることがあるらしいんです。それで調べていたら、ハグでストレスが解消できるって書いてあって。お兄さんがいやじゃなければですけれど、よかったらハグ、してもいいですか?」

 

 提案を、します。本当はもっとそれとなく伝えて、わたしがそうしたいという気持ちを抑えるつもりでしたが、実際に言葉にしてしまうとそれを隠しきることができずに、ハグをねだるような言い方になってしまいました。わたしの本心としては間違っていないのでいいのですが、これでお兄さんにはしたない子と思われないかが心配です。

 

 お兄さんはわたしの言葉を聞いて、数秒だけ黙りました。やっぱり突然こんなことを話すなんてダメだったかなと、自分の気持ちを抑えられなかったことを反省します。でも、そのすぐ後に返ってきた言葉は、そんなことなら全然かまわないという、うれしいものでした。

 

 おいでと言って、お兄さんが腕を開きます。嬉しさと恥ずかしさで回らなくなった頭で、それに従います。

 

 石鹸の匂いと、シャンプーの匂いと、柔軟剤の匂い。その中に混ざっているそのどれでもないものは、お兄さん自身の匂いでしょうか。お兄さんのベッドの匂いとも同じですから、きっとそうなのでしょう。安心する匂いなのに、なぜかドキドキする、不思議な匂いです。

 

 ギュッと抱きしめられて人の体の温かさがわかります。記憶の中にあるお母さんのものよりも温かくて、わたしの体も内側から熱くなってきます。お母さんとは違って硬い体、強さの中にもやさしさが感じられる腕。

 

 たくさんの情報が頭の中に入ってきます。わたしの頭の中がお兄さんで埋め尽くされてしまいます。さっきまであった不安がとけていって、心地よさだけが残ります。

 

 これは、だめです。こんなのを知ってしまったら、わたしはだめになってしまいます。お兄さんにしてあげられることが少なくてもらってばかりなのに、もっとたくさんもらいたくなってしまいます。

 

 そんなふうになってしまったら、いつかお兄さんに嫌われてしまうかもしれません。そうなってはいけないのに、そうなることに危機感を覚えるのに、そんな考えもすぐにとけてしまいます。今はもうこれだけあればいいやと、なにも考えずにこうしていたいと思ってしまいます。

 

 

 お兄さんとのハグは、よくないものだったかもしれません。わたしはこれを知っていけなかったのかもしれません。そんなことを本気で考えてしまうくらい、わたしの頭は幸せになってしまっています。涼しい部屋なのに暑くなって、少し汗までかいてきてしまったから、もう離れないといけないとわかっているのに、もうすこしだけもうすこしだけとのばしてしまいます。

 

 

 結局、お兄さんから離れることができたのは、ずっとくっ付いて動かなくなってしまったわたしのことを心配したお兄さんに、ちゃんと意識があるか確認されてからでした。時計を見るといつの間にか十五分も経っていて、お兄さんが確認してしまうのも納得です。

 

 これで今夜はいい睡眠がとれそうかなと言うお兄さんに、よく眠れ過ぎて明るくなる前に起きてしまいそうだと言ったら、それなら朝ごはんは期待しているねと言われました。さすがにいつもより早く起きるのは出来なさそうですが、その分気持ちはたくさん込めて作りましょう。

 

 お兄さんにお礼を言って、今度はお兄さんがなにかわたしにしてほしいことがないかを聞きます。いつもたくさんやさしくしてくれるお兄さんに、とっても良くしてくれるお兄さんに、少しでもいいからお返しがしたいです。

 

「してほしいことか。あんまりないけどそうだね、あえて何か挙げるとすれば、すみれちゃんにもっとおわがままを言ってほしいくらいかな。すみれちゃんはいい子なんだけど、ちょっといい子過ぎるから寂しくなるんだ」

 

 そう思って聞いてみると、お兄さんから返ってきた答えはそんなものでした。冗談を言ってからかっているのかと思ってお兄さんを見つめてみますが、そこにあったのは真剣そうな表情だけで、嘘があるようには見えません。

 

 

 こんなにたくさんよくしてもらっているからそのお礼がしたかったのに、もっと欲しがれなんて言われるのは予想外ですし、本末転倒です。もっともらったらもっと返したいのに、お兄さんがそれを求めてくれないと、わたしの気持ちはどうすればいいのかわかりません。

 

 でも、お兄さんがわたしにわがままを言うことを求めているのは確かで、それは変えられないことです。わたしが何かしてあげたいことは置いておいて、お兄さんに何かお願いされる方法を考えるのもおいておいて、わがままを言うことを考えなくてはいけません。

 

「……それなら、もうすこしだけだきしめてもらえませんか?」

 

 ハグの余韻が残って、まだ少しふわふわする頭で思いついたわがままは、これしかありませんでした。お兄さんがいたずらっぽく笑いながら、別に今すぐ言わなくてもよかったんだよと言って、わたしは早とちりしてしまった恥ずかしさで顔が真っ赤になっているのを感じます。

 

 あわてて、今のはなしでと言ったら、お兄さんはこちらに来て、やさしく抱きしめてくれました。恥ずかしさでいっぱいだった頭の中が、またお兄さんでいっぱいになります。

 

「今度はもっと、お菓子を食べたいとか、アイスを買ってきてほしいとか、そういうわがままも考えておいてね」

 

 ポンポン、と頭を撫でられます。それだけでまたうれしくなって、わがままとは逆のことを考えていたのに、何も考えずにはいと返事をしてしまいます。そのままお兄さんに抱きしめられて、なでられたまま、わたしはおやすみなさいを言えないまま、気がついたら眠ってしまっていました。

 

 

 





 ニンニクの丸焼きくらいのものを書いたので口の中の砂糖に耐えきれなくなった時にでもどうぞ(╹◡╹)

https://kakuyomu.jp/works/16817330658791757233
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