無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい   作:エテンジオール

114 / 126
HAPPYEND 鳥籠の中の終わらない幸せ、わたしたちだけのやさしい世界4

 目が覚めたら、まだ真っ暗でした。半分くらい冗談で言ったはずでしたが、本当に早起きできてしまいましたね。いつもよりも早い時間に寝たことが理由だとは思いますが、早い時間に眠れたこともハグのおかげですので、ハグのおかげで早起きできたといっても間違いではないのかもしれません。

 

 部屋の隅に置かれている時計を見ると、いつも起きている時間よりも一時間早いです。目もぱっちり覚めましたからこのままご飯を作ってしまいます。お兄さんは朝ごはんに期待していると言ってくれましたが、こだわるのは何も朝ごはんだけでなくてもいいのです。お昼のお弁当も、メニューが同じでもちょっとかわいくしたり、いろいろな工夫ができます。

 

 そんな工夫をすれば、お兄さんは喜んでくれるでしょうか。喜んでもらえると嬉しいですが、あまりかわいすぎても嫌がられてしまうかもしれませんから、どのあたりまでが許容ラインなのかを探っていく必要がありますね。ひとまず今日のところはウインナーをタコさんにするくらいにしておきましょう。

 

 お弁当を先に作ったら、外はもう明るい時間です。まだお兄さんの出勤時間までには十分な時間がありますが、それでも朝の準備が早いに越したことはありませんから、気を引き締めてご飯の用意を続けます。

 

 昨日は鮭を焼いただけでしたが、時間があるので今日はちょっとひと手間加えて、マヨチーズパン粉焼きにします。とはいえ、メインを用意するのは一番最後なので、その前におひたしやお味噌汁の準備です。ちゃちゃっと用意したら、焼き始めて、部屋につながる扉も開けます。こうすることでお兄さんの寝起きがよくなるからです。ちゃんと調べたことはないのでおまじないくらいのものですが。

 

 出来立てでまだ脂がぱちぱち鳴っている状態のものをすぐにお皿に移したら、お兄さんを起こします。顔を洗っている間にご飯をよそって、配膳を済ませておけば後はもう一緒に食べるだけです。

 

 お兄さんと一緒に手を合わせます。いただきますを言って、食べ始めます。ご飯もお魚も、出来立てでアツアツなので、急いで食べるのには向きませんが、十分に時間に余裕がある日はこうやってハフハフしながら食べるのがいいです。

 

 本当にいつもよりも少し豪華な朝ごはんだねとお兄さんに言われて、ハグのおかげで早起きできましたと伝えます。だからまたしてほしいと付け加えたら、お兄さんは少しだけおかしそうに笑いながら、いつでもしてあげると言ってくれました。言質はとったのと、昨日もっとわがままを言えと言われてしまったので、本当に遠慮なくお願いするようにしましょう。

 

 お兄さんに嫌がられないギリギリを攻めるチキンレースが始まることが決まったところで、いつもよりも少し早い時間ですが、お兄さんが出発する準備をします。基本的にはいつも同じ時間に家を出ているお兄さんですが、その時間に家を出なくてはいけないのではなく、出勤のしやすさで選んでいるだけらしいです。

 

 定時よりも少し早めについて、朝早いうちから少しだけ残業をすることで、帰りにあまり残業できない分を補っているのだとか。朝からなのに残業といういい方なのは少し違和感がありますが、お兄さんが言うにはそういうものなのだと。

 

 今日はいつもの時間よりも余裕をもって朝の支度が済んだから、その分の時間を有効活用する、ということらしいので、わたしも冷ましていたお弁当に蓋をして、保冷バックの中に入れてお兄さんの鞄に入れます。

 

「あの、お兄さん。いってらっしゃいのハグ、してもいいですか?」

 

 玄関まで鞄を持ってお見送りして、渡すタイミングでそうやってお願いを口にしてみると、お兄さんはおいでと言って受け入れてくれました。

 

 ふわふわして、ポカポカして、朝からとっても幸せな気持ちになります。まだ暗い時間から準備していたのは、このためだったのだと思うとそれだけで明日もまた頑張ろうと思えてきます。まだ朝なのに、もう明日のことを考えてしまうなんてさすがに少し気が早いですね。

 

 少しそうしていると、昨日ほど長くは抱きしめてもらえないままでお兄さんはわたしから手を放してしまいました。もっと続けてほしくて、お兄さんに回した腕に力を入れます。お兄さんにももっとしてほしいのだと、言葉にせずに伝えます。

 

「あんまり続けているといつまでも離れなくなっちゃうから、今はこれでおしまい。足りなかったら帰ってきてから続きしてあげるから、それまではいい子で待っててね」

 

 お兄さんはわたしの頭を撫でながらやさしく諭すと、最後に強めにギューッとして、お仕事に向かってしまいました。寂しい気持ちが少しだけ残りますが、それと同じくらいお兄さんが帰ってくるのが待ち遠しくなります。

 

 早く帰ってきてほしくて、待っているのがもどかしくて、そわそわしながら片付けを済ませてしまいます。今日に限って他にやらないといけない家事もないので、やれることは布団にころがってごろごろしているくらいです。お兄さんはお仕事に行ったのに、わたしがこんなに自堕落にしているのは少し罪悪感がありますね。

 

 

 そのことからは全力で目を逸らしつつ、見ていてもいまいち集中できないスマホを離します。何も集中できなくて、とてもさみしくなって、お兄さんのベッドにお邪魔します。本人がいなくて、何も迷惑をかけないのだからお邪魔じゃないのかななんて思いますが、そんなことは今は大切ではありません。今大事なのは、お兄さんのお布団はお兄さんを感じられるからさみしい時にピッタリだということです。

 

 早起きしたこともあり、安心できることもあり、お兄さんのベッドに入るとみるみるうちに眠くなっていきます。まるで魔法みたいですね。

 

 そのままウトウトして、目が覚めたのは1時半。普段ならお昼ご飯も食べ終わって自由な時間ですが、食べてすぐに寝たせいか全くお腹は減っていません。もしかしたら牛さんになってしまうかもしれませんが、わたしのサイズでは食用には向かないでしょうから売られていくだけですね。どな。

 

 頭の中がドナドナしたら、お肉の気分になってきます。今日の晩御飯はお肉にしたいのですが、残念なことに牛肉はありませんでしたから、鶏モモにしましょう。お肉と言えばお兄さんはラム肉が好きと言っていましたが、わたしは食べたことがありません。癖が強いということは読んだことがあるのですが、どんな味なのでしょうか。

 

 お肉をフォークで滅多刺しにしながらそんなことを考えて、下味をつけます。30分くらいつけておけば十分ですが、個人的にはもっとつけておいた方が味が染み込んで美味しくなる気がするので、時間は長めです。

 

 唐揚げに味が沁みるのを待ちながら洗い物をして、サラダと和え物をします。メインが油物なので、副菜はあっさりさっぱりしたもの。今朝のお味噌汁が残っていたのでそれだけ食べて、新しいお味噌汁の準備もします。中に入れる具材は昨日とほとんど変わらないので目新しさはありませんが、やっぱりお米にはお味噌汁が合いますからね。

 

 唐揚げ以外がほとんど完成したところで、小休憩です。再びお兄さんのベッドに戻って、どんなわがままを言うべきか、どうしたらお兄さんがわたしにお願いをしてくれるようになるのかを考えます。いまのままの状態ではどうしても申し訳なさを感じてしまいますし、そう出なかったとしてもいつものお礼になにかしたいという気持ちはあります。本当なら何をしてほしいか聞かずにそれをしてあげられれば1番なのだと思いますが、残念なことにそうできるほどわたしはお兄さんのことを知りませんでした。

 

 

 そう考えると、さみしくなりますね。いつも一緒にいて、こうして暮らしているにもかかわらず、お兄さんのことをわたしはなんにも知りません。ただわたしに優しくしてくれるということくらいしか、わたしはお兄さんのことを話せません。

 

 考えてみたら、お母さんについてもそうです。わたしのお母さん。ずっとやさしくて、でもある時からわたしのことを嫌いになってしまって、きっともう会うことのできないお母さん。今考えてみたら、名前も知らなくて、好きなものだってほとんど知りません。どうしてお母さんがわたしのことを一人で育てていたのかも、どうしてわたしを家から出したがらなかったのかも、なにも知りません。

 

 ……だから、わたしはお母さんに嫌われてしまったのかもしれませんね。お母さんはわたしのことをよく見ていてくれて、知っていたのに、わたしは何も知らなかったから、愛想を尽かしてしまったのかもしれません。

 

 考えてみたら、ありそうだなと思いました。そしてもしそうなら、お兄さんがお母さんみたいにならない理由は、あるのでしょうか。だってお母さんも、前はあんなに優しくてわたしのために色々してくれていたんです。お兄さんと一緒で、大事にしてくれたんです。

 

 その事を考えると、鳥肌が立つくらいこわくなります。寒くはないのに寒いような気がして、お兄さんの布団の中に潜り込みます。

 

 お兄さんに嫌われるのは、捨てられるのは嫌です。でも、このままだとそうなってしまうかもしれません。わたしがお兄さんのことを何も知らないせいで、お兄さんがどう思っているのかを知らないせいで、知らず知らずのうちに不快な思いをさせてしまうことになるかもしれません。

 

 それは、すごくこわいです。でも、知っていればそんなことにはならないはずです。だから、わたしはお兄さんにお願いすることを、叶えてもらうわがままを決めます。お兄さんのことを、お兄さんの過去を、全部教えてもらいたいです。何が好きなのか、どんなことをしてきたのか、何があったら嬉しいのか、嫌なのか。全部知っておけば、きっと嫌われるようなことにはなりません。これは戦いではないけれど、彼を知り己を知ればと言いますし、知っておけばいい事ばかりのはずです。

 





 これはハッピーエンドなのでハッピーのまま終わります。迸る曇らせ欲を抑えるのが大変だね(╹◡╹)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。