無戸籍ネグレクト少女を拾ってしまったから(幸せを)わからせたい 作:エテンジオール
溝櫛瑠璃華が改心していない。
燐さんが子供を拾った。せっかく私だけしか見ないようにしたのに、頑張って頑張って頑張って、私の事だけを思ってくれるようにしたのに、その辺で知らない子供を拾ってきた。身の回りのことはだいたい把握していて、今更ライバルが現れるとは思っていなかったから、少し驚きだ。
どこの馬の骨とも知れない少女だ。話を聞いてみると、家から出たこともなければ今まで親以外の人に会ったことすらないらしい。とてもかわいそうで、同情できる。憐れむことができる。
かわいそうで、いたいけで、無力な少女。とてもとても、庇護欲をそそられる存在だ。しかもその上善良で、奉仕気質。なんて都合のいい子供なのだろう。守って、閉じ込めて、慈しんであげたくなる。怖いものや恐ろしいものから隔離して、優しさで包んであげたくなる。同じくらい追い詰めて、依存させて、壊してしまいたいと思うのは私の性癖がおかしいからだ。
そして同時に思うことは、なんて邪魔な子が現れてしまったのだろうということ。だって、小さい頃からずっと進めていた計画が、もうそろそろひとつの節目を迎えるというこんなにめでたいタイミングで、ぽっと出の少女が燐さんの家に転がり込んでしまったのだから。燐さんをゆっくり孤立させて、私に依存させて、そのいちばん深いところまで入り込むことが出来たのに、燐さんにとって一番大切な存在になることが出来たのに、こんな子がいてしまっては台無しになりかねない。
排除しよう。
特に深く考えることもなく、当然の手段としてその案が浮かんだ。欲しいものは手に入れる。邪魔なものは排除する。簡単なことだ。電子レンジに卵や金属、ぶどうを入れてはいけないのと同じくらいわかりきったこと。
だから、私は笑顔で少女、すみれちゃんに声をかけた。決してなかよしこよししたかったからではなく、その方が都合がいいから。一部の例外を除けば、嫌われているよりも無関心、無関心よりも好かれている方が都合がいい。その一部の中には私のような存在も含まれるのだが、今はその話はいいだろう。
怖くないよーとアピールして、カバンの中に入っていたお菓子を与える。人というのは単純なもので、自分にとっていいことをしてくれる人間であればほぼ無条件にいい人だと思ってしまう。そう思い込もうとしてしまうのだ。特に子供はそれが顕著だから、だますのが簡単でいい。これでも私は子供が好きなのだ。単純でだましやすいし、何よりも懐かせておけば周囲の印象がよくなる。
私のことを怖がっているように見えるすみれちゃんは少し、懐かせるまでが面倒そうではあるが、その分一回懐かせてしまったらきっと甘えてくるようになるだろう。そうなってしまえばあとは私の好きなようにできるし、少女のお世話を焼く姿はまず間違いなく燐さんにいい印象を与えることだろう。
そんないろいろな思惑があって、すみれちゃんにやさしくする。その方が後々役に立つことがわかっているから。そうしているうちにすみれちゃんの警戒はみるみる解けていって、すぐに私に懐いてくれるようになった。最初の出だしが少し微妙ではあったけれど、まともに対人経験のない子供というのはこんなにも単純なものなのだろうか。あまりほかの比較対象がいないからなんとも言えない。
とりあえずちょろっちょろで扱いやすいことだけは確かなので、悪いことではないだろう。本人の気質的にもあまり積極的なものではないし、私が自分から譲ったりしない限り、燐さんが奪われることもなさそうだ。もし奪われそうになったら、その時は手段を選ばずに消してしまえばいいし、そうなったら身寄りのないこの子は好きなようにできる。
近所の子供と接する時のような、優しいお姉さんとして振る舞って、少しするとすみれちゃんからはお姉ちゃんとしたわれるようになった。燐さんがまだお兄さん呼びであることを考えれば、懐かれ度としてはそれなりにリードできているのではないだろうか。
それでもまだ、二人きりになると緊張しているようなのは、母親からネグレクトされていたせいだろう。本人もあまり自覚はないようだけれど、燐さんが外出すると僅かに体がこわばる。燐さんは見る機会がないはずだから、このことを知っているのはおそらく私だけだろう。だからといって何かがある訳でもないが、行動指針の参考にはなる。ひとまずは、そうやって緊張しなくなるようにするのがいいだろう。それが達成出来れば私の家に連れ込むことだってできるようになるだろうし、そうすれば処分するタイミングには困らない。
情が湧くことだけは心配だが、誰よりも仲が良かった茉莉ちゃんに対してあんなことを平然とできた私に、そんなものを期待する方が間違いだろう。いや、平然と、と言うと語弊があるかもしれない。正しくは心底楽しみながら、だったのだから。どちらにせよ、よりひどいことになっているだけで大差は無いのだが。
「お姉ちゃん、上手なご飯の作り方、教えてくれませんか?」
ある日の夜、すみれちゃんの作るご飯を3人で食べて、一休みしていた頃。燐さんがシャワーを浴びに行っていて、2人きりになっている時に、すみれちゃんからそんなお願いをされた。
「ご飯の作り方ですか?私もそこまでこだわっているわけじゃないので、それほど学べることは無いと思いますよ」
そもそも、すみれちゃんの作るご飯はいつも美味しいですしと続ける。これはもちろん本心だ。すみれちゃんの作るご飯はとても丁寧に作られていて、食べる人に喜んでもらいたいという気持ちがよく伝わってくる。だいぶ時間はかかっているようだが、あとは慣れれば自然と早くなっていくだろう。
「ありがとうございます……でも、わたしが作るご飯よりも、お姉ちゃんが作ったご飯の方が、お兄さん美味しそうに食べるんです。わたしがつくったのもおいしいって言ってくれるけど、どうせならもっと喜んでもらえるものを作りたくて」
味の好みに関しては、昔から慣らしてきたのだから私のものが好みで当然だ。茉莉ちゃんやおばさんへの聞き込みを重ねて、トライアンドエラーの繰り返しで少しずつ合わせてきたのだから、好きな味じゃないわけがない。ぽっと出の女に取られないように胃袋を掴んだのだ。人は食から離れられないから、一番好みの味を作れる私はその一つだけでも周囲への牽制になる。
「そんなに褒められると照れますね。いいですよ、でも、これといったコツがある訳ではないので、上手く教えられるかは分かりませんからね」
好感度を考えても、これまでの私の振る舞いを考えても、ここで断るという選択肢はない。やろうと思えばできることではあるが、それをしてしまうとすみれちゃんは怖がってしまうだろう。仲良しのお姉さんにお料理を教わろうとしたら突然冷たい態度で断られるなんて、すみれちゃんが耐えられるとは思えない。
むしろそれはそれでちょっと見てみたい、いや、大分見たいなと思いつつ、そんな内心はおくびにも出さない。私の返答を聞いて喜んでいるすみれちゃんに、どうせなら今度一緒にご飯を作ってみようと声をかけて、私の家に連れ込む約束をする。燐さんの家にはコンロがひとつしかないし、キッチンも狭いからそうした方がいいと説明すると、警戒心に乏しいすみれちゃんは何も疑わずに私の家に来ると言った。
ゆくゆくは家に住まわせて、何時でも処分できるようにするための第一歩、そのためにすみれちゃんを連れ込んだのは、料理の話をしてから二週間後のことだった。金曜日の夜に燐さんの家に行って、そこですみれちゃんを回収して帰る。夜ご飯は燐さんの家で、燐さんと一緒に食べてきたので、あとはお風呂に入って寝るだけだ。
今頃お兄さんは何をしているのでしょうかと落ち着かない様子のすみれちゃんを剥いて、お風呂で丸洗いにする。美容室のシャンプーが気持ちいいことからわかるように、人間は人から洗われると心地よく感じてしまうのだ。
きっと長いこと人から現れた経験なんてないであろうすみれちゃんに、茉莉ちゃんで鍛え上げた全身丸洗いコースを披露する。ところどころ痛くないタイプのマッサージも混ぜているので、終わる頃にはすみれちゃんはふにゃふにゃだ。本当は痛い方のマッサージの方が得意だし、やっていて楽しいのだけれど、下手をすればそれだけで嫌われてしまいかねないから今回はお預け。普通の心地いいお風呂の時間で、すみれちゃんをもてなす。
「お風呂、気持ちいいです」
一足先に湯船に浸けたすみれちゃんが、無邪気にお湯でチャパチャパしているのに対して、それは良かったと返しつつ自分の体を洗い、湯船に浸かる。すみれちゃんが私の家に魅力を感じてくれれば感じてくれるほど色々とやりやすくなるし、無邪気な女の子が私に対して信頼に溢れた眼差しを向けている光景は、それだけでも心地いい。
どうでもいいけど作者は瑠璃華さんがかなり好きです(╹◡╹)
幸せにしてあげたいね()